陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

あれからの神無月の巫女、これからの姫神の巫女(十六)

2022-08-12 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

ひさびさに雑誌掲載版の漫画「姫神の巫女」のレビューの続きを書きます。
残念ながらうっかり連載の第十七話分までで止まっていたので、締めくくりの感想を残しておくことにしました。すでに単行本全三巻で完結しておりますので、ネタバレ遠慮なしの考察になります。


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連載第十八話。

婚儀から逃げ出した媛子と連れ出した千華音の逃避行。
追いかけてくるのは、御観留役の近江和双磨。文字どおり、ついに崖っぷちに追い詰められたふたりの御神巫女ですが──…というのが、前回のラスト。

ここで媛子と千華音がソウマ子に投げつける言葉が、いかにも辛辣。
原作漫画「神無月の巫女」でも、田舎の信仰に対する批判的なニュアンスを感じましたが、原作者先生ズは個人的に毒々しい思いでもあるのでしょうか。たしかに意味のない、ただ小さなムラでの、前例を守るだけの慣習ってありますよね。なぜ、それするの?という問いすらも許されていないような。結婚相手まで決められている、人生の行く末まで縛られているなんて、ほんと怖い宗教です。でもね、その宗教組織をメタメタに壊さなくて、ただふたりだけで逃げ出したというのがこの物語のミソ。どんなに間違っていても、その信念に基づいて暮らす人の考えを変えようとはしない、滅ぼすところまでいかないというのが、この原作者先生の作風だとも言えます。

この十八話、およびつづく第十九話こと最終話の展開。
ウェブノベル版ではやや尻切れトンボだった、双磨の存在意義がなかなか光っておりまして。片目になったこの人物に、神が定めた運命への抗戦を「このオレに見せつけてみろ」と言い放つあたりは、なかなかココロにくい演出ですね。このひと、本気でふたりを殺したかったのでしょうか。ソウマくんの顔なので、どうしても悪い人には思えないのですが。お色気お姉さん担当枠なのに、最後はなかなか乙な真似を。いい悪役っぷりでした。しかも最終話でもひとコマ、その後が語られるのですが…。「オレにできるのはせいぜい小さな島を救うことだけど、お前たちのためにけじめをつけたいんだ」とか、なんとか心の中で思っていたんですかね、やっぱり!(違)。御神巫女っておめでたい存在なのか、それとも犠牲なのか、はたしてよくわからないですね。服に蛇の鱗の模様をあしらっているのが不気味です。この子とかギロチ子とか、スカート穿いたりするんですかね? 筋肉あるのに、妙な色気のある顔してますし、ここのキャラは。彼女もまた、自分の信念にもとづいて生きた人物だったわけです。霊句子さまが好きだったのかどうかはわかりませんが。霊句子さまもただのお飾り人形だったわけで、妙に癖のあるキャラ付けしなかったおかげで物語が変な方向へ進まなかったですね。ラストに絶対おかしなギャグめいた動きをするかと思っていましたが。

さて、この十八話後半からがいよいよのお楽しみ。
なんと、電撃マオウ雑誌の表紙カラーになった冬コートのふたりが! しかも、「ただいま」と「おかえり」のやりとりのワンカットが、第一話のリフレイン!! 今度はしっかり指絡ませ熱愛モードです。2018年あたりに、原作者先生がこのポーズのひめちか(乙橘学園制服バージョン)を描かれていた記憶があります。

島の追手から逃れながら、片田舎での同棲生活。
しかも、かなり現実的なお金回りのことまで語られます。そう、このふたりは、親の庇護のもとで、親がいない留守にないしょでイケナイコトをして恋人ごっこになっている、職業不詳で夢を語っている青くささのある、ありがちな学生百合カップルではありません。お試し期間でなんとなく付き合っているだけの、都合のいい浮わついた関係でもない。共同責任で生きていくってこういうことでしょ、というのがきちんと示されているのです。ここがいい! すごく素晴らしい! これはオトナの恋の物語です。なぜ、これが描けるかといいましたら、この原作者先生ズが藤子不二雄みたいなコンビでしっかり生計を立てて画業を確立してきたからこそなのでしょう。説得力があります。

しかも、全てのファンが夢みた、なんとなんとのクリスマスの夜! 清しこの夜、ふたりだけのうるわしき夢、その時はきたれり。
こちらが頁をめくるのがこっぱずかしくなるようなくらいの! はい、ごちそうさまでした!

で、新しい朝を迎えたものの、今度は千華音の媛子看病エピソードだったりもします。
もうすっかりの夫婦ですね。でも、このふたり、戸籍がないのか、よくわからないのですが、病院に行けない模様。そこへ、よからぬ来客が訪れて…。

ここで登場する「あの人」。神無月の巫女でいうところの、マコちゃん(名前がもじってあるあたりが)ポジションなのでしょうか。千華音が憎くてしかたがなかったのに、あっさり引き下がったのは、おそらく媛子の人徳があったから、なのかもしれません。あんがい、彼女たちも上京して喜んでいたぐらいなので、島のあの掟を苦々しく感じていたりしたのかも。

この最終話の見どころは、お風呂シーンですね。そう、お風呂です。バスタイムです。
介錯先生の漫画で必ずと言っていいほど登場し、正直、物議を醸しそうなエピソードにもなったりしたお風呂です。(余計なこというな)

気丈にふるまっていたけれど、媛子の優しさにほだされた人がいて、そしてまた、媛子を失うのも怖くて思わず心がかき乱されてしまう千華音。そして、島の逃避行では言い出せなかったごめんなさいを、きちんと千華音に返すことのできた媛子もなんとなく大人びていますね。

「私の一番大切な人になってください」

第一話では凍えそうな気持で媛子が吐いたこの台詞、なんと、今度は千華音みずからの口から涙ながらに。「好き」だとか「愛してる」だとか、個々人の感情をあらわすだけよりも、なんという重く、堅く、実に真実味のある言葉なのでしょうか。媛子を想うひとは九頭蛇たちのなかにもいるわけで、媛子が振りまく愛は惜しみないわけで、それでもだからこそ、傲慢だとも思いつつ、千華音はそう希(こいねが)うわけですね。私の一番になってくださいと。貴女を大切にするよ、でも、私を大切にしてください、でもなく。恋人でも家族でもなくても、言えそうな言葉ではあるけれど、だからこそ拘束しない柔らかさがある。愛だといっちゃうと傲慢な呪いになるから、ちょっとだけ緩めにといった感じの。これが、新世代のヒメコとチカネらしいのかもしれないですね。どうでもいいですが、服を着なさい、服を。

そして、それにこたえる媛子のうれし涙混じりの答えも、もう最高のひとことにつきます!!
お互いにちょっとしたこじれがあっても、譲り合って、関係を修復しながら末永くふたりで幸せに生きてくれそう。そんなことがうかがえる、希望にあふれる後ろ姿のまま、明日に向かってまっすぐに歩いていく。しかも、同じ学校の制服で。

向かう先は示されていない。
神無月の巫女アニメOP絵のラストカットみたいな、巨大な社の下でもなく。天使と人間のような存在の格差があるわけでもなく。現世界にわがままな神さまを残すための、悲しい旅立ちでもなく。同じ制服を着てはいるけれど、片方がすっかり悪の気を抜かれて、ボーイフレンドとの恋を応援するような気後れのあるものでもなく。しっかりと地に足の着いた生活をしながら、同じ時間を生きていくふたりなのです。こんなヒメコとチカネは最高ではありませんか、皆さん!

ウェブノベル版のラストでも、ふたりがあくせく働きながら身を寄せて暮らすのでは、という暗示がありましたけども。今回の漫画では、当代ならではのアレンジがありまして、さすが令和の神無月の巫女といわれるゆえんだと感じました。とくに、媛子が千華音との写真をどうしていたか、という部分ですね。さすがは、さすがの、令和っ子。

このラスト二話の雑誌版、単行本が出るまで、いや出てからもずっと大事に読み返しておりますが。
読みなおすたびに、ほんとのほんとに、幸せいっぱいな気分になれますね。

あんなにしんどい出来事が重なって、裏切りだの、斬ったの、惚れただの、なんだのあったものだから、めいっぱい幸せにあふれた最後になってほしいと願っていたものの。これは実によい締めくくりです。神無月の巫女からさらにさらに進んだふたりの進化形。

なお原作者先生いわく、単行本の第三巻でも描き下ろし頁があったものの、描きたりなかったので、2021年末のコミケで同人誌を出しちゃった、とのことでした。しかも、コミケ会場ではアクスタとか、マスクケースとか、豪華なグッズがついてきたらしい!!(驚)
私も通販で買いましたが、これはひめちかファンならば、ぜったいにオススメしたい!しかも、ヒメコとチカネの歴史とやらのリーフレットが再録されているので、神無月の巫女ファンは二倍も三倍も楽しめます!! これは永久保存版ですね!!

願わくば、この二人の物語、できればもっと読んでみたいもの。
最終話の雑誌「電撃マオウ」2022年1月号のあとがきの、「2人の物語はここから始まります」のことばに、期待が高まります。
機会がありましたら、ふたたび巡り会えるのを首を長~くしてお待ちしております。死ぬまでの楽しみがまたひとつ増えましたな。

それにしても、「絶対少女聖域アムネシアン」が完結したのが2012年あたりだったので、あれからほぼ10年。実に長い、ながい待ちぼうけでしたね。待っただけの回があった、私にとってはまたとない作品となりました。

単行本第三巻についてのレビューはまたのちほど。なんとびっくりのラストのオマケで二度三度おいしいのが最終巻。お元気で何よりです。
では、ここまで雑誌版レビューにお付き合いくださった方に感謝を。

なお漫画「姫神の巫女」の最終話掲載は、ほぼ半年前。
もう一年は過ぎたような錯覚を覚えたのですが、今年も今年で、コロナ禍はおさまらずいろいろありましたね。感情のささくれだった日には、この漫画を読んで、好きを信じて修羅場に踏み込んだ千華音の勇気と、つねにご機嫌で明るく陽気でいた媛子のしたたかさとを見習うことにしたいと、この私めは思うのでした。美しい物語をありがとうございました。この最後のふたりの爽やかさを読者たちは忘れないでしょう。10年、20年、30年…と経ってもずっと、きっと語り継がれてほしいものです。



*漫画「絶対少女聖域アムネシアン」&ウェブノベル「姫神の巫女」、そのほか関連作レヴュー一覧*
漫画「絶対少女聖域アムネシアン」および、ウェブノベル&漫画「姫神の巫女」、そのほかの漫画などに関する記事です。

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「神無月の巫女」と「京四郎と永遠の空」に関するレビュー記事の入口です。媒体ごとにジャンル分けしています。妄言多し。




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