もう14、5年前になるだろうか。
長男がこんな本をもらったと、一冊の句集を私に手渡した。
『録録 山本加人句集』という、活版印刷の上製本である。
なんでもバイト先の某デパートの詩集専門店で、
お客さんの求める本を探すのを手伝ったところ、翌日、お礼にと渡されたという。
『録録 山本加人句集』2005年、87部発行。発行元:書肆稲妻屋。四六判変形。非売品
読んでみるととてもおもしろい。
こういう俳句にはそうそう出会えるものではない。
このなかの一句
炎天に一度会ふべき神を待つ 加人
の句に惹かれた。
ちょどそのころ私は30数年ぶりに一度やめたマンガを再び描き始めたところだった。
短い話を一本描いたあと、この句を中心に据えたマンガを構想し8枚の作品に仕上げた。
タイトルは「犬になる」とし、先の短い(4枚)作品「遠雷」とともに、
北冬書房の『幻燈』8号(2008年)に掲載してもらった。
縁というものは不思議なもので、この「犬になる」を読んで
感想を書評紙に書いてくれたKさんから連絡があり、
句の作者、山本加人さんとは旧知の間柄だと連絡をいただいた。
それからしばらくして、Kさんの紹介で一度だけ加人さんとお会いした。
加人さんは仕事を抜け出して来たとのことで、あまりお話はできなかったが、
活版印刷も製本もすべてひとり作業でやっているとお聞きして驚いた憶えがある。
そして、今は塚本邦雄の処女歌集『水葬物語』の復刻版を作り始めたところだと教えていただいた。
それからしばらくして届いたのが写真の復刻版『水葬物語』である。
こちらも活版印刷だが、本格的な和装本となっている。
復刻版『水葬物語』2009年、初刷り505部。発行元:書肆稲妻屋。A5判。4200円
前後して加人さんの新しい句集『眼想華』もいただいた。
直接会ってお礼をいわなければと思いながら、お礼と感想を記したハガキを出しただけである。
その後、加人さんが同人だった俳句の会「らん」に私も入ることになったのだが、
もうそのころには加人さんは退会されていた。
住所も変わられたようで連絡先もわからないまま10数年が過ぎてしまった。
山本加人句集『眼想華』2009年、115部。発行元:書肆稲妻屋。A5判。1200円