◆書く/読む/喋る/考える◆

言葉の仕組みを暴きだす。ふるい言葉を葬り去り、あたらしい言葉を発見し、構成する。生涯の願いだ。

おれの青春

2011-01-20 04:02:00 | 創作
 ◇

おれにも、青春ってあったのか。

あったような気もするし、

夢、幻だったようにも思う。


ただ、若かった日とともに、

別れの痛みだけは、

リアルに残っている。


あれが青春なら、

おれの青春って、案外、

つまんなかったな。


秋の寸劇

2010-11-26 17:02:21 | 創作
○いよいよ大学の銀杏並木も色づきはじめた。キャンパスを宇宙服みたいなブヨブヨ系が足早に行きかっている。半裸状態の男女であふれた、あの刺激的な季節は完全に終わったのだ。全身をキュインと貫く感情が走った。これって、卒業した高校のグラウンドで感じたのと一緒じゃん。憂国青年の夏冬用スニーカーは学食に向かっていた。栄養が足りないからだ。アンパン買って、食いながら帰ろう。

憂国青年:おばっちゃ―ん!
労働婦人:久しぶりだねー。卒業したのかい?
憂国青年:う。
労働婦人:よっぽど大学が好きなんだね。
憂国青年:わ。
労働婦人:あんたが好きなアンパン、一個だけ残ってんだけどねー。
憂国青年:くださーい。
労働婦人:予約が入ったんだよ。売り切れ。
憂国青年:そりゃないっす。アンパンの予約なんて、聞いたことがなーい!
労働婦人:あたしだって聞かないけど。いまさっき、予約電話があったのさ。
憂国青年:殺してやる。
労働婦人:おだやかじゃないね、歳のわりには。
憂国青年:ひ。
労働婦人:そら、受け取りにきたよ。

○もう学食は閉店に近いので、明かりは半分に落としている。
他に人がいない学食に、冷たい風がビワッと吹き込んできた。

愛国先生:やーすまんすまん、山崎さん。遅くなっちまって。
憂国青年:なんだ、先生か。
労働婦人:次の予約は、クリスマスケーキにしてくださいよ。じゃ、これ。
愛国先生:ニコニコ。
憂国青年:やだ、ぼくが先にきた!
愛国青年:盗るな! 予約したのだ!
憂国青年:引っ張っちゃダメだ。袋が破れちゃう!
愛国先生:あきらめろ!
憂国青年:そっちこそ!
労働婦人:二人とも止めーいっ! 見苦しい!

○山崎さんは太い腕をのばしてアンパンを引っつかむと、それを空中に放り投げた。

労働婦人:チェーストーッ!
愛国先生:な、なんと。
憂国青年:ぽかーん。

○うす暗い蛍光灯の下で、包丁がキラリと一閃。
ふたつになったアンパンが二人の手に落ちてきた。

労働婦人:あたしの腕も、まだまだ鈍っちゃいないね。
愛国先生:・・・・・・。
憂国青年:・・・・・・。
労働婦人:30円ずつ、いただきます。
愛国先生:でも。
憂国青年:アン。
愛国先生:どっちか。
憂国青年。そう、片寄ってるはずだ!
愛国先生:わし、そっち!
憂国青年:やだ!
労働婦人:うちのアンは、ちゃんと真ん中です!
愛国先生:この身が引き裂かれる思いじゃ。
憂国青年:重さを計って値段をきめよう!
愛国先生:どっちも、わしのだ!
憂国青年:こっちのセリフ!
労働婦人:ブン、ブンッ!
愛国先生:わわわっ!
憂国青年:ひーっ、危ね!
労働婦人:はやく30円。今度は、この包丁で首が飛ぶよ!

○学食の外は日が落ちて、うす暗くなっている。ガタ、ガタンと音がしたのは、首じゃなく、自販機からコーヒーとカフェオレが落ちてきたからだ。

愛国先生:ほら。
憂国青年:ありがとうございます。
愛国先生:あんな人材がいたとはな。
憂国青年:チェースト! っていってましたよね。
愛国先生:おお、薩摩剣法じゃ。
憂国青年:どことなし、西郷隆盛に似てる。
愛国先生:首が落ちるぞ!
憂国青年:いい思い出ができました。
愛国先生:ん? ……卒業できるのか?
憂国青年:まだ、わかりませんが。
愛国先生:寂しくなるのー。
憂国青年:遊びにきますよ。
愛国先生:子どもをつれてな。
憂国青年:じゃあ、十年先に。
愛国先生:君が受講してから、もう一年か。
憂国青年:一週間くらいの感じですけど(笑)。
愛国先生:いや。正確には2、3回じゃろ(笑)。
憂国青年:その割りには場外授業が多かったです。
愛国先生:わしの思い出は、競馬かな。
憂国青年:場外馬券(笑)。

○風が吹いて銀杏の葉が舞った。
学食の明かりが消えた。(暗転)


笑える尖閣と秘密ごっこ

2010-11-14 04:24:50 | 創作
○短い石段を飛び降りて、大学の図書館から出てきたのは、あの憂国青年だった。しらけた光が拡散して影をうしなったキャンパスでも、電気代をけちった薄暗い館内に比べれば光量の激差があるのだろうか。久しぶりに去年のジャンパーを着こんだ彼は、立ち止まって、目を2、3回、瞬かせた。
体温をうばう風が吹いてきた。プラタナスの葉っぱをガサガサ掃き寄せていく。その先に視線をはわせた憂国青年は、思わずジャンパーの襟をかき寄せて、逆方向へ大またで歩きだそうとした。舞い上がったプラタナスの枯れ葉、砂ボコリの向こう側に、奇妙な殺気を感じたからだった。

愛国先生 プアアッ、ペペ。やあ、また君か!
憂国青年 あ先生。ではまた。
愛国先生 待ちたまえ。私を嫌っているのかね。
憂国青年 やや、それは誤解です。キッパリと。
愛国先生 ほーかい。なら前回の白紙答案も、好意的に解釈しなおそうかな。
憂国青年 ぜひぜひ、お願いしまーす!!
愛国先生 ま、最近はいろいろ笑わせてもらってるので。
憂国青年 そんなに、僕という存在は笑えます?
愛国先生 いや君じゃない、尖閣だよ。
憂国青年 ハァ? 尖閣が笑えるなんて、右翼に暗殺されますよ!!
愛国先生 この腹にナイフが刺さったら、わしのメタボも凹んでくれるわい。
憂国青年 なんだか、血なまぐさいタトエですね。

○またキャンパスに風が吹き、掃き寄せられる葉っぱのガサガサした音が聞こえた。愛国先生はクルリと向こうを向いて、こっちに背中で歩いてきた。

憂国青年 こんな格好で対話ですか、先生。つまり、二人とも風下を見ながら並んで、っていうか。
愛国先生 これが世界に流行る冬用の対話なのじゃ。日・米・中・露、そろいもそろって、みんな風下向きに話しているのがわからんか。自国の繁栄という風下に向かって。
憂国青年 なーる……。
愛国先生 通貨安の競争が主題だったはずのG20は、なにも合意されずに終わった。高級な韓国料理をムシャムシャ食い散らかしただけだ。このままじゃダメってことは、みんな十分に理解している金融世界の頭脳たちが、無結論だった。
憂国青年 G20って、AKB48の対抗?
愛国先生 バ、バッカモーン!! さてはお前、いまオンナ狂いしているな? G20ってのは"Group of Twenty"の略じゃ。主要20カ国の中央銀行総裁たちとIMF、FRBらの首脳が集まって、いろいろ世界の金融問題について会議するのじゃ。G20が金融サミットとも呼ばれる理由じゃよ。君用に説明するが、代沢や深沢にあるスーパー・サミットじゃないからな。三日前の講義で説明したホットな話題でね。また欠席したんだ……。じゃー青年、元気でな!!

○青年の顔も見ないで立ち去ろうとする先生。卵型にハゲた後頭部が、気のせいか赤くなっている。クスッと笑った憂国青年は、しかしその血色に来るべき自分の悲運を激しく予感した。

憂国青年 あっ待って。待ってくださいーい、先生!! 思い出しました、G20。
愛国先生 うぬ、思い出したか。血のめぐりが悪いやつじゃ。
憂国青年 血のめぐり? たしかによくないですね、先生の頭ほどには。
愛国先生 そーか。わしの頭脳を、そんなにも評価しておるのか。
憂国青年 だ、だから、G20は知ってます。講義に欠席しましたけど、テレビで見ました!!
愛国先生 うむ。AKB48のおバカ番組じゃなく。そこは評価できるぞ。
憂国青年 で、さっきのお話。尖閣が笑える、とかの……。
愛国先生 あ、あれね。次の講義で話すつもりじゃ。
憂国青年 すんげー激突でしたよね!!
愛国先生 次の講義でな。
憂国青年 海保の船員たち、海に振り落とされないかとハラハラしちゃいました!!
愛国先生 彼らも命がけで仕事しておるようじゃな。
憂国青年 ですから、笑ったりしたら失礼じゃないですか。彼らは真剣なんですよ。
愛国先生 バッカモン。わしは海保の保安官たちを笑ってるんじゃないわい!!
憂国青年 じゃ、なんで笑うんですか。殺されますよ。
愛国先生 ユーチューブに流出したビデオをめぐって、いい大人たちが右往左往しているからじゃ。ブデオが何個の物語を拡散したか、わかるか?
憂国青年 ブデオじゃないっす。ビ、デ、オ。
愛国先生 まず、命がけで働く海の男たちへの賞賛物語がある。これは漫画『海猿』から連続した、わかりやすい物語だ。わしだって同意できる。
憂国青年 先生も、たまには漫画(笑)。
愛国先生 テレビじゃよ。次の代表的な感想は、「なんだ、この程度の衝突だったのか」だ。中国の国内では、互いに直角に激突したと報道されておったので、この感想物語にも一理ある。
憂国青年 なるほど、おなじブデオの感想にも、いろいろあるものですね。
愛国先生 ブデオじゃなくて、ビ、デ、オ。流出したビデオの感想には、こんなの見たくなかったとか、これは日本にとって危険な映像だとかの物語は全然なかった。これが特徴じゃ。みんなが見て楽しんだ。
憂国青年 うーん。それでテレビが、これが秘密のビデオです、つって流す理由もわかりますね。
愛国先生 そーそー。国家の秘密なら、わざわざ何回も一般向けに放映しなくてもいいだろうに。視聴率を気にするテレビ局は、放映こそが自分に有利と判断した。そこも笑っちゃう理由だ。この秘密を流しまくったら、国民受けして視聴率が稼げると。
憂国青年 だけどっていうか、日本にとって危険なビデオじゃなかったっていうか、中国の漁船のほうが体当たりしてきた結論は、なにも変わりませんでしたね。
愛国先生 君はさえてる。「良」なら上げてもいいくらいだ、講義に出席したらね。そこがポイント。国家の秘密とは、一般の国民に知られたら政治が変わってしまう事実をいう。国民にたいする隠し事なのじゃ。暴かれたら困るので、ときの政権は、党内の議員や国家公務員にかん口令を命じるのだ。
憂国青年 ってことは、国家の秘密にするほどのビデオじゃなかったってこと?
愛国先生 ザッツ・ライト!!
憂国青年 だけど菅総理も仙谷官房長も、ビデオ流出にはカンカンに怒っているみたい。
愛国先生 だから面白い。笑える。まるで小学生の「秘密ごっこ」だろ?
憂国青年 ああ。なんでもないことを秘密にして、仲間意識を保つってやつ。
愛国先生 そーそー。こんどは「優」をあげてもいい。講義にでてくればな。
憂国青年 出ますよ。あさってですよね?
愛国先生 バッカモーン、それじゃ月曜日! しあさっての火曜日じゃ!
憂国青年 もう「明日」ですから。僕が正確です。
愛国先生 とにかくだ、君の言葉を借りれば「仲間意識」ってやつが中心だ。それ以外に、菅と仙谷が秘密・秘密と騒ぐ理由はなにもない。彼らの頭のなかが小学校なのだ。笑えるだろう。
憂国青年 笑えませんよ。日本を背負っているお二人の頭が小学校なんて事実。
愛国先生 じゃあ、首相官邸がファッション・ホテルになるとしたら、どうだ?
憂国青年 なんてことを! 尖閣で官邸が連れ込みホテルになるはずないっしょ!!
愛国先生 それが、なるんだ。
憂国青年 首相官邸まで、とうとう民間の風俗産業に身売りして、民営化……。
愛国先生 そうじゃない。仙谷と菅は、公務員法の違反を強調して、国家公務員の口を封じようとしておる。それのみか、自分のメモを盗写されたと新聞社の撮影を制限しようともくろんでいる。
憂国青年 ポルノと、どう関係が?
愛国先生 アメリカのクリントン元大統領が、秘書のモニカ嬢とホワイトハウスでセックスした。
憂国青年 あ、知ってます。ケネディー暗殺みたく有名な事件ですよ。
愛国先生 一回の挿入が何億ドルかも想像できないくらい、贅沢な挿入を気持ちよく何回も何日も繰り返した。この現場を目撃した国家公務員は、それでも口を封じられるか? その現場を読売新聞が盗写したら、どっちがどうなんだ?
憂国青年 ちょっと極端な例じゃないっすか、先生。
愛国先生 うんにゃ。権力でひとの口を封じるとは、そういう問題とも深い関係がある。女性秘書や女性議員は、くれぐれも菅と仙谷には単独で近づかないこと。セクハラが危ない。
憂国青年 国家公務員とか新聞社に注意を与えるとか、これは国家の秘密だと指示するのはいいけど、口封じはできない……?
愛国先生 そのとおりじゃ。とくに秘密でもないのに、秘密にするのは下心がある。そのうえ、中国にくらべれば民主主義が発達した日本に、国民にたいする隠し事はもう通用しない。ここが自民党の時代と大いに違っているのだ。わからんチンを内部告発する行為は、これからの日本にことのほか重要なのじゃ。
憂国青年 大体のところは理解できましたが、バイトに遅れそう! では先生、またの日に!
愛国先生 おお、うっかり次の講義をしゃべってしまった。また欠席だな、あいつ……。



老害確率と新自由主義

2010-10-12 08:19:36 | 創作
○そのころ愛国先生は、国際フォーラムの出口から夜の街路に排出されていた。

愛国先生:チッ、今日の講演は実にくだらんかった!

○おなじころ憂国青年は、丸の内のオアゾで彼女と別れを惜しんでいた。

憂国青年:もう帰さないとね。また会える?
憂国彼女:ゴメンね。石神井は遠いし、交通が不便なの。キスして!
憂国青年:ゲッ。ここで?
憂国彼女:だれも見てない!

○地下鉄の改札口で彼女を見送った憂国青年は、また外にでた。JRの改札口まで地下通路は連絡していたが、夜の空気を吸いたかった。あいかわらず、空には星が一個も見えなかった。だが今日は、いつにもまして闇が輝いていた。深呼吸を2、3回すると、どうしようもなく顔の筋肉が緩んできて、ちょっと恥ずかしくなった。JRの改札口に向かおうと、横断歩道に足を踏み出したときだった。向こう側から、こっちをじっと見ている視線に気がついた。

憂国青年:やあ、先生。またお会いしました。
愛国先生:あんまり喜んではおらんようじゃな。
憂国青年:なことないですけど。偶然にしては出来すぎって驚きました。
愛国先生:偶然も、後から思えば必然になるものじゃよ。
憂国青年:それって、ちょっと哲学っぽい感じですね。
愛国先生:青年よ、考えつづければいい。
憂国青年:はあ…。でも、理解できなさそーなことばっかりで。
愛国先生:そりゃ、大人でもおなじじゃ。
憂国青年:ほんとですか?
愛国先生:理解できたつもりの大人と、理解した振りをする大人がいるだけじゃ。
憂国青年:へー。どっちも理解できてる、みたいな?
愛国先生:そうじゃ。そして自分の理解とやらを、他人に向かって大声でしゃべる。
憂国青年:ハハハ。たしかに、老害そのまんま!
愛国先生:こんなこともあった。
憂国青年:また尖閣?
愛国先生:いや、民主党の小沢氏の件じゃ。
憂国青年:検察と民主主義?
愛国先生:10月22日発売の『週刊朝日』(p.29)に、「確率は0.12%」と掲載された。
憂国青年:なんですか、その確率って?
愛国先生:検察審査会の平均年齢じゃよ、小沢氏を「起訴相当」と判断した人々の。
憂国青年:わかりませんねえ、どこが問題なのか?
愛国先生:ばかもーん! 年齢層がかたよりすぎているからじゃ。
憂国青年:つまり? 人選にイカサマがあった?
愛国先生:そのとおり。平均年齢が30.90歳なように、国民から選ぶ確率が、0.12%。
憂国青年:検審会の人選って、国民からの抽選でしたよね、たしか。
愛国先生:そう。サイコロ賭博で11人を選ぶんじゃ。
憂国青年:サイコロ賭博(笑)。それなら、低い確率の出来事も起こりえますね。
愛国先生:ところがじゃ。
憂国青年:そこで話は終わんないんですか?(やれやれ…)
愛国先生:私が若いころは、と話す者もいたりする。
憂国青年:なんですか、それ?
愛国先生:若いときは暇してたけど、年取るにつれて忙しくなったと。
憂国青年:だから、何なんでしょうか?
愛国先生:だから、選ばれた人のうち若い者はOKしたが、年取るほどNOだった。
憂国青年:あはははは。なので確率0.12%になった、イカサマじゃないんだと。うまい!
愛国先生:そう。これが老害ってやつだから、気をつけることじゃ。
憂国青年:僕は大丈夫。そんなペテンに引っかかりませんけど、お年寄りたちは…。
愛国先生:オレオレ詐欺に引っかかった世代が気になる。
憂国青年:イチコロでしょうね。そんな詐欺師にかかっちゃ。
愛国先生:どこが詐欺なのか、わかりますか?
憂国青年:どこって、えと。自分の過去の思い出が、えと…。
愛国先生:確率0,12%との関係は?
憂国青年:あ、そうだ。過去の思い出が数値に換算されていない!
愛国先生:できないよね。なぜだろう?
憂国青年:そりゃ、不可能ですよ。人それぞれの過去の記憶なんて!
愛国先生:まあまあだな。偏差値120!
憂国青年:100は出ましたか。
愛国先生:これは老害の例だったが、自分を一般化する脆弱な思想は現代の特徴でもある。
憂国青年:でました、先生のご専門!
愛国先生:一般には「新自由主義」といってね、人間をパチンコ玉みたいに考えるんじゃ。
憂国青年:よけい、わからくなってきました・・・。
愛国先生:自由であり、孤独であり、勝手気ままであり、ほかと関係なく存在し…。
憂国青年:あ、わかった。なので自分だけの利益を追求していい。人の迷惑なんて考えない。
愛国先生:失敗したり困っている人がいても、その人自身が原因。だれも助ける必要はない。
憂国青年:なるー。新自由主義って、自分の記憶を一般化する老害と基本おなじですね?
愛国先生:老害は理性を私的にしか利用できない。キミは「優」だ。明日から授業に出なさい。
憂国青年:うわー、ちょっとそれって。理性の私的利用、ペテンじゃないっすか先生!


憂国と愛国の尖閣諸島

2010-10-04 14:32:46 | 創作
有楽町の街角で、憂国青年と愛国先生がバッタリ出会った。

憂国青年:あ、先生。お久しぶりです!
愛国先生:やあ、万年欠席のキミか!
憂国青年:大変なことになってきましたね。
愛国先生:ああ、スティーヴン・J・キャネルが死んだ。
憂国青年:いや、『特攻野郎Aチーム』のプロデューサーじゃなく。
愛国先生:こっちはレトルト食品だ。
憂国青年:って?
愛国先生:加熱されたり、急冷されたりの毎日で。
憂国青年:天候? それも大変ですが、尖閣諸島。
愛国先生:やっと本題に入れそうだね。
憂国青年:わかってらっしゃったんですか? あいかわらず、人が悪い。
愛国先生:フォッフォフォ。お人よしでは生きてはいけない。
憂国青年:なんか、モジってます?
愛国先生:日本の核武装しかなーい!
憂国青年:来ましたっ!! その心は?
愛国先生:海保の艦船に体当たりしてきたろ、中国の漁船が。
憂国青年:それが事件の始まりでした。
愛国先生:そんな無謀は許せん!!
憂国青年:はい、許せません。
愛国先生:それを簡単に許したのが、那覇の検察だ!!
憂国青年:乗員だけじゃなく、船長までも解放しちゃいました。
愛国先生:それも、地方の一検察組織が判断してだぞ!!
憂国青年:まるで外務大臣の面(ツラ)して、コメント発表。検察は問題が多すぎ!
愛国先生:検察は解体じゃ。政府も、重大な外交問題という認識が全然なかった!!
憂国青年:中国は違いましたね。謝罪、賠償など着々と手を打ってきました。
愛国先生:これからの経済交流も、どうなるかわからんくらい大きな外交問題じゃ。
憂国青年:レアアースとか、すごい問題と関連してきましたね。
愛国先生:日本のサラリーマンが4人も逮捕されたんだぞ。
憂国青年:3人は解放されました。
愛国先生:腑抜け・腰抜けの菅内閣を助けようとして、小沢氏が動いたからじゃ。
憂国青年:は? 中国を訪問したのは細野前幹事長代理じゃ?
愛国先生:いつまでたってもガキじゃ!
憂国青年:ども。先生の教育がよろしいようで。
愛国先生:バッチもん! 一個でも「優」を取ってからいうんだな!
憂国青年:バッチもん(偽もの)、ですか……。
愛国先生:細野さんは小沢派の衆院議員だ。
憂国青年:そんなの、どこにも書いてないっす。
愛国先生:だからバッチもん! なんのためのネットじゃ? 美人画像のためかっ!
憂国青年:ってことは……たまに(笑)。先生も独身でいらっしゃいますからね。
愛国先生:ウルトラマッハ・バッチもんじゃ!
憂国青年:こんな繁華街で恥ずかしいじゃないですか先生!
愛国先生:群集なんて書こうとしないマスコミとおなじ、金魚のフンじゃ。気にするな。
憂国青年:じゃ、帰ったらウィキでも見ます。
愛国先生:にもかかわらずだ、もう一人は捕まったまま。
憂国青年:どーなるんですか?
愛国先生:菅内閣が手を打てないからじゃよ。小沢派の1/4も実力がない。
憂国青年:はぁはぁ。4人のうちのひとりも解決できないので、1/4。
愛国先生:三権分立もできない国体のチグハグさ、しかも腰抜け!
憂国青年:だったら、どうすれば?
愛国先生:だから核じゃ。これしかない!!
憂国青年:その心……。
愛国先生:まだわからんのか! 偏差値90!!
憂国青年:100を割りましたか。
愛国先生:中国にしても北朝鮮、ロシアにしても、まわりは野蛮な国だらけじゃ!
憂国青年:日本もおかしいけど、まあ同意できますね。
愛国先生:武器もった相手がウジャウジャいるんだから、こっちも武器をもつ!
憂国青年:はあ……。
愛国先生:敵を知れば百戦連勝!
憂国青年:敵を知る、ですか……。
愛国先生:もちろんじゃ。これで弱腰外交にも、ぐじゃぐじゃ国体にも背骨が入る!
憂国青年:背骨、っすか。
愛国先生:そーじゃ。食えば喉に小骨が引っかかると思わせるんじゃ。
憂国青年:小骨……。しかし、それって外交ですか?
愛国先生:もちろん。しかも日本という国がしっかりする。質問は?
憂国青年:敵を知るって、おっしゃいましたよね?
愛国先生:孫子の兵法じゃ。
憂国青年:相手に合わせること?
愛国先生:そー来るなら、こー行くみたいなもんじゃな。
憂国青年:戦術っていうより、考え方を合わせる?
愛国先生:外交は戦争の一種。
憂国青年:近隣諸国を、たしか野蛮とおっしゃいましたが。
愛国先生:疑問の余地なく、かれらは野蛮人じゃ!
憂国青年:なら、日本も野蛮人になったほうがいいと?
愛国先生:むっ。だが、上品ばかりじゃ生きてはいけないのだ。
憂国青年:またモジリですか(笑)。ちょっと考えさせてもらいます。
愛国先生:次のテストに間に合うようにな!
憂国青年:先生の授業を取る必要があるかを含めて、考えたいんですよ。
愛国先生:うっ。私の真実に気がつかないのか、超バッチもんが!!
憂国青年:バッチもんのほうが、お手軽でいいかも。
愛国先生:ブァッカモーン!! 鳩の羽根より軽いヤツ!!
憂国青年:デートに遅れそう。失礼しまーす!!


銀座のデスマッチ

2010-03-07 23:02:26 | 創作
平成20年3月×日。銀座7丁目の歩道で、昔の友人AくんとBくんが行きあわせた。
Aくんはアロマーニの上下に革のコート、Bくんはジーンズに5年前のダッフルコート。

Aくん:よっ! 久しぶりだなー、貧乏人。
Bくん:それが久しぶりの挨拶かい、低脳くん。
Aくん:ぼくは貧乏人を尊敬してんだ。
Bくん:ふっ、また始まりそうだな。Aくんお得意の詭弁。
Aくん:ほんとだって。いま金持ってる?
Bくん:ぜんぜん持ってないよ。なに訊いてんだ、怒るぜマジで!
Aくん:だから尊敬してる。
Bくん:また、わっかんねー話だな。
Aくん:持ってる金、ぜんぶ使かっちゃう。ここが尊敬に値する!
Bくん:なんだ、金は天下の回りものってフツーの話かい。おちょくってるだろ。
Aくん:きみたち貧乏人こそ、資本主義を支える主人公なのだ。
Bくん:へっ。ただの負け犬、負け組だよ。ほっといてくれないか!
Aくん;ぜんぜん違ーう。どんどん金使わないと、この国は滅びるんだ。
Bくん:クニ? ニクが喰いたい、腹減った。
Aくん:素朴な善人だな、Bくんは。
Bくん:だったら金でも貸してくれ。
Aくん:やだね。ぼくは金持ちの悪人だから。
Bくん:国賊っ・・・・・・。


白い時間

2009-03-13 14:18:32 | 創作

いつの間に?
永代橋のさくらが咲いている。

たしかに一年がはじまったと、
いまさら。


今年の夏は空が高いか。
秋風は吹くか。


どんな本を読んで、
なにを考えているんだろう。


隅田川、カモメ。
おしゃべりなOLたち。


白い時間。



ギャング/四コマ小説

2009-02-08 18:54:14 | 創作
A氏「オレオレ詐欺の被害がつづきますね」
B氏「じいさん、ばあさんのタンス貯金が100兆円以上もあるんで」
A氏「だれだって狙います」
B氏「そう、政府もだ」
A氏「なんですって!?」
B氏「無利子国債の構想がそれだよ」
A氏「そんなもの、だれが買いますのん?」
B氏「もちろん、いつ死ぬかわからん大金持ちの年寄り」
A氏「とうとう日本も、ギャング国家だ!」


※無利子国債――利子はつかないが、相続税がいらない国債。


ある晴れた午後/四コマ小説

2009-01-04 01:48:06 | 創作
――おれさまイケメンだろーがっ。ぬははは。
なにィ認めない? わかるわかる、わかりすぎる。
同性は認めたがらないもんだよ。ばははは。

大口あけた男が、さっきから勝手に話しかけてくる。
しかし軽い。こんな軽い存在を目撃したことがない。

――だぁからさあ、女の子なんてチョロイもん。
なんなら講義してやろーか?
『わが愛の遍歴とその教訓』
なんつって。わはははは。

赤い舌をペロペロ出したり引っ込めたりして、ジャンパー姿の男はしゃべりまくっている。醜い。ヘドがでる。こんなやつが同時代に生きてるなんて信じられない。

――おまえはイケメンじゃないよ、そりゃね。
真実は真実、認めなきゃ。
嫌ってんなら親にクレームつけなよ。
も一回、生みなおしてくれってね。
ヴォケが。ぐわっはははは。

なんで、こんなやつと顔を突きあわしてる!?
こいつ人間失格だろ!?
わきあがる自分の疑問に、全面的に賛成だった。

クソッタレ!
いつまでも喋ってろ!

よく磨かれたショーウインドーの前から、おれは足早に立ち去った。






自分で忘れられない物語(笑)

2008-12-24 11:49:00 | 創作
去年のいまごろ、こんな物語を書いてたんだ。
読み返してました。
ちょっとだけ書き直して再アップ。
メリー・クリスマス!
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『ぼくたちのクリスマス・キャロル』(短編)


2045年、クリスマス・イヴ。天気予報があたって、東京は夕方から雪になった。ビルやブティックに明かりが灯されるごとに、青山通りにあふれていた車と人は少なくなっていく。会う暇もない彼女に贈ろうと遅くなったクリスマス・プレゼントを探していた伸治は、通り沿いにあるコンビニの前で足を止めた。――なにか、変だ。

駐車スペースに子どもたちがたむろっている。いや、そのこと自体が変だというわけじゃない。人口を膨張させつづけてきた東京が吐き出すゴミさながら、街にはホームレスがあふれ、生み捨てられた子どもたちで教会の孤児院は一杯になっている。この国はソニーの会長もトヨタの会長も寄付なんてしない不思議な国なので、子どもたちが集団をつくってコンビニのゴミ箱をあさる姿など、いまでは普通の光景だ。

だけど、なにか変だ。この一週間というもの、取材と記事の原稿書きでゆっくり寝ていられなかった伸治の頭が、にぶく回転を始めた。らしくない・・・。
うっすらと雪が降り積もっていく駐車スペースに、ひとクラス分の子どもたちが集まって座っているのに、無邪気なおしゃべりとか笑い声とか、騒々しさがないのだ。飲み食いもしていない。まるで互いに仲間じゃないみたいに、勝手にケータイの画面を眺めたり、何かメッセージを打ち込んだり、考えごとにふけったりしている。髪の毛についた雪を、だれも払おうとしない。

コンビニの壁に背中をあずけて、体育座りしていた男の子が立ち上がった。車止めのブロックに座っている、ピンクのパーカーを着た子に近づいていく。その子はビニール傘をさして、ノート・パソコンのモニターを睨んでいた。その横顔にケータイの画面を向けて、近づいた男の子は
「大佐!」と呼んだ。
大佐と呼ばれた子は、モニターから目を離さない。
「なに?」
「千葉のチームが、トラック3台キャッチ。こっちに向かってるって」
「プレゼントは?」
「たっぷり持った、だって!」
やっと顔をあげて、傘のしたで大佐はチョキを作った。
「新しいメールが飛んできたら知らせて」
「はい!」
もとの場所にもどろうとする男の子と、伸治の目があった。大佐も気がついて、伸治のほうを振りかえる。コンビニの窓からもれる逆光が、パーカーの小さな肩を照らしている。顔はよく見えない。
「ぼくたちのこと、どうかしました?」
男の子だったのか。大佐という子はまだ声変わりをしていない。
伸治はその子に、営業用の微笑みを投げた。
「よかったら、どんな遊びをしているのか教えてくれないかな?」
「ほかの子どもたちと、メール交換してるだけです。大人もするでしょ?」
やっぱり、どっからしくない・・・。
ぼやけた頭のなかで、数本のシナプスが明滅をくりかえす。
ケータイを開いて、伸治は大佐に訊いてみた。
「撮影してもいいですかね」
「写真は困ります」
「なぜです?」
子どもたちの視線が伸治に集中する。立ち上がった5、6人の男の子が、ジャンパーやズボンのポケットにそっと手を入れた。
大佐も立ち上がって、開いたままの傘をノートの上に置いた。髪の毛についた雪を払った。
「警察?」
「ぼくは香川伸治というフリーのジャーナリストです。はじめまして。少し取材させてください」
ピンクのパーカーが近づいてくる。子どもたちの視線が、今度はかれに集まった。
街灯が投げる輪を慎重に避けているのか、顔がシルエットになっている。小学校6年生くらい? 大佐は、フードを被った。

パーカーの左胸に「Kill God !!」の赤いワッペンが縫いつけられている。
アイルランドのロック・バンドの名前だ――どこの音楽事務所にも属さないのに、若者たちには熱狂的な人気があるグループ。彼らのデビュー曲「Kill God !!」は、ネットを通じて、またたくうちに全世界に知れわたった。混迷を深めていく著作権の騒動に、新しい一石を投じた有名な事件でもある。

大佐は、パーカーの両ポケットに親指をつっこんだ。音が消えた雪の街に、ささやかな舌打ちが鳴り響く。数人の子どもたちが伸治の背後に忍び寄る。セーターのうえから羽織ったカーキ色のジャケッツの襟が、じっとりと汗ばんできた。
大佐が口を開く。生まれたてのピンク色の舌が、ヒラヒラと見えた。
「ぼくたち、ここで遊んでいるだけの普通の子ども。ニュースなんか何もない。放置してください」
伸治の背後で、声変わりした男の子が叫ぶ。
「このまま帰したら、警察にチクられちゃうよ!」
「大人のやること、みんな一緒!」今度は女の子の声だ。
「待ってくれ!」伸治はあわてた。
「取材対象の、って君たちのことだけど、秘密は命がけで守る! 取材費もちゃんと払う! なにがいいかなあ・・・。そうだ、コンビニで好きなものを買っていい! そんな条件でどう!?」

わーい! あちこちで子どもたちが歓声をあげる。
フードの奥で、大佐の表情がくずれた。

「じゃ、こっちも条件だします。写真を撮ったら顔にモザイクかけて。今から、ぼくたちが地震を起こしても、大爆発をしかけても、ぜったい警察に連絡しない。守れる?」
「じ、地震? バクハツ?」
「たとえばの話」
「いい、でしょう。約束します。地震だって爆発だって、特ダネ間違いなしだ!」
「じゃ、そういうことで。みんなァ、何でも買っていいって!」
わぁぁぁぁーーーッ! コンビニのドア下半分だけが、まっ黒になった。店内の下半分だけ超満員になった。
読んでいたマンガを放り出した店員が、口と目をあんぐり開けている。
伸治もコンビニに飛び込んだ。
「この子たちが買った代金、ぼく払いますから!」

隅にみつけたATMに齧りついた。指が震えてパスワードをまちがえる。クッソォ!
金額を打ち込むまえに、伸治は店内をふりかえった。無数の手が棚のうえに伸びている。お菓子とおにぎり、コンビニ弁当の棚はすっかり空だ! 唐揚げ棒とかブタマンとか入っていたケースは湯気だけになってるし! いま、プリンとミルクの棚が空になりましたァ! 伸治はパネルに指タッチして泣いた。――20万円。

「キッズ・ネットってサイトが、あふあふ、あるんでふ、アティティー!」
車止めに座る大佐は、ブタマンで口をふくらませた。
伸治は3メートル離れたコンビニのひさしの下に立っていた。フードの中をしげしげ覗きこまないように、大佐から距離を置いたのだ。
「へえ、チューッ・・・知らなかったなあ。チュチュッ・・・どんなサイト?」
ぬる冷たいカフェオレでも、ストローで吸い上げれば、とってもおいしいと思う伸治だった。
「世界で一億人くらいの子どもたちが参加して、うまーい! SNSの一種です。
紹介がない人はアクセスできないんだ。しんちゃーん、まだブタマンある?」
へえ・・・チュッ。手帳を忘れた伸治は、ケータイのメモにキーワードだけを打ち込んでいく。ピコピコ。
「そこにね、クリスマス用のスレが立って。立てたのはフィンランドの子。すぐ全世界の子どもたちがコメントしはじめて、ありがとう! ・・・アクセス不能になっちゃった。パフゥ、ぼくたちがうまーい! クリスマス・キャロルっていう別のスレを立てた」
ほほう、チュゴーッ・・・(空か)。
そこって面白いの? ピコピコ。
「今年はね、自分たちのクリスマス・ツリーを作ろうじゃないかって。パフゥ」
えっ、自分たちの? ピコピコピコ。
「ング。・・・ぼくたち、自分のクリスマス・ツリーを知らないんです」
うーん、政治だね。政治問題だよ、それは。
「むずかしいことは、まだわかんないけど。でも、今年は違うんだ。ぼくたちは協力して自分たちのクリスマス・ツリ-を、この東京にね、作るんです。全世界の子どもたちが成功を待ってくれています」
あ、ネット中継するんじゃない? そのシーンっていうか・・・。
「そうです。中継は名古屋チームが準備してます。東京と千葉、埼玉、栃木のチームでツリーを作る、この青山に」
ふーん、面白そうだな。そのツリーって、どんな大きさ?
「最終的には、千代田区と渋谷区に、またがる計画」
なっ、なに!? そんなに大きな木は、どこにも生えていないだろ?
「それ以上、ぼく、お話できません。見せてあげるってしか、いえない」
けち。子どもたちがローソクを持って、あっちこっちで一斉に火を灯すとか・・・?
ならヘリが必要だな。伸治もドキドキしてきた。愛のキャンドル・リング――記事のタイトルまで浮かんだ。
「余計なアドバイスかもだけど。ヘリ、いるんじゃ? 新聞社に頼もうよ。空撮するんだ、ゴジラみたいにね」
「実行は今日の夜、12時ジャスト。5分前なら新聞社に連絡してもいいです」
5分じゃ短すぎると伸治は訴えて、連絡は10分前にしていいと約束をかわした。

子どもたちは忙しくなった。ケ-タイやパソコンでメールをやり取りする回数がふえてきたし、プリンタがA4のペーパーを何枚も吐きだしている。なにかの資料か? 次々と子どもたちが湧いてきては、資料を受け取って闇のなかに散っていった。

でかいダンプが3台、青山通りのコンビニに横付けされた。
たむろっていた子どもたちが走りだす。
「プレゼントが届いた!」
「プレゼントって、花火なんです!」大佐が補足説明してくれる。
そんな会話から、ちらっと聞こえた千葉チームが到着したんだと知った。へぇ、花火か。素敵なイヴになりそうだな。ここに彼女もいたら、どんなに暖かだろうと伸治は思った。いま、ニューヨークに出張・・・。

ダンプの荷台から大きなバッグが何個も降ろされた。車体のデコボコを伝って、チンパンジーみたいに子どもたちも降りてくる。
大佐たちはチームのメンバーと握手して、プリンタが吐きだしたばかりの資料を配る。それを受け取ると、降ろしたバッグを一個ずつ持って、かれらも雪の向こうに消えていった。

高速バスが次々とやってくる。降りてくるのは、騒々しい子どもたちばっかりだ。世界の国旗をふっている者もいる。大佐が伸治のそばまで来た。身長は半分くらい、ってことは約1m? フードのなかに見えた顔は意外に丸顔で、鼻筋が通っているようだった。
「この子たち、今日のイベントをネットで知った観客です。貯めたお小遣いでバスをチャーターしてきたみたい。子ども、半額だし」
バスのナンバー・プレートを調べた。大阪、岡山、山形、青森、福岡って!?
「付き添い、だれもいないの? まだ自分じゃ歩けない子もいたみたいだけど」
「あはは。それって岡山のエリちゃん? 大丈夫、エリちゃんはアイドルだから」
「アイ、ドル・・・」
「まだ1歳だけど、予知能力があるって大切にされてる子」
「予知、ノーリョク・・・」
「きれいね、って今日のことをエリちゃんは予言したらしいです。成功は間違いない!」
「きれい、っていったの!?」
どーせ考えてもわかんない。
絶望にちかい希望を感じる伸治だった。
「大佐ァ! もうすぐ名古屋チームが到着するって!」

ブアァァーーン! やがて10トンくらいの大型トラックが何台もつらなって、青山通りを上ってきた。どの車にも、無数の豆電球がネオンサインみたいにキラキラ光ってる。愛知ナンバーだ。ってことは撮影班?
「あれって、築地行きの冷凍車じゃない? 鮮魚を積んだりする――」
「そうかも――」
大佐の丸顔が、少し曇った。
コンビニの前に先頭のトラックが停まった。鬼の顔を車体にペイントしている。
タオルを頭に巻いた運転手が降りてきて、車の後ろにまわり、雪でコーティングされた荷台のカンヌキをはずす。
グワッシャーン! ついたぜ坊主、はやく降りてくれ!
だれも降りてこない。運転手はブルッと震えて、運転席にもどった。

ギッ。荷台のドアがきしむ。
ギギギ。また、きしんで、ドアが大きく開いた。
スニーカーが覗く。ほそい足が何本もでてきた。
パタ、パタパタパタ。荷台から飛び降りた子どもたちは、道路にそのまま貼りついて動かない。そのうえに雪が降り積もる。
「救急班、出動でーすっ!」
「はーい!」
大佐の指示で、タンカをもった子どもたちが駆け寄っていく。
運ばれてきた子どもたちの髪の毛は、みんな白くてツンと立っていた。触ってみたらペキーンと折れた。ツララみたい。
「あったかいお茶! それとお湯でカップ・ラーメン作って!」
子どもたちがコンビニに飛び込んでいった。
左右をちょっとつり上げた目で、大佐がじぃぃぃっと伸治の顔を見あげる。
はいはーい、伸治もあわててコンビニに飛び込んだ。

資料を受け取って、雪の青山に散っていく子どもたちを、伸治は見ていた。
「撮影チームもそろったね」
「これで完璧だー!」
大佐は、パーカーのフードを脱いだ。雪が止みそうだった。想像していた以上に色が白い子で、鼻が高くて、耳が大きい。髪の毛は少し茶系。ロシアが入ってる、多分――と伸治は直感した。
「あと、みんなの準備を待つだけ。キッズ・ネットに報告してきます」
「ぼくも見ていいですか? どんなサイトか知りたい!」

そこは、無数の掲示板が集まったサイトだった。まず国別のグループがある。音楽の話や、買ったゲームの話で盛り上がっている。そうそう、ここの特長だけど。たとえばオーストリーの子どもたちが何を話しているとかって、日本人にも読めるのには驚いた。このサイト専用の翻訳ソフトが休みなく走っていて、どの国の言葉でも母国語で読めるし、書き込めるようになっている。なるほど、これなら全世界の子どもたちが繋がれるわけだ。

これが自分たちのスレだ、と大佐はクリスマス・キャロルの掲示板を見せた。
うーん、すごい! 同じタイトルの掲示板が、もう10枚目だ。あとの9枚は、コメント数が1000を超えているのでクローズド。それ以上書き込むと重たすぎるのだ。
10枚目の掲示板に大佐は書き込んでいく。
「すべてのメンバーがそろった! いまツリーを準備中!」
すぐレスがついた。
「じゃ、もうすぐね。わたしたちのクリスマス!」
「この子、ナンシーだよ。南アフリカからアクセスしてるんだって」
その後の1分間で、大佐のコメントに200個くらいレスがついた。恐ろしいスピードで掲示板はどんどん流れていく。目が回ってきた。
視線をはずして、伸治は大佐に訊いた。
「あれ、なに? ほらプリンタで作って、みんなに渡してたペーパー」
「ああ、これですか?」
パーカーのポケットから、4つに折った紙を引っぱりだしてきた。
伸治は開いてみた。――青山から外苑、代々木公園あたりの地図。×印が一杯ついている。ワォォーッ、ツリーの位置だ! この×印の一個あたりに、何人の子どもたちが忙しく働いているんだろう。と、想像するのは楽しかった。こんな国でも、じつは未来があるんじゃないか・・・。

そのとき、赤とピンクと黄色のケータイを首からぶら下げた女の子が走ってきた。
「大佐ァ! すべてのチームが準備完了でーす!」
「サンクス、ミカちゃん!」
大佐が両手でVサインをつくって微笑んだ。自分のケータイをひらいて、待ち受け画面を覗いている。
「えと・・・、いま11時45分。香川さん、あと5分したら新聞社に連絡してもいいです。15分後には、ぼくたちのメリクリだ!」
駐車スペースの真ん中まで行って、大佐はみんなに指示を出し始めた。
「じゃあ、きょーちゃん。そろそろキッズ・ネットにメッセージして。ゴーッて。ゆーちゃんは名古屋の撮影チームに連絡。危ないから、あんまり近づきすぎないように。ほかのみんなは観客の子どもたちにメールだ。地図の×印から、20メートルは離れてくださいって」

5分後、伸治は新聞社に連絡し始めた。
朝日新聞はデスクが電話に出た。
「あはーん? 子どもたちのキャンドル・サービスぅ? なの、ありふれてるしー。ウチじゃ使わないね、またどうぞ!」
クソたれ! 何がアハーンだ。眠たい声、出しやがって!

毎日新聞は、清掃会社の社員が電話に出た。
「すんません、だれもいないんですよ」
「だれか残ってるはずでしょ? どこに行ったんですか!」
「え? どこって・・・、銀座かなあ。そんな話してたし。わかんないけど」
社員がいない新聞社なんてゴミだ!

共同通信社。
「おう香川くん! ひさしぶりだなあ、元気?」
いつも陽気なデスク、鳥飼さんの声だ。
かいつまんで子どもたちのことを話す。
「面白そうじゃないの。よし、ヘリを飛ばそう。ほかの社にも教えた?」
これも、そのまま話す。
「わははは、チンカス新聞社め! もういいじゃないか、ウチだけの特ダネってことで。オレも飛ぶよ」
「じゃ、よろしくっ」
もう時間がない。ヘリは一機だけでもいいじゃないかと伸治は思った。
あの鳥飼さんなら、空撮に失敗するはずがない。

子どもたちが大声でしゃべりはじめた。大佐の指示で、ケータイの音声連絡をオープンにしたんだ。みんなに向けて大佐が両手を振った。そこを撮影チームのひとりが動画に撮っている。
「そろそろ1分前です。カウント・ダウン、はじめまーす!」 

60! 59! 58!

子どもたちは大声を張り上げて数字を逆に読んでいく。伸治までゾクゾクしてきた。なんだか外苑や代々木公園のほうからも、1オクターブ高い声が聞こえてくるような気がする。星が瞬きだした空に、ヘリの爆音が聞こえた。

10! 9! 8!・・・、
3! 2! 1!

ゼロ!!

ゴォーッ! 突然、東京の夜空が真っ白になった。
街中が赤く燃え上がる。
なにぃぃっ! 
いや、燃えているのは街じゃない。木だ。樹木だ。ここからでも外苑のイチョウが一本残らず燃え上がっているのが見える。炎に囲まれた美術館のドームが真っ赤に燃えている、ように見える。消防車のサイレンが鳴りだした。パトカーのサイレンも混じっている。

リリリリリ・・・♪
さっきから伸治のケータイは鳴りっぱなしだった。
「はい?」
「香川くんか、鳥飼だ! なんなんだ、これは!?」
「ぼくも詳しい計画は知らなかったんですよ。これだったのか!」
「しかし美しい! 上から見ると、炎で描いたナスカの地上絵だ」 
「モノになりますかね?」
「もちろんだ。バッチリ絵になるし、いまから大騒ぎが始まるだろう。そら、消防車の赤いライトが見える。歴史に残る巨大なクリスマス・ツリーだ。これを親もいない子どもたちが計画してやったなんて、ほとんど信じられねーよ。特ダネだ、特級の特ダネだよ香川くん! じゃ、また後でな」

ワァァァーーーッ! 青山通りは、歓声をあげる子どもたちであふれかえっている。好き勝手なステップで踊っている。歌っている。

メリー・クリスマス! メリー・クリスマス! 
ぼくたちのクリスマスだね! 
そうさ、生まれてはじめての!

冬の夜空に花火があがった。
何回も、何回も、咲いては散っていく。


〈了〉



まったく何でも資本主義?/四コマ小説

2008-12-15 14:56:00 | 創作
おれの部屋には光がさし込まない。1個しかない窓はシャッターを降ろしてふさいだし、遮光性カーテンとかいうカーテンを吊るした。寒いから。
「不況が、くるんだって」
と、おれは囁いた。
「仕事もどーなるか、わかんないしね」
「そうらしいよって、課長も、いってた」
体のしたで、彼女も囁いた。
「あんがい、関係ないかもしれないけどね。おれたち」
すこし下半身をずらして、彼女の小さなクリトリスを軽くこすった。
ベチャベチャに濡れていて、生きてるイカに指を突っ込んだみたいだった。
おれをほんとうに愛してるのかと、思ったりしたんだが。
「バイト、どうなる、かなー」
ほそい首筋が、ゴクッと唾を飲み込んでる。
「それ、ほしい。くれ!」
彼女の口に吸いついた。
彼女はベロをだして、ベロをおれの口に差し入れて唾をくれた。
その舌を唇ではさんで、おれは舌で上下をねずった。
彼女のベロは可愛い。小さくて、先が尖がってる。
たまにはそれで、おれのペニスも舐めてくれたりする。
とにかく可愛いんだ。

あきることもなく――といいたいほど、おれたちはベロを舐めあっていた。

「バイトがさ。首になったら、同棲してもいい?」
ベロを引っ込めて、彼女がいった。
おれは下半身の動きをとめた。なんか考えてたが、よくわかんない。
「マジで? 洗濯したり、ご飯とか作んの?」
「あたし、主婦しかないかも。バイトなくなったら」
ちょっと可哀そうになってきた。萎えるんじゃないかなと気になった。
萎えてなかったので、左の乳房にキスした。

「うしろ向いてよ」
「ヤだ。今日はヤなの!」
「なんで?」
「このままがいい」
「よくわからない。よろこぶんじゃないの?」
「AVの見すぎ。あたしプロじゃ、ないの」
なんだか、自分を素人だからと呼ぶ彼女が嬉しくなった。
「お金かな、やっぱ、この世界」
「そうなんじゃない? もっと稼いでね、同棲したら」
「稼げるかなー、同棲したら」
ムラムラッとしてきた。すでにムラムラしちゃってんだけど。
もう一回、左の乳首にキスして、左の肩に下から手を入れて。
グイッと彼女の体をひねった。
「もう!」
左足をおれの頭にぶち当てて、彼女はうしろ向きになってくれた。
アヌスに白い液体が滲んでた。うれしくなって、おれは何回も動いた。彼女の尻は信じられないくらいに柔らかい。おれの下半身が何回もぶち当たって、能天気な音がくりかえされた。
柔らかいヒダにつつまれた分身が悲鳴をあげた。
もうダメだー。
そこで、おれは動きをとめてアヌスに人差し指を突っ込んだ。
すぐに抵抗戦線に出会った。
「ダメダメ、そこダメ! 痛いから、違うから!」
なんだか可哀そうになってきて、指を抜いた。
スポンッて感じで抜けた。
「やーよ。もうしないで絶対!」
そうか、もうできないのかと、おれは残念だったので、
その人差し指を舐めた。
彼女の味がして、彼女を愛してるのかと思った。
「愛したって、ダメなときはダメなんだよね?」
と、おれは訊いた。そろそろ萎えそう。でも萎えてなかった。
「そうでも、ないんじゃない?」
こんなとき、いつもイヤになるほど彼女は客観的だ。
クソ! おれは動きをヴァージョン・アップした。
パイプ・ベッドがぎしぎし鳴りだした。
「金融がなんだ! 資本主義がなんだ! このやろぉぉーっ!」


(了)



超能力/四コマ小説

2008-12-05 07:35:49 | 創作
ダチが顔を近づけて、声の音量を落とした。

「じつはボク、超能力者なんだ。って知らなかったろ?」

チュウハイで目の周りを真っ赤にした表情は、意外と真剣だった。
急に心配がきた。こっちも音量を落として訊いた。

「他人にバラしちゃっていいの?」
「オマエなら、信用できるからさ」
「リアリティーだな」

おれは生ビールのジョッキをグビと傾けた。
視界の底に、ハネた金髪の頭頂部が見えた。

「特殊能力・・・に気がついたのは・・・」

口に放り込んだジャガタラを、ダチはグシャッと噛み潰した。
あてぃてぃっ――灰皿に吐きだす。

「だれだって失敗するらしいよ」

と、おれは慰めた。
噛み潰した氷を飲みこんで、ダチは胸を叩いた。

「ハァァー、こんなじゃなかったら!」
「ゆっくり食べたら?」
「じゃなくて――」
「じゃないの――?」

おれはビールとチュウハイのおかわりを頼んだ。
ダチはジャガタラの1/3を噛み切った。

「たまに、気がついちゃうんだ」
「へー?」
「つぎに出会うオンナって、すぐ別れちゃうとかさ」
「あるある、あるねー。鬱だ」
「なので、つぎのおんなと出会わないようにする」
「超能力だー」

残り2/3のジャガタラをダチは口に放りこんだ。

「うん。超能力って、自分を不幸にするんだ」

悲しげなダチに、おれは提案した。

「じゃさ。つぎの馬券、予想しよっか!」
「当たったら幸せになるじゃん。超能力は当たらないんだ!」

デニーズの窓の外を、さらさらと枯葉が飛んだ。


(了)