引き続き古い俳書である。
明治26(1893)年発行の『俳諧發句五千題』。
これを買ったのは東京・江東区の富岡八幡宮の骨董市だ。
あの恐ろしい殺人事件(2017年12月)の半年ほど前である。
値段は500円だったか。
左右105ミリ、天地141ミリ。本文276ページ。三つ目綴じの和装本であるが、袋とじではなく、ひと折16ページの折丁。下は最終ページ。書き込みと落款があるが、私には読めない。
発行者は大阪の岡本仙助、著作者は近藤延之助と奥付にある。
タイトルが示すように、連句の発句を季節ごと、季題別に五千句収録した本である。
撰者は其柏庵悟友。
のどには三か所穴が開けられ、こよりで綴じてあるが、これはあとから修復したものだろう。
表紙は欠けている。
まず「歳旦之部」から始まる。季題は「一日」。
一日や正しく見ゆる一家内 山成
一日ハ生まれたま丶のこ丶ろ哉 米僊
一日や暮れは淋し夜店處 梅笑
一日も半日は寢て暮しけり 米豊
の四句が収められている。
作者について、江戸文学に詳しい方ならご存知なのかもしれないが、私にはわからない。
ただ、そのあと「日始」の「海山も静かなりけり日のはしめ」の北枝という名は憶えがある。
たしか芭蕉の門弟ではなかったろうか。
北枝は江戸中期の俳人であるから、この本はそのころの発句を収めたものだろう。
じつはそのあたりについて、本にはなんの説明もないのである。 発行元の岡本仙助は、明治時代の出版社である。
国会図書館のデータベースを見るといくつもの本が収蔵されていることがわかる。
数冊タイトルを上げてみる。 『日本軍隊敎範』『万国史直訳 近世史』『日淸戰爭記』『絵本近世太平記』
『英文典講義:文法詳解』など内容は多岐にわたっており、翻訳書も多い。
ネットで検索してみると、ある古書店にこの本が出ていた。
表紙も付いている。カラーの美しい表紙である。
私が入手した本は、傷みが激しかったのか、元の所有者が修復したさいに、表紙は破棄したのだろう。
所有者が書き込んだと思われる句がところどころにある。
達筆でほとんど判読できない。
最終ページの書き込みの十七文字のうち、私にわかるのは半分以下の八文字である。
情けない話だ。 ところで、タイトルに五千題とあるが、収められているのは三千数百句である。
五千題とはすこし大げさな書名である。