徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「赤と黒」―ジェラール・フィリップ没後50年―

2010-02-16 13:00:00 | 映画

フランス文豪スタンダール小説「赤と黒」が、名匠クロード・オータン=ララ監督によって映画化されたのは、1954年のことだった。
「肉体の悪魔」「パルムの僧院」「花咲ける騎士道」「七つの大罪」「しのび逢い」「モンパルナスの灯」「危険な関係」ときけば、往年の映画ファンには懐かしいジェラール・フィリップの名が思い浮かぶ。

主演ジェラール・フィリップ没後50年、いまここにこの名作が、半世紀を経て甦った。
この作品と、再び会いまみえるとは思ってもみなかった。
不世出の映画スターといわれ、フランス映画の黄金時代に、この文芸大作が生まれ、いままたデジタルリマスター版で、その映像を見事なまでに甦らせたのである。
途中10分間のインターミッションをはさんで、3時間半の大作だ。
今回、以前未公開だった部分7分間あまりが、新編集で加えられている。

才知と美貌で時代を昇りつめたジュリヤン・ソレルが、生きて帰ってきたような錯覚にとらわれる。
37歳という若さで逝ったジェラール・フィリップは、希代のソレル役者として時代を風靡した。
文芸大作としていまスクリーンを観るとき、その色褪せない映像の中にスタンダールの世界がやきついている。
フランス映画に、カラーがはじめて採り入れられた1954年の作品だが、このデジタルリマスター版は、日本での上映が世界初上映だそうだ。
さぞかし、フィルムの傷などでひどい映像ではなかろうかと案じたが、杞憂であった。
もう、退色のはげしかった大作が、ものの見事に修復されて、再び観ることができるとは・・・。
画面の色彩は、シャープではないが実に柔らかいし、音声も明晰でよくここまでできたという感じだ。

1820年代の小都市ヴェリエール・・・。
職人の息子ジュリヤン・ソレル(ジェラール・フィリップ)は、貧しい環境に育ちながら、ラテン語を得意とする聡明な青年であった。
シェラン司祭の推薦で、町長レナール(ジャン・マルティネリ)家の家庭教師となった彼は、レナール夫人(ダニエル・ダリュー)に思いを寄せ、二人はいつしか人目をしのぶ恋仲となる。
しかし、立身出世の夢を抱いていた野心家のジュリヤンは、スキャンダル発覚を恐れ、当時出世の近道であった神学校へと旅立つ。

才気はあるが、人並みはずれて強い野心を抱くジュリヤンを心配した、神学校のピラール司教は、ラ・モール公爵(ジャン・メルキュール)に、パリへ招かれた折りに彼を同行させる。
公爵邸で秘書となったジュリヤンは、気位の高い公爵令嬢マチルド(アントネラ・ルアルディの心を射止める。
マチルドとの結婚を許され、中尉となるジュリヤン・・・。
ところが、レナール夫人の手紙が、幸福を引き裂いた。
公爵から、家庭教師時代の行いを問われた夫人は、聴晦師に言われるままに、彼の罪深さを告発したのだ。

絶望と怒りに駆られたジュリヤンは、ヴェリエールへ赴き、協会でレナール夫人に発砲、夫人は無事だったが、彼は裁判で死刑を宣告される。
絶望の中、獄中でレナール夫人の訪問を受けたジュリヤンは、彼女の変わらぬ愛の深さを知り、心しずかに断頭台へのぼるのであった。

ここで描かれる人々は、何か気高い社会と気高い自分を求めつづける理想主義者たちだ。
でも、気高い社会など幻想にすぎず、気高い自分もこの世には存在しなかった。
そうした絶望の中で、主人公は美しき(?)破滅に向かって突き進んでいった。
ナポレオンの写真をそばに置いて、強くあるべき自分を夢みつつ、それと同じ情熱で若い命を断頭台に散らせてしまうジュリヤン・ソレルの生き様を、ロマン主義としてとらえている。

ジェラール・フィリップは、まさにスタンダールの意図したソレルを演じきっている。
共演のダニエル・ダリューの気高さ、清楚さや、アントネラ・ルアルディの溌剌とした美しさも言うまでもなく、豪華なキャスティングで、この作品は後世に語り継がれていくのではないか。
崇高な愛に救われる魂、死してなお、それは消えゆくことがなく・・・。
フランス映画「赤と黒」(デジタルリマスター版)は、そういう作品だ。
ジェラール・フィリップは、はじめ頑強なまでにオファーを拒み続けたといわれ、クロード・オータン=ララ監督の数年に及ぶあまりの熱情に、ついに出演を引き受けたといういきさつがある。

製作から50年以上立っても、スタンダールの名作「赤と黒」は、心理描写にすぐれたものがあり、映画史上後にも先にも、このジェラール主演の「赤と黒」しか作られていない。
ジュリヤン・ソレル役は、彼以外の俳優では考えられず、この先もまた映画化されるのは難しいのではないだろうか。


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7 コメント

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赤と黒・・・。 (茶柱)
2010-02-16 23:03:45
タイトルは存じていましたが、今回はじめてストーリーを知りました・・・。いや、お恥ずかしい限りで。

それにしても、昔の映画スターはホントに「いい男」ですねー・・・。
そうでしょう・・・ (Julien)
2010-02-17 06:14:49
フランス映画の正統派二枚目スターですよね。
彼の出た作品は、よき監督にも恵まれて、次から次へとヒットしました。
日本にも1回来ていますね。熱狂的な、特に女性ファンに取り囲まれて、それは凄いものでした。

モジリアニの生涯を描いた「モンパルナスの灯」、ラディゲの「肉体の悪魔」、「しのび逢い」など、素晴らしい作品が多かったですね。
どれも、みんなよかったです。

没後50年ということで、彼の多くの作品が日本で上映されて、連日満員、行列のできる盛況だったようです。

ヨーロッパ映画全盛時代の、よき時代の遺産でしょうか。
名画は、こうして語り継がれていくのですね。
本当に、惜しい俳優でした。
alan・ドロンよりhandsome (恭子)
2018-12-05 15:02:10
私は、おフランス🇫🇷式恋愛に憧れ👀〰️💕ています🎵赤と黒のジェラールって本当にhandsomeで女性を夢中✨😍✨にさせたそうなのよ❤️ジェラールが私の夢💤🎠💤の中に現れて金髪碧眼の姿で自由フランス🇫🇷軍のド・ゴール将軍の格好をして格好良かったです🎵
恭子様・・・ (JULIEN)
2018-12-11 16:54:47
フランス映画とくれば、そう、この人ジェラール・フィリップなくしては語れませんね。そうですか。夢にまで現れましたか。ついに・・・。
よき時代のフランス映画、懐かしいですね。
コメント、ありがとうございました。
ナポレオンの格好で現れた (恭子)
2019-01-05 19:03:28
管理人さん💕🌙😃❗️🌙😃❗️🌙😃❗️🌙😃❗️明けましておめでとう🎍2019年もよろしく😃✌️私の夢💤🎠💤の中にジェラールが出てきて金髪碧眼でナポレオンの格好をして演説していたわよ♥️
恭子様・・・ (Julien)
2019-04-20 03:48:39
おくればせながら・・・。
ジェラールで思い出していただけたのですね。
有難うございます。今年もよろしくお願いします。
よき時代のフランス映画、もっと見たくなりました。
本当にハンサム (キョンチャン)
2021-07-19 21:56:19
GERARDって本当にHANDSOMEですよ。
アランドロンより品がある&甘いHANDSOMEです。
フランス人男性ってGERARDのような人ばかり出須賀ねえ?
私はGERARD&馬が好きです。

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