今、安倍首相のアベノミクスが国会の予算委員会で討議されている。与党も野党も
この2%インフレターゲットが実現可能かどうかと言うようなナンセンスな議論が
行われている。マスメディアも安倍首相と黒田日銀総裁が主張する2%のインフレ
ターゲットを擁護する論調が多い。これまでデフレ脱却の為にインフレターゲットを
設定しそれを行った国家はない。物価上昇を目指すことなどあってはならぬことである。
今後、消費税が8%、10%と上昇し、円安が進めば近いうちに物価は2%をはるかに
超えて上昇する。最悪の事態ではハイパーインフレも全くなしとは言えない。
日本の物価は先進国の中でも高いことを忘れてはいけない。ここ20年間に政府は
経済成長に殆ど効果のなかった財政出動を行ったため、政府と地方自治体を合わせ
1、000兆円にも及ぶ借金を増加させた。安倍首相のアベノミクスはこの借金を
インフレにより実質的に低下させるためにこのインフレターゲットを設定したとしか思えない。
確かに借金の実質的な減少には効果がある。しかし一般国民にとって何らメリットはない。
一部の大企業は賃金増額を決めているが、大部分はボーナスなどの一時金の増加に
留まりベースアップを行う企業は殆どない。
年金生活者はさらなる困難に遭遇する。確かに、公的年金の給付金額の実質価値を
維持するため物価スライド制を導入しており、物価の変動に応じて年金額を改定する
ことになっている。しかし、これにはタイムラグがあり物価の変動に速やかに対応出来ない。
安倍首相が行うべき政策は、インフレターゲットではなく所得増加政策である。当時とは
状況が異なるが、見習うべきは池田内閣の「国民所得倍増計画」ではなかろうか。この
計画は、道路、鉄道、工業用地など産業基盤の公共投資を軸にし、社会福祉の増進を
行うことにより年率7.2%の経済成長を想定し、計画期間の1961年から70年の間の
実績は10.9%の成長率となった。国民1人当りの消費支出は10年で2.3倍にもなった
のである。今までと同様に道路やハコモノなどへの財政出動は経済成長にあまり寄与しないが、
賃金上昇が可能となる新事業の創出、技術革新、生産性向上、新エネルギー開発などへの
投資は経済成長を牽引する。
物価上昇は需給のバランスによって結果的に決められるものであり、目標とするものでは
ない。賃金上昇があれば需要が増加し物価は上昇する。これが自然な経済成長である。