徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「グッバイ・ゴダール!」―映画、恋、五月革命と、19歳の少女が駆け抜けた青春の日々―

2018-07-23 09:00:00 | 映画


 この映画のミシェル・アザナヴィシウス監督は、パロディ喜劇などを得意とするフランス映画の才人ととして知られる。
 今回、「勝手にしやがれ」(1960年)の評判で、ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督のひとりとして、世界的に有名になったジャン=リュック・ゴダールと、彼の二度目の妻アンヌ・ヴィアゼムスキーの関係を題材にして、結構洒落た映画が出来上がった。

 作品は、アンヌ・ヴィアゼアムスキーの自伝的小説をもとに、コメディタッチのドラマとして、そこそこ見応え十分で楽しい。
 革命に傾倒し、商業映画に背を向けた時期のゴダールを、偏屈で嫉妬深い、ちょっぴり哀れな男として描いているところが面白い。
 偉大なゴダールを描いているだけに、映画では彼が大分こけにされている。
 ドラマには、多彩な趣向が詰め込まれている。
 何より、堅苦しい映画でないのがよい。


1968年、パリ・・・。
大学哲学科の19歳の学生アンヌ(ステイシー・マーティン)は、ゴダール(ルイ・ガレル)の新作「中国女」(1967年)の主演女優に抜擢されて、二人はすぐに恋に落ち、彼女は20歳で結婚し、刺激的な毎日を送っていた。
アンヌはゴダールの二人目の妻となるが、1968年の五月革命が二人の運命を変えていく。
ゴダールは、映画よりも学生や労働者とデモや討論会に明け暮れ、カンヌ国際映画祭をも批判して、結局は映画祭中止にまで追い込んでしまった。

いつもゴダールと行動を共にしていたアンヌは、少しずつ大人になっていく過程で、自立した女に変わっていくのだった。
しかし、ゴダールの行動が次第に先鋭化し、二人の間にはいつしか亀裂が生じて・・・。

天才監督ともいわれたジャン=リュック・ゴダールアンヌ・ヴィアゼムスキーの恋は、情感豊かに綴られる切ないラブストーリーである。
アンヌの可愛らしさの虜になるのは、ゴダールだ。
映画完成の2017年にアンヌは亡くなったが、この作品を気に入っていたそうだ。

五月革命に向けてパリ中が熱を帯びている中で、傲慢で偏屈な(?)ゴダールは、嫉妬深く、この映画の方はパロディやらオマージュじみた映像も満載で、時代風俗も生き生きと取り入れられている。
20歳のアンヌと、夫としてのゴダールと過ごした日々が描かれ、ともに映画を作ったり、文化や芸術を語り合い、五月革命に参加する。
この青春ドラマ、なかなかいいではないか。
映画も音楽も、ファッションもインテリアも、60年とはいえこのフレンチカルチャーはいまもって色褪せた感じはしない。

1968年前後といえば、世界中で学生たちが反乱を起こした時期で、フランスの五月革命ではあらゆる社会的な制度や常識が覆されようとしていた。
ゴダールは政治活動に熱中し、商業的な映画製作を否定した時期だった。
カンヌ映画祭に行きたがるアンヌとゴダールは対立し、彼は盟友のフランソワ・トリュフォーらとカンヌ映画祭まで粉砕してしまう。
そんな中で、アンヌとの仲も徐々に暗雲をはらんでいくことになるのだ。

ヌーヴェル・ヴァーグの旗手も映画界では神格化されていたが、日常生活においては、エゴイズムと嫉妬に満ちたただの人間だったというお話だ。
主演のルイ・ガレルがゴダールによく似てるし、ステイシー・マーティンのシリアスな演技もよく、懐かしき良き時代をしのばせてくれる。
ミシェル・アザナヴィシウス監督フランス映画「グッバイ・ゴダール!」は、熱き日を生きたユーモラスな社会風刺劇として興味の尽きない作品だ。
なお、ジャン=リュック・ゴダールは1930年生まれ、2018年には87歳で最新作「イメージの本」をカンヌに出品し、スぺシャル・パルムドールを受賞するなど、ますますその意気は衰えを知らぬようである。
余談だが、ゴダールには本編のミューズともいえるアンヌ・ヴィアゼムスキーのほかにも、映画のミューズとしてはアンナ・カリーナ、ジーン・セバーグ、ブリジッド・バルドー、シャンタル・ゴヤ、ジュリエット・ベルトといった、名だたる女優たちがいたことを付記させていただく。
        [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
横浜シネマジャック&ベティ(TEL045-243-9800)ほかにて8月10日(金)まで上映中。
次回はアメリカ映画「ファントム・スレッド」を取り上げます。


映画「セ ラ ヴィ!」―結婚式を舞台に繰り広げられる遊び心と優しさ満載の人生讃歌―

2018-07-16 05:00:00 | 映画


 日本でも大ヒットした「最強の二人」(2011年の、エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ両監督によるオリジナル新作コメディだ。
 フランスの結婚式を題材に、そのプロデュースを担当する裏方や、新郎新婦の人間模様を描いている。
 夕方から飲んで踊って騒いで、明け方まで続く披露宴の華やかさだ。
 これは、フランス人の人生哲学に貫かれた、一種の人間讃歌である。

 ドタバタ喜劇と言ってしまえばそれまでだが、移民、不法就労、といった近年フランスの抱える社会問題を取り上げてドラマに盛り込んでいる。
 多国籍国家のフランスの内情も理解できる。
 まあ、大いなる黒い笑いも満載の、群像コメディとして楽しめればよいではないか。





ウェディングプランナーのマックス(ジャン=ピエール・バクリ)は、30年間も結婚式のプロデュースをしてきたが、そろそろ自分の引退を考えているところだった。

そんなとき、17世紀に建てられた城を舞台にした、豪華な結婚式の披露宴の依頼が舞い込んできたのだ。
いつも通り、式を成功させようと準備を完璧なまでに整えたが、集まったスタッフたちは、何と経験皆無のウェーター、主義主張ばかりが強いバンドマン、招待客のスマホ撮影にきれるカメラマン、そんな彼らもつまみ食いにばかりうつつをぬかし、とんだ曲者揃いだった・・・。
そんなことで、食材が痛んでしまうトラブルが発生したり、想定外のピンチを何とか乗り切ろうとするが、さらなる惨事が待ち受けているのだった。

人生は思い通りにならないことの連続だ。
このことを、映画はいやというほど見せつける。
そこには、思いがけない喜びや幸せを手にする瞬間が訪れるものだ。
温かな感動が伝わってくることもある。

何だかんだで、にわか作りの多国籍チームの描くドタバタ劇は、どこか温かな感動をともなっていて、映画作りの手さばきの鮮やかさが目につく。
毒は毒でよし(?)、笑いは笑いでまたよしと、こんな映画も面白い。
脇を固める演技陣もジャン=ポール・ルーヴ、ジル・ルルーシュ、ヴァンサン・マケーニュといった結構な実力派が揃い、映画や演劇での活動ジャンルの異なる俳優たちが集まって、エスプリのきいた大きく愉快な物語を構成する。
式の余興で宙を舞うパフォーマンスが披露されるが、夜空に忽然と姿を消してしまうシーンは圧巻だ。
ピエールは巨大な風船に体をくくりつけて、中に浮かんでいて、スタッフは地上で必死になってその命綱をつかんでいるだが、突然停電があったりして、思わず命綱を手離してしまう場面など大きな見どころだ。

フランスでは近年テロが多発しており、国内に暗澹たるムードが漂っている中で、エリック、オリヴィエ両監督のこの映画に対する熱い思いは十分伝わってくる。
フランス映画「セラヴィ!」 (人生ってこんなものさ)は、風刺と皮肉の効いたセリフでにぎやかだが、笑いと涙を忘れさせない。
観客には心温かい効能をもたらす作品だ。
結婚式の群像劇は多々あるが、裏方に徹した人物を主役級に登場させたものは珍しいだろう。
ドタバタも笑いに包まれる。
           [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
映画は横浜シネマジャック&ベティ(TEL045-243-9800)などで7月27日(金)まで上映中。
次回はフランス映画「グッバイ・ゴダール!」を取り上げます。


映画「天命の城」―朝鮮王朝、国家の存亡を賭けた47日間の戦いの果てに―

2018-07-02 09:00:00 | 映画


 鬱陶しい梅雨が短くして明けて、いよいよ本格的な夏の訪れとなった。
 空青く、白い雲が流れている。
 時は過ぎ、季節は移り、人は変わり、そして映画もまた様々である。

 久しぶりに韓国歴史映画を取り上げてみた。
 国家の存亡は一瞬にして変わる。
 1636年12月、中国全土を支配していた明が衰退し、清の大群が朝鮮に侵入した。
 ここに勃発した「丙子の役」は、朝鮮王朝史上最も熾烈な戦いと言われる。
 その最後の47日間を、「怪しい彼女」(2014年)ファン・ドンヒョク監督が映画化した。
 この「丙子の役」を書いたキム・フンベストセラー小説「南漢山城」が原作だ。




厳冬の中で、飢えと、忍び寄る絶体絶命の状況を背景に、朝鮮王朝は最大の危機を迎えていた。
孤立無援の「南漢山城」で生き残る道は、民を守るか、死を覚悟で戦うか、同じ国への忠誠心をもつ二人の家臣の異なる信念の闘いの末に、未来のために下した王の決断は・・・。
天命を背負う男たちの生き様が、時代を超えて迫ってくる。

清に攻め込まれた朝鮮王朝16代目の王仁祖(パク・ヘイル)ほか、朝廷中枢の大臣らは兵13000人とともに南漢山城に籠城する。
圧倒的な軍事力を持つ清に包囲され、冬の寒さにも悩まされ、重臣のチェ・ミョンギル(イ・ビョンホン)らの和親派とキム・サンホン(キム・ユンソク)らの抗戦派が対立を深めていくのだったが・・・。

一国のリーダーである王仁祖の決断、臣の覚悟、民の平和・・・、非常に切迫した逆境の中で生まれる、3人の男のスリリングでドラマティックなぶつかり合いがリアルに描かれる。
ドラマは、全編を通じて重厚で深みがあり、大作らしい趣きもある。
和真派と主戦派に分かれた朝廷が対立し、王はその狭間で苦渋の決断を迫られる。
一国の天命を背負った彼らの誇り高き生き様が、熱い思いで伝わってくる。

いま民衆のために何を選択すべきかというテーマを鋭く突きつけてきて、380年以上の時を経た現代社会に深く共感できるメッセージが伝わってくる。
清との和平交渉を進める大臣ミョンギル役のイ・ビョンホンは、「王になった男」以来の歴史時代劇の主演となっており、沈着冷静なキャラクターを高潔に演じていて好感が持てる。
音楽は、世界的にも名声の高い坂本龍一が韓国映画を初めて手がけ、迫力ある重厚なサウンドを盛り上げている。

映画の最後、籠城した朝鮮王朝第16代王が、清の皇帝の面前で額を地面にこすりつけて謝罪するおなじみの場面は、胸の熱くなるシーンだ。
この事件で、王仁祖の息子3人は人質として清に連れてゆかれ、数十万人という朝鮮の民衆は捕虜となったのだ。
それは、王仁祖の失政が招いた、前代未聞の惨状であった。
韓国歴史ドラマは、数多くテレビなどでもお目にかかるが、このファン・ドンヒョク監督韓国映画「天命の城」は前半やや堅苦しい気もしたが、国の存亡を賭けた戦いを、厳しくも冷徹な目で見つめた歴史大作ともいえる。
れっきとした史実が背景にあり、結構見応えのある一作だ。
          [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はフランス映画「セラヴィ!」を取り上げます。