goo blog サービス終了のお知らせ 

(旧)yoyo的日記

台湾での生活について、シェルターから受け入れた黒猫姉妹について、台湾で暮らして10年のyoyoが書いています。

知らない、ではすまされないこと:『闇の子供たち』

2010-03-20 | 小説・映画・音楽
以前から読んでみたいと思っていた(が、ちょっと勇気がなくて読んでいなかった)梁石日の『闇の子供たち』を読了しました。

なんというか、「衝撃的」という言葉以外では表せないショックでした 文化人類学に携わる者として、アフリカの「女子割礼」やインドにおける婚姻と女性などさまざまな「問題」を読むことはありますが、文化相対主義を基本セオリーとする人類学においては、それらはある意味(問題解決のために)実際に介入することはタブーとされている部分です。また、ひどい言い方になりますが、そういった「問題」はあくまでも現地の伝統概念に基づいて行われているもので、私たちにとっては「遠い世界の出来事」でしかない、というのが現実です

本書では、まずタイの山岳地帯で育った貧しい8歳の子供が実の親に売られ(親はそのお金でテレビや冷蔵庫を購入)、何も知らないままに売春宿に連れて行かれる話から始まり、最後は臓器売買に関わる話で終わっています。
人身売買から児童虐待、レイプ、エイズ、ゴミ捨て場に捨てられて死を待つばかりの子供、と正直言って途中で読むのがいやになるような話しか出てきません。読了後も非常に後味の悪い感じになっています。18歳未満うんぬんの問題ではなく、初潮さえ来ていない、10歳にも満たない子供たち(女児とは限らない)を性欲の対象にする人の多さに愕然としました。

しかし、本書で語られていることは決して他人事ではなく、私たち日本人が加害者になっているということが改めて突きつけられており、読み終わってみると「私たちが知るべきこと、読むべき本だった」と思いました。これを「ノンフィクション(ドキュメンタリー)かフィクションか」ということで批判する人もありますが、それは問題の本質ではありません。幼児売春や臓器売買がこのような形態で存在しているのは事実であり、そこで搾取されているのは常にいわゆる「第三世界」の子供たちなのです。

日本人の「買春ツアー」なるものが話題になったのはもうずいぶん前の話だと思いますが、そういうものの中にも幼児売春の客となった日本人がいたのでしょう。また、最近になって児童買春・児童ポルノ禁止法などがたびたび話題になっていますが、日本はその「市場」に比べ(ヨーロッパ諸国で流通している児童ポルノのなんと8割が日本製、と「第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」でも厳しく批判されていました)日本のこの分野に対する法令の整備は非常に遅れているようです。また、本書のあとがきにもあるように、幼児売春のいい客である日本人の好みに合わせて「日本人に受けのいい顔立ち」をしたタイの少数民族の子供たちが高値で売買されるという事情もあるとされ、ますます陰鬱な気持ちになります。

こういった直接的な加害者ではなくとも、ウォーラーステインの世界システム論によれば、「中核」である日本が富むために「周辺」は不平等な交換に甘んじなくてはならず、結果として貿易が盛んになればなるほど両者の格差は拡大することとなっています。
日本は第三世界に多くの開発援助をしているといわれていますが、本書で書かれているように相手の国側はそれらを有効に利用するシステムそのものが崩壊している状態です。私たちにいったい何ができるのか、どうすれば幼い子供たちが搾取されなければならない状況を変えられるのか、考えてしまいました(答えはなかなか出ませんが)

この本は映画化もされているようですが、こちらでは見かけません。


ちなみに、作者の梁石日(ヤン・ソギル)は在日朝鮮人だそうですが、彼に興味を惹かれて、もう一つの話題作『血と骨』の映画版も見てみました。

この話も『闇の子供たち』とは違う意味ですごい話です。またビートたけしの演技も迫力でしたこんなに存在感がある役者だったのかと目から鱗でした

男性はトラウマになりそうな映画『Teeth』

2009-11-23 | 小説・映画・音楽
以前から気になっていた映画、やっと見ることができました。その名も『TEETH』(ちなみに中文タイトルは『陰牙人』です。なんか怖げですね)。
えーと、これは日本では公開される予定なんでしょうか?ややカルトチックな映画ですが。

そもそもなんで「歯」かというと、この映画「女性器に歯が生えている女子高生の話」だからです。いや、別にコメディというわけではありませんよ(笑)一応、B級ホラー映画でしょうか。
内容をざっと説明すると、
************
 主人公は母と母の再婚相手、その連れ子である義兄と一緒に住んでいる女子高生。彼女は地域の「プロミスリング」を象徴とするグループに属しており、「結婚式までは自分の貞操を守る」ことを固く誓っている。しかし、同じグループに属する同級生に惹かれ始め、彼女の貞操の誓いもだんだんゆらいで来る。そんなある日、郊外の小さな湖のような所で泳いでいた二人はついに・・・。
************
というのが前半部分。

それにしても、「どうしてあそこに歯が生えてるなんて突拍子もない設定?」と思うでしょうが、実はこれはそれほど突拍子もない話ではないのです。
劇中でも主人公がネットで検索する場面がありますが、この「女性器に歯が生えている」というのは、世界各地の神話に出て来るモチーフで民俗学では「vagina dentata」(歯のある膣)と呼ばれています。日本の神話にもありますし、台湾の原住民の神話でも出てきます。けっこう身近なモチーフなんですよ

「歯のある膣」については、民俗学でも心理学でも様々な解釈がありますが、フロイトは「男性の無意識的な去勢不安」だと考えています。つまり、中が見えないところに自分の大事なものを入れて、抜けなくなるんじゃないか、飲み込まれてしまうんじゃないか、ちぎられてしまうんじゃないか、という恐怖ですね。なんかちょっと『ローマの休日』で「嘘つきが手を入れると噛まれて抜けなくなる」という「真実の口」にも似てるような(笑)

ともかく女性器というのはどの民族でも「口」と見なされるものですし、「恐ろしい母親/女性」("terrible mother"というのも重要なモチーフです。日本にも山姥の話がいっぱいありますよね)というモチーフだけでなく、貞節に関するもの、英雄神話に関するものなどいろいろな視点から解釈できます。だから、このモチーフ、奥が深い面白いものなんですよー。この映画は前半はなかなか面白かったのに、後半はなんか思春期の青少年を描いただけの面白くない展開になってしまいました。このモチーフをもうちょっと有効に使えば、もっともっと面白くなったのに。例えば英雄神話と兄弟神話のラインで義兄の役割を使うとかね。私としてはもう少し・・・という感じの映画ではありましたが、このモチーフをテーマにした映画というだけで見る価値はあります。ただ、かなりグロい場面が多いので(日本ではモザイクになるのかしら??)男性は覚悟してみた方がいいかも

All I ask for is one fuxxing hour

2009-07-10 | 小説・映画・音楽
最近ものすごく良く聞いているのがP!nkの”I’m Not Dead.”
このアルバムは2006年発売のもので、買ったのはだいぶ前なのですが、なぜか自分的にP!nkブームが再来しております。あまりにも良い曲が沢山あるので、ちょっとご紹介。

基本的にこのアルバム、ものすごく良い出来で、ほとんど全部の曲がシングルカットに耐えうるクオリティです。でも、中でも最近急に私のお気に入りになったのが8曲目のLeave Me Alone (I’m Lonely).
タイトルだけ聞くと、なんか切ない系バラード?と思いますが、いえいえ・・・



ね?すごく突き抜けた感じの曲でしょう?
この曲、歌詞がすごくおもしろいんですよー。内容を大雑把に訳すと、

♪あなたはそりゃすごくスウィートだけど、でもだからって毎日おんなじもの
 ばっかり食べてるわけにもいかないの。
 別に他の男と寝たいって言ってるわけじゃないのよ?でもずーっとあなたと
 くっついてると疲れちゃう。私は一時間でいいから一人になりたいの。
 今夜は一人にしてくれない?

みたいな(笑)
いやー、この気持ちすっごくよくわかります!っていうか、男女関係なく共感できる人多いんじゃないでしょうか?

こんな軽い感じの曲ばかりかと思いきや、なーんと「大統領にもの申す!」的なメッセージ性の強いDear Mr. Presidentもすばらしい出来。このYouTubeには歌詞もついてますのでちょっと見てみてください。



ものすごくストレートなメッセージで、心に響きますよねー。
なんというか、日本でこういうことできるシンガーっているのかなぁ、と考えてしまいました

最後は名曲Who Knew.
これは、薬物のオーバードーズで亡くなった友人のことを歌った曲といわれていますが、何度聞いてもじーんとしてしまいます。”夢の中でいいから会いに来てくれる?”という相手は元カレとかじゃなくて、大切な友人なんですよね~。

P!nkは私は以前はあまり興味なくて、’Stupid Girls’とか’So What’とか、ある意味「ややはじけすぎ」な感じのイメージばかり持っていたんですよ(笑)
でもこのアルバムを聞くと、こんなに引き出しがたくさんあって、感情表現の豊かな人だったのか!と目から鱗が落ちました。今はどっぷりP!nkワールドにはまってます

『誰も知らない』(2004)

2009-06-09 | 小説・映画・音楽
台湾では今くらいの時期が卒業式シーズンになっています。
まぁ世界一般的には9月が新学期ですから、日本みたいに春先に卒業ということはあんまりないんですよね。卒業生や新卒の雇用状況等についてのニュースが多いようですが、ちょっと景気は上向いて来たのでしょうか?

さて、先日『誰も知らない』を見ました。言わずと知れた柳楽優弥(やぎらゆうや)くんがわずか14歳でカンヌ国際映画祭の最優秀男優賞を獲得し、「史上最年少!」と話題になった映画です。
これ、2004年の作品なのですでに5年も前なのですが、なぜか台湾では最近やっと入って来てDVD化されたので見ることが出来ました。

ストーリーは、実際に起こった「巣鴨子供置き去り事件」(1988年)をベースにして、母親に置き去りにされた子供四人が半年以上の時間をアパートの一室で自活する、というものです。この子供四人というのが、単に置き去りにされただけでなく、そもそも出生届が出されておらず、そのため小学校にも一度も行ったこともなく、存在そのものが「行政的にいないことになっている」という設定(というか本当に実際の事件でそうだったんですけど)。しょっぱなの引っ越しシーンで、まず下の二人の子供をスーツケースに入れて新居に搬入と言うショッキングなシーンでまず唖然となり、その後恋人ができて帰って来なくなってしまう母親に怒り。見ている間、何度も何度も「これって本当にあったことなの?」と確認してしまうようなストーリーです。

しかし、悲惨な話ではありながら、是枝裕和監督は常に子供の目線から淡々と過ぎて行く日常をとらえ、時には微笑ましいシーンもあります(ベランダでいっぱい植物を育てたり)。この話は、悪く言えば「お涙ちょうだい」的な映画にしたてあげるのはもっと簡単だと思うのですが、こんなふうにゆるゆると暖かささえ感じさせながら撮ったのは監督の技量だなぁと思いました。

ただ、エンディングが「え、これで終わり?この後どうなるの?」という終わり方だったので、気になって実際の事件がどんなふうに終結したのかをネットで調べてみました。・・・調べなければ良かった・・・実際の事件はもっともっとひどかった。経過をまとめたサイトはこちらです。

見終わったときは、とにかく「なんてひどい母親なんだ。なんでこんなんでずっと子供を産み続けるのか!」と怒りばかりを感じましたが、でもよく考えてみたら母親が劇中で言う「私よりあんたたちのお父さんの方がもっとひどいじゃん。逃げちゃってさ」というのも一理あり。四人も子供がいて(実際は五人だったらしいです)そしてそれぞれの子供の父親が違う状況では、まさかすべての父親が子供が生まれていたことをまったく知らなかったなんてことは考えにくいですよね(映画の中では子供の状況を知ってるふうな「お父さん」らしき人物も出てきます)。つまり、子供がいることを知りながらなんの援助もなしに逃げた男が何人もいたはず。そんなことを考えると、子供だけでなく、母親にとっても本当に哀れで残酷な環境だったんだろうと思います。でも、最終的には母親も13歳の長男に責任を丸投げして、自分の幸せだけのために逃走したわけで、その罪は限りなく重いですが。

最優秀男優賞の柳楽くんはもちろん13歳とは思えない存在感なんですが(しかもこれが初作品?すごすぎ)、他の三人の子供たちもむちゃくちゃうまいです。無邪気で可愛くて、アパートの部屋と母親だけが世界のすべて、という異常な状況でも、なんだかふつーに生きてる感じを自然に演じています。観賞後の後味ははっきりいって悪いですが、でもなんというか「見るべき」映画だと思いました

『クアランティン』(2008)

2009-04-22 | 小説・映画・音楽
このブログでは言ったことがないかもしれませんが、私実はものすごくホラー映画が大好きです。久しぶりに「かなり怖かった!」と思った映画を見たので、ご紹介♪

今日紹介するのは、『Quarantine』。スペイン映画の『Rec』のハリウッドリメイクです(なので、日本では『レック/ザ・クアランティン』という妙なタイトルになっているようですね)。

ホラー映画サイトを見ると(私、日参してます。笑)、どうやらこの映画はスペイン版のまるっきりコピペ映画のようなので、本当に怖いのが見たい方はむしろスペインのオリジナルを見た方がいいかもしれません。私はなにも知らずにこのハリウッド版を見てしまい、しかもこの映画の性質上、二回目は見ても怖くないのでもうスペイン版は見れないです。ものすごく残念

さて、この映画、ジャンルとしてはゾンビものです。
私は実はゾンビものはそんなに大好きではないんですが、この映画、他のゾンビものとは一線を画していましたね~。
消防局の取材に来ていたテレビ局のレポーターとカメラマン、彼らは消防隊員とともに事故現場を取材しに。通報のあったアパートについてみると、住人も「上の階に住んでいるおばあさんの悲鳴が聞こえた」というばかりで、いったいどういう状況なのか誰もわからない。警官、消防隊員とともにレポーターがおばあさんの部屋に行ってみると、なんだか血まみれでおかしい感じのおばあさんが急に警官に噛み付き始める!ここで大騒ぎになるわけですが、外に出ようとすると、なぜか外から入り口が封鎖されてしまい、「アパートの住人は外へ出ないように!」と言われる。
こうしてアパートの中に、住人と警官、消防隊員、レポーターが閉じ込められてしまう・・・というものです。

映像は最初から最後までテレビ局のカメラマンが持っている手持ちカメラ一台。その狭いアングルであらぬ方向からゾンビが襲いかかり、みんながパニックになっていく様子が映し出されるのでものすごく臨場感があります。
このハンディカメラ一台、というのは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』でも使われていましたが、あれよりもはるかに出来のいい画面になってます

それに、いったいどうしてゾンビになっちゃったのか、そしてどうしてアパートに閉じ込められちゃったのか、がなかなかわからない。この「わからない」というのが、ホラー映画ではすごく大事なんですよねぇ。なんだかアメリカのホラーって合理的と言うか、ちゃんとした「理由」があって、それを解決すればOKという感じ?例えば、誰かの霊が悪さをしていても、その霊の言いたいことをちゃんと聞いてあげれば解決、みたいな(『○○・センス』とか)。ホラーでは、やっぱ「どうしてこうなっちゃってるのかわからない」かつ「解決方法も見つからない」のが怖いところなんじゃないかなーと私は思います。

そういう意味で、この『クアランティン』は私のストライクゾーンばっちり!しかし、後味もかなり悪い映画なので、見たい人はお気をつけて(笑)

オリジナルのスペイン版の予告です↓


いつか皆「おくられびと」となるために

2009-04-15 | 小説・映画・音楽
久しぶりにとても良い映画を見ました。
日本ではたぶんもう今更な感じの『おくりびと』です。

こちらでは2月末から上映されていましたが、3月中は帰省していたりして忙しく、おとといようやく見ることができました。「まだやってるかな?」と思いましたが、意外にも公開から一ヶ月以上経つにも関わらず、まだまだ多くの映画館でかなりの回数上映されています。このことからだけでも、台湾でもずいぶん人気があるんだなーとわかりますねぇ

さて、見終わった感想ですが、すごかった!久しぶりにこんなに感動する映画を見ました。終わってみると2時間以上ある映画だったのですが、長さとか「中だるみ」みたいなことは一切感じませんでした。後半かなり泣けて、ちょっと恥ずかしいくらい涙が出てしまいました

ストーリーについては、いろんなところで飽きるほど言われているので、ここではあえて紹介しませんが、「納棺師」という特殊な仕事を取り上げ、かつそのきわめて日本的な儀礼の世界を中心としているにもかかわらず、この映画がこんなにも多くの国で好意的に受け入れられていることに驚きました。

「死」はすべての人間が必ず経験する普遍のテーマではありますが、その死生観は民族・宗教によってかなり差があるものです。でも、それを敢えて「人はすべておくりびとであり、おくられびとになる」という根源的な問題にフォーカスすることによって、おそらく誰でもどんな背景の人でも共感できる内容にしあげたところに脚本・監督の力量を感じます。私は原作小説は未読ですが、より深い死生観を哲学的に語るものであるようなので、もっと原作に忠実に作っていればこれほど世界中の人に共感されるのは難しかったかも、と思いました。

この映画は扱っているテーマは重くても、ユーモアがたくさん散りばめられており、そのくすくすっと笑えるところとほろりとくるところのギャップが素晴らしいのですが、もうひとつ見所が。私、この映画を見た後(10時半からの回を見たので、もう夜中の1時でしたが)、速攻で夜食を食べに行きましたよ。中で食べられているご飯のおいしそうなこと!あのふぐの白子~~~クリスマスのチキンでさえもめちゃくちゃおいしそうで、よだれが出そうでした。今回NKエージェンシーの社長を演じた山崎努主演の名作『タンポポ』を思い出しましたねぇ。

それから、チェロを中心とした音楽も素晴らしかったですね。ものすごく久しぶりにサントラCDを買ってしまいました。CDに入っていた解説によると、劇中曲をソロで奏でたのは古川展生というチェリストの方だそうです。(古川さんのオフィシャルサイトはこちら)後はNHK交響楽団や東京都交響楽団の方たちが集まったそうです。もともとチェロの音色は大好きなので、古川さんのCDも買ってみようかしら、と思っています。
そういえば、劇中でチェロのお値段が出てきましたが、いやピンキリなんでしょうけど、それでもものすごいお値段するんですねーーーーー。びっくりしました

台湾映画と日本人

2008-10-31 | 小説・映画・音楽
台湾映画界には、「金馬奨」という祭典があります。日本アカデミーのようなものです。
この金馬奨で数多くノミネートされたのは、ここ半年ものすごく売れた『海角七号』(中文オフィシャルサイト)。
実はこれは近年まれに見るすごいニュースで、というのも、金馬奨が「華語」(中国語)の映画祭典であることからも伺えるように、「台湾映画」というジャンルはかなり衰退しており、映画界の祭典すらも香港や外国資本の映画とひっくるめて行わなければならないほど数が少ないのです。そういうわけで、普通は金馬奨の主だった賞は台湾の国産映画の手の届くものではありません。(例えば、去年の金馬奨はアン・リー監督の『色・戒』の一人勝ちでしたし、今年も最多ノミネートは香港映画の『投名状』です)

そんな中で、「作品賞」「監督賞」「新人賞」「音楽」などの7ジャンルでノミネートされるというのは、台湾の国産映画にとっては大ニュースなわけです。このため、『海角七号』は「台湾映画の希望」と呼ばれています

さて、遅まきながら、私もこの映画見に行きました。
実はこの映画、日本ととても関係の深いストーリーなのですよ。

******
1945年、日本が敗戦と同時に台湾を引き上げるときに別れざるを得なかった恋人がいた。日本人教師の男性と台湾女性「友子」。二人は台湾を捨てて一緒に日本へ駆け落ちする約束をしていたが、港で待つ友子のもとへ教師はとうとう現れなかった・・・。
60年以上がたち、台湾の最南端、恒春で音楽のイベントが開かれ、現地でこのイベントの前座を務めるバンドが募集される。このイベントには日本人歌手の中孝介もコンサートを開くため、台湾と日本の連絡係が必要となり、仕事で滞在していた日本人モデルの「友子」は、いやいやながらこのバンドのとりまとめを担当することに。
ストーリーは、この60年前の日本男性×台湾「友子」カップルと、現代の台湾男性(バンドのボーカル)×日本「友子」カップルの話が交差しながら進んで行く。60年前に「友子」を置き去りにせざるを得なかった日本人教師の苦悩と友子への気持ちが綴られた七通のラブレター。それがいかに日本「友子」の手を経て、台湾「友子」のもとへ届けられるのか。
***********

感想は・・・
うーーーーーーーーーん、ちょっと微妙、かも・・・
いや、今までの台湾映画とは全然違うな!というのは確かで、売れるのもなるほど、な映画です。台湾の映画作品は基本的に芸術的なものが多く、それに比べてこの『海角七号』は一般大衆が見て楽しめるようなエンターティメント性がすごく高くて、台湾のローカルな方言である台湾語も多く使われていておもしろいし、それに音楽がすごく印象的なんですよね。
ただ、私がもともと前評判を聞いて期待しすぎていたのかもしれないですけど、物語としてはやや薄っぺらいと思います。題材としてはおもしろいし、いろんなストーリーの枝葉があるんですけど(例えば「台湾原住民」「異郷」「愛」「音楽」「中央と辺境」などなど)、そのどれもが中途半端に処理されているような・・・。特に原住民の部分はあまりにもステレオタイプだと思いますし、なんか結局最後はやや安易な方法で問題を解決した印象が否めません。

さらに「日本」の部分!
この映画、大量の日本語が使われていて、それも基本的に間違っていないちゃんとした日本語なので、それだけでもすばらしいと思うんですけど、七通のラブレター、ちょっとごちゃごちゃいいすぎじゃありませんか・・・(^^; なんというか、これ!という名台詞がないんですよ。映画の中では、七通のラブレターが長々と読み上げられるのですが(日本人ナレーターによって)、聞き終わっても心に残らないというか、結局「別に『友子』を捨てたわけではなく、本人もすごく連れて帰りたかったけど、ままならなかったのね」ということがわかっただけ、みたいな。もっと印象的ないいセリフが使えれば良かったのにねぇ・・・

日本人ながら主役の一人を務めた日本「友子」こと、田中千絵(インタビュー記事)さん。
モデルの役をつとめるだけあってすごくスレンダーできれいな方です。ただ、彼女の役柄も私にとってはいまいち魅力的じゃないんですよね。一般の台湾の方はわりと古き良き日本の「やまとなでしこ」的な印象を日本人女性に持っているので、この映画でやまとなでしことはかなり正反対の「友子」像を造ったことは良い意味でブレークスルーだと思うのですが、ただあまりにも・・・。正直言って、映画の中で主人公が友子のどこを好きになったのか、私にはまったく分かりませんでした。
でも、この田中千絵さん、今台湾でめっちゃ売れていて、さらにもう一本の映画も公開間近ということです。田中さん、応援してます~

ジャズ?ボサノヴァ?

2008-01-28 | 小説・映画・音楽
なんだか音楽ネタが続いていますが、それはここ最近の雨のせいかも。
日本のみなさん、台湾は「常夏の国」ではありません。南部はそうともいえるかもしれませんが(でも南部でも今はさすがに泳げませんよ)、台湾北部、特に台北は盆地のせいもあって、冬はじと~っと湿気の多い深い度指数の高い気候です。

その中でも私はさらに雨の降りやすいエリアに住んでいるので、ここ1週間はほぼ毎日雨で、外にもほとんど出ず、一日中家の中でパソコンに向かっています。ストレスフルですね・・・
そんなわけで、勉強の合間に、あるいは勉強しながら聴いても邪魔にならない音楽を求めてさまよい、iTunes Storeで音楽を買ってそのままダウンロード♪というパターンも増えています。

今日、紹介するのもiTunes Storeで買ったCDですが、これは東北地方にお住まいのS先生のご紹介。新しい音楽を聴きまくる若者というお年ではないのに(失礼!)、いつもいろんな音楽を聴いて紹介してくださいます。素敵ですねぇ

この中山うりさん、美容師兼シンガーソングライターという方ですが、私の愛するアン・サリーちゃんもお医者さん兼シンガーですからね。ジャズシンガーは、意外に二足のわらじの人が多い業界なのでしょうか・・・

普通のジャズはあまり気が乗らない方でも、この中山うりさんのジャズはものすごく心地よい声と絶妙の気の抜け方で、気を張らずに聴けると思います。アコーディオンを弾きながら、というスタイルも独特ですね。紹介したCDはiTunes Storeでしか買えないと思いますが、彼女のCDならどれでも心地よいはず。チャンスがあればぜひ試聴してみてください。

アフリカン・ミュージック

2008-01-24 | 小説・映画・音楽
私はもともと民族チックなものに目がないのですが(人類学の人はたぶん全員そうだと思いますけど)、ちょうど去年のこの時期には南アフリカ共和国へ旅行に行きました。その旅行がすばらしかったので、その頃からどうもアフリカ関係に心惹かれます。
そして今回Amazonで買ったのが、この『Talking Timbuktu』というアフリカン・ミュージックのCDです。

もしかすると、「アフリカン・ミュージック」というと、打楽器的なものを想像されるかもしれませんが、このアルバムはむしろムーディなブルースがメインです。
歌手でギタリストのAli Farka Touréは、西アフリカのマリ共和国の方で、伝統的なマリの音楽とアメリカのブルースを融合させた音楽で知られています。

もともとは、ダイアン・レイン主演の映画「Unfaithful」(『運命の女』←この邦題センスないと思いませんか)の中で使われた音楽(九曲目です)を探していてこのアルバムにいきついたのですが、五曲目にすっかりはまってしまい、こればかり聴いています。映画で使われていた曲もそうですが、なんとも官能的なメロディでうっとりしてしまいます。

iTunesを使っている人なら、「ラジオ」の「インターナショナル」のセクションでアフリカン・ミュージックが聴けますよ~。ぜひ聴いてみてください

アミ族のミュージシャン

2008-01-14 | 小説・映画・音楽
昨夜は友達から私の大好きなミュージシャンがライブをするという情報を聞きつけ、聞きに行ってきました

私の好きなこのミュージシャンはsuming(スミン)という名前で、台湾の原住民の中でも最多の人口を誇るアミ族です。写真を見てもわかる通り、なんだか少年のような笑顔の持ち主なのですが、実は今年30歳と改めて聞いてびっくり!彼はシンガーソングライターなだけではなく、ピアノ、ギター、ドラムとさまざまな楽器を操り、さらに最近は絵画展を開いたりして、天が二物も三物も与えたような才気あふれる人です。去年の11月には東京に行って下北沢でライブをしたそうなので、聞いたことがある人もいるかもしれませんね。先月の『ブルータス』(No.630)にも彼の記事が載っています。

sumingは、「圖騰」(Totem)というメインのバンドの他に、「艾可菊斯」(Echo G.S.)という二人組のバンド活動もしており、さらに今回のようにソロでのライブ活動もしています。精力的ですね~~。
本人に聞いて了承が得られれば、ライブの動画もアップしたいと思いますが、とにかく懐かしい感じのギターの音色と独特の歌声がとても印象的な人です。中国語で唱った中では私は「巴奈十九」という歌が大好きなのですが(昨夜はリクエストして唱ってもらいました♪)、やはり母語であるアミ語で唱った歌は格別です。
本人も、台湾のCD市場の関係でなかなかアルバムの中にアミ語の歌を入れられない、と嘆いていましたが、プライベートではたくさんのアミ語の歌も唱ってくれます。
これからの発展が楽しみなミュージシャンですね

***********
追記♪
本人から動画upの了承を得ました。みなさん、sumingの歌声を聴いてみてください♪曲は私のリクエストした「巴奈十九」です。