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松下プラズマディスプレイ(パスコ)事件 

2012年04月01日 | 労働百選

最判平成21年12月18日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=38281&hanreiKbn=02
事件番号 平成20(受)1240
事件名 地位確認等請求事件
裁判年月日 平成21年12月18日
法廷名 最高裁判所第二小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集等巻・号・頁 民集 第63巻10号2754頁
原審裁判所名 大阪高等裁判所
原審事件番号 平成19(ネ)1661
原審裁判年月日 平成20年04月25日
判示事項 請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために,請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり,上記の派遣を違法な労働者派遣と解すべき場合に,注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとはいえないとされた事例
裁判要旨 請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために,請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり,上記の派遣を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」に違反する労働者派遣と解すべき場合において,(1)上記雇用契約は有効に存在していたこと,(2)注文者が請負人による当該労働者の採用に関与していたとは認められないこと,(3)当該労働者が請負人から支給を受けていた給与等の額を注文者が事実上決定していたといえるような事情はうかがわれないこと,(4)請負人が配置を含む当該労働者の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったことなど判示の事情の下では,注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとはいえない。
参照法条 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律2条1号,職業安定法4条6項,労働契約法6条,民法623条,民法632条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20091218155652.pdf

原審 大阪高判平成20年4月25日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37805&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707153405.pdf

原原審 大阪地判平成19年4月26日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37806&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707154114.pdf


新国立劇場事件 東京地判平成20年7月31日 その2

2012年04月01日 | 労働百選

第3 争点に対する判断
1 争点(1)(aは労組法上の労働者であるか)について
(1) 前提事実に証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、財団と契約メンバーと
の契約締結の経緯及び内容、契約メンバーの出演の実態等について、以下
の事実が認められる。(証拠が記載されている事実は、当該証拠により認め
られるものである。記載がない事実は、当事者間に争いがない。)
ア財団は、平成9年2月の新国立劇場建設に伴い、同年4月、1998
/1999シーズンの新国立劇場合唱団のメンバーを募集し、同年7月、
オーディションを実施した。メンバーの応募資格は、平成10年4月か
ら平成11年6月までの間に主催される各オペラ公演及びその稽古に参
加できることであった。オーディションの結果、契約メンバーと登録メ
ンバー(契約メンバーの方が合格水準が高い。)が選抜された。
財団は、契約メンバーと、平成10年3月から平成11年6月までの
期間(1998/1999シーズン)、財団が主催又は共催する公演ごと
に、稽古日程と公演日程が添付された「出演契約書」により、個別の出
- 13 -
演契約を締結した。
この出演契約書においては、①契約者は、新国立劇場合唱団契約メン
バーとして公演に出演し、リハーサル等に参加すること、②報酬は、本
番出演は単価及び回数に基づき、稽古は単価やコマ数等に基づき支払う
こと、3時間を超えて稽古に参加した場合には、超過時間に応じた超過
出演料が加算されること、稽古等に欠席・遅刻・早退した場合には、報
酬が減額されること、③本契約に基づく出演業務の遂行に支障がない限
り、本件公演以外の音楽活動をすることを妨げないことなどが定められ
ていた。(乙61)
イ財団は、平成11年8月以降(1999/2000シーズン以降)は、
毎年、シーズンの開始前に審査会又は試聴会(以下「試聴会」という。)
を実施してメンバーの選抜を行った。試聴会は、次期シーズンの契約を
希望する前シーズンの新国立劇場合唱団員と公募による参加者とを対象
にして、新国立劇場のオペラ芸術監督や合唱指揮者らがオペラ・アリア
等の歌唱技能を審査するものである。財団は、試聴会等の結果により、
契約メンバー合格者及び登録メンバー合格者を選抜した。
契約メンバーは、原則として年間シーズン(8月から翌年7月まで)
のすべての公演(ただし、財団がシーズン開始前に予め出演を指定しな
いものがある。例えば、男声合唱だけの演目には、女性団員は出演しな
いし、他の合唱団が出演する演目もある(甲5ないし8)。)に出演可能
である者である。登録メンバーは、財団がその都度指定する公演に出演
が可能である者であり、契約メンバーだけでは合唱団のメンバーが足り
ない場合等に、合唱団に加わることになる。
財団は、契約メンバー合格者に対して、期間を1年間とする契約メン
バー出演基本契約の締結を申し出て、面談の上、基本契約を締結し、そ
の上で、個別の公演ごとに個別公演出演契約を締結していた。登録メン
バー合格者、あるいは契約メンバー合格者のうち、本人の希望又は面談
- 14 -
の結果登録メンバーとなることになった者は、登録メンバーとして、財
団との間で各公演ごとに個別の出演契約を締結した。(乙38)
契約メンバーは、毎年、40名程度であり、メンバーは毎年入替りが
ある。財団が主催するオペラ公演は、年間10ないし12の演目があり、
1演目について2ないし8回の公演(5、6回が多い。)が行われていた
(甲5ないし8)。
ウ上記のとおり、財団と契約メンバーとの間で、平成11年8月以降、
毎年、期間を1年間(8月から翌年7月まで)とする基本契約が締結さ
れた。その契約条項は、各メンバーにより出演対象となる個別公演が異
なるほかは、すべての契約メンバーに共通である。
初めて締結された1999/2000シーズン(平成11年8月から
平成12年7月まで)の基本契約の主な内容は、次のとおりである。(甲
5、乙63)
(ア) 財団は、契約メンバーに対し、財団が主催するオペラ公演に、19
99/2000シーズンの契約メンバーとして出演することを依頼し、
契約メンバーはこれを承諾する。
(イ) 契約メンバーが出演する公演は、契約書の別紙「出演公演一覧」に
掲げる公演(個別公演)とする。(出演公演一覧には、年間シーズンの
公演名、公演時期、公演回数及び当該メンバーの出演の有無等が記載
されている。この記載は、各契約メンバーごとに異なる。)
(ウ) 契約メンバーは、合唱メンバーとして個別公演に出演し、必要な稽
古等に参加し、その他個別公演に伴う業務で財団と合意する業務を行
う。
(エ) 契約メンバーが個別公演に出演するに当たり、財団と契約メンバー
は、契約メンバーの個別公演への出演を確定し、当該個別公演の出演
業務の内容及び出演条件等を定めるため、原則として当該個別公演の
稽古が開始される月の前々月末日までに、「個別公演出演契約」を締結
- 15 -
する。個別公演出演契約に記載されない事項については、この契約に
従うものとする。
(オ) 財団は、契約メンバーに対し、出演業務の遂行に対する報酬を、個
別公演出演契約締結のうえ、個別公演ごとに支払う。報酬は、報酬等
一覧に掲げる単価等に基づいて算定する。
添付されている報酬等一覧によれば、報酬には、本番出演料(1回
当たりの金額が定められている。)、GPその他各稽古の手当(GPは
1回当たりの金額、その他の稽古は1単位当たりの金額が定められて
いる。)、超過時間により区分された超過稽古手当(時間当たりの金額
が定められている。)があり、稽古に欠席・遅刻・早退した場合の減額
の扱い、財団の一方的な理由により契約メンバーを降り番とする場合
の降り番手当等も定められている。基本契約を締結しただけでは、報
酬は支払われない。
(カ) 個別公演出演契約を締結した後、病気等契約メンバーの事情により
当該個別公演に出演できなくなった場合において、降板にやむを得な
い理由があると財団が判断したときは、財団は、(オ)に従って算定され
た降板時までの履行相当分の報酬を契約メンバーに支払うものとする。
いずれかの当事者が、地震等の法律上の不可抗力又はやむを得ない理
由以外の理由によりこの契約又は個別公演出演契約を履行しなかった
場合には、他方の当事者は、何ら催告を要しないで、直ちに基本契約
又は個別公演出演契約を解除する権利を有する。履行しなかった当事
者は、他方に生じた損害額を賠償する。
(キ) 財団は、次のシーズンにおいても再び契約メンバーと基本契約を再
締結する意思がある場合には、シーズン期間満了日の3か月前までに、
当該契約メンバーにその旨を通知し、その意思を確認する。
基本契約の条項には、財団が契約メンバーに対して個別公演出演契約
の締結を申し出た場合には、その締結を義務づける旨を明示する規定や、
- 16 -
契約メンバーが財団以外が主催する公演に出演したり、個人公演を開い
たり、生徒に個人レッスンしたりすること等の音楽活動を禁止、制限す
る規定はなかった。
上記(エ)に基づき締結される個別公演出演契約には、出演を確定する個
別公演の公演日程、個別公演出演契約書において定める特記事項を除き、
個別公演の出演業務の内容及び出演条件はすべて基本契約書のとおりと
すること等が規定された。
エその後も、毎年、期間を1年とする基本契約が締結された。その内容
は、毎年、若干の変更がある。
(ア) 2000/2001シーズン(平成12年8月から平成13年7月
まで)
1999/2000年の基本契約に、契約メンバーが基本契約若し
くは個別公演出演契約の締結又は履行に関し、財団に対して虚偽の申
告若しくは届出を行った場合又は真実の申告若しくは届出を行わなか
った場合にも、財団は基本契約又は個別公演出演契約を解除すること
ができるという条項が追加された。
他は、1999/2000年の基本契約と同様である。(甲6)
(イ) 2001/2002シーズン(平成13年8月から平成14年7月
まで)
2000/2001の基本契約に、契約メンバーは、財団が再契約
に先立ち、試聴会を行うこと、契約メンバーの技能について審査のう
え契約メンバーに対する再契約の申出をするか否かを決定する手続を
行うことに異議を述べないことを定めた条項が追加された。
また、報酬は、従前、基本報酬として本番出演料と各種稽古手当が
定められていたが、このシーズンから、基本報酬は本番出演料だけと
なり、降り番手当が廃止された。超過稽古手当及び稽古等を欠席・遅
刻・早退した場合の取扱いについては従前のとおりであった。
- 17 -
他は、2000/2001の基本契約と同様である。(甲7)
(ウ) 2002/2003シーズン(平成14年8月から平成15年7月
まで)
2001/2002の基本契約で追加された条項が、財団が、再契
約に先立ち試聴会を行い、契約メンバーの技能について審査のうえ再
契約の申出をするか否かを決定すると改められた。
他は、2001/2002の基本契約と同様である。(甲8)
オ実際の運用では、契約メンバーが、そのシーズンの個別公演のうちい
くつかの出演を辞退し、個別公演出演契約を締結しないことがあった。
1999/2000シーズンから2005/2006シーズンまでの
7シーズンの間では、個別公演出演を辞退した契約メンバーは、のべ2
5名であり、その辞退演目数は39であった。出産育児以外の理由で個
別公演を辞退した人数は、1999/2000シーズンは、5名(うち
2名は他公演出演のため、1名は他団体試験のため、2名は理由不明。
なお、理由不明のうち1名は3演目を辞退した。)、2000/2001
シーズンは4名(うち1名は他公演出演のため、1名(a)は在外研修
のため、1名は短期留学のため、1名は理由不明。)、2001/200
2シーズンは7名(うち3名は他公演出演のため、1名は留学準備のた
め、3名は理由不明。)、2003/2004シーズンは1名(他公演出
演のため)、2004/2005シーズンは2名(いずれも他公演出演の
ため)であった。
契約メンバー本人に特段の希望がある場合や試聴会不合格の場合を除
き、個別公演の出演を辞退した契約メンバーに対しても、翌シーズンも
契約メンバー基本契約の締結の申出はされており、再契約において特に
不利な取扱いがされたことはなかった。財団から、個別公演の出演を辞
退したことを理由として制裁が課されたこともなかった。(契約メンバー
が個別公演を辞退した例、その理由等の詳細は、別紙のとおりである。)
- 18 -
(甲12、16ないし18(いずれも枝番を含む。)、23、24)
カ契約メンバーとして合格した者は、契約締結のための面談をする際、
財団から、全公演出演のために可能な限りの調整をすることを要望され
た。もっとも、契約メンバーとして基本契約を締結するに当たって、出
演公演一覧の全公演に確定的に出演できる旨の申告や届出が要求される
ことはなかった。1、2の演目には出演することができないという者で
も、財団の意向によって契約メンバーとなる者がいた。他方、契約メン
バーに合格しても、本人の希望により登録メンバーになる者や、出演で
きる公演が限られることから財団の申出により登録メンバーとなる者も
いた。
契約メンバーは、他の公演に出演することや、生徒に個人レッスンを
行うことなどを財団に対して報告することは求められていなかった。(乙
107の1、108の1、132の2)
キaは、平成10年3月以降、1998/1999シーズンから200
2/2003シーズンまで、契約メンバーとなり、1999/2000
年シーズン以降は、毎年、基本契約を締結した上、各公演ごとに個別公
演出演契約を締結し、公演に出演していた。公演の本番出演や稽古参加
のため、新国立劇場に行った日は、2002/2003シーズンでは、
約230日であった。もっとも、新国立劇場における拘束時間は、数時
間の日もあった。aは、この間、個人でリサイタルを開いたり、生徒に
個人レッスンをするなどの音楽活動も行っていた。平成13年1月から
同年3月まで文化庁在外派遣研修員としてウィーンに派遣され、その間、
予定されていた公演の出演を辞退したが、翌シーズンも契約メンバーと
して基本契約を締結した。(乙92、104の2)
(2) 以上の事実を前提として、aが財団と契約メンバーの基本契約を締結し
たことによって、aは労組法上の労働者といえるかどうかについて、検討
する。
- 19 -
最初に、基本契約を締結した場合、同契約に基づく労務ないし業務の提
供に関して諾否の自由がないのかどうかを、検討する。
ア前提事実(3)、前記(1)イ、ウのとおり、契約メンバーは、1999/
2000シーズン以後、シーズン毎に出演予定の演目と時期を示した出
演公演一覧が添付された基本契約を締結した上、個別公演出演契約を締
結して、個別の公演に出演しているのであり、契約メンバーの提供する
労務ないし業務は、個別公演への出演及びその稽古参加であることは明
らかである。そこで、諾否の自由があったか否かは、契約メンバーにお
いて個別公演への出演を辞退することができたかどうか、個別公演出演
契約の締結を辞退することができたかどうかによって判断することにな
る。
イ契約メンバーは、原則として年間シーズン(8月から翌年7月まで)
のすべての公演(ただし、財団がシーズン開始前に予め指定するもの)
に出演可能である者である(前提事実(3)、前記(1)イ)。基本契約上も、
財団は契約メンバーに対して主催するオペラ公演に出演することを依頼
し契約メンバーはこれを承諾する旨の規定があり、契約書には出演公演
一覧が添付され、当該契約メンバーの出演予定の演目と時期が示される
(前記(1)ウ(ア)ないし(ウ))など、契約メンバーは、原則として、全公演
に出演することが予定、期待されているのは事実である。
しかしながら、契約メンバーは、公演に出演する場合には、基本契約
だけでなく、必ず個別公演出演契約を締結している。基本契約上、契約
メンバーが個別公演に出演するについては、個別公演の出演を確定し、
その出演業務の内容及び出演条件等を定めるため、個別公演出演契約を
締結するものとされている(前記(1)ウ(イ)、(エ))。基本契約には、契約
メンバーに対して個別公演出演契約の申出があった場合にはこれを承諾
しなければならない旨の規定は存在しない。したがって、契約の形式上
は、基本契約だけでは契約メンバーは個別の公演に出演する義務はなく、
- 20 -
個別公演出演契約を締結することにより個別の公演に出演する義務が生
じる仕組みになっていることは明らかである。
基本契約の実質的な内容や運用をみると、契約メンバーが財団が主催
する以外の公演に出演することなど他の音楽活動を行うことは自由であ
り、現実に契約メンバーは他の公演に出演等をしている(前記(1)ウ、
オ)。基本契約の締結に際しても、出演公演一覧の全公演に確定的に出演
できる旨の申告や届出も要求されていなかった(前記(1)カ)。個別公演
に出演できる回数が少ない場合には、契約メンバーとなるのが困難では
あるが、予め全公演に出演ができないことを明示している者でも、財団
は、その意向によって契約メンバーにすることがあり(前記(1)カ)、契
約メンバーと基本契約を締結することは、一定の水準以上の合唱団員の
確保を目的としたものであることが窺える。基本契約を締結した契約メ
ンバーが個別公演の出演を辞退する例が多いシーズンには7名あったり、
出産育児以外の理由により1シーズンに3演目を辞退した者もあるが、
その際にも、申告や届出は要求されず、個別公演の出演を辞退したこと
を理由に制裁を受けた例はなく、翌シーズンの契約について特に不利な
取扱いをされた者もなかった(前記(1)オ)。なお、契約メンバー及び公
演の回数からみると、契約メンバーが個別公演の出演を辞退する例はか
なり少ないといえるが、財団が主催するような水準のオペラ等の公演が
常時多数行われているとは考えられないから、契約メンバーが財団主催
の個別公演の出演を辞退することは、もとより少ないと推測されるので
あって、個別公演出演の辞退がかなり少ないことをもって、実際上は辞
退ができないに等しいということはできない。
以上のような基本契約と個別公演出演契約の仕組みや、契約メンバー
の個別公演出演等の実態に照らせば、基本契約は、財団が、契約メンバ
ーに対して、そのシーズンの出演公演一覧の公演について、個別公演出
演契約締結の申込みをすることを予告するとともに、個別公演出演契約
- 21 -
に共通する契約内容を予め定め、これを契約メンバーに了解させておく
ことを目的とするものであり、契約メンバーにとっても、個別公演に出
演する機会が保障されるところに基本契約の意義があると認められる。
基本契約の締結によって、契約メンバーは、個別公演出演を予定し、ス
ケジュールを調整することになり、財団は、契約メンバーの出演を確保
することが予定、期待できることになる。しかし、このように契約メン
バーが個別公演に出演することが予定、期待されることは、事実上のも
のというべきであり、契約メンバーにとって、個別公演に出演すること、
すなわち個別公演出演契約を締結することが、法的な義務となっていた
とまでは認められない。
ウ以上に対し、ユニオンは、基本契約の「この契約又は個別公演出演契
約を履行しなかった場合には、他方の当事者は、何ら催告を要しないで、
直ちに基本契約又は個別公演出演契約を解除する権利を有する。履行し
なかった当事者は、他方に生じた損害額を賠償する。」という規定(前記
(1)ウ(カ))の「この契約(基本契約)の履行」の内容として最も重要な
ものが個別公演出演契約の締結であり、基本契約上、個別公演出演契約
の締結が義務となっていると主張する。
しかし、上記の「契約を履行しなった場合」が何を意味するのかは必
ずしも明らかでないし、現に個別公演出演契約の締結をしなかったこと
を理由に、基本契約を解除され、又は損害賠償を求められた者があった
と認めることはできず、ユニオンの主張は採用できない。なお、200
0/2001シーズン以降の基本契約では、契約メンバーが契約締結、
履行に際し虚偽の申告等を行った場合等にも契約の解除ができる旨の条
項が加えられた(前記(1)エ(ア))が、これによって個別公演出演が法的
義務となるといえるものではない。
また、ユニオンは、契約メンバーが公演を辞退する場合に降板願いを
出している事実がある(丙10により認められる。)ことから、基本契約
- 22 -
で指定された個別公演への出演が義務付けられていると主張する。
しかし、基本契約上、稽古等への欠席届と異なり、個別公演を辞退す
る場合についての手続を定めた規定はなく、現に個別公演を辞退しよう
とする契約メンバーが常に降板願い等を提出していた事実や届出を財団
から求められた事実は認められず、ユニオンの主張は採用できない。降
板願いが作成された例については、基本契約により個別公演の出演を期
待されている契約メンバーにおいて出演ができなくなるのであれば、財
団がその代わりの出演者を確保するために、一刻も早く出演不出演を確
定したいという財団の事実上の要求に沿ったものであると認められる
(乙107の1、108の2)が、基本契約の締結と個別公演出演契約
の締結との関係について、前記イの判断を左右するものではない。
さらに、ユニオンは、個別公演出演契約において実質的に定めるべき
ことはなく、実際に、個別公演出演契約の締結が個別公演の稽古が開始
された後になった例や公演の直前に結んだ例があったから、基本契約で
すべて合意されており、個別公演出演契約の締結は、基本契約での合意
を確認する意味しかないと主張する。
しかし、個別公演出演契約の契約書面の作成が、個別公演の稽古が開
始された後になった例があったからといって、基本契約とは別個の個別
公演出演契約という合意がされていないという理由にはならず、ユニオ
ンの主張を採用することはできない。
エ以上のとおり、契約メンバーは財団と基本契約を締結しただけでは、
個別公演に出演する法的な義務はなく、個別公演出演契約を締結する法
的な義務はないというべきであるから、契約メンバーには、基本契約締
結により労務ないし業務を提供することについて諾否の自由がないとは
認められない。
(3) 次に、基本契約を締結することにより、契約メンバーは業務遂行の日時、
場所、方法等の指揮監督を受けることになるのかどうかについて検討する。
- 23 -
前記(1)イ、ウ及び証拠(甲5ないし8、乙51、104の2、108の
1、丙1ないし8)によれば、財団は、シーズン前の9月ないし10月に
新国立劇場における公演日程を決定し、各個別公演の稽古等の確定した日
程については、その稽古の行われる月の前々月の月末までに決定し、提示
していたこと、歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容について指
揮者、音楽監督の指揮があったこと、基本契約上、稽古に欠席、遅刻等を
すれば報酬が減額されることが規定されており、実際にも、契約メンバー
が遅刻、早退、欠席等の稽古への参加状況について一定の監督を受けてい
たことが認められる。
しかし、契約メンバーは個別公演に出演しない限り、上記のような指揮
監督を現実に受けることはないから、上記指揮監督関係は、個別公演出演
契約を締結して初めて生ずるものである。前記(2)のとおり、個別公演出演
契約の締結は基本契約に基づく義務であるとは認められないから、基本契
約だけでは契約メンバーは上記のような指揮監督を受けることはない。
この点を措くとしても、証拠(甲14、乙108の1)によれば、個別
公演ごとに出演契約を締結する外部芸術家についても、公演及び稽古の時
間的場所的拘束が契約メンバーと同じようにあったことが認められ、外部
芸術家の場合にも、歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容につい
て指揮者、音楽監督の指揮があったこと、リハーサルへの参加状況に応じ
た契約金の減額あるいは契約の解除が契約上も定められており、不参加に
ついて一定の監督がされていたことは同様と認められる。そうであれば、
契約メンバーが、業務遂行の日時、場所、方法等について指揮監督を受け
ていることは、オペラ公演が多人数の演奏、歌唱及び演舞等により構築さ
れる集団的舞台芸術であることから生じるものと解されるから、契約メン
バーが上記のような指揮監督を受けることが、契約メンバーが労組法上の
労働者であることを肯定する理由とはならないというべきである。
(4) 契約メンバーの報酬についてみると、前記(1)ウ(オ)のとおり、報酬は個
- 24 -
別公演に出演し、稽古に参加した場合に支払われるものである。個別公演
出演契約を締結することが報酬支払の前提となっていて、基本契約を締結
しただけでは、報酬が支払われることはない。
他方、契約メンバーの労務ないし業務である個別公演出演をみると、前
記(1)イ及びウのとおり、シーズンの開始前に翌シーズンの公演日程が決定
され、基本契約締結に当たっては、当該契約メンバーが出演する予定の公
演の時期、回数も決定されている。契約メンバーは、基本契約締結の際に
決定された公演以外の公演に随時出演を求められるようなことはない。
以上のように、契約メンバーは、基本契約を締結しただけでは報酬が支
払われることはなく、他方で、出演することが予定されている公演は予め
決まっていて、予定された公演以外に随時出演を求められることはないの
である。このような契約メンバーの置かれた地位は、例えば、基本契約を
締結した場合には、出演の有無にかかわらず毎月一定の報酬が支払われる
が、他方で、出演の予定が予め決定しておらず、たとえ事実上の義務であ
ったとしても、いつでも出演を求められる可能性が継続しているような場
合と比較すると、指揮命令、支配監督関係は相当に希薄というべきである。
(5) 基本契約の内容については、財団が一方的に決定していた(前記(1)イ、
ウ)。しかし、契約の内容が一方当事者が決定することは、労働契約に特有
のことではなく、これが直ちに法的な指揮命令関係の有無に関係するもの
ではないから、契約メンバーが労働者であることを肯定する理由とはなら
ない。
aは公演と稽古を合わせると年間約230日の時間的拘束を受けていた
(前記(1)キ)が、この点も、法的な指揮命令関係の有無と関係するもので
はないから、拘束日時の多寡や長短は労組法上の労働者性の判断基準とは
ならない。
なお、被告は、契約メンバーは財団の公演に出演することを収入源とし
て生計を維持していたのであるから、契約メンバーが財団との団体交渉す
- 25 -
ら許されないとの結論は余りに不当であると主張するが、労組法上の労働
者であるかどうかは、法的な指揮命令、支配監督関係の有無により判断す
べきものであり、経済的弱者であるか否かによって決まるものではないか
ら、被告の主張は採用できない。
(6) 以上の検討のとおり、契約メンバーは基本契約を締結するだけでは個別
公演出演義務を負っていない上、個別公演出演契約を締結しない限り、個
別公演業務遂行の日時、場所、方法等の指揮監督は及ばず、基本契約を締
結しただけでは報酬の支払はなく、予定された公演以外の出演を事実上で
あっても求められることはないなど指揮命令、支配監督関係は希薄である。
したがって、契約メンバーが財団との間で基本契約を締結したことによっ
て、労務ないし業務の処分について財団から指揮命令、支配監督を受ける
関係になっているとは認めらず、aは労組法上の労働者に当たるというこ
とはできない。
2 争点(2)(本件団交申入れに応じないとした財団の対応は不当労働行為か)
について
上記1のとおり、aは労組法上の労働者と認められないから、ユニオンの
財団に対する本件団交申入れは、その趣旨としてaの将来の処遇等その労働
条件の改善等を含むものであったか否かにかかわらず、義務的団交事項につ
いて団体交渉を求めるものではない。したがって、その余の点について検討
するまでもなく、本件団交申入れに対する財団の対応が不当労働行為に当た
るとして財団に対して団交応諾及び文書交付等を命じた救済命令は、違法で
ある。
3 争点(3)(本件不合格措置は不利益取扱いに該当するか)について
上記1のとおり、aは労組法上の労働者と認められないから、本件不合格
措置について、不当労働行為であると解する余地はない。したがって、本件
不合格措置は不当労働行為に当たらないとして、ユニオンの救済申立てを棄
却した労働委員会の判断は、その結論において正当であるから、その取消し
- 26 -
を求めるユニオンの請求は理由がない。

第4 結論
以上のとおりであるから、中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第
41号事件、同第42号事件について平成18年6月7日付けでした再審査
申立棄却命令のうち、財団の再審査申立てを棄却した部分(本件初審命令の
うち財団に対して団交応諾及び文書交付等を命じた部分の取消しと救済申立
ての棄却を求めた再審査申立てを棄却した部分。中労委平成17年(不再)
第42号事件についての命令)を取り消し、ユニオンの再審査申立てを棄却
した部分(本件初審命令のうち救済申立てを棄却した部分の取消しと救済命
令を求めた再審査申立てを棄却した部分。中労委平成17年(不再)第41
号事件についての命令)にかかる請求は棄却することとし、主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第19部
裁判長裁判官中西茂
裁判官松本真
裁判官遠藤貴子


新国立劇場事件 東京地判平成20年7月31日 その1

2012年04月01日 | 労働百選

新国立劇場事件 東京地判平成20年7月31日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37796&hanreiKbn=06
事件番号 平成18(行ウ)459
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件(通称 財団法人新国立劇場運営財団救済命令取消)
裁判年月日 平成20年07月31日
裁判所名 東京地方裁判所 
分野 労働
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707144152.pdf

主文
1 中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第42号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。
2 第2事件原告・第1事件参加人の請求を棄却する。
3 訴訟費用(参加費用を含む。)は、第1事件・第2事件を通じて、これを2
分し、その1を第1事件被告・第2事件被告の負担とし、その余を第2事件
原告・第1事件参加人の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 第1事件(財団の請求)
主文第1項同旨
2 第2事件(ユニオンの請求)
中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第41号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。

第2 事案の概要
ユニオンは、財団が、①ユニオンの会員であるaを新国立劇場合唱団の契
約メンバーに合格させなかったこと、②ユニオンからaの次期シーズンの契
約に関する団体交渉を申し入れられたにもかかわらずこれに応じなかったこ
とが、いずれも不当労働行為であるとして、救済申立てをしたところ、東京
都労働委員会は、上記①については、不当労働行為に該当しないとしてその
申立てを棄却し、②については、不当労働行為に該当するとして、団体交渉
に応じるべきこと及びこれに関する文書の交付等を財団に対して命じた。ユ
ニオンは、申立棄却部分につき、財団は、救済を命じた部分につき、それぞ
れ再審査を申し立てたが、中央労働委員会は、双方の再審査申立てを棄却し
た。
本件は、財団(第1事件)とユニオン(第2事件)が、それぞれ中央労働
委員会の再審査申立棄却命令の取消しを求めた事案である。
- 2 -
1 前提事実(争いがない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
(1) ユニオンは、日本で活動する音楽家と音楽関連業務に携わる労働者の個
人加盟による職能別労働組合である。(乙44)
(2) 財団は、新国立劇場において現代舞台芸術の公演等を行うとともに、同
施設の管理運営を行っている財団法人であり、平成10年4月以降、年間
を通して、複数のオペラ公演を主催している。
(3) 財団は、毎年、主催するオペラに出演する新国立劇場合唱団のメンバー
をオーディションあるいは試聴会を開いて選抜し、合格者との間で、原則
として年間シーズンのすべての公演に出演可能である契約メンバーと、財
団がその都度指定する公演に出演可能である登録メンバーに分けて、出演
契約を締結している。
契約メンバーとの間の契約は、平成10年3月から平成11年6月まで
(1998/1999シーズン)は、各公演ごとの個別契約だけであった
が、平成11年8月以降(1999/2000シーズン以降)は、毎年、
期間を1年とする基本契約が締結された上、各公演ごとに個別公演出演契
約が締結されている。
(4) a(昭和▲年▲月▲日生まれ)は、ユニオンに加入している者であり、
平成10年3月以降、毎年の試聴会等に合格し、新国立劇場合唱団の契約
メンバーとなり(平成13年は当初不合格とされたが、交渉の後、契約メ
ンバーとなった。)、平成11年8月から平成15年7月まで、1年ごとの
各期間(1999/2000シーズンから2002/2003シーズンま
で)、基本契約を毎年締結した上、各公演ごとに個別公演出演契約を締結し、
公演に出演していた。
ところが、aは、財団から、平成15年2月20日、同年8月から始ま
るシーズン(2003/2004シーズン)について、試聴会の結果、契
約メンバーとしては不合格であると告知された(以下、財団がaを不合格
- 3 -
としたことを「本件不合格措置」という。)。
(5) ユニオンは、平成15年3月4日、財団に対し、文書により、「aの次期
シーズンの契約について」を議題とする団体交渉申入れ(以下「本件団交
申入れ」という。)を行った。これに対し、財団は、同月7日、「a氏と当
財団との関係が雇用関係にないので、これを前提とする団体交渉申し入れ
は受諾出来ない」などと文書で回答した。(乙41、42)
(6) ユニオンは、平成15年5月6日、東京都労働委員会に対して、本件不
合格措置及び本件団交申入れに対する財団の対応が不当労働行為に当たる
として、本件不合格措置を撤回し、aを契約メンバーとして就労させるこ
と、本件団交申入れを拒否しないこと等を求めて、救済申立てをした。東
京都労働委員会は、平成17年5月10日付けで、本件団交申入れに対す
る財団の対応は不当労働行為に該当するが、本件不合格措置は不当労働行
為に該当しないとして、以下のとおり、命令を発した(以下「本件初審命
令」という。)。
「1 財団は、ユニオンが平成15年3月4日付けで申し入れた団体交渉を
ユニオン会員aと財団が雇用関係にないとの理由で拒否してはならな
い。
2 財団は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をユ
ニオンに交付しなければならない。

年月日
ユニオン
代表運営委員b 殿
財団
理事長c
当財団が、平成15年3月4日付けで貴ユニオンの申し入れた団体
交渉を拒否したことは、不当労働行為であると東京都労働委員会で認
- 4 -
定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 財団は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告し
なければならない。
4 その余の申立てを棄却する。」
(7) ユニオンは、本件初審命令のうち、本件不合格措置を不当労働行為と認
めず救済申立てを棄却した部分(主文4項)を不服として、再審査を申し
立てた(平成17年(不再)第41号不当労働行為再審査申立事件)。
財団は、本件初審命令のうち、本件団交申入れに対する財団の対応を不
当労働行為であると認め救済を命じた部分(主文1ないし3項)を不服と
して、再審査を申し立てた(平成17年(不再)第42号不当労働行為再
審査申立事件)。
中央労働委員会は、上記各再審査申立事件を併合し、平成18年6月7
日付けで、本件初審命令と同様の理由により、財団及びユニオンの各再審
査申立てを棄却する旨の命令を発した。財団は同年8月1日、ユニオンは
同月7日、それぞれこの命令を受領した。
財団及びユニオンは、それぞれ再審査申立てが棄却された部分につき、
命令の取消しを求めて、各訴えを提起した。
2 争点
(1) aは労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働者であるか。(第1
事件・第2事件)
(2) 本件団交申入れに応じないとした財団の対応は、労組法7条2号の不当
労働行為に該当するか(本件団交申入れにかかる事項は義務的団交事項か、
財団の対応に正当な理由があるか。)。(第1事件)
(3) 本件不合格措置はaがユニオンの会員であることを理由とする不利益取
扱い(労組法7条1号)に該当するか。(第2事件)
- 5 -
3 争点に対する当事者の主張
(1) aは労組法上の労働者であるか(争点(1))
(財団)
労組法上の労働者、使用者は、それぞれ労働契約関係を元に成立した労
使関係の一方当事者であることを要する。以下の諸要素を総合的に検討す
ると、財団とaとの間にそのような関係は認められないから、aは労組法
上の労働者に当たらない。
ア契約の方式、方法
財団と契約メンバーは、シーズンの開始に当たり、年間スケジュール
を示す出演公演一覧が添付された基本契約を締結しているが、それによ
り出演公演一覧の演目について法的な出演義務が生じるものではなく、
出演義務は個別公演出演契約を締結して初めて生じる。基本契約と個別
公演出演契約という二段階の契約方式の採用は、大部の個別公演出演契
約書を作成する煩雑さを避けて作成事務を合理化したものに過ぎない。
イ契約メンバーの業務内容の決定
歌唱技能を提供する態様、実施方法、年間の個別公演の件数、演目を
財団が一方的に決することは、合唱団員と外部芸術家と異ならないから、
aの労働者性を肯定する要素とはなりえない。
ウ報酬に関する算定基準や方法の決定及び計算
財団によって報酬等が決定されることは、請負や委任といった非労働
契約においても同様であるから、財団の使用者性、aの労働者性を肯定
する要素ではない。
エ出演諾否の自由の有無
基本契約の締結によって個別の公演出演が義務となるものではない。
契約メンバーが、基本契約締結後、出産、育児等の理由以外の理由で
個別公演契約締結を断る事例は毎年5ないし7あるが、これらの個別公
演契約締結を断った者が翌シーズンの契約メンバー選抜において不利益
- 6 -
を被った事実はない。契約メンバーが個別公演に出演するに当たり、両
当事者は、契約メンバーの個別公演への出演を確定し、当該個別公演の
出演業務の内容及び出演条件等を定めるため「個別公演出演契約」を締
結するという基本契約の文言からも、基本契約の締結により個別公演出
演契約の締結が法的義務となるものではないことは明らかである。
オ指揮監督関係の有無、程度
契約メンバーが公演と稽古について時間的場所的に拘束を受けている
ことは、そもそもオペラ公演というものが多人数の演奏・歌唱・演舞等
により構築される集団的舞台芸術であり、オペラ合唱団の一翼を担うと
いう契約メンバーの業務の特性から必然的に生じるものであるから、労
働者性の判断指標とならない。稽古に欠席、遅刻等をすれば報酬を減額
されることは外部芸術家においても変わらない。個々の歌唱について細
かな指示はなく、契約メンバー各人に大きな裁量がある。
カ専属的拘束性
契約メンバーが、財団が主催する公演以外の公演に出演したり、教室
を運営して生徒に教えたりすることは自由であり、音楽家としての活動
は禁止されていない。個別公演出演契約を締結すると、公演や稽古への
参加が義務付けられるが、多くは1日3時間程度の拘束時間に過ぎず、
平成15年2月など月に3日間しか拘束されない月もあった。
キ報酬の労務対価性
契約メンバーの業務の中核は、公演本番に出演して歌唱を行うことで
あり、稽古への参加はその業務遂行のための従たるものに過ぎない。2
000/2001シーズンまで、本番出演料及びGP(本番前の最終リ
ハーサル)稽古手当は拘束時間と無関係に1回当たりの定額、音楽稽古
/立ち稽古の稽古手当は1コマないし10コマが一律5万円と定められ
ており、拘束時間との対応性は強くなかった。2001/2002シー
ズンからは報酬が本番出演料に一本化され、拘束時間との関係性は絶た
- 7 -
れた。報酬全体として労務対価性を肯定することはできない。
(被告)
アaは、契約メンバーであった当時、財団と契約を締結して公演等にお
いて歌唱技能を提供し、財団の決定及び計算による報酬を受けており、
自己の計算において事業を営んでいたとはいえないから、その労組法上
の労働者性は明らかである。
イもっとも、本件は、aが労組法の労働者であることに加え、さらに財
団との関係でも労組法により保護されるべき労働者といえるか、即ち、
aと財団との間に労組法上の保護を及ぼすべき関係があり、財団が労組
法上又は不当労働行為制度上の使用者であるかが検討されなければなら
ない。その判断のためには、契約内容を形式的にみるだけではなく、当
時のaと財団との関係にみられる諸種の事実を多面的に取り上げて総合
的な判断を行う必要がある。
aら契約メンバーは、財団による個別公演出演の発注に対して諾否の
自由が制約されており、特段の事情がない限り当然に応諾するものとみ
なされて、財団による個別公演に不可欠の人員とされ、財団が一方的に
指定した契約内容に基づいて、年間を通じて財団の指揮監督の下、演目
のほか公演や稽古の日時場所等についても財団の指示に従って歌唱技能
を提供し、その役務の対価としての報酬を受けていたものと認められる
から、aと財団との間には労働契約ないしこれに類する関係があり、a
は財団との関係でも団体交渉により保護されるべき労働者である反面、
財団は労組法上の使用者たる地位を有するものと認められる。
ウ契約メンバーは、財団が一方的に指定した契約内容に基づいて、年間
を通じて財団の指揮監督の下、歌唱技能を提供し、その対価として報酬
を受け、これを主な収入源として生計を維持していたのであって、この
ような実態に照らせば、契約メンバーが財団との団体交渉すら許されな
いとの結論は余りに不当である。
- 8 -
(ユニオン)
労組法3条は、労働基準法9条とは異なり、労働者の定義に「使用され
る者」という文言を用いていない。労組法上の労働者についても、講学上
は使用従属関係にある者をいうとされているが、「賃金、給料その他これに
準ずる収入によつて生活する者」である点が重要な指標である。したがっ
て、労組法上の労働者性は、使用従属関係を基本としながらも、団体交渉
の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる場合には肯定される。その判
断基準は、①仕事の依頼についての諾否の自由、②業務上の指揮命令関係
及び場所的・時間的拘束性、③報酬の労務対償性の3つである。aと財団
との間には、基本契約の締結により、以下のとおり、労働契約ないしこれ
に類似する関係があるから、aは財団との関係でも団体交渉により保護さ
れるべき労働者である。
ア仕事の依頼についての諾否の自由
契約メンバーは、年間公演スケジュールを示されて、これに出演可能
であることが条件とされて基本契約を締結し、基本契約により、当該シ
ーズンにおいて財団が主催又は共催する公演等において出演業務を遂行
すべき義務を負っていた。契約メンバーは、財団が興行として実施する
個別公演に不可欠の人員とされており、個別公演出演の発注に対して当
然に応諾するものとみなされ、個別公演の出演をしない場合には、基本
契約の再締結がされず、ただ、子育て等やむを得ない事情によるときは
個別公演出演契約を締結しなくても、それだけで契約違反としないとい
う取扱いがされていたに過ぎない。基本契約には、虚偽の事実を告げた
場合の契約解除や損害賠償に関する条項が新設されるなど、個別公演出
演の義務は強化されている。実際にも、契約メンバーが個別公演に出演
しなかった割合は著しく低い。
イ業務上の指揮命令関係及び場所的・時間的拘束性
年間の個別公演の件数、演目、各公演の日程と日数、これに要する稽
- 9 -
古の日数やその時間割、その演目の合唱団の構成、合唱団員がいかなる
態様で歌唱技能を提供するかは、財団がその判断に基づいて一方的に決
定し、契約メンバーは、その決定に従って、公演及び稽古に参加する義
務を負い、指揮者や音楽監督の演出に従って歌唱技能を提供するという
関係にあった。契約メンバーは、公演と稽古を合わせると、年間230
日前後も新国立劇場に出勤していた。このように契約メンバーは財団か
らの指揮命令を受けている以上、公演と稽古以外の時間に、他の公演に
出演したり、個人的に生徒をとって教えたりしていても、その労働者性
が失われるものではない。
ウ報酬の労務対償性
契約メンバーは、出演した公演の時間及び稽古に参加した時間・実績
に応じて報酬が計算され、稽古が超過した場合には超過手当が支払われ
ていたから、労務の提供に対する報酬を受けていたといえる。
( ) 本件団交申入れに応じな2 いとした財団の対応は不当労働行為か(争点
(2))
(財団)
aは労組法上の労働者ではなく、財団も団体交渉応諾義務を負う労組法
上の使用者に当たらないから、本件団交申入れに対する財団の対応は、労
組法7条2号の不当労働行為に当たらない。
仮に、aが労組法上の労働者であり、財団が労組法上の使用者であると
しても、既に試聴会が実施されてaの不合格は決定し、次期シーズンの処
遇は確定しており、財団としては、ユニオンとの交渉により契約の締結や
役務提供の条件等を改めて決定する余地はないから、aの次期シーズンの
契約に関する本件団交申入れに応じる義務はない。
本件の救済命令は、本件団交申入れにかかる事項に、試聴会の在り方、
審査方法や合否判定等の契約締結のための手続事項を含みうるとして、こ
れが義務的団交事項であるとするが、「aの次期シーズンの契約について」
- 10 -
との文言から到底そのような趣旨を読み取ることはできない。
(被告)
財団は、aとの関係で、労組法上の使用者たる地位を有するものと認め
られるから、aが構成員たる労働組合であるユニオンが義務的団交事項を
議題とする団体交渉を申し入れた場合には、合理的な理由がない限りこれ
を拒否することができない。
aとの間で次期シーズン(2003/2004シーズン)の契約が締結
されなかったこと自体は不当労働行為とは認められない本件の具体的事情
及び次期契約締結の当否は試聴会の合否にかかっているという財団独自の
制度の下では、既に実施済みの試聴会の結果を受けたaの次期シーズン契
約の不締結は確定的事項であって団体交渉の結果により変更すべきもので
はないから、当該事項は義務的団交事項ではないが、当時の財団とユニオ
ンの協議状況等を勘案すると、本件団交申入れは、試聴会の実施方法、す
なわち審査方法や合否判定の手法等、労働者たるaの処遇ないし契約条件
に関わる多岐の事項を含むものと解釈できるところ、これらについては財
団が団交応諾義務を負うから、本件団交申入れに対し、aが雇用関係にな
いとの理由で財団が行った団体交渉拒否は、不当労働行為に当たる。
(ユニオン)
aの労組法上の労働者性は明らかであり、これを否定し団体交渉を拒否
することは正当の理由のない団体交渉拒否である。
財団は、ユニオンから本件団交申入れの際に説明を受け、aの今後の処
遇を含めた解決条件が交渉のテーマになること、従前から協議していた試
聴会の在り方や審査方法も交渉の内容になることを認識していたから、本
件団交申入れについて応諾義務を負う。また、aの試聴会不合格は不利益
取扱いであったから、財団は、本件不合格措置の撤回と次期シーズンの契
約自体についても団交応諾義務はあった。
(3) 本件不合格措置は不利益取扱いに該当するか(争点(3))
- 11 -
(ユニオン)
財団は、基本契約について、更新しがたい特別な理由があると認められ
る場合以外は当然に更新する方針を採っている。aについて更新しがたい
特別な理由はなかった。
財団は、試聴会の結果aを不合格としたが、その審査方法は、審査項目
も基準もなく、2人の審査員の感性に任せた著しく不合理なものであった。
aは、ユニオンの会員として積極的に組合活動を行い、オペラ合唱団員の
処遇上の問題点、新国立劇場合唱団への批判、とりわけ試聴会の問題点を
指摘していた。財団の合唱指揮者の発言から、財団がユニオンを嫌悪し、
その会員の排除を意図していたことは明らかである。
aは、二期会時代から約20年間オペラ合唱団員として、50作品以上
のオペラに出演し、新国立劇場合唱団においても3シーズンにわたりパー
トリーダーを務め、推薦を受けてウィーン国立劇場へ留学するなど、オペ
ラ合唱団員としての演奏能力は十分で、試聴会で不合格とされるようなも
のではなかった。aを試聴会で不合格とし、2003/2004シーズン
の基本契約を締結しなかった財団の行為は、恣意的で不当な目的によりa
を排除した結果であり、aがユニオンの会員であることを理由とする不利
益取扱いである。
(被告)
契約書の文言、試聴会の実施状況と契約締結の実態に照らしても、基本
契約は試聴会の審査結果を踏まえてシーズンごとに再締結が繰り返されて
いたものであり、更新が原則であったとの事実は認められない。
試聴会は、審査員の主観による判断を広く認め、審査方法の統一はされ
ていなかったが、審査結果自体に明らかな矛盾はなく、本件不合格措置が
審査員の恣意によりユニオンを排除する目的で行われたとも認められない。
(財団)
仮に、aが労組法上の労働者であるとしても、本件不合格措置は不当労
- 12 -
働行為に当たらない。基本契約は、シーズン毎の試聴会による厳格な技能
審査に合格した場合に締結されるものであって、更新が予定されているも
のではない。財団は契約メンバーとなった者を定期的に総入替えすること
も考えていないが、終身的に固定化することも考えていない。財団が、舞
台芸術の発展・振興に寄与するというその設置理念の実現のため、試聴会
による審査システムを採用したこと、その審査方法及び審査基準について
審査員の芸術家としての感性に任せることにはいずれも合理性がある。2
003/2004シーズンの試聴会における審査員2人のaに対する評価
結果は、いずれも明らかな不合格レベルではないが、相対的な評価の中で
契約メンバーに残るだけのものを備えていないというものであり、齟齬は
なかった。aがユニオンの会員であることを理由とする不合格措置ではな
い。


新国立劇場事件 東京高判平成21年3月25日

2012年04月01日 | 労働百選

新国立劇場事件 東京高判平成21年3月25日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=80410&hanreiKbn=06
事件番号 平成20(行コ)303
事件名 各不当労働行為救済命令取消請求控訴事件(通称 財団法人新国立劇場運営財団救済命令取消)
裁判年月日 平成21年03月25日
裁判所名 東京高等裁判所 
分野 労働
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100705114417.pdf

主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 本件各控訴費用は各控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の申立て
1 控訴の趣旨
(1) 控訴人ユニオン
ア原判決中控訴人ユニオンの請求を棄却した部分(主文2項)を取り消す。
イ中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第41号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。
ウ訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
(2) 控訴人国
ア原判決中控訴人国敗訴部分(主文1項)を取り消す。
イ被控訴人の請求を棄却する。
ウ訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する被控訴人及び控訴人国の各答弁
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本訴提起に至る経緯
Aは,控訴人ユニオンの会員であり,被控訴人との間で平成11年8月から
平成15年7月まで各年ごとに出演契約を締結しながら,新国立劇場合唱団の
メンバーとして同劇場において開催された多数の公演に出演していたが,平成
15年8月から平成16年7月までのシーズンに係る出演契約の締結に先立つ
視聴会(歌唱技能についての審査)により契約メンバーとしては不合格である
旨告知された(以下「本件不合格措置」という。)。そこで,控訴人ユニオン
- 2 -
は,被控訴人に対し,この不合格告知に関する団体交渉の申入れ(以下「本件
団交申入れ」という。)をした。しかし,被控訴人がこれに応じなかったため,
控訴人ユニオンは,東京都労働委員会に対し,被控訴人が本件不合格措置を採
ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことがいずれも不当労働行為に当
たるとしてその救済を申し立てたところ,同委員会は,前者の点については不
当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し,後者の点については不当労働
行為に該当するとして,被控訴人に対し団体交渉に応じるべきこと及びこれに
関する文書の交付等を命じた(以下「本件初審命令」という。)。そこで,控
訴人ユニオンは本件初審命令のうち上記申立棄却部分について(平成17年
(不再)第41号不当労働行為再審査申立事件),被控訴人は同命令のうち上
記救済を命じた部分について(同年(不再)第42号不当労働行為再審査申立
事件),中央労働委員会に対しそれぞれ再審査を申し立てたものの,同委員会
はこれらの再審査申立てをいずれも棄却した。
(2) 本件事案の概要
第1事案は,被控訴人が,中央労働委員会がした再審査申立棄却命令のうち
被控訴人に控訴人ユニオンとの団体交渉に応じるべきこと及びそれに関する文
書の交付等を命じた部分に対する不服申立てを棄却した部分の取消しを求めた
事案であり,第2事案は,同控訴人が,上記命令のうち本件不合格措置に係る
救済命令申立棄却に対する不服申立てを棄却した部分の取消しを求めた事案で
ある。
(3) 原審の判断
原審は,被控訴人とAとの間で締結された契約の内容及び契約の締結に至る
過程を検討した上,Aが被控訴人との間でシーズンを通した基本的出演契約を
締結したからといって,① Aは公演ごとに個別的な出演契約を締結しなけれ
ばならない法的義務を負わないから,労務の提供につき諾否の自由がないわけ
ではないこと,② Aが被控訴人の指揮監督を受けるものではないこと,③
- 3 -
Aが被控訴人と個別公演出演契約を締結しない以上報酬は支払われないから,
報酬の労務対償性があるとはいえないことなどから,Aの労働者性を否定し,
その余の争点については判断するまでもないとして,被控訴人の第1事件に係
る請求を認容するとともに,控訴人ユニオンの第2事件に係る請求を棄却した。
そこで,これを不服とする原審第1事件における被告である控訴人国及び原
審第2事件の原告である同ユニオンが,それぞれ本件控訴を提起するに至った。
2 前提事実
おおむね原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「1 前提事実」
(原判決3ページ14行目から6ページ6行目まで)に記載のとおりであるから,
これを引用する。ただし,原判決4ページ9行目の「まで,」の次に「被控訴
人との間で,」を,同19行目の「受諾出来ない」の次に「,(中略)不合格とな
った特定人物を合格扱いにせよとの交渉に応ずることは出来ません。」をそれぞ
れ加える。
3 本件の争点及び当事者の主張
(1) 次に付け加えるほかは,おおむね原判決「事実及び理由」の「第2 事案の
概要」の「2 争点」及び「3 争点に対する当事者の主張」(原判決6ペー
ジ7行目から14ページ1行目まで)及びに記載のとおりであるから,これを
引用する。
(2) 控訴人ユニオンの補充的主張
ア契約メンバーの労働者性に関する判断基準について
労働組合法上の労働者に該当するかどうかの判断基準の要素として考慮さ
れるべき指揮監督関係の有無は,労働の内容を指揮命令する権能の有無では
なく,労働力を事業目的に役立つように配置し利用するという意味での指揮
命令の権能(労働力処分権)の有無をいうのであって,そのような考え方は
判例(最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決・民集30巻4号43
7ページ)においても示されているところ,契約メンバーと被控訴人との契
- 4 -
約関係をみれば被控訴人は契約メンバーに対して労働力処分権を有している
というべきである。そして,そのほか労働者性判断に当たっては報酬の労務
対価性を考慮すればよく,労務提供の諾否の自由の有無等その余の事情は補
充的に考慮すれば足りるのであって,以上の判断基準に照らせばAは労働者
というべきである。
イ基本契約の法的性質・効果について
被控訴人と契約メンバーとの間で基本契約が締結される際,被控訴人の内
部文書である稟議書には,契約メンバー予定者の氏名一覧及び各報酬が記載
されているほか,シーズンを通じて各メンバーが新国立劇場に通うことを前
提とした交通費の支払方法について記載されているのであり,このことから
も契約メンバーについてはシーズンを通じた稼動が予定されていることが見
て取れるのであって,かかる事情は基本契約の締結が実質的にみればシーズ
ンを通じた雇用契約と等しい性質を有するものであることを示すもので,A
の労働者性を強く裏付けるというべきである。
(3) 控訴人国の補充的主張
ア契約メンバーの労働者性に関する判断基準について
被控訴人における契約メンバーの労働者性については,基本契約の内容及
びこれにより導かれる法的効果という限定された事情のみによって判断され
るべきではなく,契約メンバーに個別公演出演契約につき諾否の自由がない
場合はもとより,そうでない場合についても,基本契約を踏まえて締結され
る個別公演出演契約をもこれと一体の契約規範として把握した上,労働組合
法が制定された趣旨・目的を十分に斟酌しつつ,契約内容の一方的決定の有
無,報酬の額・計算方法,拘束時間の多寡・長短及び歌唱技能の提供の対償
として得られる収入への依存の程度など諸々の要素を総合的に考慮して,契
約メンバーが被控訴人による労働条件の一方的決定を甘受せざるを得ない立
場にあるかどうかという観点で判断されるべきである。
- 5 -
イ個別公演についての出演義務について
被控訴人と契約メンバーとの合意内容が基本契約により包括的に定められ
ていること,債務不履行があった場合の解除及び損害賠償に関する規定,後
に追加された虚偽申告等の場合の解除条項等から,基本契約を合理的に解釈
すると,契約メンバーに契約上のペナルティが課されるのは個別公演への出
演をしなかったとき(この点に関する虚偽申告等をしたときも含まれる。)
に限られるというべきであり,これらの契約に関する関係者の認識及び運用
ないし実態(取り分け歌唱技能を換価し得る市場の乏しいという状況からし
ても,契約メンバーは自由に個別公演への出演を辞退することは困難であっ
た。)をも併せ考えると,契約メンバーが個別公演に出演することを自由に
辞退し得るということはできないから,基本契約により個別公演への出演が
法的義務とされていたものというべきである。
(4) 被控訴人の反論
ア控訴人ユニオンの主張について
(ア) 控訴人ユニオンは労務提供の諾否の自由の有無が労働者性を判断する基
準の要素ではない旨主張するが,労務の提供につき諾否の自由を有しなが
ら労務提供の指示に応じる義務を負わないという場合はおよそあり得ず,
それ自体矛盾した主張であるし,同控訴人指摘の最高裁判例においても,
労務提供の諾否の自由に関する議論は当該使用者の指揮命令の権能ないし
当該労働者の従属性の有無の問題として論じられているのであって,上記
の点は判示の趣旨を誤解した主張である。
(イ) 控訴人ユニオンは被控訴人の稟議書を根拠に基本契約の法的性質ないし
被控訴人の基本契約締結に対する意図ないし目的の存在を基礎づけようと
するが,そもそも稟議書は契約メンバーとなる予定者及び一公演当たりの
出演報酬額等に関する内部決済の文書にすぎず,同控訴人の上記主張は単
なる憶測にすぎない。
- 6 -
イ控訴人国の主張について
(ア) 個別公演出演契約について併せて検討しても,個別公演ごとに出演契約
を締結する外部芸術家の場合との比較等から,契約メンバーにつきその労
働者性は認められないというべきである。
(イ) 基本契約に規定された義務は,個別公演出演契約を締結することにより
当該契約の内容を構成して初めて意味を持つものであって,個別公演出演
契約が締結されない段階においては,基本契約そのものから生じる義務を
論じること自体が無意味である。また,控訴人国は,基本契約の契約書に
おける一部の条項を取り上げて法的な個別公演への出演義務を根拠づけよ
うとするが,契約メンバーの「個別公演への出演を確定し,当該個別公演
の出演業務の内容及び出演条件等を定めるため,個別公演出演契約を締結
する」という契約書上の基本的な条項に反する表層的解釈であって,失当
というべきである。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人らの当審における主張を改めて検討してみても,Aの労働
者性はこれを否定するのが相当であって,第1事件における被控訴人の請求は理
由があり,第2事件における控訴人ユニオンの請求は失当であると判断する。そ
の理由は,次に付け加えるほかは,おおむね原判決「第3 争点に対する判断」
(原判決14ページ2行目から17行目まで)に記載のとおりであるから,これ
を引用する。
(1) 原判決14ページ18行目の「この出演契約書」の次に「のうちオペラ公演
「蝶々婦人」に係る契約書」を加え,同24行目の「本件公演」を「本公演」
に改める。
(2) 同23ページ8行目の「明らかでないし,」の次に「前記ア,イで検討した
とおり,少なくとも基本契約についての当事者間の合理的意思解釈としては個
別公演出演契約の締結が法的な義務として合意されたものとみることはできな
- 7 -
い上,」を加える。
(3) 同24ページ8行目の「理由にはならず,」の次に「また,契約メンバーと
被控訴人との法律関係は,後に個別公演出演契約が締結される場合を念頭に,
基本契約において個々の個別公演出演契約に共通する合意の基本的部分がほぼ
網羅的に定められており,個別公演出演契約を締結する際には当該公演に係る
日程その他の付加的事項が確認的に合意される程度であるから,むしろ当面は
契約メンバーとしては被控訴人に対し当該公演に参加するかどうかの意思を表
示しておけばよく,早急に個別公演出演契約に係る契約書面を作成しておかな
ければならない必要性は決して大きくないのであって,追って正式な個別公演
出演契約に関する書面を取り交わすことを予定しつつ,練習参加等の事実行為
が先行することは何ら不自然なことでないと考えられることをも併せれば」を
加える。
(4) 同25ページ13行目の「集団的舞台芸術であることから生じるもの」を
「集団的舞台芸術であるということによって各契約メンバーの債務の本旨及び
その履行も自ずと規定されることに起因する不可避の事柄である」に改め,同
ページ15行目の末尾の次に行を改め「このように,契約メンバーは,業務の
遂行ないし債務の履行に際し,集団的舞台芸術に参加することに由来する制約
以外の指揮監督を受けること以外に,場面を問わず被控訴人の指揮監督を受け
るということはできない。」を加える。
(5) 同26ページ7行目の「契約の内容が」を「契約の内容を」に改め,同12
行目の「(前記(1)キ)が,」の次に「これはAが個別の公演への参加を自ら
選択した結果,前述したオペラ公演としての芸術性に由来する制約を受けるこ
とになったものであって,」を加える。
2 控訴人らの補充的主張に対する判断
(1) 契約メンバーの労働者性に関する判断基準について
アまず,控訴人ユニオンは,労働者性を判断するに当たり考慮すべき要素と
- 8 -
しての指揮監督関係というのは,労働力処分権すなわち労働力の配置・利用
という意味での指揮命令権能であり,労務提供の諾否の自由等は判断要素と
して重視されるべきではない旨主張する。使用者と労働者との間の指揮監督
関係は,同控訴人の主張するような意味においてもさることながら,労働力
の配置がされている状態を前提とした業務遂行上の指揮命令ないし支配監督
関係という意味においても用いられるほか,業務従事ないし労務提供の指示
等に対する諾否の自由という趣旨をも包含する多義的な概念であり,労働組
合法上の労働者に該当するかどうかの判断に当たり,これらの多義的な要素
の一部分だけを取り出して論ずることは相当ではないというべきである。と
ころで,同控訴人の主張する意味において検討してみても,契約メンバーの
歌唱技能という債務の提供はオペラ公演における各メンバーの持ち場(合唱
団におけるパート等)が自ずと決まっており,被控訴人が契約メンバーの労
働力を事業目的の下に配置利用する裁量の余地があるとは考えられないとこ
ろである。そして,既に説示のとおり,契約メンバーが個別公演出演契約を
締結してひとたび当該オペラ公演に参加することとした場合においては,オ
ペラ公演のもつ集団的舞台芸術性に由来する諸制約が課せられるということ
以外には,法的な指揮命令ないし支配監督関係の成立を差し挟む余地はない
上,契約メンバーには個別公演出演契約を締結するかどうかの自由すなわち
公演ごとの労務提供の諾否の自由があること(後記(2)参照)をも併せ考え
れば,契約メンバーが労働組合法上の労働者であるとはいい難いというべき
である。
イ次に,控訴人国は,基本契約の内容及び効果のみならず個別公演出演契約
を締結した場合の被控訴人と契約メンバーとの間の契約関係を基にして,契
約内容の一方的決定の有無,報酬の額・計算方法,拘束時間の多寡・長短及
び歌唱技能の提供の対償として得られる収入への依存の程度といった諸要素
を総合的に考慮して労働者性の有無を判断すべきものと主張する。しかしな
- 9 -
がら,既に述べたとおり,契約メンバーが個別公演出演契約を締結するかど
うかの自由を有している本件においては,個別公演出演契約を締結した後に
初めて受けることとなる契約上の制約ないし拘束に比して,そのような一つ
の公演を区切りとした具体的契約関係に入るか否かの判断を契約メンバーが
留保していることは格段に大きい要素というべきである(確かに個別の公演
における報酬等の条件については被控訴人が一方的に決定しているところで
はあるが,契約メンバーには被控訴人によって提示されたそのような一義的
な条件と被控訴人以外の者が提示する別の条件又は自らソリストとしての音
楽活動をすること若しくは教師等としてオペラ公演とは趣の全く異なる職業
活動をすることとのいずれを選択するかを判断し得る自由の大きさに比べた
とき,いわば契約メンバーに選択肢の一つとして提示するメニューの内容を
決定することは相対的に小さな要素であるといわざるを得ない。)上,個別
公演出演契約を締結した結果契約メンバーが受けることとなる種々の拘束は
いずれも先述したオペラ公演の本質に由来する性質のものであること,契約
メンバーの被控訴人からの報酬等に対する収入の依存度といった経済的な側
面についてみても,上述のとおり各契約メンバーがその自由な意思で個別公
演出演契約の締結を判断する過程で考慮される一要素にすぎないということ
ができることなどを総体的に考慮すれば,基本契約のみならずこれを踏まえ
て締結される個別公演出演契約によって規律される法律関係を前提とし,労
働組合法の制定目的等に照らして被控訴人と契約メンバーとの間の諸々の関
係を広く考察してみても,控訴人国が主張するような結論に至るものではな
い。
(2) 労務提供の諾否の自由について
ア既に説示したとおり,契約メンバーが被控訴人との間で基本契約を締結し
たからといって個々の公演について出演を法的に義務付けられるわけではな
いのであるが,控訴人国は,基本契約に係る契約書の規定の仕方と関係者の
- 10 -
認識及び運用等から個別公演への出演義務が導かれる旨主張するので,改め
てこの点につき検討を加える。
控訴人国は,契約メンバーが基本契約を履行しなかった場合(虚偽の申告
等を行った場合を含む。)がいかなるケースを想定しているかについて,他
の規定及び個別公演出演契約に係る契約書との整合性を図りつつ合理的に解
釈すると,契約メンバーが個別公演に出演しなかった場合(個別公演への出
演に関する虚偽の申告等を行った場合を含む。)以外には想定できないとす
ることから,基本契約の締結は個別公演への法的出演義務を包含するという
のである。しかしながら,上記の債務不履行に関する条項をみると,いずれ
のシーズンの契約書においても「法律上の不可抗力によりこの契約又は個別
公演出演契約の履行が不可能となった場合には,両当事者は,この契約又は
個別公演出演契約上の義務を負わない。」と共通して規定されているところ,
まず,このような規定の体裁からは,これがそもそも基本契約の不履行とい
うことに力点を置いて設けられた条項であるかについて疑念が残る(むしろ
同規定の力点は個別公演出演契約の不履行の場合に関する規律にあったとみ
るのが自然ということもできる。)上,個別公演への出演以外に係る事項に
ついて,被控訴人においてはスケジュール提示義務・傷害保険契約締結義務
等の付随的義務を負担しており,他方,契約メンバーにおいては資料提供義
務・稽古欠席等に関する連絡義務等の付随的義務をそれぞれ負担しているた
め,これらの付随的義務違反も一応債務不履行として問題となり得ることを
念頭に置きつつ,個別公演出演契約における固有の不履行のほかに基本契約
自体につい不履行についても念のため言及したものと解することも十分可能
である。さらに,基本契約によって個別公演への出演義務を謳い込む必要が
あるのであれば,端的にそのための明示的な義務付条項を設ければ足りるの
であるから,控訴人国の上記解釈は,その余の事項に周到な規定を設けてい
る上記契約書全体の構成に照らしても不合理なものといわざるを得ない。し
- 11 -
かも,控訴人国のような解釈を採ったときには,これらの契約書には共通し
て「乙(契約メンバー)が「個別公演に出演するに当たり,両当事者は,乙
の個別公演への出演を確定し,当該個別公演の出演業務の内容及び出演条件
等を定めるために,「個別公演出演契約」を締結する。」と規定されている
こと,しかも契約書の体裁からして同規定が基本契約全体において枢要な地
位を占めている基本的な事項であることと明らかに矛盾することとなってし
まう。
以上に加えて,前記認定のとおり,基本契約を締結した契約メンバーが自
己都合により個別公演に出演しなかったからといってこれまで法的責任の追
及を受けたことはないし,また事実上の不利益を被ったこともない(もっと
も,契約メンバーであることは原則としてシーズンを通じて被控訴人の公演
に参加することが期待される地位にあるから,次年度以降における基本契約
の締結において当該シーズンで個別公演に参加しなかったことが考慮される
事情となり得ることはこれを否定することはできないが,それはシーズンを
通じて一定水準以上の合唱団員を安定的に確保したい被控訴人が新たなシー
ズンにおける契約に臨む際に判断要素とするかどうかの問題であって,基本
契約から個別公演への出演が法的に義務付けられるかどうかとは別次元の問
題というべきである。)という契約関係の運用ないし実態に照らしても,控
訴人国の解釈は失当といわざるを得ない。
イなお,控訴人ユニオンは,基本契約締結に当たり被控訴人が作成する稟議
書の記載内容から,被控訴人は基本契約の締結により既に契約メンバーがシ
ーズンを通じて稼動することを予定しているのであって,そのことは個別公
演への出演義務を基礎づけるゆえんでもある旨主張するが,同文書は,その
記載内容及び存在意義からして,これだけの契約メンバーと基本契約を締結
することとなれば当該シーズン全体でどれだけの予算が必要かといった観点
から作成された文書にすぎないものとみるのが相当であって,上記文書の記
- 12 -
載から基本契約の法的性質を直ちにうかがい知ることができるものではない。
同控訴人の上記主張は失当である。
3 以上によれば,Aは労働組合法上の労働者に該当するものとは認められないと
いうべきであるから,その余の点について判断するまでもなく控訴人ユニオン及
び同国の各主張は失当であって,本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを
棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官藤村啓
裁判官岸日出夫
裁判官大濱寿美


新国立劇場事件最高裁平成23年4月12日第三小法廷判決

2012年04月01日 | 労働重判

主 文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
平成21年(行ヒ)第226号上告代理人廣見和夫ほかの上告受理申立て理由,
同上告参加代理人古川景一,同川口美貴の各上告受理申立て理由及び同第227号
上告代理人古川景一,同川口美貴,同水口洋介ほかの各上告受理申立て理由につい

1 本件は,年間を通して多数のオペラ公演を主催している財団法人である平成
21年(行ヒ)第226号被上告人・同第227号被上告参加人X1(以下「被上
告財団」という。)が,音楽家等の個人加盟による職能別労働組合である平成21
年(行ヒ)第226号上告参加人・同第227号上告人X2(以下「上告組合」と
いう。)に加入している合唱団員1名につき,毎年実施する合唱団員選抜の手続に
おいて,過去4年間は,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可
能である契約メンバーの合唱団員として合格とし,その者との間で期間1年の出演
基本契約を締結していたが,次期シーズンについては上記の者を不合格としたこと
及びこのことに関する上告組合からの団体交渉の申入れに応じなかったことについ
て,東京都労働委員会において,被上告財団が上記申入れに応じなかったことは不
当労働行為に該当するが上記の者を不合格としたことはこれに該当しないとして,
被上告財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ,上告組合のその余の申立てを
棄却する旨の命令を発し,中央労働委員会において,被上告財団及び上告組合の各
再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令を発したため,被上告財団及び上告組合
- 2 -
が,中央労働委員会の上記命令に関し,それぞれ各自の再審査申立てを棄却した部
分の取消しを求める事案である。
2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)ア 上告組合は,職業音楽家と音楽関連業務に携わる労働者の個人加盟によ
る職能別労働組合である。
イ 被上告財団は,新国立劇場の施設において現代舞台芸術の公演等を行うとと
もに同施設の管理運営を行っている財団法人であり,年間を通して多数のオペラ公
演を主催している。
(2)ア 被上告財団は,毎年,主催するオペラ公演に出演する新国立劇場合唱団
のメンバーを試聴会を開いて選抜し,合格者との間で,8月から翌年7月までの年
間シーズンの全ての公演(ただし,被上告財団が当該シーズンの開始前にあらかじ
め出演を指定しないものがある。例えば,男声合唱だけの演目には女性団員は出演
しないし,他の合唱団が出演する演目もある。)に出演することが可能である契約
メンバーと,被上告財団がその都度指定する公演に出演することが可能である登録
メンバー(契約メンバーだけでは合唱団のメンバーが足りない場合等に合唱団に加
わることになる。)に分けて,出演契約を締結していた。
イ 契約メンバーは毎年40名程度であり,メンバーは毎年入れ替わりがあっ
た。被上告財団が主催するオペラ公演は,年間10~12の公演があり,1公演に
つき2~8回の上演が行われていた。
(3)ア 試聴会は,次期シーズンの契約を希望する合唱団のメンバー及び公募に
よる参加者を対象に,新国立劇場のオペラ芸術監督や合唱指揮者らがオペラ・アリ
ア等の歌唱技能を審査するものであり,被上告財団は,試聴会の審査結果等によ
- 3 -
り,契約メンバー合格者及び登録メンバー合格者を選抜した。契約メンバー合格者
の方が合格に要する技能等の水準が高かった。
イ 被上告財団は,契約メンバー合格者に対して,期間を1年とする出演基本契
約の締結を申し出て,面談の上,契約メンバーになることとなった者との間で,同
契約を締結し,その上で,各公演ごとに個別公演出演契約を締結していた。これに
対し,登録メンバー合格者(契約メンバー合格者のうち,本人の希望又は面談の結
果,登録メンバーになることとなった者を含む。)は,被上告財団との間で,その
出演する公演ごとに出演契約を締結した。
(4)ア 被上告財団と契約メンバーとの間で締結されていた出演基本契約の主な
内容は,次のとおりである。なお,同契約の内容は,被上告財団が一方的に決定し
ており,各メンバーにより出演対象となる公演が異なるほかは,全ての契約メンバ
ーに共通である。
(ア) 被上告財団は,契約メンバーに対し,被上告財団の主催するオペラ公演に
出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾する。
(イ) 契約メンバーが出演する公演(以下「個別公演」という。)は,出演基本
契約に係る契約書(以下「出演基本契約書」という。)の別紙「出演公演一覧」に
記載のとおりとする(なお,同別紙には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演
回数及び当該契約メンバーの出演の有無等が記載されており,この記載は,各契約
メンバーごとに異なっていた。)。
(ウ) 契約メンバーは,合唱メンバーとして個別公演に出演し,必要な稽古等に
参加し,その他個別公演に伴う業務で被上告財団と合意するものを行う。
(エ) 契約メンバーが個別公演に出演するに当たり,被上告財団と契約メンバー
- 4 -
は,契約メンバーの個別公演への出演を確定し,当該個別公演の出演業務の内容及
び出演条件等を定めるため,原則として当該個別公演の稽古が開始される月の前々
月の末日までに,個別公演出演契約を締結する。個別公演出演契約に係る契約書に
記載されない事項については,出演基本契約に従うものとする。
(オ) 被上告財団は,契約メンバーに対し,出演業務の遂行に対する報酬を,個
別公演出演契約締結の上,個別公演ごとに支払う。報酬は,出演基本契約書の別紙
「報酬等一覧」に掲げる単価等に基づいて算定する(なお,同別紙には,報酬は公
演出演料(1回当たりの金額が定められている。)及び超過稽古手当(超過時間に
より区分された金額が定められている。)等から成ること,稽古を欠席,遅刻又は
早退した場合には報酬を減額すること等が記載されていた。)。
イ 出演基本契約書の条項には,被上告財団が契約メンバーに対して個別公演出
演契約の締結を申し出た場合に契約メンバーにその締結を義務付ける旨を明示する
規定や,契約メンバーが被上告財団以外の者が主催する公演に出演したり,個人公
演を開いたり,個人レッスンをしたりすること等の音楽活動を禁止,制限する規定
はなかった。
(5)ア 前記(4)ア(エ)に基づき締結される個別公演出演契約には,出演を確定す
る個別公演の公演日程等が定められたほか,当該個別公演の出演業務の内容及び出
演条件等は,同契約に係る契約書に定める特記事項を除き,全て出演基本契約のと
おりとすること等が定められた。
イ 被上告財団は,個別公演の稽古等の確定した日程を,その稽古等が行われる
月の前々月の末日までに決定し,契約メンバーに提示していた。歌唱技能の提供の
方法や提供すべき歌唱の内容については,合唱指揮者等の指揮があった。また,前
- 5 -
記(4)ア(オ)のとおり,出演基本契約上,稽古を欠席,遅刻又は早退した場合には
報酬を減額することが定められており,実際にも,契約メンバーは,稽古への参加
状況について被上告財団の監督を受けていた。
(6)ア 実際の運用では,契約メンバーが,当該シーズンの一部の個別公演への
出演を辞退し,個別公演出演契約を締結しないことがあった。もっとも,辞退の件
数は,1シーズンにつき延べ数件程度とかなり少なく,また,辞退の理由の大半
は,出産,育児によるものや他の公演への出演によるものであった。
イ 被上告財団は,個別公演への出演を辞退した契約メンバーに対しても,当該
契約メンバー本人に特段の希望がある場合や当該契約メンバーが試聴会で不合格と
なった場合を除き,翌シーズンの出演基本契約の締結を申し出ており,再契約にお
いて特に不利な取扱いをしたことはなかった。契約メンバーが個別公演への出演を
辞退したことを理由として被上告財団から制裁を課されたこともなかった。
ウ 契約メンバー合格者は,出演基本契約締結のための面談の際,被上告財団か
ら,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望された。
もっとも,契約メンバーとして同契約を締結するに当たって,全ての個別公演に確
定的に出演することができる旨の申告や届出が要求されることはなく,1,2の個
別公演には出演することができないという者でも,被上告財団の意向により契約メ
ンバーとなる者がいた。他方,契約メンバー合格者であっても,本人の希望により
登録メンバーとなる者や,出演することができる公演が限られることから被上告財
団の意向により登録メンバーとなる者がいた。
(7)ア Aは,上告組合に加入している者であり,新国立劇場合唱団の契約メン
バーとして,平成11年8月から同15年7月までの4シーズンにわたり,毎年,
- 6 -
被上告財団との間で出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を
締結し,公演に出演していた。Aは,その間,被上告財団から,年間約300万円
の報酬(超過稽古手当を含む。)を受けていた。
イ Aは,平成13年1月から同年3月まで文化庁在外派遣研修員としてウィー
ンに派遣され,その間,予定されていた公演への出演を辞退したが,翌シーズンも
契約メンバーとして出演基本契約を締結した。
ウ Aが公演への出演や稽古への参加のため新国立劇場に行った日数は,平成1
4年8月から同15年7月までのシーズンにおいて,約230日であった。Aは,
その間,個人でリサイタルを開いたり,生徒に個人レッスンをするなどの音楽活動
も行っていた。
(8)ア Aは,被上告財団から,平成15年2月20日,同年8月から始まるシ
ーズンについて,試聴会の審査の結果,契約メンバーとしては不合格であると告知
された(以下,被上告財団がAを不合格としたことを「本件不合格措置」とい
う。)。
イ 上告組合は,平成15年3月4日,被上告財団に対し,文書により,「Aの
次期シーズンの契約について」を議題とする団体交渉の申入れ(以下「本件団交申
入れ」という。)を行った。これに対し,被上告財団は,同月7日,「A氏と当財
団との関係が雇用関係にないので,これを前提とする団体交渉申し入れは受諾出来
ない」などと文書で回答した。
(9) 上告組合は,平成15年5月6日,東京都労働委員会に対し,本件不合格
措置及び本件団交申入れに対する被上告財団の対応が不当労働行為に当たるとし
て,救済申立てをしたところ,同委員会は,本件団交申入れに対する被上告財団の
- 7 -
対応は不当労働行為に該当するが本件不合格措置はこれに該当しないとして,被上
告財団に対し団体交渉に応ずべきこと等を命じ,その余の申立てを棄却する旨の命
令を発した。同命令に関し,被上告財団は救済を命じた部分につき,上告組合は申
立棄却部分につき,中央労働委員会に対しそれぞれ再審査を申し立てたが,同委員
会は,これらの再審査申立てをいずれも棄却する旨の命令を発した。
3 原審は,上記事実関係等の下において要旨次のとおり判断し,契約メンバー
であるAは労働組合法上の労働者に当たらず,したがって,本件団交申入れに対す
る被上告財団の対応及び本件不合格措置について不当労働行為が成立する余地はな
いとして,被上告財団の請求を認容し,上告組合の請求を棄却すべきものとした。
契約メンバーは,被上告財団と出演基本契約を締結しただけでは個別公演に出演
する法的な義務はなく,個別公演出演契約を締結する法的な義務はないというべき
であるから,契約メンバーには,労務ないし業務を提供することについて諾否の自
由がないとはいえない。また,契約メンバーは,個別公演出演契約を締結しない限
り,業務遂行の日時,場所,方法等について被上告財団の指揮監督を受けることは
ない。さらに,契約メンバーは,出演基本契約を締結しただけでは報酬の支払を受
けることはなく,他方で,出演することが予定されている公演はあらかじめ決まっ
ており,予定された公演以外に随時出演を求められることはないから,被上告財団
との間の指揮命令,支配監督関係は相当に希薄というべきである。したがって,契
約メンバーが被上告財団との間で出演基本契約を締結したことによって,労務ない
し業務の処分について被上告財団から指揮命令,支配監督を受ける関係になってい
るとは認められず,契約メンバーであるAは労働組合法上の労働者に当たるという
ことはできない。
- 8 -

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係等によれば,出演基本契約は,年間を通して多数のオペラ公演を主
催する被上告財団が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認め
た者を,原則として年間シーズンの全ての公演に出演することが可能である契約メ
ンバーとして確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目
的として締結されていたものであるといえるから,契約メンバーは,上記各公演の
実施に不可欠な歌唱労働力として被上告財団の組織に組み入れられていたものとい
うべきである。また,契約メンバーは,出演基本契約を締結する際,被上告財団か
ら,全ての個別公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望されてお
り,出演基本契約書には,被上告財団は契約メンバーに対し被上告財団の主催する
オペラ公演に出演することを依頼し,契約メンバーはこれを承諾すること,契約メ
ンバーは個別公演に出演し,必要な稽古等に参加し,その他個別公演に伴う業務で
被上告財団と合意するものを行うことが記載され,出演基本契約書の別紙「出演公
演一覧」には,年間シーズンの公演名,公演時期,上演回数及び当該契約メンバー
の出演の有無等が記載されていたことなどに照らせば,出演基本契約書の条項に個
別公演出演契約の締結を義務付ける旨を明示する規定がなく,契約メンバーが個別
公演への出演を辞退したことを理由に被上告財団から再契約において不利な取扱い
を受けたり制裁を課されたりしたことがなかったとしても,そのことから直ちに,
契約メンバーが何らの理由もなく全く自由に公演を辞退することができたものとい
うことはできず,むしろ,契約メンバーが個別公演への出演を辞退した例は,出
産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていたことにも
- 9 -
鑑みると,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,契約メンバーは,基本
的に被上告財団からの個別公演出演の申込みに応ずべき関係にあったものとみるの
が相当である。しかも,契約メンバーと被上告財団との間で締結されていた出演基
本契約の内容は,被上告財団により一方的に決定され,契約メンバーがいかなる態
様で歌唱の労務を提供するかについても,専ら被上告財団が,年間シーズンの公演
の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の
合唱団の構成等を一方的に決定していたのであり,これらの事項につき,契約メン
バーの側に交渉の余地があったということはできない。そして,契約メンバーは,
このようにして被上告財団により決定された公演日程等に従い,各個別公演及びそ
の稽古につき,被上告財団の指定する日時,場所において,その指定する演目に応
じて歌唱の労務を提供していたのであり,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱
の内容については被上告財団の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加
状況については被上告財団の監督を受けていたというのであるから,契約メンバー
は,被上告財団の指揮監督の下において歌唱の労務を提供していたものというべき
である。なお,公演や稽古の日時,場所等は,上記のとおり専ら被上告財団が一方
的に決定しており,契約メンバーであるAが公演への出演や稽古への参加のため新
国立劇場に行った日数は,平成14年8月から同15年7月までのシーズンにおい
て約230日であったというのであるから,契約メンバーは時間的にも場所的にも
一定の拘束を受けていたものということができる。さらに,契約メンバーは,被上
告財団の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基
本契約書の別紙「報酬等一覧」に掲げる単価及び計算方法に基づいて算定された報
酬の支払を受けていたのであり,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には
- 10 -
超過時間により区分された超過稽古手当も支払われており,Aに支払われていた報
酬(上記手当を含む。)の金額の合計は年間約300万円であったというのである
から,その報酬は,歌唱の労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当であ
る。
以上の諸事情を総合考慮すれば,契約メンバーであるAは,被上告財団との関係
において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そこで,Aが被上告財団
との関係において労働組合法上の労働者に当たることを前提とした上で,被上告財
団が本件不合格措置を採ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことが不当労
働行為に当たるか否かについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻す
こととする。
よって,裁判官全員一致の意見により,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 大谷剛彦 裁判官
寺田逸郎)


新国立劇場事件最高裁平成23年4月12日第三小法廷判決

2012年04月01日 | 労働重判

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=81241&hanreiKbn=02
事件番号 平成21(行ヒ)226
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月12日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
判例集等巻・号・頁 民集 
第65巻3号943頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成20(行コ)303
原審裁判年月日 平成21年03月25日
判示事項 年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員が,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例

裁判要旨 
年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員は,次の(1)~(5)など判示の事実関係の下では,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たる。
(1) 出演基本契約は,上記法人が,試聴会の審査の結果一定水準以上の歌唱技能を有すると認めた者を,原則として契約期間の全ての公演に出演することが可能である合唱団員として確保することにより,上記各公演を円滑かつ確実に遂行することを目的として締結されていた。
(2) 合唱団員は,出演基本契約を締結する際,上記法人から,あらかじめ上記法人が指定する全ての公演に出演するために可能な限りの調整をすることを要望され,合唱団員が公演への出演を辞退した例は,出産,育児や他の公演への出演等を理由とする僅少なものにとどまっていた。
(3) 出演基本契約の内容や,契約期間の公演の件数,演目,各公演の日程及び上演回数,これに要する稽古の日程,その演目の合唱団の構成等は,上記法人が一方的に決定していた。
(4) 合唱団員は,各公演及びその稽古につき,上記法人の指定する日時,場所において,その指定する演目に応じて歌唱の労務を提供し,歌唱技能の提供の方法や提供すべき歌唱の内容について上記法人の選定する合唱指揮者等の指揮を受け,稽古への参加状況について上記法人の監督を受けていた。
(5) 合唱団員は,上記法人の指示に従って公演及び稽古に参加し歌唱の労務を提供した場合に,出演基本契約で定められた単価及び計算方法に基づいて算定された報酬の支払を受け,予定された時間を超えて稽古に参加した場合には超過時間により区分された超過稽古手当の支払を受けていた。

参照法条 労働組合法3条,労働組合法7条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110412150301.pdf


平成20年度重要判例解説 労働法

2012年04月01日 | 労働重判目次・リンク

1事件 非組合員の労働条件と義務的団交事項―国・中労委(根岸病院・初任給引下げ団交拒否)事件

2事件 有罪判決から約27年経過し阿多公務員の失職扱いの有効性―国・郵便事業事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35488&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071214091754.pdf

3事件 期末手当による賃金減額調整の可否―福岡雙葉学園事件

4事件 男女別コース制の下での男女賃金格差の合理性―兼松事件

5事件 キャディ職の有期労働契約への変更の可否―東武スポーツ(宮の森カントリー倶楽部)事件

6事件 年俸制における評価決定権の有無

7事件 下請け従業員と元請会社間の労働契約の成否―松下プラズマディスプレイ(パスコ)事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37805&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707153405.pdf

8事件 合唱団員の労働組合法上の労働者性―国・中労委(新国立劇場運営財団)事件
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37796&hanreiKbn=06
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707144152.pdf


平成20年度重要判例解説 行政法

2012年04月01日 | 行政重判


1事件 一般公共海岸区域内の土地に関する専用不許可の違法性
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35469&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071207142721.pdf

2事件 産廃処理施設設置許可取消訴訟における原告適格および違法事由としての「経理的基礎」
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35259&hanreiKbn=04
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071017103123.pdf

3事件 排出事業者による廃棄物処理の委託と不法投棄罪
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35395&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071116160102.pdf

4事件 土地区画整理事業の事業計画決定の処分性
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36787&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080911110804.pdf

5事件 日本人と内縁関係にある不法残留外国人に対する在留特別許可の義務付け
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36793&hanreiKbn=05
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080911094915.pdf

6事件 「公の施設」使用許可に関する仮の義務付け
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36795&hanreiKbn=05
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080911100316.pdf

7事件 国籍法3条1項の違憲性と日本国籍確認判決
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36415&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080818131625.pdf

8事件 「混合診療」と「療養の給付」を受ける権利確認判決

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35375&hanreiKbn=04
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071112151712.pdf


9事件 住民監査請求の制限期間の徒過と「正当な理由」

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36076&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080317153445.pdf


10事件 土地の先行取得委託契約の無効または違法と当該土地の売買契約締結の違法性
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=35609&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080815095832.pdf

 

11事件 弁護士会の人権救済事案調査に係る受刑者との接見を認めない刑務署長の措置の国賠法上の違法性

http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=36288&hanreiKbn=02
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080415142414.pdf