寒い冬が去っていく。
また新しい春が、花々の香りとともに急ぎ足で訪れてきた。
今日の映画は北欧ノルウェーの作品だ。
ノルウェーで、こんな悲劇が何故起きたのであろうか。
2011年7月22日、ノルウェーの首都オスロ政府庁舎爆破事件が起き、8人が死亡した。
さらにその2時間後、オスロから20キロ離れたウトヤ島で銃乱射事件が発生、サマーキャンプに参加していた十代の若者ら69人が、痛ましい犠牲となった。
ノルウェーのエリック・ポッペ監督は、実際にあったこの事件を発生から終息まで、何とワンカットで再現して描いたのだった。
戦慄の映画である。
平穏なキャンプ場に、突然重い銃声が響いた。
オスロ爆破事件と何か関係があるのか。
事件が全く分からない中なかで、若者たちが次々に撃ち倒される。
少女カヤ(アンドレア・バーンツェン)は妹エミリア(エリ・リアノン・ミュラー・オズボーン)と口論を交わしていたのだが、そんな騒ぎの中で、学生たちと森へ逃げ込み銃声を浴びながら逃げ回るのだった。
カヤは途中で妹を見失い、恐怖の真っただ中で、ありったけの勇気を奮い起こし、離れ離れになった妹エミリアを探し始める。
しかし、警官に成りすました犯人はボートでこの島へ上陸し、何の罪もない少年少女たちを次々と銃殺した。
絶え間なく鳴り響く銃声は、少しずつカヤたちのいる建物の方へ迫りつつあった・・・。
午後5時、ウタヤ島で何が起こったのか。
カメラはひとりの少女に密着し、音楽もナレーションもカットバックもなく、ドキュメンタリータッチでひたすら彼女を追う。
テロリストも姿を見せないし、カメラは少女と一体だ。
犯人は誰か。
何故こんなことが起きているのか不明のままま、観ている方は少女とともに島内を逃げ惑うのだ。
若者たちの表情は、誰もが恐怖に満ちている。
キャンプ場で初めて出会った若者たちが、極限の恐怖の中でいかに行動していったかを、生存者の証言に基づいて描き出している。
千ツメンタルなドラマや音楽といった装飾は一切排除している。
いやあ、怖ろしい映画があったものだ。
極限状況の中で、しかし仲間と助け合い、知らない誰かの死に涙し、必死に生き抜こうという若者たちを描いて、サスペンスフルな迫力を持つ。
一人の男の憎しみがこの事件を起こしたのだが、詳しい背景は描かれない。
ただいえることは、ノルウェー与党の、多文化的な姿勢に不満を募らせた男の犯行ではないかということだ。
ノルウェー映画「ウトヤ島、7月22日」は、登場人物の心の葛藤と身体的な反応を、生々しいほどダイレクトに伝えてくるのだ。
映画と観客との間の垣根はすべて取り払われ、想像を絶する緊迫感と臨場感を体感する衝撃作である。
ワンカット演出がそれなりに効果とされた一作であり、まさに画期的な、そして実験的な映画作品であろう。
さらに言えば、観た人に考えさせる映画である。
でも、上映時間94分間は息苦しくなるような時間だが・・・。
4月5日(金)まで横浜シネマジャック&ベティ(TEL045-243-9800)で上映中。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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