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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

鈍器で放火

2007-12-18 22:03:30 | 掌編
ドンキ放火の119番対応、法廷へ 遺族が提訴(朝日新聞) - goo ニュース

 こういう事件をパロディにしてはいけない、と思う。
 が、どうも小生の脳みそは壊れているようだ。
 こんなわけのわからない掌編を。

「もしもし」
「はい、119番です。火事ですか、救急ですか?」
「両方です」
「火事で、けが人も出ているわけですね」
「ピンポーン、正解です」
「あれ? 何かふざけているんですか?」
「ふざけていませんよ。燃えているんです」
「ほんとに燃えているんですか?」
「火は見えないけど、煙が一杯で」
「場所はどちらです?」
「二丁目のドンキです」
「鈍器ですね。どんな鈍器ですか?」
「ドンキホーテです」
「鈍器をほうったのですか?」
「いえ、ドンキホーテ」
「鈍器で包帯? ケガがひどいのですか」
「あのね、今燃えているのです。わあ、煙が一杯です。前が見えなくなって」
「でも、火は見えないのですね?」
「ええ、でも火事なんです。早く来てください」
「早く、といっても、今、消防署員は夕食を食べてる最中で」
「そんなこと言ってられないですよ。わあ、熱くなってきました」
「じゃあ、ほんとに火事なんですね。わかりました、消防車を出します。で、救急車も出してほしいのですか」
「ゴホンゴホン、煙がすごくって。逃げた方がいいですか」
「どこへ逃げるんですか?」
「外ですよ、ゴホンゴホン」
「堰がひどいですね。風邪をひいたのですか」
「煙がすごくて、ああ、息が苦しくなってきた」
「なんですって、息苦しい? 少し我慢してください。今、消防車と救急車を出しますから」

 こんな会話が行なわれていたり。
 いずれにせよ、前途は多難。

大阪冬の陣

2007-12-16 15:00:29 | 掌編
市民ら350人、橋下弁護士の懲戒請求へ 光市事件(朝日新聞) - goo ニュース

 また大阪の友人の橋本透君から電話。橋下徹ではなく、橋本透。
 大阪は、寒さがこたえているようだ。

「立候補したんは、テレビタレントと、ヒゲの変な大学教授やで。大阪府民をなめとんのとちゃうか」
「いや、大阪は昔からそんなもんだよ。横山ノックなんてエロ蛸そのものだったし、太田さんはがめつい大阪のオバタリアンそのものだろう」
「まあ、そや。二度あることは三度ある。今度の橋下弁護士も、税金をちょろまかした過去があるし、絶対にボロが出るはずや」
「しかし、それが大阪だろう。まあいいじゃないか。誰が知事になったって、大きく府政が変わるわけではなさそうだし」
「府政に不正があるかもしれへん。銭にせこそうな男やないか、がめついシンスケなんかとも、よう仕事しとるし」
「そんなに橋下弁護士が嫌なのか?」
「ああ、わいとおんなじ名前で、稼ぎは上やし、男前やし、ほんまに嫌になってくる。そこでや。ドッキリするような、よい話があるんやけど、あんた協力してくれへん?」
「何を?」
「じつは俺、橋下弁護士を追い落とす究極のアイデアをもっとるんや」
「どんなこと?」
「懲戒請求なんてちんけなもんとちゃうでえ」
「ほう」
「それには金がかかる。それで協力をしてほしいわけや」
「だから、どういうことだよ」
「聞いてびっくりすんなよ」
「わあ、びっくりした」
「まだ何もゆうてへん。昔のヨシモトの安もん芸人みたいなアホ臭いギャグとばすな」
「じゃあ、なんだよ」
「じつは、わいが立候補するんや」
「なんだって?」
「みてみい、びっくりしたやろ。わいは、橋本透や。ふつうハシモトゆうたら、橋本と書くやろ。そこで、わいがでてみい、紛らわしいで。みんな、間違いよる。これ、橋下弁護士を追い落とすのに妙案とちゃうか。それに、わいは本名で名乗っとるんやさかい、選挙の嫌がらせでもなんでもない。正々堂々と勝負や」
「まあ、妙案といえば妙案だけど」
「それで、供託金が必要なんや。なあ、貸してなんてけちなことはいわへん。ドーンとカンパしてくれへんか」
「嫌だよ。おまえが当選するのだったらカンパしてもいいけど、所詮泡沫候補だぜ。落選するのは決まっているよ」
「そらわからへん。選挙は博打みたいなもんや。なあ、わいが府知事になったら、おまえ、どっかの要職につけたる。フリーターより収入もようなるで。石原慎太郎のオッサンも、仲間を副知事にしたりしてたやないか。せやさかい、供託金をカンパしてえな」
「その金、どうせ十三かどっかの飲み屋の払いに消えてしまうんやろ」
「あっ、ばれたか、へへへ」
「しょうもないやっちゃなあ。まあ、立候補はおもしろいアイデアではあるが、負け戦は羽柴秀吉さんに任せておけばどうだね。どうせまた、青森から大阪冬の陣に参戦するだろうから」
「そうやね。で、おまえ、今度大阪に来る予定は? 十三で一杯やろう」
「予定はないね。金もないし、仕事もないし、こっちは冬の風が身に染みているよ」
「おたがい、あかんなあ。銭のないとこに、銭はきいひん。うまいことできとる」
 と、最後はさびしい話で電話を切った。
 さて、どうなるか、盛り上がらない大阪の冬の陣は。

消え行く

2007-10-28 06:57:32 | 掌編
 
 人は、時としてまったく予測しない苦境に追い込まれることがある。誰かの手助けがあれば救われることでも、たった一人だけの空間では、事態の進行に焦燥と絶望を募らせるだけ。そして孤独の中で、なす術もなく取り返しのつかない結末へ。

 秋の日の午後。
 彼は、執務中に便意を催した。仕事を中断し、事務所のトイレに向かう。
 ズボンとパンツを下ろし、便座に腰を下ろす。
 つまらない仕事の山にうんざりしながら、たった一人になれる空間。鍵のかかった個室で排泄をする。
 とくに、ここまでの行動に異常はない。彼の排便は、ふだんからキレもいい。そのはずであった。すぐに終わるはずだった。
 が、すべてを出し切らない不快感が消化器の中に残った。何かがおかしい。
 彼は、さらに内容物を出そうとして踏ん張った。
 と、出始めた。
 それが恐怖の始まりだった。

 排泄し始めたのは、溶け出した腸であった。身体が内部から溶け、肛門から流れ始めたのだ。驚きあわてたが、もうあとの祭。腰に力が入らず、便を止めることも立ち上がることもできない。
「ああ、どうしたんだ。どうすればいいんだ」
 トイレは誰もいない。声を出しても救いを求められない。
 携帯電話は事務室に置いたまま。
 それにこんな格好で救いを求め、どう説明すればよいのだ。

 そうこうしているうちにも溶けて行く。
 腸だけではない。胃が溶け、肝臓が溶け、肺も溶けていく。
 溶けるにつれ、意識が薄れていく。それは、眠りに吸い込まれる快感にも似ていた。
「俺は消えるかもしれない。このまま消滅できるのかもしれない」
 完全な消滅。それは禁断の夢。仕事からも、世間のしがらみからも、家族の重石からも解放される。

 肉体が便器の中へ次々と流出していく。
 骨も溶け、筋肉も溶け、便器の底へ。そして最後に髪の毛や爪までも。
 すべてが便器に収まると、水が自動的に下水道へと運んでいく。
 
 彼は完全に消え、靴と洋服だけが便器の周りに散乱して残った。
 時計は確実に時を刻み続ける。 

バスの中で

2007-10-27 07:27:58 | 掌編
 彼は、バスに乗るといつも心がキュンとなる。
 その日も。

 あれは10年ほど前のこと。
 彼の片思いの相手は、同じ職場にいた。名前は大塚真理。仕事はグラフィックデザインだが、スランプに陥っているということで、その頃は補助の仕事しかしていなかった。
 大塚真理は、いつも憂いを含んだ目で物思いにふけっていた。それが病気のせいだということに、彼は気付かなかった。
 うつ病。
 彼女の病気。
 にも関わらず、彼は励ました。食事に誘い、フランス料理やイタリア料理を味わいながら「くよくよするなよ。頑張れ。頑張れ。君にはグラフィックデザイナーとして才能があるんだ。自信を持って」と何度も。
 励まされた大塚真理は、何とか笑顔を見せようとしたが、口元が引きつったようにほほ笑むだけで、目は深い井戸の底のように沈んでいた。
 そして、とうとう。
 大塚真理は自殺念慮に耐え切れず、自らの命を絶ってしまった。
 自宅マンションの手すりにロープを結び、首を吊って。
 彼は、大塚真理がうつ病で通院歴があったこと、励ましがこころの負担になったことなどをあとで知り、大いに後悔した。
 が、彼女の命はもう戻らない。

 彼はバスに乗り、運転手のアナウンスを耳にする。
「揺れますので、手すり、つり革に、おつかまりください」
 なんでもない言葉。
 その言葉が、時速150キロで脳内を駆け巡る。
 心が万力で締め付けられたようにキュンとなる。
 彼の心には、こうとしか聞こえないのだ。
 
 手すりで、首を吊った、オオツカマリ……
 殺したのはおまえだ。

            おしまい

夢を拾う

2007-10-21 14:48:52 | 掌編
 あの時、
 道を歩いていると、何か白い塊が落ちていました。
 豆腐のようでもあり、石のようでもあり、奇妙な形のものです。
 ぼくは、しゃがみこんで間近に見つめて見ました。
 と、中央が割れて、紫色のぶよぶよしたものが現れました。
 いったいなんだろう、と思った瞬間、
 ぶよぶよしたものは、しわがれた声でぼくにこう答えました。

 「夢ですよ。どうか拾ってくれませんか」

 ぼくは、夢がこんな形をしているなんて考えたこともありませんでした。
 そうです。夢はこころの中にあるものです。
 形なんかないはずです。

 「嘘でしょう。夢は見えないものじゃないですか」
 「みんなそう言うんです。でも、ほんとは形があるんです。
  ぼくを拾ってください。お願いします」

 ぼくは、あらゆることに失望していたところでした。
 だから夢が、心からほしかったのです。
 夢があると、生きる力もわいてきます。
 そこで、紫色の夢に手を伸ばしました。
 触るとひんやりとして、蒟蒻のようにプリンプリンとしています。
 右手で持ち上げ空っぽのズボンのポケットに放り込みました。

 あれから30年が経ちました。
 いまだに夢を持ち続けているのですが
 何も実現しません。
 何一つ変わることなく、老いていくだけでした。
 ただ、ポケットの中の夢はすでに干からび
 干しぶどうのように小さくなってしまったのですが。

河童

2007-10-21 07:50:04 | 掌編
 コンビニでおにぎりとお茶を買って出たところ、男に声をかけられた。
「すみません、ちょっとお願いがあるのですが」
 男は四十歳前後。小柄で髪が薄く、顔つきはどこか人間離れをしたところがあった。
「なんでしょうか」
「おにぎり、一個、いただけないでしょうか」
 私がおにぎりを買ったところを見ていたようだ。
 しかし、人に恵むような慈善心なんて持ち合わせていない。
「駄目ですよ。ぼくもおなかが減ってるのですから」
「そうですか」
 男は悲しげにうつむいた。私は車のキーを開け、乗り込もうとした、が、少し気になった。
「何も食べていないのですか?」
「ええ、何も。ひもじくて」
「お金がないのですか」
「ありません」
「困りましたね」
「困っています」
「そうだ、あちらに区役所があります。区役所で相談してみてはいかがですか。まあ、困った人の相談に乗ってくれると思うのですが」
「でも、ぼく、ヒトじゃないんです」
「えっ、人間じゃない?」
「じつは河童なんです」
「河童?」
「そうなんです。だから、仕事もできないし、お金も手に入らないのです。区役所でも、河童の面倒は見てくれないのではないですか」
「あなた、ほんとに自分のことを河童だと?」
「ええ、河童です。河童はヒトになれないんです。いつまでも河童のままなんです。すみませんでした」
 男はそう言って、私のそばから離れ、またコンビニの入り口に向かった。次の客におにぎりを無心するのであろうか。
 私は車に乗り、エンジンをかけた。