陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『マリア様がみてる レディ、GO!』

2023-10-14 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

今野緒雪原作、集英社コバルト文庫の一大百合ブランド「マリア様がみてる」。
今回の気まぐれランダム感想は、「レディ、GO!」を選んでみました。表紙絵からおわかりのとおり、体育祭編。花寺学院の学園祭を手伝ったあとのお話になります。この巻、表紙が剽軽な感じなので、コミカルタッチだと思っていたら。実は意外や意外の重要なシーンが盛りだくさん。読み過ごせない回となっております。

リリアン女学園恒例、秋の行事は体育祭。
二年松組で体育委員の島津由乃ははりきるが、運動部員が少ない級友たちは及び腰。福沢祐巳も行き掛かり上借り物競争に出場エントリーさせられてしまう。そんな折、喧嘩別れで避けられている細川可南子から、仲直りを打診したものの、体育祭での勝敗を賭けることに。

学年合同の色別チーム対抗戦。祐巳は祥子さまと同じ緑チーム。しかし一年椿組の可南子、松平瞳子、そして白薔薇の妹の二条乃梨子は赤チーム。優勝狙いではなく、赤と緑とのチーム間の勝敗を争うもの。実は困った事態になったのは祐巳ばかりではなく。由乃にしても、先代黄薔薇様こと鳥居江利子から妹の紹介を強引に指示されていました。

そしてはじまった体育祭当日。
まず面白いのは、競技の数々。百合学園もので学園祭のお芝居だの、出し物だの、体育祭だの、生徒会選挙だの、卒業式だの、そういった定番イベントあるけれど、こんなユニークな競技ほんとにあるのでしょうか? 袴競争だの、玉入れならぬ玉逃げだの。女子高だから騎馬戦とかピラミッドとか危険なのはなさそうだけど。ふつう、運動会ってそんなに同じ人物が何種目も出場しないはずなんですが、祐巳たち何回も大活躍です。

私自身は運動会って、あまりいい思い出ないのだけども。
こんないろんな競技あったら、それなりに観るのは楽しそうですよね。でも運動会の見学って、幼稚園のとかを見学したのはあるけれど、保護者や見物客みたいな外野にいるのもそれになりに疲れるものです。

眼福シーンだったのは、フォークダンス。
主人公の役得で祐巳が総受け状態。最初の男性パート祥子さまはもちろん、令さま、可南子、ときて。なぜか瞳子まで! そして、ファンだという一年坊までわらわらと。祐巳ってこの頃、ぜったい瞳子の真意を誤解していますよね。瞳子、ツンデレだな。かえすがえすも、この二人の姉妹になったあとの話がシリーズ序盤にあまりなかったのが、すごく惜しい。嫌みを聞かされたのに、瞳子だけは気にならないと言ってしまえる祐巳もなかなかで、少年漫画にありがちな、昨日の敵は今日の友状態。

そして、福沢両親との祥子さまファーストコンタクトとか。借り物競争での思いがけないサプライズ対面とか。いろいろありましたけれど、赤と緑チームの点数は最下位争いで拮抗。勝負のゆくえはラストのチーム対抗戦リレーに持ち越しに。そこで負傷者の代わりにアンカーに抜擢されてしまった祐巳は、なんと、可南子との直接対決に。はたしてその結末は…──と、最後までなかなか目が離せない展開。

今回のエピソード、笑いがこみ上げたり、いささかほろ苦かったり、ほっこり場面もちらほら。
イケイケドンドンの由乃が令と二人三脚している元気な姿に、祐巳が涙をみせてしまうところとか。妹候補でライバル意識を高め合っていると思しき可南子と瞳子のとりもちで、乃梨子がなかなか頼もしい行動に出てくれるとか。生意気口の瞳子は意外に慎重派だったとか。新聞部の真美さんの心遣いとか。各キャラそれぞれに見せ場があります。陸上部のエースの逸絵さんの小話も、番外編の短編集にあったような気がするのですが。それにしても、由乃の、志摩子さんへの「縁側でひなたぼっこしている老猫」って言い草、ひどすぎます。これでも二年次ですでに妹も備えた立派な白薔薇さまなんだが?

あと祥子さまの応援団すがたというか、学ラン着た男装。
しっかり、ひびき玲音さん画のイラスト付き! つぎの学園祭編のとりかへばや劇への伏線ですね。私、あの巻がマリみて初読だったうえ、氷室冴子さんの「ざ・ちぇんじ!」が好きだったので、一挙にマリみて沼に堕ちた一冊だったわけです。でも、実際の女子高って学ランとか着るものなんでしょうかね? 

可南子とのリレーのラストスパートシーンは、時が止まったように空白の、とても美しく感じる演出です。で、そのあとの勝者と敗者のやりとりもすがすがしいですね。可南子が願っていた罰ゲームが、祐巳に対する嫌がらせめいたものではなくて。すごく気持ちが軽くなるのがいいですね。すごく怖い張り詰めた空気だったのが、一気にトーンダウンしちゃって。

ちなみに、この細川可南子、アニメ版の第四シーズンに登場したとき、声優さんが川澄綾子さんで。
ホントに笑っちゃいました。祐巳が植田佳奈さんですから、「Fate」シリーズや神無月の巫女ファンならお馴染みのあのキャラなんですけど。セイバーしかり、姫宮千歌音ちゃんしかり、愛と忠誠を誓うあまりに身を滅ぼしかねない儚いキャラを演じるのがうまい川澄姐さんですが、アニメ版でも、可南子はなかなか強烈なキャラだった覚えがあります。こういうストーカーまがいのひと、女子高や男子校でもいるんですかね。

レイニーブルー以来、夏の避暑地編だのを通してすっかり強固になった紅薔薇姉妹の絆
祐巳は初期に比べたら、祥子さまのご機嫌取りで悩まなくって、むしろうまく感情を操れるようになりましたね。イライラ気味の姉に太鼓のバチを渡すなんて。そして、めんどくさいこじらせ下級生たちをもうまく対応できるようになった祐巳の姿は、読者自身が自分に重ね合わせても微笑ましい姿ですね。欠点がないわけではない十代の女の子たちが、ときには剣突張りになりながらも、成長していく学園ストーリー。なかなか学ぶところがあります。懐が深く、他人の過ちを赦せ、いつまでも仲たがいのままで別れない。人の縁を大切にする乙女たちの姿は、やはり美しく、私の理想とするところです。細川可南子のラストの意地らしい感じにしたのも実にうまい。今野先生は妹問題の解決をせがまれていたのだろうけれども、こういう女の子たちのやり取りをしっかり描きたかったんでしょうね。

今回もいいお話を読んだな、とささやかな幸せに浸れたのでした。やはり、マリア様がみてるはイイですね。ところで、あとがきから察するに、かなりそれなりの年齢の男性読者からのファンレターが多かったようで。川端康成やら吉屋信子やらの文学小説を好きそうな読書家の方からも、この作品、かなり受けていたのではないでしょうか。男性ファンが多いけれども、いかがわしめなサービスシーンがあまりないがに匂わせせ程度に妄想できるのが、この作品の素晴らしいところです。

ちなみのこの回、私はアニメで観たことはなくて。
第四シリーズで映像化された…んでしたっけ? この作品、実写編でドラマ化したらぜったい人気でそうな気がしますので、NHKあたりの土曜夜あたりに連続ドラマでやらないのかしら、なんて思っちゃいます。「精霊の守り人」シリーズみたいに。



(2022/12/11)


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小説「マリア様がみてる」のレビュー、公式関連サイト集、アニメ第四期や姉妹作の「お釈迦様もみてる」、二次創作小説の入口です。小説の感想は、随時更新予定です。

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