2024年04月07日
北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二
[洋上風力発電と漁業 日本の経験#65 再エネ 電気代高騰と中国による電力網乗っ取りに警鐘]
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志様は、再生エネルギーの規制改革をめぐる有識者会議で提出された資料の中に中国国営企業“国家電網公司”のロゴがあった問題に接し、電気代高騰により日本経済が衰退し、日本の電力網が中国に乗っ取られると警鐘を鳴らしている。
杉山大志様は、昨年2023年11月、北海道に林立する洋上風力発電で潤うのは中国と一部の業者だとリポートしている。
これらのビジネスは“再エネ賦課金”等の国民負担の上に立脚している。
“再エネ賦課金”は、国民の電気料金に上乗せする形でまかなわれており、その負担額は年々増える傾向にある。
2013年時点での環境省の推測によると、再エネ賦課金のピークは2030年に訪れ、ピーク時の単価は2.95円/kWh程度になると推測されていた。
しかし、現実には2019年時点に既に2.95円/kWhにまで上昇したことから、再エネ賦課金単価の上昇率は環境省の推測を大きく上回る結果となっている。
電気事業に関する科学技術・経済・政策の研究開発を行う“一般財団法人電力中央研究所”の試算によると、2030年には再エネ賦課金の単価が3.5円/kWhから4.1円/kWhにまで値上がりすると予測されている。
2023年11月04日
JBpress(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志様のリポート)から転載
潤うのは中国と一部業者 北海道に林立する巨大風車は誰のためになるのか
洋上風力発電の開発が進むが、導入すればするほど国民は窮乏するだけだ
地球温暖化対策として日本では洋上風力発電を推進している。ある程度のCO2削減になることは確かだが、経済的に考えて日本にとって正しい選択なのかどうかは疑問が残る。大規模な計画が進む北海道に足を運び、その実態を見てきた。
設備能力は北海道の電力需要を大幅に上回るが…
北海道で大規模な洋上風力発電の計画が相次いでいる。北海道新聞(3月29日付)によると、既に発表された計画は、札幌市の海の玄関である石狩湾だけで1217基、出力にして合計1173万キロワットに達する。加えて291万キロワットの洋上風力も道南で計画されている。
これに対して、北海道の電力需要はといえば、真冬の寒いときのピークでも569万キロワットに過ぎない。通年の平均だとこの60.3%の343万キロワットしかない。
さて風力発電は風まかせである。通年での設備利用率は洋上のもっとも風の状況の良いところでも、せいぜい35%しかない。この意味は、たとえ1000万キロワットの風力発電設備があっても、通年では平均350万キロワットしか発電しない、ということだ。
もちろん風が弱ければ風力の発電量はゼロだ。だから、火力発電所や原子力発電所をなくすわけにはいかない。いま北海道電力が有する火力発電所は427万キロワットで、これが発電の主力になっている。ただし古くなった発電所も多い。
泊原子力発電所は207万キロワットと出力が大きいが、いまは停止中だ。再稼働すれば余裕ができるが、残念ながらもう10年以上も止まったままだ。その一方で千歳に誘致するラピダスの半導体工場だけでも100万キロワット近い電力消費になるかもしれないと言われる。ICT産業の電力需要などを考えると、将来にはもっと電力が必要になる。
他方で、強い風が吹けば、1000万キロワットの風力発電設備は、もちろん1000万キロワットの出力を出す。これは北海道では到底使いきれない。
そこで国の計画「広域連携計画のマスタープラン」では、北海道から本州へ600万キロワットの海底送電線を新設するという。既存の北海道と東北の送電線(北本連携線90万キロワット)の7倍の容量だ。
建設現場で見た支柱はやはり中国製
北海道、東北、東京をつなぐ送電線の費用は2.5~3.4兆円と見積もられている。北海道内の送電線増強にも1.1兆円がかかるという。
風力発電の電気が安いならばまだこれだけの費用をかけることは理解できる。だが洋上風力発電の入札価格の上限はキロワット時あたり29円と高い。「誰もが驚く低価格」で落札した三菱商事の最低価格ですら、秋田県由利本荘沖の12円である(そしてこの入札制度は急遽変更され、秋本真利議員の汚職疑惑が起きている)。
風が吹くと風力発電分、火力発電の燃料費は節約できるが、政府の試算では2030年時点の燃料費は石炭火力発電でキロワット時あたり4.3円、液化天然ガス(LNG)発電で6.0円となっている。
これらと、29円ないし12円といった洋上風力の売電価格との差は賦課金(再エネ発電促進賦課金)として電気料金に上乗せされて、ことごとく国民の負担となる。送電線を何兆円も建設するとなると、これもまた国民負担になる。つまり洋上風力発電を導入すればするほど、国民は窮乏する。
この費用は国全体での負担を基本として検討が進められている一方で、北海道では、電気設備工事や、港湾の拡張工事、風力発電設備のメンテナンスなどで雇用が生まれ、それなりに経済にはプラスになるだろう。
ただし、風力発電の本体については、輸入製品、とくに中国からのものが多く、どれだけ北海道経済が潤うのかは疑問である。3枚羽根のブレードも、ギヤボックスなどを納めるゴンドラのような箱であるナセルも、それを支える鉄の支柱も、輸入品が多い。筆者がたまたま石狩湾新港で見た支柱も、米国メーカーの製品であり、製造地は中国だった。
防衛省もレーダー攪乱のリスクを懸念
経済以外の側面では、北海道には多くの負担がかかる。洋上風力の場合、陸上の風車のように、騒音などの問題はないが、景観は損なわれる。鳥が衝突して死亡するバードストライクも起きて生態系への影響が懸念される。
石狩湾の洋上風力の第一陣として14基の風力発電所がこの夏に建設された。1基で8メガワット(=8000キロワット)なので、合計11.2万キロワットである。近くの海水浴場から写真を撮った。工業地帯の沖合にあるので、いまのところそれほど威圧感はない。
石狩湾に建設された14基の洋上風力発電所。中央右の遠景に石狩湾新港火力発電所、右側に陸上の風力発電所も見える。
だが1000基以上もの風車が石狩湾に林立するとなると、その風景はいかばかりだろうか。冬は風雪が厳しく、夏は短いので、海に愛着のある人はそれほど多くないのかもしれないが、嫌な人は嫌だろう。私は海が好きで、神奈川県の湘南海岸を年中眺めて青春時代を送っていた。自分の愛する海岸に風車が林立することは耐えがたい。
風力発電が防衛に悪影響を与えるリスクも心配である。風車があると、レーダーが攪乱されて、ミサイルやドローンなどの敵の発見が遅れ、防衛に支障が出るおそれがある。100キロメートル離れていてもレーダーが攪乱されることがあるという。
見渡す限り風車で埋め尽くしてしまうと、悪影響が甚大になるのではないか。石狩湾は大都市札幌の玄関口にある。札幌のインフラや自衛隊を狙った攻撃を防御できないという事態は避けたい。
防衛省は風車のもたらすこのリスクを認識し、ホームページ「風力発電設備が自衛隊・在日米軍の運用に及ぼす影響及び風力発電関係者の皆様へのお願い」で詳しく説明している。しかし、いかにも日本らしく、事業者に「お願い」するというベースである。これで本当に国を護れるのだろうか。
北海道のための電力供給ならば、風力発電を並べるよりも、北海道内に原子力や火力発電所を確保する方が良い。経済的であるし、必要な面積は小さく、大規模に景観を破壊することもない。本州までの送電線を敷く必要もない。
再エネ利用のために新鋭発電所の能力発揮できず
風車が林立する石狩湾新港発電所を見学した。燃料は液化天然ガス(LNG)であり、発電効率は62%に達するという世界最高レベルの火力発電所だ。
ガス複合発電という方式で、ガスタービンで発電した後、その排気でお湯を沸かして蒸気を作り、蒸気タービンでも発電する。ガスタービンは飛行機のジェットエンジンと構造はおおむね同じだが巨大なものだ。いま1号発電機が稼働していて出力は57万キロワットである。これから2号、3号の建設が予定されていて、2037年までに合計で171万キロワットまで増設される。
だが、せっかく最先端で効率の高い発電所を造ったにもかかわらず、太陽光や風力発電の出力変動に合わせて、低い出力で発電している。筆者が見学している間も、フル出力ではなく、しかも刻々と出力を変動させていた。これでは効率も落ちてしまうし、何よりもよい設備を造ったのにフル稼働させないのはもったいない。
出力を落とすということは燃料の節約にはなるが、それでコストが浮くといっても、太陽光や風力発電のコストが高いので、国民にとっては負担にしかならない。
よく風力発電などの再エネでエネルギー自給率を高めればエネルギー安全保障になるという言説があるが、これは正しくない。たしかに平時であれば、化石燃料の節約にはなる(高コストと引き換えだが)。だがしょせんは火力発電がなければ、変動性の再エネだけで電力供給はできない。電圧も周波数も安定しないからだ。
2018年の北海道胆振東部地震のときの大停電からの復旧も、火力(と水力)発電があったから可能だった。有事になって電力インフラが攻撃を受けるとなると、ますます供給は不安定になる。
すると太陽や風力のような変動性の電源ではなく、火力、水力、原子力のような、安定的に出力できる電源の確保がますます重要になる。泊の原子力207万キロワット、苫東厚真の石炭火力165万キロワットに加えて、石狩湾新港のLNG火力171万キロワットの3つが大需要地の札幌の周りにどっしりと構えていれば、安定供給に大いに貢献するだろう。
代償を払う意義はどこにあるのか
さてLNGは極低温で保管されるので、少しずつ気化してしまう。このため長期の備蓄には向かないと言われているが、工夫の余地はある。気化した分を計画的に使用すればよい。
石狩湾新港発電所で使用するガスを供給するのは、近隣の石狩LNG基地にある、23万キロリットルという日本最大級のタンク2つである。
このタンク2つ合計の46万キロリットルで、今ある石狩湾新港発電所1号機を3.5か月間フル稼働させるだけの容量があるという。発電所が3号機まで建設されると3.5か月分ではなく1.2か月分になるが、それでも通常はLNGの在庫は2週間分しかないと言われるので、それよりはだいぶ長くなる。安全保障上の理由があれば、さらにタンクを増設し、もっと長期間の備蓄をすることもできそうだ。
北海道の経済にもいくらかはお金が落ちるかもしれないが、結局、洋上風力で大いに得をするのは、発電事業を請け負う企業と、(大半が海外の)風車部品メーカーだけだ。
国民にとっては、メリットはCO2を減らすということのみであり、デメリットとしては、経済負担は莫大になり、景観が損なわれる。いったいこの代償を払う意義はあるのだろうか。
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