陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「召しませ、絶愛!」(八)

2022-04-19 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

「でも、なぜか、こうして出逢えてしまったのだったわ」
「そうです。私もお会いできて光栄です。まさか、自分や妹のそっくりさんがこんなにいるとは…」

来栖守の姉は、悪役然とした仮面を外して前髪をかき分けた。
素顔はほんとうに、千歌音そっくりだった。千歌音なのだから、あたりまえなのだが。竜宮城の乙姫さまのような仮装をしているものだから、どこかこの世ならぬ雰囲気がある。自分の制服を貸したら、ぜったいに似合いそうだと姫宮千歌音はひそかに思う。

「で、その原因がカップ焼きそばにあるとでも?」
「おそらくは。皆さん、心当たりはありますか?」

姫宮千歌音と来栖川姫子は目を合わせて、息を呑む。どう考えても自分たちの、いつにない夜食が引き金になったとしか思われない。

かおんがすっくと立ちあがる。みんなが振り向く。
彼女は戦士のせいか、なんとなくぶっきらぼうでもある。あまり感情を表に出したがらないようだ。絶対天使とやらは、どうも人間離れした人造人間のことであるらしい。目つきがいつになく険しい。

「私はひみこしか欲しくないから。そんなもの口にしない」
「「「──ええっ?!」」」

一同がその一言に仰天する。ゴヤ画のサトゥルヌスよろしく、う~んジューシー♪とかなんとかこぼしながら可憐なひみこの頭から食らいついている、そんなおぞましい姿をなんとなく想像してしまい、姫宮千歌音は血の気がひいた。この女ならやりかねないかも…。しかし、目が覚めるほどに美しすぎる、こんな吸血鬼が世の中に存在しても良いものか。姫宮千歌音よ、自分の顔をそこまで褒めるのか、生粋のお嬢様は自己否定しない生き物なのでどうしようもない。

「あの、違うんです。誤解です。かおんちゃん、言葉が足りなくてごめんなさい。わたし、食べられてるんじゃなくて、吸われてるんです」
「す、吸われてるうぅううう?」
「上なの? 下なの? 両方なの?」

なぜか、大げさに反応してしまう来栖川と来栖守の姫子コンビです。
来栖守妹は、どうも、平素からあの女神にあれやこれやのハラスメントを受けているらしく、我がことのように顔を赤くしている。姉はたしなめ顔で、お静かに、と目で訴えている。それにしても、姫子まで事情通だなんて、いったいどんな漫画を読んでいるのかしら、こんど体育女(命名:如月乙羽)こと早乙女真琴さんに賄賂を贈って、女子寮の本棚を抜き打ちチェックしなくちゃね、とひそかに決意する宮様であった。お嬢様だから仕方がない。

ひみこが紅潮して誤解を解こうと、手のひらひらひらさせている。
そこへ、かおんが肩にもたれかけてきた。まるで意思をうしなった人形のようだった。さきほどまでの戦鬼はどこへやら。

「あっ、かおんちゃん。さっきまで戦ってくれたからだね。お疲れなんだね」
「気にしないで。すこしだけ休めば、こんなのは、す…ぐに…」
「駄目だったら、無理をしちゃ。マナが足りないんだよ」

お互いをいたわりあう微笑ましいやりとりである。
だが、次の瞬間、一同目を奪われることになるだろう──ひみこはかおんの顎を上向かせる。かおんはなすがまま。何らのためらいもなく、この少女ふたりは唇を結んでいたのだった!!



【目次】神無月の巫女×姫神の巫女二次創作小説「召しませ、絶愛!」




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