◆書く/読む/喋る/考える◆

言葉の仕組みを暴きだす。ふるい言葉を葬り去り、あたらしい言葉を発見し、構成する。生涯の願いだ。

ソウルキッズ …23

2005-10-17 21:28:39 | 創作
 アリが人差し指でコルトをくりっと回わした。
「嘘にきまってますよ、ヤツラのいうことなんか!」
 ヤニ色をした腰の皮革製ホルスターに拳銃を入れて、アリはソファに腰掛けた。四人がけのソファがキャシーと二人で人員オーバーになった。
 ビリーが叫ぶ。
「博士、ヘリはあと一分でこちらの制空圏を侵犯します! そろそろ攻撃開始ですね!」
「うーむ……そうだ! ビリー、ヘリの無線はつながってるか?」
「ずっとスタンバイしてますが」
「よしっ! 聞こえるか、ヘリ!」
「……ああ、全部聞こえてるぜ。あんたが博士だって?」
 さっきよりずっとノイズが少ないのは、接近してる証拠だ。
「そう、ドクター・ドビングだ。その位置でホバリングしていなさい。わかるか、一時停止するんだ! このまま進めば、あと一分、いや三十秒でミサイルが訪問します!」
「一時停止ね、車じゃないけどね。了解! だが燃料がねえんだ。どこでもいいから、早いとこ着陸させてくれよ!」
「そっちが勝手に飛んできたんだ。ちょっと待ってなさい!」
 博士はマイクのスイッチをオフにした。
「アリ、とにかく着陸させてやろう。どんな方法がある?」
「うーんと、ですね。どっか開放系の場所、というと海岸線になると思いますが、そこに着陸させます。空港やビル街はだめですね。ヤツラの戦術オプションとして、自爆攻撃も考慮しておく必要があります。装甲車と戦車で、グルッとU字形に取り囲んだ中に降ろすんですよ。それには、まず本部の司令官とお話される必要があります。撃ち落しちゃうってのが、最もシンプルな選択肢ですが」
「なるほど。しかし、わしはシンプル・イズ・ベストとは考えんのじゃ。ビリー、セキュリティー本部につないでおくれ。急いで!」
 アイアイサー、またブラック・ボックスがチャカチャカと鳴る。
 心配顔のキャシーが、横のアリに細い声で訊く。
「ヘリの目的、一体なんだと思う?」
「どうせ悪巧みに決まってるさ! でも大丈夫。ぼくが守ってあげるよ」
 キザ、キザキザキザったらしアリ! でもキャシーはマンザラでもなさそうな顔をしてる。あの二人、怪しくなくない?
「だがな、戦えば負けると決まってるじゃろ? でも民間のヘリたった一機で飛んできた。わしにはそこが納得できん。ビリー、まだですかっ!」
「クゥゥッ! ファイアウオールの壁が厚くて、なかなか本部に侵入できません。でも待って。私は博士の子供ですから」
「ハックやってんだ、ビリー!」
 おれの両手がムズムズしてきた。メアリーの肩を抱く手に力が入った。
「やんっ、痛いってリョウ!」
「ウオッごめーん! あのチャカチャカ音は、ハッキング中の音!」
「ばれました? あとは、このウイルス・チェッカーさえ焼き殺せば!」
 ビリーもけっこう残酷発言。
「逆ウイルスばら撒いて、だましちゃえ!」とおれ。
「ああ、博士お得意の戦術ね。いい方法です、オッケィ!」
 チャカチャカチャカ……。
「侵入成功! 司令部を呼び出します。博士、マイクの準備を!」
 スピーカーからドラ声が流れる。どっかで聞いた声だ!
「ハーイ、本部!」
 アリがソファから立ち上がった。
「ぼくがでます。……司令官、アリです。緊急連絡!」
「アリか、世話焼かしやがって! でもよく生きてたな。いまどこだ?」
「ドビング博士のご自宅です。そんなことより、赤龍人のヘリを作戦コード109で最寄の海岸に着陸させてやってください!」
「コード109だって!? ここはハッピーなシブヤじゃないんだぞ! ヘリのこと、どうしてお前が知ってるんだ?」
 話にならないって感じで、アリは頭を振った。
 その手から、博士がマイクをもぎ取った。
「司令官、ドビングだ。109ってやつでいってくれ!」
「はあ? 博士? なんで? 無断で制空圏を侵犯する飛行物体は、こっちも無断で攻撃する。これセキュリティーの基本、ABCのA、イロハのイなんですよ!」
「わしと話がしたいって、赤龍人がいっておるんじゃ」
「アハハハハ、それデマです。撃ち落されそうになったから煙幕張ってんですよ。おれたちはダマされませんね。防衛はプロに任せてくださいよ!」
「たしかに、きみは優秀なプロである。だが、わしはきみたちの雇用者でもある。いいかね、話がすむまで攻撃は待ってほしい。わかったかね?」
「じゃあ、博士の責任ってことでいいですね? 失敗すればリストラが待ってるんだ。おれだけじゃなく、ワイフやボーイたちもホームレスになっちゃうんですよ!」
「この一件では、内部に犠牲は強いないと約束しよう。じゃあ109でいってくれ。着陸したら、わしが話してみる」
「了解っ!」
 電話が切れた。
「ところで、アリ」
 博士が髪の毛をかきあげた。
「コード109って何?」 《続》


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