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猪熊隆之の観天望気講座146

2019-12-10 14:58:52 | 観天望気

機窓からの観天望気 partⅡ ~福岡/松本便~

今回は、前回に続き、飛行機から見られた雲についての解説です。partⅡでは福岡から松本に行くときに見られた雲について紹介します。

福岡市は朝から激しい雨が降っていました。これは寒冷前線の通過に伴い、雲がやる気を出して発達した積乱雲が上空を通過したためです。

図1 当日午前6時の地上天気図。福岡市に寒冷前線(尖ったマークの青色の前線)が接近していることが分かる。

図1:気象庁提供

写真1 福岡空港から上空の積乱雲(せきらんうん、別名入道雲)を見上げる

寒冷前線が通過する際は、観天望気講座144回 https://blog.goo.ne.jp/yamatenwcn/e/3969f9bab6d7f719eb4704b89ceab5f6?fm=rss で学んだように、短時間に激しい雨が降り、落雷やひょうを伴うこともあります。

この嵐の中、出発できるのか不安でしたが、予定より遅れて出発。しかしながら、「目的地の松本空港では強風のため、着陸できない可能性があり、小牧空港に目的地が変わる可能性も。」というアナウンスが・・・。

写真2 波状雲(はじょううん)

飛行機が高度をあげていくと、見事な波状雲を突っ切っていき、興奮状態MAX(笑)。

波状雲というのは、空気中に重力波が生まれてその波が風下側に伝わっていき、波が上昇した所で雲ができ、下降した所では雲が消えることによって生まれる雲です。

飛行機は、次第に寒冷前線から離れていき、寒冷前線と温暖前線の間の“暖域(だんいき”と呼ばれるエリアに入ります。

ここは、温暖前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込む場所で、大気の状態が不安定になり、気流も乱れやすく、色々な雲が見られる所です。 

図2 寒冷前線の進行前面では、温かく湿った空気が流れ込む

図2:気象庁提供の図に猪熊が加筆したもの

写真2 山岳によって上昇させられてやる気を出した雲と、その風下側で雲のない場所

写真2をご覧いただくと、雲がやる気を出して上方に成長している部分と、雲がなかったり、やる気を出していない(上方へ成長できない)雲があることが分かります。

写真では手前側が北、奥側が南になり、風は奥の方から手前側に風が吹いています。すると、温かく湿った空気は、山の斜面で上昇するため、雲は山の奥側(写真では上側)で発生して山頂付近でもっとも成長し、山を越えると下降するため、雲は弱められて蒸発していきます(図3)。

図3 湿った空気が山を越える際の天気変化

写真3 空気の性質が違うことにより、雲の形状が変わる様子 

飛行機が豊後水道から四国に近づくと、雲の状態が濃密で少し波を打ったような雲が広がる所(手前側)と不規則な雲がある所(奥側)に分かれました。空気の状態が変わると、このように雲が変化します。雲が空気の気持ち(状態)を教えてくれるのですね!このときは、手前側では海の上、奥側は陸地ということで、地形の違いが空気の状態に変化を与えていたと思われます。

写真4 吉野川上空の雲

四国東部の吉野川上空(徳島県内)に差しかかると、寒冷前線からさらに遠くなるため、一面に広がっていた中層の雲は消え、比較的低い雲のみになりました。奥側(写真3)の雲が一面に広がっているところと、吉野側流域の雲が広がっている部分が対照的です。これは、四国山地が南からの湿った空気の侵入を防いだことと、四国山地を越えて下降気流となり、雲が蒸発したためですね。

写真5 尾流雲(びりゅううん)

今度は、尾流雲が見えてきました。雲が蒸発しながら消えていっている様子が幻想的ですね!

写真6 陸地に浮かぶ好天積雲と中部国際空港

飛行機が紀伊半島を通過し、伊勢湾に入ると寒冷前線からさらに遠ざかり、湿った空気の流れ込みが弱くなって雲が少なくなりました。

また、海上には雲がなく、陸上に積雲(せきうん、別名綿雲)が点在する形になりました。これは好天積雲(こうてんせきうん)と呼ばれる雲で、日中、陸上で熱せられた空気が上昇することによってできる雲です。 

海の上は温まりにくいので、この雲はできません。

飛行機が中部山岳に接近すると、上空に高層雲(こうそううん)が広がり、下降を開始した飛行機は、この雲を突っ切ります。

写真7 雲に突入!

写真8 中央アルプス上空のレンズ雲

写真9 中央アルプス、南アルプス、富士山の天気の違い

飛行機が高層雲の下に出ると、アルプスの山並みと富士山が見えてきました。手前側に中央アルプス、その奥の雪をまとった山が南アルプス、その奥に富士山が見えます。

中央アルプスはレンズ雲がかかっていますが、南アルプス、富士山にはかかっていません。これはどうしたことでしょうか? 

図1をご覧いただくと、この日は西に行くほど寒冷前線に近く、東に行くほど前線から遠ざかり、高気圧に近くなる気圧配置でした。

つまり、西に行くほど湿った空気が入りやすく、東の方ほど高気圧の勢力圏で下降気流が起きており、湿った空気も入りにくい状況です。 

西からの湿った空気が中央アルプスに入ると、そこで上昇させられ、山を越えると下っていきます。つまり、中央アルプスによって空気は波のように昇ったり下ったりするのですが、この波が下流側(東側)に伝わっていきますと、水蒸気の補給が得られにくくなるので(東に行くほど水蒸気が少なくなるので)、雲はできなくなっていくのです。

そして、北アルプス、八ヶ岳など他のアルプスの山々を一望しながら飛行機は無事、松本空港へ到着しました。

小牧に着陸しなくて良かった!

ということで、福岡から松本へ行く間にも沢山の雲が見られました。寒冷前線付近から高気圧の勢力圏内へと移動する中で、空気の状態がどんどん変化していくのが何となくわかっていただけたでしょうか? 

文、写真:猪熊隆之(株式会社ヤマテン)

※図、写真、文章の無断転載、転用、複写は禁じる。


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