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わかっちゃいるけど浮かれちゃう

新刊文庫BLOGレビュー選手権 2005 4月度「TATTOO BLADE」市川丈夫

2005-04-18 00:33:04 | 課題図書
4月度レビュー、「TATTOO BLADE」著:市川丈夫、イラスト:上田夢人、富士見ファンタジア文庫。初回から、かなり厳しい状況になっている。評価点は5点満点で、5が最高点である。

物語:1
ナチスの生き残りに狙われた幼なじみの少女を救え。大雑把にストーリーをまとめると、こういうことになるだろうか。これが、さっぱり面白くない。まず読者は序章で打ちのめされる。第二次大戦で崩壊したナチス第三帝国から脱出するUボートが描かれるのだが、全く軍人に見えない軍人達、稚拙な状況描写。何より致命的なのは、「終戦のローレライ」福井晴敏、の序章とほぼ同じシチュエーションを書いてしまっていること。文章力や構成力、密度が比較にならないだけに、出来の悪さが一層強調されている。
その後も、どこかから引き写してきたような話が最後まで続く。道具立てが平凡でも、面白い物語は存在する。だが、この作品の場合は、描写が稚拙、主人公のトラウマの原因となった過去の事件などの、肝心なところが掘り下げられていないため、非常に薄っぺらい。平たく言うと、パクリの集合体に見えるのだ。
ハッキリ言って、ストーリーの善し悪しを論じるレベルに達していない。よって、評価は1とする。

キャラクター:1
魅力のある人物がいない。主人公はただ強いだけ。ヒロインとの結びつきの強さを物語るようなエピソードもないため、なぜヒロインを守るのか説得力が弱い。ヒロイン自身も単に優しい少女としか描かれていなく、無個性に見える。
唯一、主人公の祖父は魅力的なキャラクターになる可能性があったと思うが、結局人間性が掘り下げられなかったために、中途半端なまま終わっている。
キャラクター小説にすらなり得ていない。よって、この項も評価は1。

舞台設定:1
この作品の舞台は2020年、東京。ということになっている。だが、そうした意味が見出せない。一章の地の文で説明されたきり、社会状況的にも、テクノロジー的にも、2020年を感じさせる描写は存在しない。また、地球温暖化が進み、亜熱帯に近い気候になっているらしいが、結局何も活かされることはない。第一、たった15年でそこまで気候が変わっていたら、生態系が壊れるどころの話では済まないだろう。沖縄と東京の植生や生物の違いを見よ。
敵となるナチスも、ナチスである意味が感じられない。結局、正体不明の寄生生物に寄生されて、主体はそちらになってしまっているのだから、わざわざナチスを引っ張ってくる必要があるのかどうか。
僕には魅力的な面を見つけられなかった。よって評価は1。

文章力:1
この作品を読んで読者が最初に気付くであろうことは、頁の上下がスカスカなこと。つまり、地の文が絶対に二行にまたがらないために、毎行一文字下がっているのだ。徹底して一文ごとに改行が入れられ、段落の意味を理解していないとしか思えない。
構成も最悪といえる。序章が後の展開に対して重要な意味を持っていない。その後も、キャラクターの項でも述べた通り、通常重要と思われる部分が掘り下げられないまま進行していく。シリーズ化を前提にしているのかも知れないが、全く「引き」にもなっていない。ネット上に溢れるアマチュアの作品でもこれより巧みなものはいくらでもある。評価は1。

装丁:2
ファンタジア文庫の標準的な装丁である。表紙はカラーイラスト、口絵のカラーイラスト数点、本編挿絵が数点。ただ、絵のレベルは褒められるレベルではない。人間の体の描き分けができていない。恰幅のいい老人と高校生の少年が同じ体型というのはどうだろう。よって、絵の出来の分マイナスして評価は2。

価格:1
本体価格620円。この本にそんなに払ったかと思うと腹が立ってくる。ページ数は334頁だが、前述の通りスカスカの文章なので、まともに段落付けをして構成し直せば、半分のページ数になるだろう。文句なく評価1。

総評
初回から最低の作品が現れた。ライトノベルに限らず、商業出版でこれよりひどい作品は読んだ事がない。何度も途中で放り投げそうになった。
こんなものが書店に並んでしまうのは大きな問題だと思う。編集者が仕事をしているとは思えない。普段あまりライトノベルを読んでいないのでよくわからないが、まさかこれが標準的なレベルではないと信じたい。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
うはw (はにゃ)
2005-07-18 14:21:40
今更ながらこの記事読んでみましたが

ずいぶんと酷い事がさらさら書いてあって無茶苦茶ウケます(笑)

また何か悲惨なブックレビュー記事をおねがいしますw
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悲惨な本 (XENON)
2005-07-18 21:07:58
この作品、二瓶さんと僕にかなりのダメージを与えておりまして。

実は5月度作品も決定して、二瓶さんと二人で買い込んで読むところまではいっていたんですが、そのあまりにもあんまりの出来にトドメを刺されて、たった1回だけで頓挫しております。

こういう企画はやってて楽しいので、再開したくはあるんですけどね。BF3が片づいたらなんとか。
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ダメージですか。 (はにゃ)
2005-07-24 14:51:52
にゃるにゃるw
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