斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(25) 【ブレない政治?】

2020年12月24日 | 言葉
 菅首相の政治モットーの一つは「ブレない政治」なのだそうだ。なるほど「政治姿勢」や「信念」に揺るぎがない、ということであれば立派である。しかし、さして称賛に値(あたい)しない程度の「政治姿勢」や「信念」だとしたら、どうだろう。他人の意見に耳を傾けず、都合の良い意見だけを聞いて自分の考えを通す、つまり固執する--。単なる「頑固」「愚直」ということに、ならないか。

 学術会議問題、コロナ禍対策に共通するもの
 学術会議の会員任命拒否で浮き彫りになったのは、異なる意見や批判的な意見を排除する政治姿勢であった。GoToトラベル問題では「分科会の専門家から、人の移動では感染しにくいと聞いている」や「(分科会の専門家の意見では)深刻な事態には至っていない」を繰り返し、責任を特定の専門家になすり付けつつ、停止時期を延ばしに延ばしてきた。
 中川俊男・日本医師会長、尾崎治夫・東京都医師会長ほか多くの専門家が「もはや医療崩壊の寸前だ」と悲鳴を上げても、こちらの意見は聞こえぬふり。さまざまな情報が入手できる総理大臣の立場にありながら、限られた意見しか参考にしない政治姿勢は、「不勉強」「怠慢」以外の何ものでもない。
 
 過ちては則(すなわち)改むるに憚(はばか)ること勿(なか)れ(「論語」)
 至高至上の「理念」や「信念」ならともかく、あえてそうだと強弁するつもりもないなら、異なる意見にも謙虚に耳傾けてみては、いかがか。必要なのは謙虚さである。そんな姿を国民は好感こそすれ、「ブレる政治家だ」などと批判はしない。

断想片々(24) 【不審メール】

2020年12月20日 | 言葉
 ここ最近、筆者のパソコンに不審メールが2通、真夜中に届いた--。
<●●カードをご利用のお客さま・・このたび、ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありましたので、誠に勝手ながら、カードのご利用を一部制限させていただき、ご連絡させていただきました。つきましては、以下へアクセスの上、カードのご利用確認にご協力をお願い致します・・ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございますので、予めご了承下さい>
 「クレジットカードの本人確認」というメールなど、お初にお目にかかる。1つの文中に「いただき」が3か所も登場するなど文章としては稚拙。カード詐欺だと直感した。

 1通目が届いたのは、2通目の10日前。間隔がぴたり10日というのがアヤシイし、ともに深夜発信というのもアヤシイ。何より1通目は、筆者が契約していないクレジットカードだった。相手の利用カードも確かめず、無差別に発信したのだろう。さらに「ご本人様のご利用かどうかを確認させていただきたいお取引がありました」や「ご回答をいただけない場合、カードのご利用制限が継続されることもございます」など、2通は文面も似ていた。同一人・グループの仕業であることは間違いない。

 よくよく考えれば、いや、それほど考えずとも、電話による”クレジットカード詐欺”の電子メール版である。電話であれば受け子の手配や暗証番号を聞き出す手間が必要だが、メールなら「利用確認」と偽われば、被害者の方で書いてくれる。あとは、カード本体が不要なネット販売で架空取引を仕組み、犯人が被害者に替わって代金を自分の口座に振り込むだけ。電話による詐欺より、ずっと容易である。
 ご用心! 不審なメールが届いたら、クレジット会社名と「不審メール」と「利用確認」のキーワードで,検索してみては? 筆者もすぐ検索したが、多くの問い合わせと事例が紹介されていて、疑問・不審は即座に解消した。メディアもニュースで注意喚起してくれると良いのだが・・。

断想片々(23) 【「ガースー」とメルケル首相】

2020年12月14日 | 言葉
 「みなさんこんにちは、ガースーです
 菅首相が、11日に流れたインターネット動画配信サイト「ニコニコ生放送」のインタビュー冒頭、軽く笑いながら自己紹介した。地上波のニュースでも放送されたから、観た人は多かったろう。新型コロナウイルスの新規感染者数が全国、東京都とも連日最多を更新する勢いを示し、この日も都内では過去2番目、595人の感染者を数えた。最高権力者の総理大臣が、笑っている場合だったか。

 説明不足の学術会議問題、後手後手のコロナ禍対策・・。内閣発足当初から何もかも上手く行かず、イメージチェンジを思い立ったのかもしれない。あるいは空気の読めない側近が「総理、もっと笑顔で。配信サイト名も『ニコニコ生放送ですよ」とでもアドバイスしたのか。しかし、である。ボケやツッコミのつもりならタイミングが悪すぎる。無表情な棒読み答弁を見慣れた目には、”らしくなさ”ばかりが印象に残った。

私たちの払う代償が1日に590人もの命だとしたら、とうてい容認できません! クリスマス前に多くの人と接触することで、祖父母との最後のクリスマスにしないでください!
 ガースー発言前の9日、ドイツ連邦議会で、メルケル首相は両手を強く上下に振りながら、クリスマス前のロックダウンの必要を訴えた。その日ドイツでは590人の死者が出たと同じテレビニュースが伝えていた。「祖父母との最後のクリスマス」。ふだん冷静なメルケル首相の身振りの激しさは、たとえは悪いがヒットラーの演説を思わせた。なりふり構わぬ(?)所作は熱っぽく、感動的ですらあった。ああ、しかし、それにつけても、わが「ガースー」さん、よ・・。

断想片々(22) 【陰謀論】

2020年12月02日 | 言葉
 「陰謀論」というコトバを頻繁に耳にするようになった。1人ないし少数者の考えた筋書き通りに世の中が動いている--とする「陰謀論」。背景にネットへの盛んな匿名投稿があり、根拠の無い、あるいは根拠の薄い「陰謀」でさえ広まりやすい社会構造がある。11月30日付け読売新聞文化面「論壇誌」欄で、5人の識者の論考を担当記者が紹介していた。

 米国では「国の機密情報だ」として偽情報をネットで広める「Q」と、これを信じる「Qアノン」という存在を紹介(渡辺靖氏、「文芸春秋」誌)。トランプ大統領支持勢力の1つを形成するという。石戸諭(さとる)氏もやはり「文芸春秋」誌で、「中国『千人計画』が実は軍事研究で、日本学術会議が積極的に関わっている」とするデマ情報について考察した。石戸氏は「日本の安全保障を不安視するなら、研究者が中国を頼らざるを得ない現状をこそ、問題視すべきだ」と主張。日本の学術予算は少なくなる一方とあって、頭脳流出先も米国から中国へ変わりそうなご時世。「中国で軍事研究」のデマ情報は政権にとれば、学術会議から「10億円」の予算を削るための、好材料かもしれない。

 偽情報を信じる側と、「それはデマ、陰謀だ」と退ける側。デマや陰謀の横行暗躍する一番の原因は、政権やメディアの説明不足、説明下手(べた)だろう。疑問の余地が無いほど説明し尽されて、状況が明快であれば、陰謀やデマが大手を振るう余地も無くなる。ところが現代は真実が見えにくいために、揣摩臆測(しまおくそく)が世にあふれ、人々は不安に駆られつつ「陰謀」の2文字でツジツマ合わせを試みる。「陰謀」をたくらむ側にとっても、これほど好条件の時代はない。
 コロナ禍の不安、学術会議問題、ぶり返した「桜を見る会」疑惑・・。政権はモノゴトを、きっちり説明しておくべきだ。やはり、あの人の、顔が浮かぶ。