陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『マリア様がみてる 黄薔薇革命』

2023-02-26 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

平成時代に百合大ブームを起こしたさきがけ作の「マリア様がみてる」シリーズ(今野緒雪著・集英社コバルト文庫)。そのランダムレビューを随時更新しています。

私は再読するときは、無印→第二作の「黄薔薇革命」まで。
そのあとは、まっすぐ進みません。その次の「いばらの森」は二次創作小説の参考に何度か読んだのですが、話が重いのでうかつに感想ができない難物。「ロサ・カニーナ」もそうですが、いちばんお気に入りの白薔薇ファミリー主役回は気軽に手に取れません。「レイニー・ブルー」と「パラソルをさして」までは覚悟を決めてとりくまないといけないので、先に済ませました。

さて、今回はシリーズ第二作の「黄薔薇革命」。
サブタイと表紙からわかるように、黄薔薇姉妹の、支倉令と島津由乃にスポットが当たる話。この頃は鳥居江利子さま、まだご本名なくて、黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)としか呼ばれていなかったんですね。というか、先輩の名前を、ジュリアーノとかみたいな洗礼名っぽい、カタカナ名で呼んじゃう学園すごいな。

タイトルの革命というのも、「少女革命ウテナ」が流行ったあたりの90年代後半の、「革命」ネーミングが社会現象になったのを反映しているんでしょうね。
思春期の気難しい女の子たちがよりを戻すお話だから、大人からしたら他愛もないのだけど、本人たちにとっちゃあ一大事なわけですよ。

前巻の学園祭のその後、晴れてロザリオ授受し、紅薔薇のつぼみの妹となった福沢祐巳。
折しも、学園内はベスト・スール賞に選ばれた黄薔薇姉妹こと、支倉令と島津由乃の話題でもちきり。ところが、当のふたりはなぜかギクシャク。由乃が姉の令にロザリオを突き返したが、新聞部発刊の「リリアンかわら版」ですっぱ抜かれ、学園内は不穏な気配に。黄薔薇にならって、スール解消を申し出る事例が多発してしまう…。

初作で姉妹制度(スール)の何たるかを説明したのに、次作ですぐそれの破綻を描くって、なんだかすごい展開だな、と。でも、この巻のお話、黄薔薇のみに焦点があたってとてもわかりやすい筋書きなので、私的には休日にサクッと読むのが楽なんですね。こころに負荷がかからないうえに、爽やかな読後感が残る。何歳になっても読めそうで助かります。

支倉令と島津由乃と実の従姉妹同士で、おうちもお隣同士。
この母親同士の事情はのちに「ステップ」で明らかにされるのですが。持病を抱えた由乃と、過保護すぎる令。世間のイメージでは剣道部のエースの令はボーイッシュで凛々しいけれど、実際は…というギャップが面白い。この令さま、モデルは「美少女戦士セーラームーン」の外見は天王はるかで、中身は木野まことなんだろうな、と思います。

自分の病状に構いすぎてメンタルが弱い令といったん距離を置こうとする由乃。
姉の大事な剣道の公式戦の日に、心臓手術を受けることに決めます。それを支えるのが、仲介役となった祐巳なのでした。由乃のこととなると動揺を隠しきれない姉のすがたは、妹になったばかりの祐巳には羨ましくもあるのです。この由乃の病弱エピソード、のちのイケイケドンドンなキャラ暴走がはじまると、今度は由乃が祐巳を頼って甘えていくんですよね。

実際、入院するほどの持病ありのクラスメイトがいたら。
やはり扱いが難しくて、なかなか距離を埋めるのが難しいわけで。そこに過干渉気味の幼馴染がいたりしたら、そりゃ、若干ゆがんだ共依存の関係にもなりがちですよね。でも、この二人は、その危険性を知っているから部活に励んだり、横の友人のつながりを広げようとしているわけで。

白薔薇さまにちょっかい出される祐巳と、焼きもち妬いちゃう祥子さまと。
キツイことを言いつつも、さりげなく祐巳に甲斐甲斐しく目を掛ける祥子さまのうるわしさも健在。ここらへん、いつもの目の保養ですね。スキンシップされても、祐巳がときめいちゃうのはやはり祥子さましか、いないってのも一途でよろしい。

今回は新聞部の三奈子女史やら、前回に続き写真部の蔦子さんもなかなかの活躍。
蔦子さんて、わりとオヤジくさいというか、いい趣味してますねえ。少女小説なのに、男性読者を獲得できる要素がなんとなくわかります(微苦笑)。

ちなみに黄薔薇姉妹メイン回の場合、たいがい、江利子さまはピン芸人みたいな動きをされるのですが。
この回の黄薔薇さまの謎の行動の正体が「アレ」なのは、正直どうなのかと思いました。三代揃いもそろって、かなりのお騒がせなファミリーですよね。江利子さまって、妹選びで、のちに祐巳と由乃にかなりプレッシャーを与えるわけになるわけですけれど、器用貧乏なのでいつもつまらなそうな顔をしていて、刺激を求めている、というキャラ付けが外観とギャップがありますね。お父さん子なんだな、という前触れがわかるやりとりがちらっと出てきますけども。あまり百合キャラっぽくないので、薔薇さまなのに影が薄いのは残念です。白薔薇、紅薔薇に隠れて、割を食っているんですよね。令さまとのスールを結ぶエピソードも「プレミアムブック」での外伝扱いにされるし。

さて、今回のマリみて名言を紹介しておきましょう。
ひとつは、これは有名な紅薔薇さまこと水野蓉子さまの台詞──「友達なんて、損な役回りを引き受けるためにいるようなものよ」。この言葉、真に受けると、優しい人は振り回されそうな気がしますけどね。でも、単に親しいだけの、楽しいだけの仲だけが友達じゃない。それは友人に限らずに言えること。

ふたつめは、「他人の行動を理解することはなんと難しいことであろうか」と祐巳が考え至ったところ。
マリみてが流血するような大きな事件が起こらない、学園内のささやかなイザコザ中心の日常劇なのに、たまに胸を衝くような衝撃があるのは、まさに貴女と私は相いれない、でもいつか理解しあえる、その瞬間に立ちあうことが約束されているからなのかもしれません。のちのレイニー騒動で主人公も痛いほど理解しますが、どんなに絆が深くても立ち入れない家庭の事情もあるわけで、配慮することの難しさがありますよね。

みっつめ。面倒くさいことに巻き込まれることは「彼女たちを好きだということに対する付加価値」だと言い切った、白薔薇さまの言葉。
祐巳からしたら、自分の行動や気持ちを明確に分析できている先輩を尊敬する場面ですが。このひと壮絶な過去を抱えながら、表面上はおちゃらけているので、魅力的に見えますよね。

最後は、祐巳と、黄薔薇さまの会話から。
娘思いすぎて心配性な江利子さまお父さんについて、祐巳の「愛している人のためならみっともなくなってしまえるところ。そういうところが素敵だと思った」という感想。この言葉は、この回の令さまをいたわって、包みこめる気持ちですよね。

そして、それは由乃の令に対する気持ちでもあります。
小さなころからお互いの気性を知りすぎているから、倦怠期にもなり、相手の関係性が重荷にもなる。だから、いったんは精算して自分のやるべきことを果たして、出直そう、新しくもういちどはじめようという、この黄薔薇姉妹のふるまい。やがて、学園内のスール破綻ムーブをもおさめる展開になります。なんだかんだいいまして、世間は目立つ存在の動きに流されやすいわけで、だからこそ、薔薇さま方含めた生徒会こと山百合会のメンバーも気ぜわしいのでしょうね。

なお、この巻のあとがき、いろは順の作者のひとことコメントが面白かったです。
あと、いま気が付きましたが。今野緒雪先生は2019年に『秘密のチョコレート』という共作短編集を出版されているんですね。『夢の宮』シリーズも「始まりの巫女」しか読んだことがなかったのですが、その後に続編があったようで、時間があったら目を通してみたいです。

といいますか、今更ながら、「お釈迦様がみてる」の最終巻が2013年ですでに10年近くも前のことに愕然としてしまいました。
まりみて本編じたいは「ハローグッバイ」で2008年に祥子・祐巳編が終了とのことでしたが。姉妹を変えて再開したりはしないのでしょうか。

つぎにマリみてレビューを書くときは、刊行順ではなくて。
すこしランダムに選書することにします。では、また、ごきげよう。

(2022/11/23)



【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。




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