陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「召しませ、絶愛!」(九)

2022-04-19 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

残りの四人はもちろんその光景に視線を外すことができない。
かおんとひみこのふたりは、光り輝いている。口もとから、光がこぼれ落ちている。眩しいくらい美しい眺めだった。やっぱり、マスクなんて要らないわ。鉄壁だった姫宮千歌音の衛生観念はチョロいもんである。

「ありがとう、ひみこ。助かったわ」
「かおんちゃん、もう無理をしたらだめだよ」

そう言いながら、逆に倒れ込んだのはひみこのほうだった。
かおんに膝枕をしてもらいながら、髪をかき混ぜられている。どうやら、マナというのは人間の生命エネルギーのことで、キスで絶対天使に与えるらしい。それにしてもなんて羨ましい。姫子とずっとキスできるなら、どんな豪華なディナーだって極上のワインやデザートだって不要なのに。こんなことを不謹慎にも考えてしまう宮様である。千歌音ちゃん、もう全身が煩悩の塊だよ。

「かおんちゃんは絶対天使で、人間のマナを与えないと元気がなくなっちゃうんです」
「それは、誰でも与えていいの?」
「いいえ。かおんちゃんだけは、わたしだけしか…。他の絶対天使たちは、そうでもないみたいですけど。かおんちゃんが他の子から吸収したら、そのひとはしばらく動けなくなります。ひどいと病院送りになってしまって…。ミカ様は大丈夫そうだけど、あ、ごめん、わたし。余計なことを」
「いいのよ、ひみこ」

お互いをかばい合う、いたわりあう。ひもじくなったら与え、温めあう。それは愛情の本質であろう。
しかし、姫宮千歌音はなぜか浮かない顔つき。この天使はひとからエネルギーを奪う? さきほど、姫子は気絶していたではないか。まさか、この女に唇を奪われたの…?! 私だって、週に一度に我慢しているのに、なのに…。胸がにえたぎり、わなわなと震えが止まらない。姫宮邸の修繕費用にくわえ、姫子への暴行罪で慰謝料を請求してもいいくらいだわ。自身、不意打ちキスなど銀月の嵐からしてそらもうやりたい放題だったくせに、とんでもない被害者思考に陥る宮様である。落ち着け、姫宮千歌音。それにしても、どの姫子も狙われやすいのはお約束なのか。

「いいものを見せていただきありがとうございました。ごちそうさまでした」

こほん、と咳払いして座をひきしめる、悪役すがたの黒髪少女。
さすが悪の女頭領をやっただけのことはあろう。組織をまとめるのがうまいのは、来栖守姉をおいて他になかろう。姫宮千歌音なら、邪魔する奴は目で射殺すか、問答無用で石にしていくところなのだが。やはり年季の入った黒髪ロングは貫禄が違う。アジエンス、世界が嫉妬する髪へ。

「それよりも、カップ焼きそばのお話に戻しますね」
「あのっ、それ、わたしなんです。千歌音ちゃんと食べたいなあと思って。テスト勉強中でお腹が空くから、あ、でも千歌音ちゃんはそんなに食いしん坊じゃないんだけど。乙羽さんに用意してもらうのも悪いし、お手軽で食べやすいはずだし、千歌音ちゃんも喜んでくれるかなあって。わたしが好きだったから、マコちゃんに頼んで分けてもらったやつなんだけど。でも、今日の変だったんだよね。かやくがおかしかったし、お湯で爆発したし、わたし、どうしたらいいのかなあ」

姫子の弁明は説明にすらなっていなくて、あやふやだった。
謝りたいのか、原因を探りたいのか、よくわからない。千歌音がやや困ったふうに微笑んで、指をすべりこませてきた。

 

【目次】神無月の巫女×姫神の巫女二次創作小説「召しませ、絶愛!」



この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「召しませ、絶愛!」(十) | TOP | 「召しませ、絶愛!」(八) »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女