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【答案】百選99事件 御國ハイヤー事件

2012年04月20日 | 労働百選答案

1 X社はYらに不法行為に基づく損害賠償を請求している。もしXらの行為が「争議行為」であって「正当」なものであるとするならば、労組法8条の定める民事免責によりX社の請求は認められないことになる。そこで、本件行為が「争議行為」であって「正当」なものといえるかにつき検討する。
2 「争議行為」とは、団体交渉において要求を貫徹するために使用者に圧力をかける労務不提供を中心とした行為である。
 まず、本件行為の内容は、Yらがその労務であるタクシーの運転を行わないことであり、労務不提供行為といえる。そして、本件行為は、団交再開を目的としており、団交を再開するよう圧力をかける労務不提供といえるので、「争議行為」に当たる。
 次に、本件行為に付随し、Yらが従業員に対し業務遂行をやめるように働きかけたピケッティング行為も、労務不提供と一体になって使用者に圧力をかける行為であるため、「争議行為」に含まれる。
3(1) では、本件「争議行為」は「正当」性を有するか。「争議行為」の主体・目的・手続・態様から正当性を判断する。
(2) 本件行為の主体は、従業員で構成される組合であり、その要求事項が基本給の引き上げ等団交の対象事項たる従業員の労働条件改善であることから、主体と目的は正当といえる。また、手続面では、既に複数回の団交を重ねており、正当な手続きが踏まれている。
(3)ア それでは、態様につき、Yらがピケッティングという積極的行為まで行った点が態様上「正当」性を有するか。
イ ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にある。とすると、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、これをもって正当な争議行為と解することはできないというべきである。したがって、労働者側が、ストライキの期間中、非組合員等による営業用自動車の運行を阻止するために、説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうなどの行為をすることは許されず、このような自動車運行阻止の行為を正当な争議行為とすることはできないと解するのが相当である。
ウ これを本件についてみるに、F地本が実施した本件ストライキにおいて、Yらは、地本の決定に従い、X社が本件タクシーを稼働させるのを阻止することとし、二回にわたり、本件タクシーの傍らに座り込み、あるいは寝転ぶなどして、X社の退去要求に応ぜず、結局、X社は、本件タクシーを車庫から搬出することができなかったというのである。このことからすると、Yらは、説得活動の範囲を超えて、X社の管理に係る本件タクシーを地本の排他的占有下に置き、X社がこれを搬出して稼働させるのを実力で阻止したものといわなければならない。したがって、本件Yらの行為はX社の管理に係るタクシー四二台のうち組合員が乗務する予定になっていた本件タクシーのみを運行阻止の対象としたものであり、エンジンキーや自動車検査証の占有を奪取するなどの手段は採られず、暴力や破壊行為に及んだものでもなく、専務やその他の従業員が両車庫に出入りすることは容認していたなど、地本において無用の混乱を回避するよう配慮した面がうかがわれ、また、X社においても本件タクシーを搬出させてほしい旨を申し入れるにとどめており、そのため、Yらがその搬出を暴力等の実力行使をもって妨害するといった事態には至らなかったといった本件諸事情を考慮に入れても、Yらの本件自動車運行阻止の行為は、その態様において、争議行為として「正当」な範囲にとどまるものということはできないといわざるをえない。
 以上により、Yらによるピケッティングを含む本件行為は、「正当」なものということができない。
4 よって、Yらによる本件行為は労組法8条の規定する民事免責事由に該当せず、X社の請求は認められる。


【答案】百選77事件 高知放送事件

2012年04月20日 | 労働百選答案

1 Xとしては、本件解雇が労契法16条に違反し無効であることを理由に、XがY会社の従業員としての地位を有することの確認請求、解雇期間中の賃金請求(民法536条2項)、違法な解雇に基づく損害賠償請求(民法709条)をなすことが考えられる。そこで本件解雇の違法性につき検討する。
2 Xの各行為は放送事業者としてのYの信用を失墜させるものであり、就業規則15条3号の普通解雇事由に該当する。しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、使用者は解雇権を濫用したものとして当該解雇は無効となる(労契法16条)。そして、上記の社会通念上相当であると認められるか否かの判断にあたっては、①被用者側の非違行為の態様・程度、②これにより使用者側が被る損害、③使用者側の帰責性、④被用者の従前の勤務状況、⑤他の被用者の処分との均衡、⑥従前の同種事案についての処分との均衡等、諸般の事情を当該具体的事案に照らし総合的に考慮すべきである。
3 これを本件について検討する。
(1) まず①の点につき、確かに、Xが寝過ごしという同一態様に基づき特に2週間内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、さらに、第2事故直後においては率直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできない。しかしながら他面において、本件自己はいずれもXの寝過ごしという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではない。また、通常はファックス担当者が先に起きてアナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第1、第2事故ともファックス担当者においても寝過ごし、定時にXを起こしてニュース言行を手交しなかったのであり、事故発生につきXのみを攻めるのは酷である。さらに、Xは第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力している。また、事実と異なる事故報告書を提出した点についても、1階通路ドアの開閉情況にXの誤解があり、また短期間内に2度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、この点を強く攻めることはできない。
(2) 次に、②の点につき、確かに担当アナウンサーの寝過ごしによる放送不能という事態は、定時放送を使命とするY社の対外的信用を著しく失墜するものである。しかしながら、事故により生じた空白時間は第1事故においては10分間、第2事故においては5分間という短時間であって、放送時刻が午前6時という聴取率が比較的低い早朝であったことも考えると、解雇という重大な処分をもって臨むほどの損害の重大性があったといえるかは疑問である。
(3) そして③の点につき、早朝の放送においては担当者の寝過ごしという事態が生じることは十分想定しうるにもかかわらず、Y社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったのであり、Y社にも本件事故につき一定の帰責性が認められる。
(4) また、④Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くない。
(5) さらに、⑤第2事故において同時に寝過ごしたファックス担当者Bはけん責処分に処せられたに過ぎない。
(6) 加えて、⑥Y社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったというのである。
(7) 以上の事情を総合的に判断すると、Xに対して解雇をもってのぞむことはいささか苛酷にすぎるというべきで、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないというべきである。したがって本件解雇は解雇権を濫用したものとして、労契法16条に違反し無効である。
4 よって、Xの上記各請求は認められる。


 


【答案】百選12事件 大日本印刷事件 

2012年04月20日 | 労働百選答案

1(1) Yが労働契約上の権利を有する地位にあるといえるためには、その前提として、XY社間に労働契約が成立していなければならない。そこで、採用内定の法的性質が問題となる。
(2) 採用内定の実体は多様であるため、事案ごとに契約の内容を具体的に検討し、入社までに特段の合意が予定されていなければ、採用内定の時点で労働契約が成立すると解する。
(3) 本件では、平成23年8月11日に内定通知がなされ、Zはこれを受けて誓約書をY社に提出しているが、その他には入社までに労働契約の締結に関し特段の意思表示は予定されていなかったといえる。
 したがって、本件では、内定通知・誓約書送付の時点でY社とX1間に、効力始期付解約権留保付の労働契約が成立したというべきである。
2(1) 以上のように本件採用内定によってYX間に解約留保権付雇用契約が成立したと解した場合、本件採用内定取消の通知は、上記解約権に基づく解約申し入れと見るべきであるところ、本件における解約事由が、社会通念上相当として是認することができるものであるといえるかが次に問題となる。
(2)ア わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いつたん特定企業との間に採用内定の関係に入つた者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
イ そこでさらに試用契約における解約権のあり様につきみるに、試用契約における解約権は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解される。そして、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができる。しかしながら、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、上記のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきである。この理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられる。したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、本件採用内定取消事由の中心をなすものは「Yはグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というものである。しかしながら、グルーミーな印象であることは当初からわかつていたことであるから、Xとしてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたというべきである。これにもかかわらず、不適格と思いながら採用を内定し、その後当該不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、上記のように採用内定時において収集困難な判定資料を後日における調査観察により補完し最終的決定を留保するという解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきである。したがって、上記のような事由をもつて、本件誓約書の確認事項二、⑤所定の「その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき」という解約事由にあたるということはできない。