その夜、啓太が南浦和のアパートに帰ると、妻の春江が少し恥ずかしそうに声をかけてきた。「最近、ちょっと太ってきたから体操教室へ通っていいかしら」「えっ、体操教室だって?」啓太が問い返すと、春江は東京・渋谷のM教室に通いたいと言う。彼女は最近、たしかに太めになった感じがする。啓太は別に気にも留めなかったが、若い女性はなにかと気にするのだろう。レッスン代はそんなに高くないようだ。「あ . . . 本文を読む
〈ある若い報道部員の物語〉
啓太が社員食堂で昼食を終え報道部の部屋に戻ってくると、遊軍デスクの下地(しもじ)が待ってましたとばかりに彼を呼んだ。「山本君、あさっての夕方のニュースで『べったら市』の生中継をやりたいと思うんだが、君がやってくれ。技術部のデスクにはもう連絡したよ」「えっ、中継ですか。僕で大丈夫ですかね・・・」啓太は思わず下地に問い返したが、彼は10月の異動で外勤の野党クラブ担当からこ . . . 本文を読む
先日、東京・上野の都美術館に「モネ展」を見に行った。平日の午前中だから空いていると思ったら、もの凄く混んでいたのでビックリした。大変な人気である。それは良いとしても、正直言って面白くなかった。もとより自分は絵画の専門家ではないが、モネと言えば「印象派」の巨匠である。昔、『睡蓮』だかの名画を見て感動したことがあるが、今回も感動すると思っていた。ところが、幾つかの『睡蓮』を見ているうちに、こんなものか . . . 本文を読む
昨日の日記で、渡辺淳一氏の「遠き落日」に感銘したことを書いたが、その渡辺氏が4月30日に東京都内の自宅で前立腺がんのため亡くなっていたことが、今日明らかになった。80歳である。慎んでご冥福をお祈りしたい。渡辺氏は札幌医大を出た医学博士だが作家の道を進み、医学や男女の恋愛をテーマにした作品が多かった。私は日本初の女性医師・荻野吟子(おぎのぎんこ)の生涯を描いた「花埋み」に最も感動したものである。また . . . 本文を読む