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猪熊隆之の観天望気講座76

2015-10-28 11:09:39 | 観天望気

今日は、10月26日に日本列島の広い範囲で見られた、上空高い所に浮かぶ巻雲についてです。

巻雲は「晴れ巻雲」と「雨巻雲」があり、「雨巻雲」が現れると、天気が崩れていくことが多いことは以前、説明しました。

晴れ巻雲と雨巻雲については、下記の過去の講座もご参照ください。

観天望気講座21 http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/cdb7201ed5dc4afaccb6580fdd7e90e6

観天望気講座39 http://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/2bf68c4c184fbcb0680037e3e5c9fc6e

 

今日、見られた雲は典型的な晴れ巻雲で、天気図を見ても日本列島は高気圧に覆われています。

写真1 長野県茅野市蓼科地域から見た巻雲(10月26日)

図1 10月26日9時の地上天気図

 

高気圧に覆われているとき、空には全く雲が現れない場合と今日のように巻雲が現れる場合とがあります。それでは、巻雲がどうして現れるのでしょうか?巻雲は雲の中でも、もっとも上空高いところに浮かんでいる雲です。従って、上空高いところに、ある程度水蒸気があり、上昇気流が起きている必要があります。上昇気流を起こしている要因は、ジェット気流です。

図2 図1と同時刻の200hPa天気図

上の図は、200hPa(高度約12,000m付近)の天気図です。ジェット機が飛んでいる高度と同じ位です。ジェット機は高度を上げていくと、雲の上に出て、下界がどんなに天気が悪くてもお天気がいいですよね。地球の大気はおよそ4つの層に区分されていますが、ジェット機が飛ぶ高度は、一番下の対流圏と、その上にある成層圏の境界付近の高度にあたります。ほとんどの雲は対流圏の中でできます。成層圏は水蒸気が非常に少なく、大気が安定しているので上昇気流がほとんど起きないからです。

さて、話を元に戻して、巻雲がこの日に現れた原因を考えてみましょう。日本付近にある太い矢印はジェット気流を表しています。ジェット気流は対流圏の上部で吹いている非常に強い西風のことです。風は温度差が大きいところで強く吹きますから、ジェット気流の辺りは高度約12,000mで気温差が大きいところになります。簡単に言えば、ジェット気流は春と夏、夏と秋のように、季節の境い目にできるのです。

温度差が大きいところでは上昇気流ができます。

図3 ジェット気流付近で発生する上昇気流

上図はジェット気流付近の温度分布を表した図です。ジェット気流は温かい空気と冷たい空気の境界にあり、冷たい空気は重く、温かい空気が軽いので、冷たい空気の上を温かい空気が乗り上げて緩やかな上昇気流ができます。ここで、巻雲が発生するのです。ただ、巻雲のすぐ上には、安定した大気の成層圏があるので、巻雲は上へ上へと成長できず、すぐに成長を止めてしまい、薄雲で終わってしまいます。

写真2 放射状の雲

夕方になると、上の写真のように、巻雲は放射状の雲になっていきました。放射状に見えるのは遠近法による人間の目の錯覚で、実際には雲は平行に並んでいます。空気が波を打って上昇気流が発生したところで雲ができ、下降気流になっているところで雲が消えます。波ができる理由は、遠方にある台風や発達した低気圧のこともありますし、今回のように、北アルプスの風下にできた山岳波によるものもあります。

図4 山岳波の出きかた(山岳気象大全より)

上図のように、山があることで空気がまっすぐに進むことができず、波をうつことがあります。大気が安定しているときにこのような波は上の方に伝わっていき、放射状の雲や波状雲ができます。また、波状雲が現れたときに紹介しようと思います。今日はこの辺りで。

※地上天気図、200hPa天気図は気象庁提供。写真は猪熊隆之撮影。
※図、文章、写真の無断転載、転用、複写は禁じる。

文責:猪熊隆之


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