陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『マリア様がみてる バラエティギフト』

2023-12-25 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

平成百合ブームの古典作ライトノベルシリーズ「マリア様がみてる」。
今回のランダムレビューは、読んだのが12月。お歳暮やクリスマスシーズンなので、なんとなく贈りものをイメージするタイトルをチョイスしてみました。とろけるような甘いお菓子を思い浮かべると思えば、大間違い。ちょっぴりビターでピリッとする味わいもあります。

シリーズ刊行17冊目となる「バラエティギフト」(2004年1月10日初刊)は、なんとはじめての短編集。
白状いたしますと、私め、この短編集があまり好きではありませんでした。本編が動かないし、自分の好きなキャラがあまり出てこないし、公式の設定を借りて二次創作者がつくったオリキャラ主人公のストーリーを買わされているようで、モヤモヤしてしまうからです。とくに私、「私の巣」「ステップ」あたりで一冊まるごと使い捨てなキャラの単独話だったときに、かなり毒づいたレビューを書き散らした覚えがあります。いや、原作者がつくった舞台なんだから、主人公を入れ替えようが、ニューフェイスを出そうが自由なんですけどね。

けれども。
いま、十数年以上たって、あらためて短編集を読んでみますと。短いながらよくまとまっているお話で、しかもこれで十分に百合テイストを堪能できてしまうのです。しかも、一話で区切りがあるから、社会人が骨休めに小一時間程度で読み進めるのにぴったり。日曜日の夜の、寝しなに読むのにも精神に負担がかからないのです。今回は、いまさら、マリみて短編の魅力に気づかされました。

では、詳しく各短編の詳細レビューに入ります。
若干ネタバレがありますので、未読の方はご注意を。


「バラエティギフト I~Ⅴ」
各短編の話をつなぐ、今野緒雪先生いわく「のりしろ」部分の書き下ろし。これはその後の短編集でも同様の形式がとられるのですが、いわゆる幕間劇でありつつ、この部分自体がひとつのストーリーになっていて、かつ各話への導入部ともなっています。おそらく、主要人気キャラの出番を増やすためのファンサービス。
薔薇の館にある日、届けられたお菓子の箱「バラエティギフト」。送り主は、前黄薔薇さまこと、鳥居江利子さまだった。そのギフトに込められた謎をめぐって、福沢祐巳と島津由乃が回想をめぐらすが…。今回の表紙絵のふたりは、まさに物案じ顔。内容にふさわしい表情です。この二人って、二年になって同クラスになったせいか、いつもつるんでいますよね。

「降誕祭の奇跡」
リリアン女学園の女性教師鹿取真紀は、教え子の黒須ひかりから不思議な話を聞かされる。ひかりが中等部で入院中に姉妹(スール)の約束を交わしてくれた夢の「お姉さま」がいたこと。そのひとがいたおかげで怖い手術も乗り切れた。しかし、高等部にあがっても、そのひとは現れない。あれは神様がくれた奇跡だったのか? このひかりの体験は、リリアンOGだった鹿取先生のある物悲しい記憶を呼び覚まして…。この鹿取先生の過去話がとてつもなくエモーショナル! ごめんなさいって言えないまま別れるの、辛いですよね。でも、学校にとらわれているからって教師になって戻ってきた、というのはあまり社会人としては健全ではない気もします。
あと、印刷で赤と青がずれている現象うんぬんといった表現は、たぶん昭和生まれでないとわからない喩えですが、こういう言い回しがセンスがあってうまいですよね。好きだなあ、こういうの。

「ショコラとポートレート」
写真部のエース武嶋蔦子さんのイケメン度が存分に発揮されるエピソードです。主役は彼女じゃないけれど。リリアン女学園中等部の笙子は、クラスメイトとともに、高等部のバレンタインデー獲得のカード探し企画にフライング参加することに。大学受験生の姉の克美は受験一辺倒で、そうしたイベントには見向きもしない。その反発心からこっそり姉の制服をかりて高等部女生徒のふりをした笙子だったが、カメラを構えた蔦子に声掛けされてしまい…──。
じつはこの話、短編のなかでいちばん印象深いもの。高校時代、勉強ばかりしていて学友たちともっとバカ騒ぎしたかったな、そんな後悔がある人は読むと、ほっこりする話です。優秀な姉と比べられて、しんどかったんだな、この妹さん。他人の眼を気にするようになってカメラ嫌いになる。でも、蔦子さんの言葉に励まされて──。この姉妹と、黄薔薇の話、あとでも出てきたはずですよね。江利子って妹たちには意地悪なのに、意外と同級生とかには優しいの、矛盾してない? そういうところ、ギャップがあっていいのだけれど。

「羊が一匹柵越えて」
二条乃梨子と祐巳という珍しい取り合わせの話。乃梨子は志摩子さんとペアだと実にこころ揺さぶる名場面が多いのに、この話はちょっとコメディタッチ。リリアン女学園を同居の大叔母のたっての希望で記念受験してしまった乃梨子は、その面接時の不思議なやりとりを思い出す。さらに入学後に用意しなければならない「謎の衣裳」とは──? ネタバレになるのでいいませんが、体育の時間とかも、アレ、あると便利ですよね。
ちなみに、この小話、祐巳が瞳子と妹問題でこじれていたときに書かれていたもので、最後にこころの曇りが晴れるようなオチになっています。センセイ、さすがです。

「毒入りリンゴ」
白雪姫に継母が送り付けたもの。物騒なタイトルです。おばあちゃんとして孫たる現妹たちにギフトを贈りつけた鳥居江利子。実は彼女自身も、お付き合いしている某氏をめぐって、いささか悩ましい問題を抱え込んでいました。で、こういったこころの重荷を払うのって、祥子さまや令さまの場合は妹分の祐巳や由乃らなんだけども、。先代薔薇さま方ってほんと横のつながり強いんですよね。というわけで、人気キャラの佐藤聖さまお出まし。しかも加藤景さんつき。
時期としては修学旅行編の「チャオ・ソレッラ」の前座にあたるところ。それにしても、江利子って優等生なはずなのに、お父さんっ子なせいなのか、とんでもない恋愛に走ってしまうところ、ほんと危なっかしいですよね。女子大生なのに、いきなり母親になる覚悟を示されたら、そりゃ迷うでしょうに。いまの時代の百合だったら、こういうエピソードを出したらぜったいに百合好きさんから猛烈なアンチ反応がきそうなんですけども、この頃はまだ緩かったんですよね。ちなみに、私は「熊男」も、「ギンナン王子」もべつだん苦手ではありません。でも、マリみてに出てくる殿方は、なぜか残念なイケメンにされすぎている気が…(苦笑)


受験時代のギスギスした心の縮みだとか、第一志望に受からなかった新入生の微妙なささくれだとか。憧れの人に近づきたいから進学したとか。職員室に入り浸って女のセンセイにだけ、こっそり秘密を打ち明けちゃうとか。こういった気持ち、青春時代に抱いた身としては、読んでいてかなり切なく、あるいはうるわしく感じる面が多かったです。

なお、あとがきでの今野先生いわく。
短編の番外編は、原則的に、本編より過去の時点が多いとのこと。未来のネタバレを防ぐため、なんだそうです。この番外編のお話、意外と本編で祐巳たちのさりげない会話のなかにヒントがあったりして(たとえば、「レディGO!」でほのめかされた、ある学年だけなぜ桜組がないのか問題など)、シリーズをしっかり細かく読んでみたら、パズルのピースがつながっていく構成になっているんですね。このあたり、10年以上もシリーズが続いたのに、うまく書き続けられたものだと思います。かなりのこと念入りに話を編まれていたんでしょうね。

そして、この話が刊行された2004年は平成百合ブームの、今でも伝説として語れるアニメ作品がのきなみ地上放映された年でもあるんですよね。「神無月の巫女」しかり、「魔法少女リリカルなのは」しかり。しかも「マリみて」無印アニメも2004年1月放映。本編は妹問題で大揺れに揺れていますが、マリみて人気はかなり絶好調にあった時期、しかし、その反動か、妹候補のあて推量での読者レターが多かったのか、なんとなく執筆に苦心されている本音が透けてみえるのを、あとがきから感じました。

ところで、贈りものシーズンですけど。
善意で贈った、届けられたものが、じつはそうじゃなかった、あるいはそうならなかった、ってこと。私にもいくつかあって、苦い経験があります。有難迷惑になるのか、それとも、嬉しいサプライズになるのか。日本のプレゼント文化って難しいですね。贈りつけたからといって、お礼や喜ぶ顔を期待しちゃいけないのは、「魔女の宅急便」で学びました。モノで他人の機嫌を図ろうとしないことですよね。


次回のマリみてレビューも、時期が近いものを読んでみることにします。
では、ごきげんよう。


(2022/12/11)


【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。
(2009/09/27)

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