徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「帰れない二人」―改革開放の中で時は移り現代中国の変革とともに逞しく生きる女性を見つめて―

2019-10-05 12:25:58 | 映画


 暑い日も時々あるが、秋色が濃厚に感じられる季節へと移ってきた。
 しかし時の流れは速い。
 天変地異、内憂外患・・・、国政も社会も乱れ、日本という国は、どうやらわけのわからぬ変転の波間に浮き沈みながら、行く先を見失っているような・・・。

 さて今日の映画の方は、政治と経済が激動する中国社会の底辺で生きる男女の、17年にわたる物語だ。
 2001年の北京五輪開催の決まった年から、三峡ダム完成の06年、そして現在へと三つの時代を描いている。
 三部構成の物語を、その時代に流行した音楽が繋いでいく。
 時は21世紀、それも20年近くになる。

 何が変わり、何が移ろい去ったか。
 刻々と変化を遂げる中国と、その中で生きてきた人の姿をとらえて、自身と同じ時代を生きてきた、 「長江哀歌」(2006年)のジャ・ジャンクー監督が、男女の変転を深く鋭く描く。
 「長江哀歌」をふと思い出した。

 

時を重ねた男と女がいる。
お互いに生き方を変えることはできない。
互いにかけがえのない存在だと思っていても・・・。

2001年、山西省のそれほど大きくない都市、大同・・・。
麻雀屋をやっている女チャオ(チャオ・タオ)と、そこに集まる男たちから一目置かれる裏社会の男ビン(リャオ・ファン)は、幸せを夢見ていた。
が、ある日ビンは路上でチンピラに襲われた時、チャオが発砲し一命を取りとめる。
この事件で二人は投獄される。

2006年、5年の刑期を終えてチャオは出てくるが、4年前に出たはずのビンは迎えに来ない。
この頃、チャオ・タオは長江をひとりさすらっている。

そして2017年、チャオとビンは中年になった。
それまですれ違い続けた二人は、再び大同で出会う。
またしても雀荘で女将となったチャオは、深酒から脳溢血で倒れた車椅子のビンを引き取る。
しかし、力と金を失った男に昔日の面影はなかった。
チャオはひとり身を通した。
渡世の世界に生きる女の愛のありかたと生き方を信じていたからだった。

変わりゆく17年の歳月の中で、変わらぬ思いを抱えた男と女がすれ違う・・・。
チャオが、乗り換えの武漢(ウーハン)から38時間もかけて新疆ウルムチに向かうなど、物語の中で7700キロもの距離を旅するのだ。
新しい自分の人生を夢見る北西の果てまで、長い長い流浪の旅である。
中国大陸をまるで横断するのような・・・。

ジャ・ジャンクー監督の作品としては、感情の起伏は豊かに描写されている。
中国の開発の波は、多くの自然をもそうだが、ひとの心をも破壊する。
ビンにはほかの女ができたし、チャオは男に騙され、自分は自分で人を騙すすべを身に着ける。
変わりゆく中国を舞台に、男女の変転を描いて興味は尽きない。
時の移ろい、心の移ろい、社会の移ろいを、二人の男女の生きた歴史を背景に描いて、悲しく、いとわしい作品に仕上がっている。

人物描写も心理描写も複雑だが、今回登場のヒロイン、チャオ・タオはさすがジャ・ジャンクー監督のミューズであり、妻でもあって、気高く生きる中国人女性を演じて、長い時間の幅で激しくせめぎ合う心中を描いており、中国・フランス合作映画「帰れない二人は、映像で観る生きた歴史のようでもある。
中年男女の哀愁が、中国の今と重なる、さすらいのラブストーリーである。
この映画、横浜のシネマジャック&ベティ(TEL/045-243-9800)では10月18日(金)まで続映中だ。

        [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点


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