洋上風力発電と漁業 海外と日本の経験

Offshore wind farms and fisheries
”洋上風力発電と民主主義”

洋上風力発電と漁業 海外の経験#51 米国 漁業界 エネルギー管理当局が耳を傾けない

2023-08-26 20:51:36 | 日記

 

2023年08月25日

北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二

[洋上風力発電と漁業 海外の経験#51 米国 漁業界 エネルギー管理当局が耳を傾けない]

“望むだけ会議を開催することと実際に漁業界の意見に耳を傾けることは別だ”

日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。

米国海洋エネルギー管理局(BOEM)は、先週(2023年8月13日からの週)、洋上風力発電開発の候補として太平洋岸北西部オレゴン州のブルッキングスとクースベイの沿岸沖合を指定する提案を発表した。

この地域は開発に最適な場所であり、安定した強い風が吹いており、完全に稼働すると最大 2.6 ギガワットの電力を生成する可能性があるとされている。

これらの地域は、主要な漁場への基地であるばかりでなく、先住民族にとって重要な場所でもある。

ニューポートに本拠を置く、トロール漁業協同組合(Midwater Trawlers Cooperative)常務ヘザー・マンは、多くの利害関係者の懸念が無視されているように感じると述べ、この地域で32隻の漁船が操業をおこなっており、漁場を失うばかりでなく、予期せぬ環境への影響も懸念していると語った。

昨年2021年、バイデン政権は米国の洋上風力エネルギーについて高い目標を設定、2030年までに30ギガワットの電力生成を目指す方針を示した。

化石燃料からの移行を提唱する非営利団体“リニューアブル・ノースウェスト”のオレゴン州代表ダイアン・ブラントも洋上風力発電プロジェクトには、対処しなければならない独特の欠点があり、それは、やはり、漁業界や地域社会が抱いている『私たちの声は届いているのだろうか?』といった懸念や疑問だと指摘している。

ヘザー・マンは、米国政府からは、最も大きな影響を受ける可能性のある人々の懸念に耳を傾けることよりも、バイデン政権のエネルギー目標を達成することに関心があるように感じると語り、BOEMが興味を持っているのは、沿岸沖合区画をリースする競売を進め、政権の目標にチェック・マークを入れることができるようにすることだと言及した。

また、ヘザー・マンは、BOEMが、漁業界と地域社会が望むだけ、多くの会議を開催すると表明しているが、会議を開催することと実際に漁業界の意見に耳を傾けることは別のことだと言及、それは一方通行の関係で、本物のエンゲージメントではないとした上で、漁業界は取り返しのつかない道を歩むことになるのではないかと危惧しているのであって、洋上風力発電プロジェクトを否定したことは一度もなく、正しい、責任ある方法を求めているだけだと加えた。

ヘザー・マンは紛争の少ない沿岸沖合区画を探すためにオレゴン州沿岸沖合海域全体を再調査することを主張しており、そうしなければプロセスのスケジュールが大幅に遅れる可能性がある。

 

 

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洋上風力発電と漁業 海外の経験と日本政府の新たな方針 水産振興ONLINE 2023年06月

2023-08-26 13:40:57 | 日記

水産振興ONLINE | 一般財団法人 東京水産振興会様から転載

水産振興コラム 2023年6月 進む温暖化と水産業

https://lib.suisan-shinkou.or.jp/_review/column/ondanka/vol03.html

第3回 洋上風力発電と漁業 海外の経験と日本政府の新たな方針 

原口聖二 北海道機船漁業協同組合連合会 常務理事

私は、北海道機船漁業協同組合連合会という道内の沖合底びき網漁船と呼ばれる160㌧クラスの漁船33隻で行われている漁業の総括的組織で勤務していますが、漁業に関わるものとして洋上風力発電の動向には一定の関心を持ってきたつもりです。この中にあって、近年の洋上風力発電への開発事業者の取り組みの進捗は、私の予想をこえており、地方自治体の前傾姿勢がこれを加速させているようです。

当該沿岸沖合の既存の経済的利用者となる“漁業者への配慮”、“十分な説明”、“共存共栄”等のフレーズに加え、魚礁効果等、日本における報道では、先進地とされる欧米での成功体験が並んでいますが、これらは、一様に開発事業者の発信によるものばかりとなっています。そこで重い腰を上げ、私は2022年の秋頃から、洋上風力発電と漁業に関する、欧米の漁業分野の業界紙等へアクセスし“洋上風力発電と漁業 海外の経験”(http://blog.goo.ne.jp/yojofuryoku)というタイトルのブログを始めました。その結果、英国、アイルランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、フランス、オランダ、そして米国等でのプロセスは、必ずしも成功しているとは言い難く、日本にはこれまで伝わってこなかった、様々な影響と問題提起が存在していることが分かりました。

欧米の漁業界が指摘1)2)しているのは、風力発電所の建設中の杭打ちの現場近くで工事により様々な衝撃を受けて死んだり、発生する衝撃音で建設が完了した後もしばらくの間、当該地域を資源生物が避け続けること、杭打ち衝撃音や稼働中のタービンの騒音が、タラ等の産卵行動中のコミュニケーションなど生物学的に重要な行動が阻害される可能性があること、更には、商業的に価値の高い様々な魚種が、送電施設によって形成される電磁場にさらされ、通常の行動能力を失い捕食される機会が増大することが危惧されること等です。

また、米国漁業界3)は、政府が政治的利益を、第3者団体が寄付金を、そしてエネルギー会社が耐用年数の短い大規模な洋上風力発電で巨額の利益を、それぞれ求め、勝手に行動していると批判し、不信感をあらわにして、複数件の訴訟も起こっています。

ノルウェー業界4)は、洋上風力発電プロジェクトの候補地選定のプロセスが政治的圧力と無責任な地方自治体の決定に基づいていると批判しています。

ヨーロッパの北部漁業者同盟5)は、天然資源をどのように最大限に利用できるかについて、真の対話が必要であり、それは、伝統的な海の利用者の声を平等に尊重するためのものだとして、各国政府に対し、食料安全保障の考慮と海洋環境の健全性等を求めるための行動の開始を決議しました。

これら各国の漁業者が共通に指摘しているのは、“当該沿岸沖合を独占利用しようなどとは全く考えていない”“自らが知らない間に選定地が決まり唐突に説明会が始まる”“漁業当局に十分なヒアリングを行うことなく他の部局が主導する地方自治体の前傾姿勢による拙速な取り組み”そして“事業開発者が漁業分野の科学的知見を理解しようとしない姿勢を感じている”この4点です。

カーボンニュートラルを目指すエネルギーの開発に異論を唱える人は漁業者も含め少ないと思います。

ではなぜ、世界中の漁業者が、共存共栄こそが歩むべき道と理解しながらも、多くのネガティヴな指摘をするのでしょうか。これは、やはりプロセスにおいて、“漁業分野の科学的勧告が担保されるのか”、“これが置き去りにされている”と、大きな不安を感じているからだと思います。我々漁業界がこれまで長い時間、科学研究機関と交流し、資源の保全管理と合理的利用を行ってきたことに対する理解を求めることが必要であり、共存共栄のための相互理解がそのプロセスにとって重要だと思います。

日本政府は、2023年2月、洋上風力発電の建設場所をEEZまで拡大するための、法整備を検討していく方針を示しました。我々の沖合底びき網漁業は、駆け廻し漁法とオッター・トロール漁法で、沿岸側で操業が禁止されているラインの外側(沖側)で操業を行っています。

これは、沿岸漁業との棲み分け調整に加え、文字通り洋上を“駆け廻り”、沖合底びき網漁業が広範な海域を利用することを特徴としているためです。また同時に、利用する底魚資源の漁場形成も一定ではなく広範にわたっている実態があります。

仮に洋上風力発電プロジェクトが沖合底びき網漁業の利用海域の一部を求めた時、我々の操業に魚礁効果はほぼ無縁であり、建造物を縫って操業することもできず、動力を失った時の衝突リスク等、おおよそメリットは想定できず、海域が競合する場合には、共存共栄とはほど遠い構図になると予想されます。

更に、問題点は、当該海域における操業機会の喪失ばかりではなく、回遊する資源の再生産等への重大な影響が存在していることです。私どもの漁業基地、北海道でも、先の統一地方選挙において鈴木直道知事が洋上風力発電の導入促進を公約に掲げ再選を果たしました。経済産業省と国土交通省は、洋上風力発電に関するセントラル方式の一環として、2023年度に実施を予定する調査対象区域を、都道府県からの情報提供と第三者委員会における意見を踏まえ、北海道日本海側の“岩宇(がんう)・南後志(みなみしりべし)地区沖”、“島牧(しままき)沖”、そして“檜山(ひやま)沖”の3区域を初めて選定したと発表しています。

我々、北海道の沖合底びき網漁業にとって、最も重要な漁獲対象資源はスケトウダラです。現在、北海道日本海側資源(日本海北部系群)は、低位な資源評価から、世界中のスケトウダラ漁場において資源開発率(漁獲割合)が10%-20%に設定されているにもかかわらず、この漁場のみ5%を切る極めて低い総許容漁獲量設定で資源回復に取り組んでいる最中です。一方で、上述の調査海域には、重要なスケトウダラ資源再生産のための産卵場が含まれています。成魚の資源利用者は、調査海域漁業者ばかりでなく、少なくとも北海道の日本海側全体に及び、広域の多くの漁業者になります。

現時点において、北海道日本海のプロジェクト、その他の沿岸沖合のプロセスの展開に関する詳細な情報に接していませんが、今後この指針に示されたような考え方を踏まえながら、科学研究機関を交えた論議の場と、納得のいく科学的勧告を強く求めていきたいと考えているところです。

これが、洋上風力発電との共存共栄を目的に、海外の経験と日本での新たな方針に関する情報に接した、現在の私の所感です。

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1) 2023年3月、米国の漁業団体らで構成される“責任ある沖合開発連盟”(RODA)、米国海洋大気庁(NOAA)、そして米国内務省海洋エネルギー管理局(BOEM)は、洋上風力発電開発が漁業と海洋環境にもたらす影響について、これまでの情報等の包括的な報告をとりまとめた。

NOAA Technical Memorandum NMFS-NE-291

Fisheries and Offshore Wind Interactions: Synthesis of Science

https://repository.library.noaa.gov/view/noaa/49151

2)2020年11月、ノルウェー海洋研究所は洋上風力発電開発が漁業と海洋環境にもたらす影響について報告書を発表した。

https://www.hi.no/hi/nettrapporter/rapport-fra-havforskningen-2020-42

3) 米国漁業界紙(WEB)“National Fisherman”
https://www.nationalfisherman.com/west-coast-pacific/panelists-say-boem-fishing-industry-still-far-apart-on-offshore-wind
4)ノルウェー漁業者協会“Norges Fiskarlag”サイト

https://www.fiskarlaget.no/nyheter/details/5/3196-stor-bekymring-fra-fiskeri

5)ノルウェー漁業界紙(WEB)“Fiskerforum”

https://fiskerforum.com/fisheries-groups-deliver-warning-on-offshore-wind/

6)海洋水産技術協議会は、2022年6月、「洋上風力発電施設の漁業影響調査実施のために」をとりまとめ、その指針を示している。

http://www.jfsta.or.jp/activity/kaiyousuisan/pdf/offshorewind.pdf

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洋上風力発電と漁業 日本の経験#36 洋上風力発電で漁業者が混乱している 水産振興ONLINE

2023-08-26 12:35:54 | 日記

水産振興ONLINE | 一般財団法人 東京水産振興会様から転載

水産振興コラム 2023年8月 進む温暖化と水産業

第7回 洋上風力発電で漁業者が混乱している
窪川 敏治 ㈲金城水産 代表取締役 / 石川県定置漁業協会 代表監事

「みなさんの隣接する海域が洋上風力発電の計画地に指定されました。つきましては、その後の漁業振興策についてご要望を伺えれば—。」

漁協支所に発電事業者が来て、いきなり地元漁業者にこう言い放ったのは、今から3年前、2020年3月のことだった。それまで、挨拶程度に当時の支所運営委員長や参事のもとは訪れていたようだったが、漁業者にとっては、何をいきなり、である。

『そこを計画地とすることに、事前に漁業者に相談はないのですか。』
 —計画地の策定に関しては行政が行うことです。事業者は、行政が指定した計画地をもとに手を挙げるかたちなので、われわれにそう言われましても。

『県の水産課や県漁協は、まったく知らなかったと言っている。』
 —計画地は県境を跨いで隣県にある。この場合、計画地の指定については制度上、当該県だけで行えてしまう。

いくら隣県といえど、計画地は漁港から9km、私の経営する定置網からは5km程度しか離れていない。漁業への影響が十分に考えられる距離であるのに、事前に何も聞かされていない。再生可能エネルギーの開発については、国のエネルギー事情を考えれば必要なことだと思うが、ここまで近い場合は別問題である。廃業さえも頭をよぎる。

加えて事業者は「洋上風車設置後の設備の2次的な利用で魚の養殖でも」と軽く勧めてきた。冬の日本海がどれだけ時化るかご存知ですか、回遊魚の魚道を塞ぎませんか、地先の海域で他地域の船が操業すると地元漁業者とトラブルになりやすいのをご存知ですか、事業者は海のことをまったく知らないのである。そもそも設備の2次的な利用、代替漁業を事業者が提案するあたり、洋上風車が現在行われている漁業に何かしらの影響を与えるという見立てなのだろう。

計画は隣県が勝手に進めようとしている、別の先行区域もまだまだ設置までは進んでおらず設置後の影響は分からない、どこの誰にどんな意見をすればいいかも分からない、私たち地元漁業者は混乱し、乱暴な話の持って来られ方に、洋上風力発電に対する最初の印象は最悪であった。

正しく理解し、正しく心配し、正しく意見すること

最悪なスタートを切ったが、その後、県の水産課と県漁協の助けも受け、有識者への聞き取りや別の先行区域への視察、意見交換を繰り返し、洋上風力発電への理解を深めていった。

事業者には洋上風車がもたらす魚礁効果についての調査依頼を提出し、水産庁には定置網漁業の洋上風力発電に対する考えを直接訪問して伝え、資源エネルギー庁には利害関係者の特定についての意見書も提出した。

洋上風車がもたらす魚道の変化が心配

海中の構造物として魚の蝟集効果を有するものを設置すると、そこが魚礁化して藻類、卵、稚魚、成魚といった小さな生態系のコロニーができる。縦に大きい構造物であれば湧昇流が発生し、そこはプランクトンが密になる。回遊魚にとっては餌場になるので、一定期間滞留することが確認されている。一見、魚が集まるようになるので漁業にとってもプラスになると思えるが、定置網漁業にとってはそう単純な話ではない。

定置網漁業は、待ちの漁業と言われ、漁場の選択性がない(一度設置した定置網の骨組みをアンカーごと動かすことができない)ため、定置網の前面に構造物が設置されれば、魚道が変化し、逆に魚が減る可能性がある。

(1) 魚礁による回遊魚の転向

定置網漁場における天然礁に関する魚群の行動(金 文官,有元貴文,松下吉樹,井上喜洋:日水誌,59(8), 1337-1342(1993))によると、すでに設置されている三重県の定置網において、来遊したカタクチイワシの行動を調べた結果、定置網の前面にある天然礁によって大半の魚群が転向し、定置網に入らなくなったことが確認された。

天然礁に集まった魚が定置網方向に泳いでくることを期待して
この場所を選んだと思われるが、結果として裏目になっている

洋上風車においても、それまで定置網に向かっていた魚群が魚礁化されたそこの環境で転向し、漁獲量が大きく減少する可能性がある。

(2) 構造物による回遊魚の分散

逆説的な説明となるが、石川県の定置網において、前面の別の定置網が廃業したことで、漁獲量がそれまでに比べて足し算になると予測していたところ、実際にはその2~3倍の漁獲が定常的に入るようになった事例がある。現場漁業者は「前面の定置網があった頃はそこで魚が散っていたのではないか」と分析する。

洋上風車においても、回遊魚がそれを障害物と認識して回避することで魚群が分散し、本来やってくるはずの魚群がずっと小さくなる可能性がある。

隣県の協議会に入れてもらえるのか心配

経産省と国交省が定めたガイドラインでは「関係漁業団体を含む協議会において、(中略)漁業への支障の有無を確認し、漁業に支障があると見込まれる場合には、促進区域の指定は行わない。」とあるが、それは協議会へ参加して意見を言えてこそのこと。利害関係者の特定について法律やガイドラインでは明確な基準が示されていない上、協議会が設置されるのはこちらに相談無く計画地を指定した隣県。となれば計画を円滑に進めるために協議会に私たちが呼ばれず、懸念事項を正式に表明する機会を逸する恐れがある。

—— 何としてでも協議会に入らなければ。

そこで当時、別の先行区域が7か所あり、各協議会の漁業関係の参加者を抽出することで、先行事例を踏襲する形なら、当該県外でも利害関係者になり得る根拠となると考えた。結果、計画地から少なくとも10kmの範囲内については、どの先行区域においても漁業者の利害関係を認めていることが分かり、私たちも利害関係者に該当することを資源エネルギー庁に意見書として提出した。

協議会では魚道の変化が起こらないであろう構造、設置を求める

1年以上に渡って熱を込めてこの問題に取り組んだ結果、今後何を求めていけば良いか整理でき、協議会に入れる合理的な理由も見つけられたので、当初の混乱は落ち着いた。

震災と原子力発電、地球温暖化と火力発電、電気料金の高騰など、今の日本のエネルギー事情を考えると、再生可能エネルギーの開発については、漁業者としても協力していかなければならない。一方、漁業は漁業で、新鮮で安全な食物を国民に提供する使命がある。

そこで、この定置網に隣接する海域であっても洋上風力発電の設置を検討するのであれば、次のことを協議会で求めていくつもりである。

  • 1.間隔を相当程度空けたり、1列配列にしたり、魚道の変化が起きない風車の配置にすること。
  • 2.魚道の変化が起きないために、風車の海中部分を魚礁化しない構造にすること。
  • 3.魚道の変化が起きないために、湧昇流の発生をできるだけ抑えた構造にすること。
  • 4.魚道の変化が起きないためには、魚に風車の支柱を視認させるのが良いのか、視認できないのが良いのかを検証し、風車の海中部分はそれを反映した色に塗装すること。
  • 5.1.~4.の各項目については、科学的な分析をもとにすること。
  • 6.プランクトンには正の走光性があり、そのプランクトンを捕食するために結果として魚(特にイカ)は光に集まる。風車の航空障害灯は下部を照らさないようにすること。
  • 7.各項目で求めていることは、現状、科学的な分析が進んでいない部分も多く、参考となる文献等も少ない。研究を重ねて最善を期すことはもちろんであるが、予測外の結果となることも想定し、設置後に検証ができるよう、カメラやソナー等を用いて効果測定を逐一行っていくこと。

要は、定置網漁業においては、その付近に洋上風車を設置するなら、魚が素通りさえしてくれればそれで十分ということである。ただ、海のことに詳しくないエネルギー側に「魚を素通りさせて」という結果だけを求めても何を考えてどうすれば良いか困るだろうから、科学的根拠や海で生きる者としての経験則を添えて、設置に向けた機能的な議論が進められるように、要求事項を事細かに列挙する必要があると考えた。風車と風車の間に網を張って、魚道を塞ぐように養殖用の生け簀をつくるなんてのは論外である。

漁業への支障の判断基準を明確にするつもりはないか、
改めて国に質問した

漁業者が初動で混乱する原因の一つとして、漁業への支障の内容や利害関係者の範囲が、法律やガイドランにおいて、ぼんやりとしか書かれていないことが挙げられる。そこで、再エネ海域利用法が施行されてから洋上風力発電と漁業の共生がずっと課題となって4年が過ぎた本年3月、漁業への支障の内容について、改めて次の質問を水産庁に投げかけた。

問.漁業への支障の有無を示すのは漁業者か、事業者か。そこに科学的根拠は必要か。科学的根拠が乏しく支障の有無が見込みでしか判断できない場合、計画は進むのか、止まるのか。回答(抜粋)
協議会で判断される。

問.漁業の操業に対する支障の、操業とは具体的に何を指すのか。航路、漁場といった直接的なものだけか。魚道、水中音、振動、濁り等、とにかく漁獲量の減少が考えられる場合はすべて当てはまるのか。回答(抜粋)
地域ごと、関係自治体や漁業団体での議論を経て決定される。

相変わらずぼんやりである。なお、利害関係者の範囲については、海はつながっているので具体的な線引きなどできるはずもなく、質問したところでぼんやり返されるのが自明なので質問すらしていない。

支障や範囲の判断基準を明確にしないのは、
むしろ漁業者への最大の配慮なのでは

判断基準を示さないのは、一見、いろいろなことを排除しようとしているように思うかもしれないが、先行区域を見る限り、逆に何でも取り上げて、すべて議論の対象にしているように思える。しかも後から新たな懸案事項が見つかった場合でも、利害関係者から漏れていようが、協議会が進んでいようが、合理的な意見が上がれば計画の進行が止まっている。これはエネルギー側が、対象海域の先行利用者である漁業者を最大限尊重している結果であろう。

逆に判断基準を明確にするということは、それに該当しないものは切り捨てるということになり、却って漁業者のためにならない。4年経過した今でも、質問書の回答の通り、国のその姿勢は変わっておらず、設置有りきで乱暴に加速していく姿勢は見られないので、漁業者はどの段階であっても、あきらめずに意見すれば良いと思う。

漁業者は科学的で合理的な意見を出すべきだが、
それがあまり得意ではない

本年6月に水産庁が実施した、漁協関係者向けの洋上風力発電の勉強会を視聴したが、4年経っても漁業側の対応力は一向に成長していないと感じた。漁業者は現状、計画地ごとに分断されており、先行区域での対応内容が情報共有されないために、新しい計画地が挙がる度に漁業者は混乱を繰り返している。

国のエネルギー事情を考えると、再生可能エネルギーの普及をさらに加速させないとならないのであって、漁業者は初動で混乱している場合ではない。そこで、国は議論の加速のために、先行区域における漁業者の対応事例をどんどん公表していくことを、このコラムの最後に提案する。協議会の議事録にある形式的で表面的なものではなく、前段階のヒアリングや、それこそこのコラム前半で私が書いたような核心的なもの、またいくつかの計画地では漁業者が混乱しつつも国に意見書を出したと聞いている。そういった中から、後発区域の漁業者が自身の海域にも当てはまるものを探し出せれば、漁業者は初めから頭が整理された状態で議論に参加できるようになる。

漁業者が足を引っ張るから洋上風車が建たない、と思われることは正直迷惑であって、機能的に協議を進めるための “仕掛け” を国は工夫すべきである。

 

プロフィール

窪川 敏治(くぼかわ としはる)様

窪川 敏治

1980年生まれ、漁業とは無縁な東京育ち。東京海洋大学資源管理学科卒。学生時代含め中学受験の塾講師を12年務め、2011年に石川県に移住転職。大型定置網漁業の㈲金城水産 代表取締役、石川県定置漁業協会 代表監事、石川県漁協加賀支所 地区総代、㈱船舶職員養成協会北陸信越 教員。水産庁・「漁業の働き方改革」実現に向けた調査事業検討委員会 委員(2018)、同・資源管理手法検討部会サワラ日本海・東シナ海系群 参考人(2023)。岩手大学(資源経済)および京都大学(資源解析)の研究協力も行う。

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洋上風力発電と漁業 海外の経験#50 豪州 漁業界 政府提案は水産物消費者に壊滅的影響を与える

2023-08-21 02:06:25 | 日記

 

2023年08月20日

北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二

[洋上風力発電と漁業 海外の経験#50 豪州 漁業界 政府提案は水産物消費者に壊滅的影響を与える]

日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。

オーストラリアのニューサウスウェールズ州の漁業界は、ハンターとイラワラの沿岸沖合に洋上風力発電所を建設するという連邦政府の提案を強く非難している。

ニューサウスウェールズ州漁業者協会代表トリシア・ビーティは、連邦政府が検討している提案は馬鹿げており、絶滅危惧種の保護、自国の商業漁業者や水産物消費者に壊滅的な影響を与えるだろうと述べた。

気候変動・エネルギー大臣が、ハンターとイラワラの沿岸沖合を海洋再生可能エネルギープロジェクトのための地域とすると提案、雇用の安定とエネルギー安全保障という政府の意図を説明しているが、これらには海洋環境に重大な悪影響を与えるという深刻な懸念と証拠があるとトリシア・ビーティは言及した。

洋上風力発電プロジェクトは比較的新しいため、影響についてはつい最近まであまり知られていなかったが、現在、進行中の研究により、海洋生物、植物プランクトン、海流、さらに水温にまで影響を及ぼし、深刻な懸念すべき状況に至ることが分かってきていると語った。

洋上風力発電所の建設中の杭打ちの現場近くで魚類が打撲で死んだり、発生する衝撃音で建設が完了した後もしばらくの間、当該地域を資源が避け続けること、杭打ち衝撃音、稼働中のタービンの騒音が、魚類の産卵行動中のコミュニケーションなど生物学的に重要な手がかりをかき消す可能性があること、更には、商業的に価値の高い様々な魚種が、送電施設によって形成される電磁場にさらされ、通常の行動能力を失い捕食される機会が増大することが危惧されること等が既に報告されている。

トリシア・ビーティは提案されている洋上風力発電プロジェクトが、ニューサウスウェールズ州の商業漁業者に大きな影響を与え、同州ばかりでなくオーストラリア全土の水産物供給、食料安全保障を奪い、海上交通を危険に晒すことになると述べ、先月(2023年7月)にも、コストの高騰とプロジェクトの性質を理由に、英国での開発を中止したスウェーデンの*“ヴァッテンフォール”(Vattenfall)社の件を例示して、これらの追求をやめ、より実行可能で生産的な代替案に目を向けるべきだとして、提案を断固拒否すると語った。

*報告担当者 原口聖二:“ヴァッテンフォール”社は、2023年7月、英国イングランド東部ノーフォーク州沿岸沖合“ボレアス”洋上風力発電プロジェクトの開発を中止すると発表した。

これらの背景には、原材料の鉄鋼、風力タービン自体に加え、タービンを取り付ける特殊な船舶費用など、あらゆるものの価格の急激な上昇と、融資条件のコスト上昇が存在している。

2020年年代後半に発電を開始する予定だったこの1.4ギガワット(GW)プロジェクトは、気候変動目標の達成とエネルギー安全保障の強化を目的として、洋上風力発電容量を現在の約14GWから2030年までに50GWに拡大するという英国最大の計画の一つだった。

“ヴァッテンフォール”社代表アンナ・ボルグは、全体のコストが約40%増加しており、このプロジェクトを続けることはまったく意味がないと語った。

脱炭素ビジネス・コンサルタント会社は、この件が、英国の洋上風力発電産業全体にとって“真の危機”の始まりとなる可能性があると警告している。

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洋上風力発電と漁業 海外の経験#49 米国 魚と漁業者を台無しにする 欧州の経験から学ぶべき

2023-08-18 15:59:47 | 日記

 

2023年08月18日

北海道機船漁業協同組合連合会内 一般社団法人北洋開発協会 原口聖二

[洋上風力発電と漁業 海外の経験#49 米国 魚と漁業者を台無しにする 欧州の経験から学ぶべき]

日本での先行する欧米の洋上風力発電の漁業分野との共栄、相乗効果等の成功体験は、ほとんどが開発事業者による切り抜き発信で、実際に漁業分野の情報にアクセスしていくと様々な問題が報告されている。

米国海洋大気庁(NOAA)高度回遊性魚種諮問委員デヴィッド・シャリット(米国クロマグロ協会会長)は、米国政府が洋上風力発電の開発を急ぐあまり、魚と漁業者を台無しにしていると言及し、同国が、この分野で数十年先行している欧州の経験から学ぶべきだと指摘している。

欧州初の洋上風力発電所は32 年前に建設され、それ以来、116 施設となった。

欧州の洋上風力発電が海洋環境に及ぼす影響への取り組みは極めて遅かったが、ここ10年間で、これを取り返しつつある。

近年、欧州の科学者たちは、洋上風力発電プロジェクトによる海洋生態系の変化を認定するためのさまざまな方法を開発、これらを採用している。

調査は、ストレス因子となるタービン、音響、電磁場などの物理的存在と動的影響、表層魚と底魚の生息地、食物連鎖などを評価するように設計されており、多くの場合、将来の洋上風力発電所建設エリアをグリッドで系統的に調査し、その境界を越えてある程度の範囲まで拡大して行われている。

そうすることで、洋上風力発電プロジェクトの稼働後に再調査されたときに得られるデータと比較するために非常に重要な基準線が確立されることになる。

海洋生態系に対する洋上風力発電プロジェクトの短期、中期、長期的な影響を定量化することは、常識となりつつある。

これを現在の米国のアプローチと比較した時、まったく及ばないものとなっている。

米国のすべての洋上風力発電プロジェクトを管理する海洋エネルギー管理局(BOEM)は、建設前に調査を義務付ける計画はないと繰り返し述べている。

米国政府は、洋上風力発電プロジェクトが魚や漁業者に及ぼす潜在的な影響への備えを怠っており、非常に不確実な結果を受け入れることを好み、洋上風力発電開発の重要な生物学的、生態学的、社会経済的影響を無視している。

大規模な洋上風力発電と海洋生態系は根本的に相容れないという事実を認識する必要がある。

米国東部沿岸沖合のいくつかの洋上風力発電プロジェクトではすでに建設が始まっている。

これらのプロジェクトの一部は、およそ2028年までに稼働する予定となっており、すでに一部の開発事業者は、漁業者の生計に与える悪影響を相殺するための将来の補償について、BOEMと予備的な協議を行っている。開発事業者は、補償を可能な限り低く抑えるために全力を尽くすことに間違いはない。

漁業者は自分たちの主張を裏付けるデータの提供を求められるだろうが、現状を見た時、必要なデータは得ることが出来ないと予想される。

海洋生態系に対する洋上風力の影響を定量化するための基準となるデータが存在しない場合、魚と漁業者、そして実際には国家が不利益を被ることに帰着することになる。

NOAA、BOEM、そして全ての洋上風力発電開発事業者が基準となるデータの必要性を認識していることは明らかで、2020年に“オーシャノグラフィ”(Oceanography)に発表されNOAAが配布したリポート“洋上風力発電が魚や漁業に及ぼす影響の背景の設定”でも、最も適切な証拠を入手するには、データ・ベース設定の改善が決定的に必要だと指摘している。

しかし、BOEMは、このデータ・ベースの改善を確立する代わりに、NOAAから得た既存のデータを使用して、風力発電開発プロジェクトの区域を決定している。

BOEMが使用しているデータは、資源評価や漁業管理に使用するために開発されたもので、意図された目的にはまったく適していない。

主要な漁業法であるマグナソン・スティーブンス法は、魚やその生息地へ有害な影響を与える漁具の使用、浚渫やエネルギー開発などの非漁業活動を禁止している。

この法の保全目標は、潜在的な悪影響から海洋環境を保護するという、より広範な目標と一致している。

洋上風力発電プロジェクトのプラスとマイナスの両方の影響を正確に定量化するために不可欠な、海洋生態系に関するデータが、現在、絶望的に欠如しているということは、科学的不確実性の最小限の閾値をはるかに超えていることを意味しており、これらを満たすデータ・ベースを確立することで、はじめて海洋生態系に対する影響を理解することができ、まだリースされていない沿岸沖合区域に関する将来の意思決定を可能にするのである。

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