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猪熊隆之の観天望気講座139

2019-08-29 22:27:52 | 観天望気

~白山で見られた雲partⅡ~

前回に続き、白山での空見ハイキングで見られた雲と天気についての解説です。登山2日目の状況について解説します。前回に続き、登山中の気象リスクを減らすために、次のことを確認していきましょう。

1.登山前に天気図を見て気象リスクを想定する。

2.登山中に雲や風の変化から、天候変化の予兆を早めに察知する

ということで、登山前日に発表された、登山2日目の予想天気図を確認しましょう。

図1 登山前日に確認した登山2日目の予想天気図(気象庁ホームページより)

登山2日目も、関東の南東海上と朝鮮半島付近に高気圧があり、日本付近はこの2つの高気圧に広く覆われています。これらの高気圧は、「太平洋高気圧」と呼ばれ、その名の通り、太平洋に広く勢力を持つ高気圧で、この高気圧に覆われると、朝から晴れて気温が上昇します。ただし、山では日中、谷風と呼ばれる風が山を上昇して、雲を発生させ、標高の低い山から雲に覆われていき、午後になると、標高の高い稜線でも霧に覆われることが多くなります。この辺りは初日と変わりがありません。

大気が不安定なときには、雲がやる気を出して積乱雲(せきらんうん)に発達することがあり、落雷や強雨のリスクが高まります。そこで、1日目に続いて500hPaの気温予想図を確認してみましょう。 

図2 登山前日に確認した登山2日目15時の500hPa面(高度約5,900m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

この予想図で見るポイントはマイナス6℃の線。梅雨明けから秋雨に入るまでの間は、マイナス6℃以下の気温になると、雲が俄然、やる気を出します。2日目の午後の予想図を確認しますと、白山ではマイナス3℃より少し低い気温ということで、微妙なライン。これだけでは判断しかねるので、850hPa(高度約1,500m)の気温を確認しましょう。

図3 登山前日に確認した登山2日目15時の850hPa面(高度約1,500m)気温予想図 https://i.yamatenki.co.jp/ より

850hPa面で見ると21℃前後のエリアに白山は入っていることが分かります。こちらは前日とほぼ同じです。さて、雲がやる気を出す目安は、850hPaの気温から500hPaの気温を引くと分かります。

●850-500の気温27℃以上・・・雲が非常にやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが非常に高い)

●850-500の気温24℃以上・・・雲がやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクが高い

●850-500の気温21℃以上・・・雲が少しやる気を出す(落雷、局地豪雨のリスクがやや高い)

今回は、500hPaで-3℃より少し低め、850hPaで21℃ということで、850-500は24℃より少し大きい値、ということになります。つまり、「雲がやる気を出す」状況です。

このような状況のときは、雲を注意深く観察し、危ない兆候が見られたときは、すぐに安全な場所に避難することが大切です。落雷のときにすぐ離れなければならない場所は、jROの安全登山教室に連載している、「落雷や強雨を予想しようpartⅡ」をご参照ください。

https://www.sangakujro.com/%e8%90%bd%e9%9b%b7%e3%82%84%e5%bc%b7%e9%9b%a8%e3%82%92%e4%ba%88%e6%83%b3%e3%81%97%e3%82%88%e3%81%86part%e2%85%a1%ef%bc%88%e7%ac%ac39%e5%9b%9e%ef%bc%89/

ということで、ここからは現場で見られた雲についての解説です。

写真1 空のグラデーションと御嶽山

上の写真は、展望歩道から見た東の空です。御嶽のシルエットが美しいですね。そして、空がグラデーションのように、大気の層によって色が分かれていて、御嶽も縞模様になっています。

空の色は、太陽の光が空気中の小さな粒子(窒素、酸素、水蒸気などの空気分子)に衝突して散りばめられるときに、どの色がもっとも強く散りばめられるかによって決まります。太陽光の波長に比べて、空気分子はずっと小さいので「レイリー散乱」という散りばめられ方をします。この散乱では、波長が短い方が散りばめられやすいという性質があります。太陽光は、波長の短い方から順番に、紫、青、緑、黄、オレンジ、赤となっていきます。つまり、紫や紺がもっとも波長が短く、もっとも強く散りばめられます。太陽光が大気の中を通っていくとき、まず真っ先に紫が散りばめられますが、地上に届く前に拡散しつくされて私たちの目には届きません。次に、青色が強く散りばめられて空一面に広がるため、空は青く見えます。

ヒマラヤや富士山の山頂など高所に行くほど空の色が濃くなるのも、空気は上にいくほど空気分子が少なくなり、青より波長の短い紺色の光が拡散しつくされることがないからです。

この辺りは富士通研究所のサイトに分かりやすく書かれています。

https://www.fujitsu.com/jp/group/labs/resources/tech/techguide/list/photonic-networks/p08.html

それでは、写真1で見られる空の下の方の白い色や、さらにその下の茶色(黄色)がかった色はどうしてできるのでしょうか?

これは大気汚染物質や水蒸気が浮遊していることによります。大気汚染物質は、空気分子よりずっと粒が大きく、太陽光の波長と同じ程度の大きさのものが多くなります。その場合、「ミー散乱」という散りばめられ方をします。ミー散乱は、色によって散りばめられ方が変化しません。そのため、太陽光の白色がそのまま、雲にぶつかって散りばめられて私たちの目に届くため、白っぽく見えます。ただし、石炭燃焼などのばい煙は黒い色になるなど、汚染物質によって色が異っぽくなります。一番下の茶色っぽい空気の層は、この汚染物質によるものです。その上の白い層は汚染物質の中でも光化学大気汚染によるものです。また、白い層は、汚染物質だけでなく、水蒸気によって太陽光が散りばめられた効果もあります。地上付近は水蒸気や汚染物質が多いため、空が白っぽく見えるのです。 

さて、次はいよいよ本題。雲がやる気を出すかどうかの見極め方ですね。写真2を見ましょう。

写真2 北アルプス方面の空と雲海

この写真の空もグラデーションになっています。御嶽の左側(北側)の空ということになり、白山からは北東~東側の空になります。グラデーションの手前にもこもこした雲が出てますね。これは積雲(せきうん、別名わた雲)です。手前側の山並みにはこの雲が出ていないのに、奥の高山盆地にはこの雲があるのはなぜでしょう?

ひとつは、高山盆地は日本海から宮川に沿って水蒸気が入ってきやすい谷筋にあること。それに対して、手前側の谷は奥に山が連なっているため、水蒸気が入ってきにくい場所です。さらに、高山盆地は盆地のため、水蒸気が溜まりやすいことがあります。それが夜間に気温が下がり、冷やされることで雲ができるのです。そのため、高山盆地は雲海ができることでも有名ですね。

さて、この雲が朝早くから、ソフトクリームのようにモコモコと成長してくるときは、昼頃から落雷や強雨のリスクが高まります。この日は朝8時頃でこの程度ですからまだ大丈夫そうですね。

写真3 午前10時頃の空

さて、10時頃になってくると、ようやく西側の空に積雲が現れました。この雲は日射によって斜面が温められた結果、その上の空気も温められて周囲の空気より軽くなり、上昇してできた雲です。大気が不安定で、雲がやる気を出す状況のときは、午前10時の時点で、もっともっと雲は上方へ発達していきます。この分だと今日も大丈夫そうですね。

と思っていたら、12時を過ぎると段々やる気を出してきましたよ。

写真4 積雲が成長した雄大積雲(ゆうだいせきうん)

写真5 雲がやる気を出してきた

さて、下山していく方向に、やる気を出してきた雲。雲の底は暗くなってきてちょっと嫌な感じです。モコモコした入道雲の底が暗くなってきたら、危険サイン。

写真6 雲がやる気を出して積乱雲に成長

上の写真は、いよいよ積乱雲に発達し、雲底が真っ暗になってきました。こうなると、雲の下では大粒の雨が降っています。雷のリスクも出てくるレベルですね。念のために、この雲の雲頂高度を雨雲レーダーで確認してみます。そこまでまだ発達していないようで少し安心。幸い、このときは、これ以上雲がやる気を出さずに済みました。雲の中に入ると霧の中で、見通しが悪くなりました。そんなときは、前回学んだ霧の濃さと風の変化から判断しましょう。あるいは、電波が通じるところでは、雨雲レーダーや雷レーダーを確認するのも良いですね。

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。

 

 


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