徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「神聖なる一族24人の娘たち」―自然崇拝と大らかな性で謳歌する民話の世界の人々の物語―

2016-12-13 18:00:00 | 映画


 ご存じだろうか。
 ロシア西部、ヴォルガ川流域に広がる魔法の国のような世界、その名もマリ・エル共和国・・・。
 ロシア内の共和国で、面積2万3400キロ㎡、人口69万人の小国だ。
 首都ヨシュカル・オラはモスクワから643㎞のこの地域には、5世紀初頭から、ウラル語族系民族マリ人が住んでいる。
 マリ人は、人間と自然が密接につながっていると考え、自然崇拝を行ってきた。
 ロシア連邦の中では、際立って特異な民族で、どこにもない宗教や世界観を持ち、民間伝承は昔から今も息づいている。

 この作品は、マリ人に伝わる説話をもとにした女性たちの物語を、アレクセイ・フェドルチェンコ監督が映画化した。
 ロシア版「遠野物語」「アイヌ民話」のような、優しく哀しい不思議な世界が広がる。
 十代の少女から老婆まで、様々な世代の女性たちが次々と登場する。



理想的な夫を選ぶ目を養うために、バケツ一杯のキノコの形を丹念に調べるオシュチレーチェ(ナジェージュダ・ナザロワ)小枝のようにか細い体を豊満な体にするため、オカナイおばさん(オリガ・ギレワ)から、裸の体を布で拭くまじないを施されるオシャニク(アンナ・グラチョーワ)夫に思いを寄せる醜い森の精霊に呪いをかけられてしまうオロプチー(ユーリア・アウグ)男の亡霊たちの気まぐれに乗せられて、裸で踊る姉たちを目撃する少女オルマルチェ(ナジェージュダ・ソコロワ)など・・・、気が付けば名前が“O"から始まる24人の“娘たち”の、「生」と「性」の物語なのだ。
彼女たちの物語は、やがてひとつの車輪となり、季節を巡り人生を巡る・・・。

いやぁ、何とも摩訶不思議な世界があったものだ。
アレクセイ・フェドルチェンコ監督は、いまロシア映画界の第三世代における比類なき才能と呼ばれる、気鋭の映画作家の一人だ。
この作品で彼は、ロシアの少数民族で、独自の言語、文化、宗教を持つマリ人に光を当てた。
そして、マリ人の生活を基に、マリの伝承や慣習などを織り交ぜた、女性たちの物語を作り上げた。

マリ・エル共和国の聖なる森を有するマリ人の村で、1年をかけて撮影を敢行したそうだ。
四季の移り変わりによって、様々に繰り広げられる風景と、世俗的な近代性に染まることなく、マリ伝承文化の中で生きる女性たちの天真爛漫な美しい姿を、まるで印象派の巨匠ルノワールの絵画のようにみずみずしく描きつつ、何とも不思議な世界を作り上げたものだ。

この物語は、“O”から名前が始まるマリ人女性の物語で、おとぎ話であり、また真実でもある。
原案と脚本を担当したデニス・オソーキンによれば、全ての映像は、彼がヴォルガ川中流域で実際に観たり聞いたりしたことや、今でも行われているマリ人の習慣なのだそうだ。
人々の生き方について描いているが、ノンフィクションのようなフィクションで、どこかノンフィクションの雰囲気が隠れている。
ロシア映画「神聖なる一族24人の娘たち」は、現代に今も残る貴重な世界を紹介しているようで、この奇妙なたたずまいに古い民話の面影が宿り、24話がほとんど人間の性と信仰の話である。
女たちの話は、短いものもそうでないものも、くすりと笑ってしまうものもあったりする。
しかし、地球上のいたるところで戦禍の絶えないいま、こんなにも大らかでこんなにも楽しい浄土のような世界があろうとは・・・。
何とまあ、この奇っ怪で、面白おかしい村のO嬢たちの物語は、とにかく意外性いっぱいの映画である。
       [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日本映画「ジムノペディに乱れる」を取り上げます。
その次に「秋の理由」を取り上げます。


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2 コメント

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みな (茶柱)
2016-12-13 22:40:57
O嬢というのは意図的なのでしょうかね・・・。
だとしたら。
全ての女性の・・・ (Julien)
2016-12-14 17:45:47
名前が「オ」という母音で始まるというのは、小説通りの設定なんです。
これらの名前はマリ語で実際にある女性名らしいのですが、もちろんすべての名前を「オ」で始まるように揃えたのは作家の手法では・・・?
マリ人の女性の名前がすべて「オ」で始まるというのではありません。はい。

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