陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『マリア様がみてる─真夏の一ページ─』

2023-08-09 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

夏休みが待ちどおしい。いや、その前の五月の連休すらまだ来ていない。
そんな2023年の葉桜の季節。再読マリみてレビュー企画で、今回のチョイスは「真夏の一ページ」。シリーズ第13巻目となります。前巻の「子羊たちの休暇」はほぼ紅薔薇姉妹オンステージな一冊でしたが。今回は紅・白・黄薔薇の三色とりあわせ姉妹の中編集。ただし、黄薔薇はかなり短め。

例によってネタバレあり気味なので、未読の方要注意!

・「略してOK大作戦(仮)」
この一冊の約半分を占めています。やはり今野先生、紅薔薇姉妹を描くのがお好きなんだろうな。

夏休みも終わり間近、二学期も始まろうかという頃。
福沢姉弟は互いの学校の生徒会が交流する学園祭のことで、何やらソワソワ。リリアン女学園では、祥子さまをのぞく姉妹が秘密のミーティングを開催。昨年のギンナン王子騒動をふまえ、男嫌いの祥子さまに免疫をつけてもらうべく祐麒とその友人とのばったり出会い作戦を実行をしようとするのですが…。

このお話、かいつまんでいいますと、弟の祐麒のみあげた漢ぶりと、祥子×祐巳の紅薔薇姉妹の絆の深さがいや増してわかってしまう。そのためのエピソードです。けっきょく、祐巳は正直者なので、お姉さまをだまし討ちすることなんてできっこない。で、打ち明けちゃうのですね。それでけっきょく祥子さまに裏をかかれちゃう、ほかの山百合会メンバーと弟くん。

ついでに、柏木さん宅の豪邸でのプライバシーとか、なぜかそこに居合わせた瞳子とか。
「子羊たちの休暇」では、お金持ちお嬢様にまじって祐巳には危険分子にみえた彼女でしたが。このときは、すでになんとなく祐巳の味方オーラがありますね。不思議ちゃん系でなにをか考えてるのかわからないのですが。

にしても、祐麒って瞳子のこと一目ぼれなんでしょうか? 妹みたいなもので? 柏木さんは祐巳(顔が祐麒に似てるからだけなんだろうけど(爆))に絡むし、なんだかよくわからないですね。四角関係なのか、五角関係なのか。でも、祥子と祐巳のやりとりは、やはりほっこりします。というか、この巻、ゆいいつの癒しうるわし百合めくエピソードがここしかないのよ!!

・「おじいさんと一緒」
乃梨子の仏像マニア友だち志村タクヤ君の正体が判明する回です。タイトルからしてネタバレなんだろうけれども、この小話、かなり構成が光ります。緒雪節というべき、互いの認識のずれで対話のテンポがずれてしまう。その掛け合いが絶妙にうまい! 白薔薇姉妹のうふふお出かけ回かと思わせといて、じつは新聞部部長の真美さんのスクープ張り込み目線。謎の紳士と、志摩子の側をうろつく派手なシャツの青年ははたして誰なのか? にしてもね、いくら趣味が合うからといいまして、JK(しかも美少女二名!)と待ち合わせするおじさんて、うらやまけしからん!と男性読者の皆様は思ったのかどうかと(苦笑)

・「黄薔薇☆絵日記」
むかし、みかん絵日記とかいう猫の漫画があったような気がしますが…、うん、いや、どうでもいいですね。
支倉令が書いた夏休みの日記を、由乃がのぞいて、あーどこーだの姉妹で痴話げんか。まあそんな短編です。あきらかに頁のあまりで埋め合わせで書いたような。「子羊たちの休暇」でチラ紹介された、黄薔薇姉妹の富士登山エピソードの裏側とか、田沼ちさとや鳥居江利子さまとのニアミスに嫉妬しちゃういつもの由乃とか。運動神経いいようで、少女文庫好きのロマンティストな令のうすらぼんやり海辺体験だとか。

今回のお話はまあわりと、あっさりめ。
あとがきでも、男率が高いことをお詫びしつつも堂々と出されていましたが。そういや、紅薔薇には柏木や祐麒ありで、黄薔薇には山辺のみならず令さまの見合い話も後年出てくるし、白薔薇にはタクヤ君やお兄さんも入ってきたりで。

マリみてワールド、純正な百合作品のわりにはけっこう男性出現率が高いんですよね。
この時点では登場していない細川可南子の父親の話とかけっこうエグイし。今野先生の他シリーズ作品では異性愛ものだし、青年が主役のものもあるので、あたりまえなのですが。あとがきで断るぐらいなので、よほど当時の読者からは男子禁制をお願いされていたのでしょうかね? 

ちなみに私は百合が主題であっても、老若男女しっかり物語の構成メンバーとしてしっかり活躍するお話が好きなので、気にならないです。リリカルなのはファンの時に、なのフェイに入り込むユーノくんは黒塗り教科書みたいに存在抹消しましょうとか言っていましたが、若気の至りです、ええ(猛省)

なお、今回の萌えシーンは。
理想のタイプと聞かれて、祥子さまそのもののことを惚気て語っちゃう祐巳と、あきれる弟。
そして、祥子さまに計画をばらしてしまう祐巳の決意──「何があっても、お姉さま側の立場でいるのが一番なんだ、って」ということ。そして、ヒステリーを起こしてしまう自分の甘えを冷静に分析しながらも、自分の意思を尊重してくれる妹に「上手に接してくれる」、「心地よく動いてしまう」と答える祥子さま。

去年の学園祭ではシンデレラ役を巡っての運命共同体でもあり、役逃れのライバルだったはずのふたり、ロザリオ授受から、レイニー騒動、さては夏休みの別荘暮らしを経て、ますます繋がりが強くなったわけですね。ここの場面だけくりかえし読みました。

ちなみに、ここで学園祭の話題が出ていますが。
学園祭巻の「特別でないただの一日」まで、「涼風さつさつ」「レディ、GO!」「バラエティギフト」「チャオ ソレッラ!」「プレミアムブック」とあいだに五巻も挟んでいるので、相当じらしたわけですね。当時のリアルタイム読者さんはかなり待ちあぐねたことでしょう。そのあとの妹問題もかなり引っ張られた記憶があります。花寺がわのエピソードはのちの「お釈迦様もみてる」という形になるわけですが、この頃から素地があったわけですね。「シャカみて」も最終巻まで追いかけてないけれど読みなおしてみたいですね、時間があれば。



(2023/04/09)


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コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。


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