窓の下に紙袋を移動させた。袋はけっこう重たくてゴツゴツしていた。おれたちはソファに座り、手をにぎりあった。濃いブルーの目が見つめる。おれの顔が赤外線ランプになる。だけど彼女は気がついていないはず、色黒いんで。ビリーのパイロット・ランプは消えている。
「メアリー、よおくお聞き。なーんてセリフいってみたいけど、なに話したらいいか実はサッパリだ!」
何かひらめいたはずなのに、さっき。
「なんでもいいから、いってみて」
「とりあえず……お父さんが来たんだ、きみの」
メアリーの目が尖がりだした。
ドキドキドキ。困った、思春期のおとぎ話じゃないんだし。
「いつ?」
「今日。きみが買い物にでていって、すぐ」
「やっぱりね、おかしいって思った!」
「はあっ?」最近、こればっかり。
せっかく窓の下に移動させた紙袋を、彼女はまた引きずってきた。こんなの混ぜっ返しとかいうんじゃ、普通? どうしようもなく女性だって思っちゃう。だけど、なんでもかんでも引っぱりだして面白がる子猫みたいで、超かわいい、とか思ってしまう自分もいて。……クソッ。もうなんだっていい。好きにして!
「これ見て!」
「それって、お父さん用の買い物だろ? 早く届けてあげないとマズくない?」
「いいの、腐るもんじゃないし。それにリョウが心配だったし」
床に座りこんで彼女は袋の中をガラガラかきまわした。一個一個、品物を取りだして並べだす。
「買い物って、缶ヅメばっかりだったの!?」
「そう、ほとんど全部。今朝になって、マダム・ドビングに呼び出されたよね。彼女にダディからの買い物メモわたされたの。知ってるよね? 急に予定が入って忙しくなった、かわりにニューシティーのスーパーまで行ってくれって。六階建ての大きなスーパーだった、デパートみたいな。でもメモに書かれてたのは、ヘンテコな食品ばっかり! どこ探していいのか、わからなかった。普通の食品売り場に置いてないのよ。でね、困っちゃって。店の人に訊いたの。そしたら店員さんがメモ見て、速攻で揃えてくれたわ。各階に設けられた各国の特産売り場をまわってね。自分で探してたら、完全に一日が終わってた! ピンときたの、シット! 私をここから遠ざけておくための時間かせぎだったのよ!」
こんなのよ、といって彼女は缶詰のラベルを読みあげた。
「これ、『サボテンの肉』。メキシコ製なんだって。ホントかな? 真っ青な空をバックに、褐色の砂漠、サボテン、テンガロー・ハットかぶってロバに乗ったガンマン? これって、ありきたりのイラストよね。デザイナーに創造性ってないの? 〝醗酵中!〟って注意書きしてる。一年後にはテキーラになる?」
「ヘンなの」とおれ。
「ねっ、ヘンでしょ? じゃあ次よ、見てみて。『マスタード漬・焼アナコンダ』って、なにこれ!?」
「ワアッ、なにそれ!」
「でしょでしょ? 〝牛肉で育てた超高級品。秘境の珍味をあなたに!〟って書いてるけど、プールん中で養殖したってこと? そんな感じのイラストよね、この黄色いラベルの絵。プールじゃ逃げるわよ、普通。ヘビだもん。キリンビールの龍みたいなのが何か呑みこんでる、シッポつきの動物。生きた牛、一頭まるまる餌に? プールに突き落として?」
「おれ信じらんなーい!」
「私も信じらんないわっ! ――こっち見てこっち。『キャビア/サルの惑星』、何なのこれ?」
彼女がラベルを読んでる。フンフンムニュムニュ……。ソラリスのワンカットみたいなフォトつきラベルだ。
「キャーッ!」
「どうかした?」
「たしかにキャビアみたい、サルの脳みそ漬ね!」
「ギャーッ!」
「サソリの佃煮みたいなのもある。ダディもけっこう悪趣味よね。ラベル見ただけで吐きたくなっちゃった。もう止める。日本のスシもあったはず。……ほらこれ、『SUSIDON』だって」
彼女は袋の底から、スシが詰まったポールみたいな発泡スチロール容器を取りだした。上に透明プラスチックのふにゃらけたフタがかぶせてあって、スパイダーマンのイラストが貼ってある。
「あ、これ知ってる! 〝スシづくしチェーン〟のだろ? スシは腐るでしょ」
「よくわかったね。腐ったっていいの、仕返し!」
「ってメアリー。湾岸のニューシティーまでは、フリーウエイで行ったの?」
「うん。ダディの車かっ飛ばして」
「危険な運転しないでくれよ!」
「気になる? でも大丈夫。これでも私、アフリカ・ラリーに参加したんだから」
「ナビだろ? この先左側に大きな岩が出張ってますそこ注意! みたいな」
「当然ドライバーよ。急に目の前に羊がでてきてね。め~ぇっなんて鳴いて道を横断しようとしたのね。ブレーキが間に合わなくて、仕方なくて、車をスピンさせて避けようとしたの。ギャラリーのみなさん、オオオーッって感じで見物してたっけ。でね、羊は助かったんだけど。隣のナビがね、失神してた」
「ぜんぜn嘘クセーよ、それ! ラリーの女性ドライバーなんて、聞いたことないぞ!」
「当然かな。惜しくも四位で、入賞できなかったもん」
「あ、四位ね。うそ八百位じゃなくて」
「困ったダジャレ屋さんねー。私、歯医者さんとダジャレ屋さんって嫌いなの!」
「おれのこと、嫌い?」
「好き!」
「なんで好き?」
「かわいいから、モンチッチみたいで」
「うわっ! そんなプロファイル、だれにも公開してないぞ!」
「いーじゃん、今すれば?」
「やだ、カッコいいほうがいい!」
「じゃあ、なんで私が好き?」
「いま期待してるよね、ぜったい。白雪姫みたいに可愛いから好き、とか」
「ちょっとね。でもいいよ、リョウが好きっていってくれるなら。なんで私が好き?」
「気がついたんだ」
「何に?」
「好きってことさ。ありきたりだけど、ずうっと一緒にいたいって感じ?」
「ああ、それならわかる。私もだわ」
「これもありきたりだけど、ずうっとこのまま仲良しでいたいって感じ?」
「うんうん」
「おれが何しても、許してくれるって感じ?」
「許してあげてもいいよ、リョウなら。私に酷いことしないって信じてるし」
「スカート、めくってもいい?」
「エッチ! いまはあきらめることね。ジーンズだし」
でも、おれはあきらめなかった。スカートをめくる真似をした。チラッ。
「あ、イチゴ!」
「ばかぁ!」
「これってさあ、甘えてるだけ?」
「うーん、わかんない」
「あのさ、おれ。何で体が二個に分かれてるのかって思っちゃったんだ。これって変? 好きってのと無関係?」
「わかんない。けど私もときどき思うよ。私の体のなかにモンチッチが住んでればいいのになって」
「いっちゃダメだ! ビリーが聞いてるかも。ネットに流されたら、おれの素顔がバレバレじゃん!」
「縮れ毛、タレ目、下膨れ、色黒い。でも可愛い!」
「そっと、しておいてくれないか」
「体が一個ならいいっての、ずっとずっと一緒にいて仲よくしたい気持ちと同じよね?」
「あ、そうかも。メアリーって頭いい!」
「ヴィクトリー!」
「でもおれ、メアリーのこと、わかってるわけじゃないよ。いや、わからない人だな。せっかく片付けた紙袋を引っぱりだしたりする人だもん」
「私だってそう。リョウのこと、完璧に理解できたから好きってわけじゃないんだよ」
「なんだかね。仲よくしたいってのと、メアリーのことが理解できたってのとはちょっと違うかな? そりゃ、理解してることもあると思うよ。もっと理解してあげたいよ。でも絶対に理解できない部分ってあるじゃん? なんでも引きずりだしたり」
「そればっかりね。男と女だと、違うところも多いんだよ」
「そうかも。マダム・ドビングなんて、おれにはさっぱりわからない人だな。でね、こう思った。好きって〝毛づくろい〟じゃないかな?」
「毛づくろい?」
「動物園で見なかった? お互いに塩とかノミとか発見して食べてるらしいけど」
「ああ、あれね。私、TVで見た」
「仲いいって以外、何もないでしょ? 言葉も理解もない」
「すこしはサル語もあるらしいよ。学校で習った。波長ってやつかな? よくいうじゃない、波長が合うとか合わないとかって」
「それに近い? でも、なんで波長が合ったりするのかな?」
「うーんとね。ありきたりだけど、やっぱり、やさしいから? リョウは、ずっと私にやさしかった」
「おれ、何にもしてないけどなあ……? ホントこれといって、メアリーに何もしてあげなかった」
「プレゼントくれたとか、一緒にカラオケしたとか、そんなんじゃないの。そばにいるだけでいい。目がやさしい、言葉がやさしい、仕草が私にやさしいの」
「むずかしい! ずっと好きでいられるかどうか自信なくなっちゃうよ!」
「えっとね。私が望んでるように、かな? はじめはミゲルもやさしかった。でもそのうち、やさしくなくなった。それ、ぜんぜん違うって感じ? そこじゃないよって」
「うーん。望んでること? それって女王さまみたくない?」
「プレゼントがほしい、とかじゃないんだよ。でも回復したら、リョウ、一緒にカラオケも行こうね」
「あ、おれ歌ダメ! 全然ダメ! 一曲で六曲くらい唄っちゃうからっ」
「なによ、それ?」
「いや、だから。なに唄ってんのかな状態?」
「ハハハッ、それでもいいわ」
「ぜんぜん違う、とかって。……理解なのかな、やっぱり」
「そうかもね。でも理屈の理解じゃないよね。説明されてわかる理解でもないし。パッとした理解、ひらめく理解、というより直感かな? あそこの花ね、私が生けたの。でも感じるものって人それぞれよね。感じない人とか、無視する人とかもいる。あの花が人だとしたら、パアッと嬉しくなる鑑賞ってあるのよ。そんな感じかな?」
「わかっちゃった! やっぱり好きって、ひとつの理解なんだ。でも普通の理解じゃない。なんかもっと体で受信するんだ。お互い、ぐっと近づいちゃう理解なんだ」
「好きになると、体が近づくよね。理解は接近」
「だからだ! なんでメアリーと別々の体なのって思った理由!」
「延々お話して、リョウは何かわかった?」
「わかっちゃった、メアリーが好きなんだってこと。いまならホントに好きっていえる!」
「私も! 好きって、あんまり言葉いらないんだね。サル語くらいでいい? でもプレゼントはほしい」
「さっき、いらないっていった!」
「メタファーよ、好きの!」
「これだからな、女ってば!」
プチ。キュゥゥゥゥゥ……。 《続》
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「メアリー、よおくお聞き。なーんてセリフいってみたいけど、なに話したらいいか実はサッパリだ!」
何かひらめいたはずなのに、さっき。
「なんでもいいから、いってみて」
「とりあえず……お父さんが来たんだ、きみの」
メアリーの目が尖がりだした。
ドキドキドキ。困った、思春期のおとぎ話じゃないんだし。
「いつ?」
「今日。きみが買い物にでていって、すぐ」
「やっぱりね、おかしいって思った!」
「はあっ?」最近、こればっかり。
せっかく窓の下に移動させた紙袋を、彼女はまた引きずってきた。こんなの混ぜっ返しとかいうんじゃ、普通? どうしようもなく女性だって思っちゃう。だけど、なんでもかんでも引っぱりだして面白がる子猫みたいで、超かわいい、とか思ってしまう自分もいて。……クソッ。もうなんだっていい。好きにして!
「これ見て!」
「それって、お父さん用の買い物だろ? 早く届けてあげないとマズくない?」
「いいの、腐るもんじゃないし。それにリョウが心配だったし」
床に座りこんで彼女は袋の中をガラガラかきまわした。一個一個、品物を取りだして並べだす。
「買い物って、缶ヅメばっかりだったの!?」
「そう、ほとんど全部。今朝になって、マダム・ドビングに呼び出されたよね。彼女にダディからの買い物メモわたされたの。知ってるよね? 急に予定が入って忙しくなった、かわりにニューシティーのスーパーまで行ってくれって。六階建ての大きなスーパーだった、デパートみたいな。でもメモに書かれてたのは、ヘンテコな食品ばっかり! どこ探していいのか、わからなかった。普通の食品売り場に置いてないのよ。でね、困っちゃって。店の人に訊いたの。そしたら店員さんがメモ見て、速攻で揃えてくれたわ。各階に設けられた各国の特産売り場をまわってね。自分で探してたら、完全に一日が終わってた! ピンときたの、シット! 私をここから遠ざけておくための時間かせぎだったのよ!」
こんなのよ、といって彼女は缶詰のラベルを読みあげた。
「これ、『サボテンの肉』。メキシコ製なんだって。ホントかな? 真っ青な空をバックに、褐色の砂漠、サボテン、テンガロー・ハットかぶってロバに乗ったガンマン? これって、ありきたりのイラストよね。デザイナーに創造性ってないの? 〝醗酵中!〟って注意書きしてる。一年後にはテキーラになる?」
「ヘンなの」とおれ。
「ねっ、ヘンでしょ? じゃあ次よ、見てみて。『マスタード漬・焼アナコンダ』って、なにこれ!?」
「ワアッ、なにそれ!」
「でしょでしょ? 〝牛肉で育てた超高級品。秘境の珍味をあなたに!〟って書いてるけど、プールん中で養殖したってこと? そんな感じのイラストよね、この黄色いラベルの絵。プールじゃ逃げるわよ、普通。ヘビだもん。キリンビールの龍みたいなのが何か呑みこんでる、シッポつきの動物。生きた牛、一頭まるまる餌に? プールに突き落として?」
「おれ信じらんなーい!」
「私も信じらんないわっ! ――こっち見てこっち。『キャビア/サルの惑星』、何なのこれ?」
彼女がラベルを読んでる。フンフンムニュムニュ……。ソラリスのワンカットみたいなフォトつきラベルだ。
「キャーッ!」
「どうかした?」
「たしかにキャビアみたい、サルの脳みそ漬ね!」
「ギャーッ!」
「サソリの佃煮みたいなのもある。ダディもけっこう悪趣味よね。ラベル見ただけで吐きたくなっちゃった。もう止める。日本のスシもあったはず。……ほらこれ、『SUSIDON』だって」
彼女は袋の底から、スシが詰まったポールみたいな発泡スチロール容器を取りだした。上に透明プラスチックのふにゃらけたフタがかぶせてあって、スパイダーマンのイラストが貼ってある。
「あ、これ知ってる! 〝スシづくしチェーン〟のだろ? スシは腐るでしょ」
「よくわかったね。腐ったっていいの、仕返し!」
「ってメアリー。湾岸のニューシティーまでは、フリーウエイで行ったの?」
「うん。ダディの車かっ飛ばして」
「危険な運転しないでくれよ!」
「気になる? でも大丈夫。これでも私、アフリカ・ラリーに参加したんだから」
「ナビだろ? この先左側に大きな岩が出張ってますそこ注意! みたいな」
「当然ドライバーよ。急に目の前に羊がでてきてね。め~ぇっなんて鳴いて道を横断しようとしたのね。ブレーキが間に合わなくて、仕方なくて、車をスピンさせて避けようとしたの。ギャラリーのみなさん、オオオーッって感じで見物してたっけ。でね、羊は助かったんだけど。隣のナビがね、失神してた」
「ぜんぜn嘘クセーよ、それ! ラリーの女性ドライバーなんて、聞いたことないぞ!」
「当然かな。惜しくも四位で、入賞できなかったもん」
「あ、四位ね。うそ八百位じゃなくて」
「困ったダジャレ屋さんねー。私、歯医者さんとダジャレ屋さんって嫌いなの!」
「おれのこと、嫌い?」
「好き!」
「なんで好き?」
「かわいいから、モンチッチみたいで」
「うわっ! そんなプロファイル、だれにも公開してないぞ!」
「いーじゃん、今すれば?」
「やだ、カッコいいほうがいい!」
「じゃあ、なんで私が好き?」
「いま期待してるよね、ぜったい。白雪姫みたいに可愛いから好き、とか」
「ちょっとね。でもいいよ、リョウが好きっていってくれるなら。なんで私が好き?」
「気がついたんだ」
「何に?」
「好きってことさ。ありきたりだけど、ずうっと一緒にいたいって感じ?」
「ああ、それならわかる。私もだわ」
「これもありきたりだけど、ずうっとこのまま仲良しでいたいって感じ?」
「うんうん」
「おれが何しても、許してくれるって感じ?」
「許してあげてもいいよ、リョウなら。私に酷いことしないって信じてるし」
「スカート、めくってもいい?」
「エッチ! いまはあきらめることね。ジーンズだし」
でも、おれはあきらめなかった。スカートをめくる真似をした。チラッ。
「あ、イチゴ!」
「ばかぁ!」
「これってさあ、甘えてるだけ?」
「うーん、わかんない」
「あのさ、おれ。何で体が二個に分かれてるのかって思っちゃったんだ。これって変? 好きってのと無関係?」
「わかんない。けど私もときどき思うよ。私の体のなかにモンチッチが住んでればいいのになって」
「いっちゃダメだ! ビリーが聞いてるかも。ネットに流されたら、おれの素顔がバレバレじゃん!」
「縮れ毛、タレ目、下膨れ、色黒い。でも可愛い!」
「そっと、しておいてくれないか」
「体が一個ならいいっての、ずっとずっと一緒にいて仲よくしたい気持ちと同じよね?」
「あ、そうかも。メアリーって頭いい!」
「ヴィクトリー!」
「でもおれ、メアリーのこと、わかってるわけじゃないよ。いや、わからない人だな。せっかく片付けた紙袋を引っぱりだしたりする人だもん」
「私だってそう。リョウのこと、完璧に理解できたから好きってわけじゃないんだよ」
「なんだかね。仲よくしたいってのと、メアリーのことが理解できたってのとはちょっと違うかな? そりゃ、理解してることもあると思うよ。もっと理解してあげたいよ。でも絶対に理解できない部分ってあるじゃん? なんでも引きずりだしたり」
「そればっかりね。男と女だと、違うところも多いんだよ」
「そうかも。マダム・ドビングなんて、おれにはさっぱりわからない人だな。でね、こう思った。好きって〝毛づくろい〟じゃないかな?」
「毛づくろい?」
「動物園で見なかった? お互いに塩とかノミとか発見して食べてるらしいけど」
「ああ、あれね。私、TVで見た」
「仲いいって以外、何もないでしょ? 言葉も理解もない」
「すこしはサル語もあるらしいよ。学校で習った。波長ってやつかな? よくいうじゃない、波長が合うとか合わないとかって」
「それに近い? でも、なんで波長が合ったりするのかな?」
「うーんとね。ありきたりだけど、やっぱり、やさしいから? リョウは、ずっと私にやさしかった」
「おれ、何にもしてないけどなあ……? ホントこれといって、メアリーに何もしてあげなかった」
「プレゼントくれたとか、一緒にカラオケしたとか、そんなんじゃないの。そばにいるだけでいい。目がやさしい、言葉がやさしい、仕草が私にやさしいの」
「むずかしい! ずっと好きでいられるかどうか自信なくなっちゃうよ!」
「えっとね。私が望んでるように、かな? はじめはミゲルもやさしかった。でもそのうち、やさしくなくなった。それ、ぜんぜん違うって感じ? そこじゃないよって」
「うーん。望んでること? それって女王さまみたくない?」
「プレゼントがほしい、とかじゃないんだよ。でも回復したら、リョウ、一緒にカラオケも行こうね」
「あ、おれ歌ダメ! 全然ダメ! 一曲で六曲くらい唄っちゃうからっ」
「なによ、それ?」
「いや、だから。なに唄ってんのかな状態?」
「ハハハッ、それでもいいわ」
「ぜんぜん違う、とかって。……理解なのかな、やっぱり」
「そうかもね。でも理屈の理解じゃないよね。説明されてわかる理解でもないし。パッとした理解、ひらめく理解、というより直感かな? あそこの花ね、私が生けたの。でも感じるものって人それぞれよね。感じない人とか、無視する人とかもいる。あの花が人だとしたら、パアッと嬉しくなる鑑賞ってあるのよ。そんな感じかな?」
「わかっちゃった! やっぱり好きって、ひとつの理解なんだ。でも普通の理解じゃない。なんかもっと体で受信するんだ。お互い、ぐっと近づいちゃう理解なんだ」
「好きになると、体が近づくよね。理解は接近」
「だからだ! なんでメアリーと別々の体なのって思った理由!」
「延々お話して、リョウは何かわかった?」
「わかっちゃった、メアリーが好きなんだってこと。いまならホントに好きっていえる!」
「私も! 好きって、あんまり言葉いらないんだね。サル語くらいでいい? でもプレゼントはほしい」
「さっき、いらないっていった!」
「メタファーよ、好きの!」
「これだからな、女ってば!」
プチ。キュゥゥゥゥゥ……。 《続》
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