死んだ親父から教わったものはほとんどないが、二つ三つ格言みたいなものはある。その一つに「無駄、無理、斑(むら)を無くせ」というものがあった。つまり、父は自分の人生からその“格言”を私に残したかったのだろう。
この言葉は他でも聞いたことがあるが、ほとんど興味が持てなかった。なぜなら、私の人生はムダ・ムリ・ムラの連続だったと思うからだ。したがって、私は父の教えに背いたことになるが、少しも後悔していない。そうならざるを得なかったからだ。
38年もサラリーマン生活を続けたということは、ムダ・ムリ・ムラが比較的少なかったと思われるだろう。しかし、現実には相当に無駄なことをしてきた。無駄な金や労力を使ってきた。買わなくても良いものもずいぶん買ったし、徒労に終わった努力もずいぶんしてきた。また、必要以上に無理を重ねたこともある。
毎日が平穏無事であれば、斑(むら)のある生活はなくなるだろうが、そうもいかなかった。喧嘩もしたし失敗もあったし、ギャンブルに凝ったこともある。もちろん、仕事で徹夜、連泊というのもけっこうあった。サラリーマン生活の限界はあっても、かなり斑の多いことをしてきた。
だから、親父の言った「無駄、無理、斑(むら)を無くせ」というのは果たせなかったのだが、先にも言ったように少しも後悔していない。いや逆に、ムダ・ムリ・ムラがあったから面白かったと思っている。平穏無事な生活や仕事は、安定感があって良い。それは認めるが、どこか面白みに欠けるのではないか。
例えば、毎朝9時に出勤して、夕方5時に退社するような生活を30年以上も続けたらどうなるか。ムダもムリもムラもない、極めて安定した人生だったと言えるだろう。しかし、そんな生活が充実しているとか面白いと言えるだろうか。私は絶対に違うと思う。
人生は何かに意気を感じたり、情熱を注ぎ込んで生きていくのが面白いのであって、またそうした生き方の方が有意義なのではないか。ただし、情熱的に生きるということは、無駄や無理や斑を無くすこととは全く関係ないものだ。それは熱中して生きることだから、そんなものは眼中に入らない。
私は中年の頃まで、テレビ局の記者をしていたから、徹夜のあとまた一日中仕事(取材など)というのがけっこうあった。非常に疲れることもあり、正にムリ・ムラの典型のような生活であった。しかし、やり甲斐というか、生き甲斐のようなものを絶えず感じていた。辛かったけれど、毎朝9時から夕方5時だけの仕事では味わえない“何か”があったと思う。
だから、私はあえて言おう。「無駄、無理、斑(むら)を恐れるな!」と。この言葉は親父が残したものとは正反対だが、そういう気持がなければ、人生は単なる「消化人生」で終わってしまうだろう。そんな生き方はつまらないではないか。 無駄を無くすと言うが、趣味や遊びもない人生ほど、味気ないものはない。多くの人が趣味や遊びを持っているだろう。また、この世は“無駄”なことをしなければ、一歩も前進しないだろう。科学も芸術も然りである。
この文を書き始めた時は「無駄、無理、斑(むら)を無くせ」を評価しようと思っていたのに、書いているうちに、自分の人生の“開き直り”からか、逆に「無駄、無理、斑(むら)を恐れるな!」になってしまった。タイトルもそういうものに変えた。こんな面白い経験は初めてである。
そこで最後に、幕末の長州藩の志士・高杉晋作の辞世の句を紹介して終わることにする。 『面白き こともなき世を 面白く』
ついでに
原子力むら
笑
しかし、後悔はないですね。生まれ変わったなら、さらに続きをしたいものと思っています。^^
考えてみれば自分はムダ、ムリ、ムラの連続だったと思います。だから、少しでもそういうのを減らせば良かったのですが、なかなか上手くいきません。
自分も開き直って、残り少ない人生をエンジョイできればいいと思います。まあ、どうしようもない“言い訳”ですね(苦笑)
書き始めたとき無駄・無理・斑を
評価するつもりでいたのが、
書いているうちに反対方向へ
向かってしまうというところが
面白く、性格が表れているようです。
(笑)
心温まるコメント、ありがとうございます。
言うことと、やることが違っているというのがよくありますが、この記事もそんなものですね。
ムダ・ムリ・ムラは良くないと言おうとしたのが、まったく逆になりました。
でも、それでいいと思います。それが正直なところで、人間なんて“自己矛盾”の塊みたいなものです。
正直に告白して、残りの人生をできるだけ豊かに過ごしていきたいと願うだけです。失礼しました。
お金にもならない時間を過ごすことを自分で許すことができず、もうこれ以上人生を無駄にできない、なんて無駄な生き方をしてきたんだ…と絶望する日々でしたが、「無駄を恐れるな!」と言っていただけたことで、許されたような気持ちになりました。
(ご予定通り「無駄を無くせ!」という記事だったら、また落ち込んでいたと思います。笑)
本当に救われました。ありがとうございます。ワクワクしながら今日も生きたいと思います。
私など、人生を振り返ると失敗の連続だったと思います。でも、そんなに後悔はしていません。かえって面白かったと思っています。
無駄を恐れるなということは、失敗を恐れるなということにも通じると思います。なぜなら、失敗は結果として無駄と似ているからです。
しかし、何もしなければ失敗も成功もありません。何もしないということは、これほどつまらないものはありません。
意欲や勇気を持って何かをすれば、失敗は付き物です。例えば科学者などは、実験でいくらでも失敗しています。しかし、失敗から発明や発見が生まれるのです。
何もしないということが、最も怠慢なことではないでしょうか。大いに無駄や失敗を恐れずに、進んでいきましょう。