山の天気予報

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甲斐駒ヶ岳の雪崩についてpartⅢ ~事故当事者の記録や証言から学ぶ~

2023-04-08 15:53:03 | おしらせ

第3回は、今回の事故で雪崩に巻き込まれ、一部の方は大怪我を負ったにも関わらず、今回の事故について、ヤマレコなどに投稿していただいた当事者の貴重な記録から、雪山を楽しむ皆様に知っていただきたいことを記します。

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今回、事故に遭われた方は、雪山経験者ばかりです。毎月、黒戸尾根に登っている強者もいらっしゃいます。また、先頭を歩いた方は、小屋番の方やメンバーとルートの取り方や雪崩のリスクについて話し合い、共有していました。実際、雪崩が起きた現場では夏道を通らずに、雪崩のリスクがより小さい右側の方から回り込もうとしています。しかしながら、今回はそのルートでもリスクがある状況でした。そして、それぞれに雪崩に関する間違った「思い込み」がありました。それがこれだけの降雪があったにも関わらず、七丈小屋から上に向かったことに関わってきますので、それをピックアップしていきます。

 

①朝のうちは雪が安定している

よくメディアなどで、気温が上がると雪崩が起きる、春になると雪崩が起きると報じられるので、真冬の気温の低い時期なら雪崩のリスクが少ないと思っている方がいます。しかしながら、雪崩は条件が揃えばいつでも発生しますし、雪崩の種類によっては真冬の気温が低い状況の方がリスクが高い場合もあります。例えば、表層雪崩(ひょうそうなだれ)という種類の雪崩がありますが、ある積雪層から上の部分だけが崩れ落ちる雪崩です。こうしたタイプの雪崩が起こる理由のひとつとして、弱層と呼ばれる脆い雪の層の存在があります。こうした脆い層は、気温が低いときには長期間、維持されやすくなります。また、積雪は雪の結晶同士の結合が強くなると安定していきますが、気温が低いときは雪の結晶が安定するまでに時間がかかります。気温が高すぎても積雪が水を多く含んで結合が弱くなりますが、気温が低い朝のうちはまだ安定している、というのは誤りです。

写真1 雪崩が発生した場所。破断面がはっきりと分かる

今回の雪崩は発生地点に岩があり、その影響も受けた可能性が大きいですが、日本雪崩ネットワークなどの調査班によりますと、ここ数日の暖かさで融けた雪が夜間の冷え込みなどで凍結し、その上に多量の降雪が降ったことで、凍結した層がすべり面になった感じですね。

 

②樹林帯は雪崩が発生しない

これも誤りです。ある程度の傾斜があり、雪崩が発生する条件が揃えば、雪崩は発生します。もちろん、大きな木が密に生えている場所はそこで、積雪が支えられるので雪崩が起きにくいですが、今回のように森林限界に近く、木と木の間隔が広がっていて、雪崩が起こりやすい斜度(30~60度)の場合、雪崩が起きることも十分、あり得ます。

 

③晴れだからリスクは少ない

一日中、晴れマークがついていたら、それは山に行きたくなりますよね。しかしながら、晴れだからリスクが少ないというのも誤りです。前日に大雪が降れば、当然雪崩のリスクは高まりますし、晴れていても平均20m/sを超える風が吹いていたら、凍傷や低体温症、転滑落、テントが倒壊するなどのさまざまなリスクが考えられます。ですから、お天気マークだけ見ていてはダメなのです。必ず、気象予報士のコメントを読んでくださいね。

 

17日(金)発表のヤマテン「山の天気予報」の気象予報士コメント

④尾根道だからビーコン、ゾンデ、スコップなどは持っていかなくても良い

尾根ルートでも雪崩が発生することはあります。万が一、雪崩が発生したときに、積雪はすぐに固まってしまうので、スコップがないと掘り出すことができません。雪崩に埋まってる人が助かる確率は、18分後(文献によっては20分後)から急速に低下していきます。窒息してしまうからです。したがって、一刻も早く救助しなければなりませんが、ビーコンがないとその人の居場所を特定できませんし、ゾンデとスコップがないと雪の中から救出することができません。雪崩のリスクが多少なりともある所では必ず持っていきましょう。

 

⑤一度、雪崩が発生したらもう大丈夫

これも誤りです。破断面の上にも斜面が続いている場合、次の雪崩がいつ起きてもおかしくありません。ですから雪崩捜索の際は必ず、見張り役を置き、絶えず上方をチェックしながら捜索をおこなうようにしましょう。ましてや、雪崩が発生した斜面を時間をおかずに登るということは絶対にやめましょう。19日午前中、中央アルプスの千畳敷カールで、そのような登山者を沢山見かけました。しかも数珠つなぎで間隔もあまり開けずに登る方もいらっしゃいました。これらは非常に危険な行為です。

中央アルプスで雪崩が起きた後、雪崩地形を数珠つなぎで登る登山者

ここでは、問題点ばかり指摘しましたが、後から登ってきた単独登山者を含む迅速な救助や山小屋、山梨県山岳救助隊の対応など評価できる点も沢山あります。その辺り、詳しいお一人お一人の記録については、こちらでご確認ください。

https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-5279916.html

なお、雪崩は様々な要因が重なって起きるので、積雪や地形、気象などについて学ぶことが重要です。日本雪崩ネットワークが主催する講習会などに参加されることをおすすめします。

日本雪崩ネットワークについてはこちら

https://nadare.jp/

 

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