第9点 運行記録計
原判決の,第3争点に対する判断,2争点(1),(4)運行記録計について(判
決書20~21頁)の下記部分の不服。「前記1(2)の事実に別件訴訟における
小野寺証言(甲22)及び本件実況見分調書(甲42)を総合すれば,本件事
故の実況見分が,小野寺立会の下で,現場の模様や,控訴人車と本件大型トラ
ックの距離,位置関係を記録,計測したものであり,それ自体適切に行われた
ものであることが認められ,上記実況見分の実施について違法性をうかがわせ
る資料は存在しない。そうすると,このような本件実況見分の結果をまとめた
本件実況見分調書も,適法に作成されたものというべきである。確かに本件実
況見分調書に運行記録計の記録紙が添付されていないことが認められる(甲4
2)が,上記の事実が直ちに同調書の作成の適法性を否定する根拠にはならな
いものである。したがって,本件実況見分調書に運行記録計の記録紙が添付さ
れていないことをもって同調書の適法性を否定する控訴人の主張は採用できな
い。」
1 控訴人は,別件訴訟控訴審第1回口頭弁論期日に,準備書面(1)を陳述し,
運行記録計について下記のとおり主張した。「73式大型トラックの保安基準
は,自衛隊の使用する自動車に関する訓令第10条により別冊1で定められて
いる。別冊1の項目45で運行記録計を備えることになっている。この記録計
は,24時間以上の継続時間内における当該自動車について,すべての時刻に
おける瞬間速度とすべての2時刻間における走行距離を自動的に記録できる構
造である。運行記録計を備えなければならないこととされている自動車の使用
者は、運行記録計により記録された当該自動車に係る記録を、内閣府令で定め
るところにより一年間保存しなければならない。(道路交通法第63条の2)
航空機事故の調査にフライトレコーダー(飛行記録装置)の解析が欠かせな
いのと同じく,本件交通事故の調査には当該運行記録計のチャート(記録紙)
の解析が事故の真相解明に必要である。たとえば,本件で当事者間に争いがあ
38/70頁
る,本件事故現場に進入時の速力,草地に移動したかどうか,事故現場を離れ
た時間なども記録紙から読み取れる。然るに国は当該記録紙を提出せず,その
存在すら言及していない。
2 大型トラックが人身事故を起こした場合,通常,捜査を行う司法警察職員は
第一に運行記録計の記録紙の任意提出を求め領置し,所有権を任意に放棄させ,
実況見分調書に証拠として添付するのが捜査の基本である。
3 本件事故の場合,運行記録計の記録紙が添付されていない実況見分調書等の
資料は適法に作成されているとはいえない。」
4 原判決は,「本件実況見分調書は,適法に作成された」から「本件実況見分
調書に運行記録計の記録紙が添付されていないことをもって同調書の適法性を
否定する控訴人の主張は採用できない。」と判示する。
控訴人の主張は,「本件実況見分調書に運行記録計の記録紙が添付されてい
ないこと」も「上記実況見分の実施について違法性をうかがわせる」というの
である。原判決の論理は理解できない。
5 大型トラックの事故を防止するために,国が法令で設置を定め,国民が多額
の設置費用を負担して設置している運行記録計の記録紙で,かつ本件事故解明
の最重要な証拠を隠蔽する警察や浅香らの行為は,著しく正義に反する。
6 裁判所は,証拠が偏在している本件の場合,事案解明・審理の充実・促進化
と公平な審理を実質化するため釈明権を行使する義務がある。同記録紙が提出
されれば,本件で当事者間に争いがある本件事故現場に進入時の速力,草地に
移動したかどうか,事故現場を離れた時間なども記録紙から読み取れるから裁
判の結果が重大な変更をうける。
7 原判決は,運行記録計設置の意義を理解せず,同記録紙を隠蔽した行為を容
認するもので,著しく正義に反する。
第10点 自衛隊の実況見分調書
原判決の,第3争点に対する判断,3争点(2)浅香らが,自衛隊の実況見分調
39/70頁
書等を隠蔽したか,(1)(2)(判決書21~22頁)の下記部分の不服。「浅香
らは,自衛隊が本件事故直後に作成した実況見分調書等を隠蔽したと主張する
ので検討する。(1)前記1(1)の認定事実によれば,本件事故は控訴人の過失に
基づく結果であり,小野寺には何ら過失のないことが認められる。ところで,
「自衛隊と警察との犯罪捜査に関する協定」(乙1の1)を受けて作成された
「自衛隊と警察との犯罪捜査に関する協定の運用に関する了解事項」(乙1の
2)によれば,道路交通法に定める車両の交通に関する犯罪の捜査は,人の死
傷又は物の損壊を伴うものにあっては,自衛隊の隊員が犯したものであり,か
つ,被害者が自衛隊の隊員である場合又は被害物件が自衛隊の所有し,若しく
は使用する物件である場合においては,警務官が分担し,その外の場合におい
ては,すべて警察官が分担することとされている。これに基づいて検討すると,
本件事故は,非自衛隊員の控訴人のみが負傷者となっているから,上記了解事
項に照らして,本件事故の捜査は警察官が行うものと認められ,その他一件記
録を精査しても,本件事故直後に自衛隊が自ら実況見分を行ったことを示唆す
るに足りる証拠は,これを見いだすことができない。したがって,自衛隊自ら
が本件事故の実況見分を行った事実はなく,自衛隊作成の実況見分調書の存在
を前提に浅香らの違法をいう控訴人の主張は採用することができない。(2) な
お,控訴人は,「陸上自衛隊損害賠償実施規則」(甲28)中に,大要「自衛隊
員が,職務執行中に他人に損害を与えた場合には,速やかに所属の部隊等の長
に報告するものとすること,報告を受けた部隊等の長は,直ちに当該駐屯他業
務隊等の長に賠償事故発生の概要及び処置した事項等について通知するものと
すること,当該駐屯他業務隊等の長は,所要の発生報告書及び事故現場見取図
を作成し,方面総監に報告する。この場合において,陸上自衛隊に賠償責任が
ないと思料される事故であっても現実に損害が発生し,かつ,将来賠償請求の
可能性のある事故等について報告漏れのないよう特に留意するものとする。」旨
の規定があることを根拠に,自衛隊作成の本件事故の「発生報告書」「実況見
40/70頁
分調書」が存在することを主張する。しかし,前記1(3)アの認定事実に照ら
せば,本件事故直後に現場写真を撮影した赤埴らは,本件事故現場の自衛隊車
進行車線内に控訴人車のタイヤ痕が残っていたことを認識していたものと認め
られる。そうすると,本件事故につき,小野寺には過失がなく,自衛隊が事故
発生報告書等を作成するまでの必要がないとした陸上自衛隊北熊本駐屯他業務
隊長の判断は,上記事故現場の状況に照らして不合理なものではないといえる
から,控訴人の主張は採用できない。」
1 「浅香らは,自衛隊が本件事故直後に作成した実況見分調書等を隠蔽したと
主張するので検討する。」の部分。浅香らは,自衛隊が本件事故直後に作成し
た実況見分調書等を隠蔽したと認識していたが,主張はしていない。
2 控訴人は,本件事故の捜査は警察官が分担することは最初から認めている。
しかし,警務官(自衛隊)が本件事故の捜査をしてはいけないとか,捜査をし
なくてもいいとかということではない。
3 自衛隊の規則(甲28)よれば,隊員が自己の職務遂行中に他人に損害を与
えた場合を賠償事故の発生とし,賠償責任の有無に関係なく,順序を経て必要
な処置・事故の調査報告が行なわれる。
4 賠償事故発生の通知を受けた駐屯地業務隊も独自に現場検証(実況見分)等
を行い,業務隊防衛事務官が,実況見分調書・事故現場見取図・事故情況等写
真・供述書・運転免許証写し・自動車車検証写し・根拠命令等写し・車両運行
指令書を作成し業務隊長に提出する(甲31)。
5 業務隊長は,発生報告書(法定1号)を作成し,方面総監に報告する。この
場合において,陸上自衛隊に賠償責任がないものと思料される事故であっても
現実に損害が発生し,かつ,将来賠償責任の可能性のある事故・・・について
の報告漏れのないように特に留意する(甲28)。
6 被控訴人のいう警務隊は,警務隊組織及び運用に関する訓令(陸上自衛隊訓
令61)に定める警務隊で,控訴人のいう警務隊は,北熊本駐屯地の第8師団
41/70頁
司令部付隊(業務隊)隷下の保安警務隊をいうが,一般人にとってはいずれも
自衛隊の警務隊であり,警務隊員を警務官と呼ぶ場合もありうる(甲58)。
7 控訴人は,文書提出命令の申立書の文書の趣旨で,本件事故について陸上自
衛隊損害賠償実施規則に基づいて,北熊本駐屯地業務隊が作成し,西部方面総
監に報告された文書と特定している。
8 被控訴人は,「北熊本駐屯地業務隊長は,賠償事故に伴うことに関し,小野
寺(国)には過失がないと判断したものであり,同隊長が小野寺に過失がない
と決定したものではない。」と陳述している。このことからも,同隊長が過失
の有無を判断する材料としての,自衛隊が作成した資料が存在したことは明ら
かである。(小野寺に過失がないと決定したのは,第8師団司令部法務官室で
あり,業務隊長には責任がないということなどはここでは意味がない。)
9 原判決は,「本件事故直後に自衛隊が自ら実況見分を行ったことを示唆する
に足りる証拠は,これを見いだすことができない。」と判示するが,本件事故
現場に,事故10分後の午前11時5分ころから,午前11時50分に現場に
到着した早水巡査長が小国署員からの捜査の引継ぎを終える時間までは,複数
の警務隊員及び近松3佐(師団司令部付隊長)が現場にいて,事故現場保存,
捜査・実況見分,現場写真撮影など行なったことは証拠上明らかである(上記,
控訴理由第5点 本件事故処理の経緯)。
10 陸上自衛隊損害賠償実施規則(甲28)は,「隊員が,自己の職務遂行中に他
人に損害を与えた場合の処理」のマニュアルで,高卒程度の国語力で十分理解
できるよう書かれている。同規則は,賠償責任の有無に関係なく,事故発生報
告書等を作成するよう念を押している。小野寺の過失の有無と事故発生報告書
作成必要性とは無関係である。常識的に考えても,無責を主張する場合にこそ,
無責を証明するために,より事故情況等写真,実況見分調書等が必要である。
11 原判決の,「小野寺には過失がなく,事故発生報告書等を作成する必要がな
いとした自衛隊の判断は,不合理なものではないといえる」との判示は,上記
42/70頁
規則(甲28)を曲解した,不合理なものである。
12 原判決は,「前記1(3)アの認定事実に照らせば,本件事故直後に現場写
真を撮影した赤埴らは,本件事故現場の自衛隊車進行車線内に控訴人車のタイ
ヤ痕が残っていたことを認識していたものと認められる。そうすると,本件事
故につき,小野寺には過失がなく,自衛隊が事故発生報告書等を作成するまで
の必要がないとした陸上自衛隊北熊本駐屯他業務隊長の判断は,上記事故現場
の状況に照らして不合理なものではないといえるから,控訴人の主張は採用で
きない」と判示した。
13 本件事故直後に現場写真を撮影した赤埴は,第8師団の広報班で写真撮影を
していた陸曹長である(甲22の13頁)。赤埴らが本件事故現場の自衛隊車
進行車線内に控訴人車のタイヤ痕が残っていたことを認識していた証拠はなく,
もともと小野寺の過失の有無の認定には,本件の場合,赤埴らの認識の有無は
意味がない。
14 原判決の事実認定は,判断過程が非常識,もしくは論理的に飛躍していて,
通常人の常識ではまったく理解も納得もできない。
・・・
{原審 横浜地裁 平成17年(ワ)第2710号 判決}
民事第9部 裁判長裁判官 土屋文昭 裁判官 一木文智 裁判官 吉岡あゆみ
http://blog.goo.ne.jp/yaruka/
原判決の,第3争点に対する判断,2争点(1),(4)運行記録計について(判
決書20~21頁)の下記部分の不服。「前記1(2)の事実に別件訴訟における
小野寺証言(甲22)及び本件実況見分調書(甲42)を総合すれば,本件事
故の実況見分が,小野寺立会の下で,現場の模様や,控訴人車と本件大型トラ
ックの距離,位置関係を記録,計測したものであり,それ自体適切に行われた
ものであることが認められ,上記実況見分の実施について違法性をうかがわせ
る資料は存在しない。そうすると,このような本件実況見分の結果をまとめた
本件実況見分調書も,適法に作成されたものというべきである。確かに本件実
況見分調書に運行記録計の記録紙が添付されていないことが認められる(甲4
2)が,上記の事実が直ちに同調書の作成の適法性を否定する根拠にはならな
いものである。したがって,本件実況見分調書に運行記録計の記録紙が添付さ
れていないことをもって同調書の適法性を否定する控訴人の主張は採用できな
い。」
1 控訴人は,別件訴訟控訴審第1回口頭弁論期日に,準備書面(1)を陳述し,
運行記録計について下記のとおり主張した。「73式大型トラックの保安基準
は,自衛隊の使用する自動車に関する訓令第10条により別冊1で定められて
いる。別冊1の項目45で運行記録計を備えることになっている。この記録計
は,24時間以上の継続時間内における当該自動車について,すべての時刻に
おける瞬間速度とすべての2時刻間における走行距離を自動的に記録できる構
造である。運行記録計を備えなければならないこととされている自動車の使用
者は、運行記録計により記録された当該自動車に係る記録を、内閣府令で定め
るところにより一年間保存しなければならない。(道路交通法第63条の2)
航空機事故の調査にフライトレコーダー(飛行記録装置)の解析が欠かせな
いのと同じく,本件交通事故の調査には当該運行記録計のチャート(記録紙)
の解析が事故の真相解明に必要である。たとえば,本件で当事者間に争いがあ
38/70頁
る,本件事故現場に進入時の速力,草地に移動したかどうか,事故現場を離れ
た時間なども記録紙から読み取れる。然るに国は当該記録紙を提出せず,その
存在すら言及していない。
2 大型トラックが人身事故を起こした場合,通常,捜査を行う司法警察職員は
第一に運行記録計の記録紙の任意提出を求め領置し,所有権を任意に放棄させ,
実況見分調書に証拠として添付するのが捜査の基本である。
3 本件事故の場合,運行記録計の記録紙が添付されていない実況見分調書等の
資料は適法に作成されているとはいえない。」
4 原判決は,「本件実況見分調書は,適法に作成された」から「本件実況見分
調書に運行記録計の記録紙が添付されていないことをもって同調書の適法性を
否定する控訴人の主張は採用できない。」と判示する。
控訴人の主張は,「本件実況見分調書に運行記録計の記録紙が添付されてい
ないこと」も「上記実況見分の実施について違法性をうかがわせる」というの
である。原判決の論理は理解できない。
5 大型トラックの事故を防止するために,国が法令で設置を定め,国民が多額
の設置費用を負担して設置している運行記録計の記録紙で,かつ本件事故解明
の最重要な証拠を隠蔽する警察や浅香らの行為は,著しく正義に反する。
6 裁判所は,証拠が偏在している本件の場合,事案解明・審理の充実・促進化
と公平な審理を実質化するため釈明権を行使する義務がある。同記録紙が提出
されれば,本件で当事者間に争いがある本件事故現場に進入時の速力,草地に
移動したかどうか,事故現場を離れた時間なども記録紙から読み取れるから裁
判の結果が重大な変更をうける。
7 原判決は,運行記録計設置の意義を理解せず,同記録紙を隠蔽した行為を容
認するもので,著しく正義に反する。
第10点 自衛隊の実況見分調書
原判決の,第3争点に対する判断,3争点(2)浅香らが,自衛隊の実況見分調
39/70頁
書等を隠蔽したか,(1)(2)(判決書21~22頁)の下記部分の不服。「浅香
らは,自衛隊が本件事故直後に作成した実況見分調書等を隠蔽したと主張する
ので検討する。(1)前記1(1)の認定事実によれば,本件事故は控訴人の過失に
基づく結果であり,小野寺には何ら過失のないことが認められる。ところで,
「自衛隊と警察との犯罪捜査に関する協定」(乙1の1)を受けて作成された
「自衛隊と警察との犯罪捜査に関する協定の運用に関する了解事項」(乙1の
2)によれば,道路交通法に定める車両の交通に関する犯罪の捜査は,人の死
傷又は物の損壊を伴うものにあっては,自衛隊の隊員が犯したものであり,か
つ,被害者が自衛隊の隊員である場合又は被害物件が自衛隊の所有し,若しく
は使用する物件である場合においては,警務官が分担し,その外の場合におい
ては,すべて警察官が分担することとされている。これに基づいて検討すると,
本件事故は,非自衛隊員の控訴人のみが負傷者となっているから,上記了解事
項に照らして,本件事故の捜査は警察官が行うものと認められ,その他一件記
録を精査しても,本件事故直後に自衛隊が自ら実況見分を行ったことを示唆す
るに足りる証拠は,これを見いだすことができない。したがって,自衛隊自ら
が本件事故の実況見分を行った事実はなく,自衛隊作成の実況見分調書の存在
を前提に浅香らの違法をいう控訴人の主張は採用することができない。(2) な
お,控訴人は,「陸上自衛隊損害賠償実施規則」(甲28)中に,大要「自衛隊
員が,職務執行中に他人に損害を与えた場合には,速やかに所属の部隊等の長
に報告するものとすること,報告を受けた部隊等の長は,直ちに当該駐屯他業
務隊等の長に賠償事故発生の概要及び処置した事項等について通知するものと
すること,当該駐屯他業務隊等の長は,所要の発生報告書及び事故現場見取図
を作成し,方面総監に報告する。この場合において,陸上自衛隊に賠償責任が
ないと思料される事故であっても現実に損害が発生し,かつ,将来賠償請求の
可能性のある事故等について報告漏れのないよう特に留意するものとする。」旨
の規定があることを根拠に,自衛隊作成の本件事故の「発生報告書」「実況見
40/70頁
分調書」が存在することを主張する。しかし,前記1(3)アの認定事実に照ら
せば,本件事故直後に現場写真を撮影した赤埴らは,本件事故現場の自衛隊車
進行車線内に控訴人車のタイヤ痕が残っていたことを認識していたものと認め
られる。そうすると,本件事故につき,小野寺には過失がなく,自衛隊が事故
発生報告書等を作成するまでの必要がないとした陸上自衛隊北熊本駐屯他業務
隊長の判断は,上記事故現場の状況に照らして不合理なものではないといえる
から,控訴人の主張は採用できない。」
1 「浅香らは,自衛隊が本件事故直後に作成した実況見分調書等を隠蔽したと
主張するので検討する。」の部分。浅香らは,自衛隊が本件事故直後に作成し
た実況見分調書等を隠蔽したと認識していたが,主張はしていない。
2 控訴人は,本件事故の捜査は警察官が分担することは最初から認めている。
しかし,警務官(自衛隊)が本件事故の捜査をしてはいけないとか,捜査をし
なくてもいいとかということではない。
3 自衛隊の規則(甲28)よれば,隊員が自己の職務遂行中に他人に損害を与
えた場合を賠償事故の発生とし,賠償責任の有無に関係なく,順序を経て必要
な処置・事故の調査報告が行なわれる。
4 賠償事故発生の通知を受けた駐屯地業務隊も独自に現場検証(実況見分)等
を行い,業務隊防衛事務官が,実況見分調書・事故現場見取図・事故情況等写
真・供述書・運転免許証写し・自動車車検証写し・根拠命令等写し・車両運行
指令書を作成し業務隊長に提出する(甲31)。
5 業務隊長は,発生報告書(法定1号)を作成し,方面総監に報告する。この
場合において,陸上自衛隊に賠償責任がないものと思料される事故であっても
現実に損害が発生し,かつ,将来賠償責任の可能性のある事故・・・について
の報告漏れのないように特に留意する(甲28)。
6 被控訴人のいう警務隊は,警務隊組織及び運用に関する訓令(陸上自衛隊訓
令61)に定める警務隊で,控訴人のいう警務隊は,北熊本駐屯地の第8師団
41/70頁
司令部付隊(業務隊)隷下の保安警務隊をいうが,一般人にとってはいずれも
自衛隊の警務隊であり,警務隊員を警務官と呼ぶ場合もありうる(甲58)。
7 控訴人は,文書提出命令の申立書の文書の趣旨で,本件事故について陸上自
衛隊損害賠償実施規則に基づいて,北熊本駐屯地業務隊が作成し,西部方面総
監に報告された文書と特定している。
8 被控訴人は,「北熊本駐屯地業務隊長は,賠償事故に伴うことに関し,小野
寺(国)には過失がないと判断したものであり,同隊長が小野寺に過失がない
と決定したものではない。」と陳述している。このことからも,同隊長が過失
の有無を判断する材料としての,自衛隊が作成した資料が存在したことは明ら
かである。(小野寺に過失がないと決定したのは,第8師団司令部法務官室で
あり,業務隊長には責任がないということなどはここでは意味がない。)
9 原判決は,「本件事故直後に自衛隊が自ら実況見分を行ったことを示唆する
に足りる証拠は,これを見いだすことができない。」と判示するが,本件事故
現場に,事故10分後の午前11時5分ころから,午前11時50分に現場に
到着した早水巡査長が小国署員からの捜査の引継ぎを終える時間までは,複数
の警務隊員及び近松3佐(師団司令部付隊長)が現場にいて,事故現場保存,
捜査・実況見分,現場写真撮影など行なったことは証拠上明らかである(上記,
控訴理由第5点 本件事故処理の経緯)。
10 陸上自衛隊損害賠償実施規則(甲28)は,「隊員が,自己の職務遂行中に他
人に損害を与えた場合の処理」のマニュアルで,高卒程度の国語力で十分理解
できるよう書かれている。同規則は,賠償責任の有無に関係なく,事故発生報
告書等を作成するよう念を押している。小野寺の過失の有無と事故発生報告書
作成必要性とは無関係である。常識的に考えても,無責を主張する場合にこそ,
無責を証明するために,より事故情況等写真,実況見分調書等が必要である。
11 原判決の,「小野寺には過失がなく,事故発生報告書等を作成する必要がな
いとした自衛隊の判断は,不合理なものではないといえる」との判示は,上記
42/70頁
規則(甲28)を曲解した,不合理なものである。
12 原判決は,「前記1(3)アの認定事実に照らせば,本件事故直後に現場写
真を撮影した赤埴らは,本件事故現場の自衛隊車進行車線内に控訴人車のタイ
ヤ痕が残っていたことを認識していたものと認められる。そうすると,本件事
故につき,小野寺には過失がなく,自衛隊が事故発生報告書等を作成するまで
の必要がないとした陸上自衛隊北熊本駐屯他業務隊長の判断は,上記事故現場
の状況に照らして不合理なものではないといえるから,控訴人の主張は採用で
きない」と判示した。
13 本件事故直後に現場写真を撮影した赤埴は,第8師団の広報班で写真撮影を
していた陸曹長である(甲22の13頁)。赤埴らが本件事故現場の自衛隊車
進行車線内に控訴人車のタイヤ痕が残っていたことを認識していた証拠はなく,
もともと小野寺の過失の有無の認定には,本件の場合,赤埴らの認識の有無は
意味がない。
14 原判決の事実認定は,判断過程が非常識,もしくは論理的に飛躍していて,
通常人の常識ではまったく理解も納得もできない。
・・・
{原審 横浜地裁 平成17年(ワ)第2710号 判決}
民事第9部 裁判長裁判官 土屋文昭 裁判官 一木文智 裁判官 吉岡あゆみ
http://blog.goo.ne.jp/yaruka/