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【答案】百選12事件 大日本印刷事件

2012年04月14日 | 労働百選答案

1(1) Yが労働契約上の権利を有する地位にあるといえるためには、その前提として、XY社間に労働契約が成立していなければならない。そこで、採用内定の法的性質が問題となる。
(2) 採用内定の実体は多様であるため、事案ごとに契約の内容を具体的に検討し、入社までに特段の合意が予定されていなければ、採用内定の時点で労働契約が成立すると解する。
(3) 本件では、平成23年8月11日に内定通知がなされ、Zはこれを受けて誓約書をY社に提出しているが、その他には入社までに労働契約の締結に関し特段の意思表示は予定されていなかったといえる。
 したがって、本件では、内定通知・誓約書送付の時点でY社とX1間に、効力始期付解約権留保付の労働契約が成立したというべきである。
2(1) 以上のように本件採用内定によってYX間に解約留保権付雇用契約が成立したと解した場合、本件採用内定取消の通知は、上記解約権に基づく解約申し入れと見るべきであるところ、本件における解約事由が、社会通念上相当として是認することができるものであるといえるかが次に問題となる。
(2)ア わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いつたん特定企業との間に採用内定の関係に入つた者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入つた者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。
イ そこでさらに試用契約における解約権の有無及びその制約につきみるに、試用契約における解約権は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解される。そして、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができる。しかしながら、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、上記のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきである。この理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられる。したがつて、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、本件採用内定取消事由の中心をなすものは「Yはグルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかつた。」というものである。しかしながら、グルーミーな印象であることは当初からわかつていたことであるから、Xとしてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたというべきである。これにもかかわらず、不適格と思いながら採用を内定し、その後当該不適格性を打ち消す材料が出なかつたので内定を取り消すということは、上記のように採用内定時において収集困難な判定資料を後日における調査観察により補完し最終的決定を留保するという解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用というべきである。したがって、上記のような事由をもつて、本件誓約書の確認事項二、⑤所定の「その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき」という解約事由にあたるということはできない。

4 よって、Xの行った本件解約は無効であり、Yの労働契約上の地位の確認請求は認められる。


【答案】百選4事件 朝日放送事件(最判平成7年2月28日)

2012年04月14日 | 労働百選答案

1 Xに団体交渉応諾義務が生じるか否かは、Xが労組法7条の「使用者」に当たりXに同条2号の不当労働行為が成立するか否かによって決せられる。そこでこの点につき検討する。

2 一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。

3 これを本件についてみるに、確かに請負3社は、Xとは別個独立の事業主体として、テレビの番組制作の業務につきXとの間の請負契約に基づき、その雇用する従業員をXの下に派遣してその業務に従事させていたものであり、もとより、Xは上記従業員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではない。
 しかしながら、Xは、請負3社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していた。また、請負3社は、単にほぼ固定している一定の従業員のうちだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたに過ぎない。さらに、Xの下に派遣される請負3社の従業員は、このようにして決定されたことに従い、Xから支給ないし貸与される器材等を使用し、Xの作業秩序に組み込まれてXの従業員とともに番組制作業務に従事していた。そして、請負3社の従業員の作業の振興は、作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、すべてXの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていた、というのである。これらの事実を総合すれば、Xは、実質的に見て、請負3社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同旨できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものというべきである。したがって、この限りにおいて、労働組合法7条にいう「使用者」にあたるものと解するのが相当である。

4 そうすると、Xは自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ請負3社の従業員が組織するZ労働組合との団体交渉を拒否することができないものというべきである。これにもかかわらず、XはZ労働組合との安泰交渉を拒否したのであって、当該行為は、労組法7条2号の不当労働行為を構成するものというべきである。よって、


【答案】百選3事件 CBC管弦楽団労組事件

2012年04月14日 | 労働百選答案

1 XはA社の団交拒否が労組法7条3号にいう団交拒否の不当労働行為に当たるとして、Yに対し不当労働行為救済の申立を行っている。これが認められるためにはXが労組法上の「労働者」に該当する必要があるため、この点につき検討する。
2 労組法3条は、同法における「労働者」とは、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」をいうと定めている。労組法が、経済的に弱い地位にある労働者に団体交渉を通じた労働条件対等決定を促すことを目的としている(労組法1条参照)ことに鑑みると、労組法3条にいう労働者に該当するためには、労基法9条と異なり「使用」性及び「賃金」性(労務対償性)は要求されず、広い意味での経済的従属性(賃金等の収入で生活していること)のみが認められればよいと解するのが相当である。そして、経済的従属性の具体的な判断にあたっては、①仕事の依頼に対する諾否の自由の有無、②専属性の程度、③報酬の生活給性などの実質的な事情を総合的に考慮すべきである。
3 これを本件につきみるに、まず、①の点につき、本件の自由出演契約は、A社において放送の都度演奏者と出演条件等を交渉して個別的に契約を締結することの困難さと煩雑さとを回避し、楽団員をあらかじめA社の事業組織の中に組み入れておくことによって、放送事業の遂行上不可欠な演奏労働力を恒常的に確保しようとするものであることは明らかであり、この点においては専属出演契約及び優先出演契約と異なるところがない。このことと、自由出演契約締結の際における、出演発注があれば原則としてはやはりこれを拒否できず、いつも発注に応じないときは契約解除の理由となり更には次年度の契約更新を今日絶されることもありうるとのA社及び楽団員共通の認識とを合わせ考慮すれば、上記契約の文言上は楽団員がA社との出演発注を断ることが禁止されていなかったとはいえ、そのことから直ちに上記契約が出演について楽団員に何らの義務を負わせず、単にその任意の協力のみを期待したものであるとは解されず、むしろ、原則としては発注に応じて出演すべき義務のあることを前提としつつ、ただ個別の場合に他社出演等を理由に出演しないことがあっても、当然には契約違反等の責任を問わないという趣旨の契約であると見るのが相当である。
 次に、②の点につき、確かに、楽団員は、演奏という特殊な労務を提供する者であるため、必ずしも会社から日々一定の時間的拘束を受けるものではなく、出演に要する時間以外の時間は事実上その自由に委ねられている。しかしながら、上記のように、A社において必要とするときは随時その一方的に指定するところによって楽団員に出演を求めることができ、楽団員が原則としてこれに従うべき基本的関係がある以上、たとえA社の都合によって現実の出演時間がいかに減少したとしても、楽団人の演奏労働力の処分につきA社が指揮命令の権能を有しないものということはできない。
 さらに③の点につき、確かに、自由出演契約に基づき楽団員に支払われる出演報酬のうち、契約金は不出演によって減額されないこととなっている。しかし、楽団員はいわゆる有名芸術家とは異なり、演出についてなんら裁量を与えられていないのであるから、その出演報酬は、演奏によってもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、むしろ、演奏という労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当であって、その一部たる契約金は、楽団員に生活の資として一応の安定した収入を与えるための最低保証給たる性質を有するものと認めるべきである。
 以上の諸点からすれば、楽団員は、自由出演契約のもとにおいてもなお、A社に対する関係において、経済的従属性が認められ、「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」に該当し、労働組合法の適用を受けるべき「労働者」に当たると解すべきである。したがって、楽団員の組織するX組合とA社との間に同法7条2号の不当労働行為が成立する。


【答案】百選2事件 サガテレビ事件 福岡高裁昭和56年6月7日事件

2012年04月14日 | 労働百選答案

1 XのY社に対する労働契約存在確認の訴えが認められるためには、XY間に労働契約関係が存在していなければならない。そこで、XY間に労働契約が成立しているかにつき検討する。

2(1) 労働契約の一方当事者である「使用者」とは、原則として、労働者が労働契約を締結した相手方である。

 したがって、労働者派遣の場合にあっては、労働者が労働契約を締結した相手方は派遣元企業であり、派遣先企業との間では労働契約を締結していないのであるから、労働者と派遣先企業との間に事実上使用従属関係が存在する場合であったとしても労働者と派遣先企業との間には労働契約が成立しないのが原則である。

(2) もっとも、労働契約といえども、もとより黙示の意思の合致によっても成立しうるものであるから、労働者と派遣先企業の間に黙示の意思の合致が存在する場合には労働者と派遣先企業との間に労働契約の成立を認めることができる。そして、①外形上派遣先企業の正規の従業員とほとんど差異のない形で労務を提供することにより、派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し、しかも、②派遣元企業がそもそも企業として独自性を有しないとか、企業としての独立性を欠いていて派遣先企業の労務担当の代行機関と同一視しうるものである等、その存在が形式的名目的なものに過ぎず、かつ、③派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるときには、派遣労働者と派遣先企業との間に黙示の労働契約が締結されたものと認められる。

3 これを本件につきみるに、Xが労働契約を締結した相手方はA社であるが、①XはY社屋において本件委託業務に従事し、Xらが上記業務を行うために必要な設備、機会、資材等は、ほぼ全てYから提供を受けており、Xらはその業務の遂行上必要があればYの担当職員から直接具体的指示を受け、委託業務の作業にミスがあればYの担当課長から直接注意を受けることもあった等の本件事実関係に照らせば、XY間に事実上の使用従属関係が成立していたということができる。

 しかしながら、②Aは、Yから資本的にも人的にも全く独立した企業であって、YからもXからも実質上の契約主体として契約締結の相手方とされ、現にXら従業員の採用、賃金その他の労働条件を決定し、身分上の監督を行っていたものであり、したがって、派遣先企業であるYの労務担当代行機関と同一視しうるような形式的名目的な存在に過ぎなかったというのは当たらない。また、他方、③YはAが派遣労働者を採用する差異にこれに介入することは全くなく、かつ、業務請負の対価としてAに支払っていた本件業務委託料は、派遣労働者の人数、労働時間量にかかわりなく、一定額と約定していたのであるから、YがXら派遣労働者の賃金額を実質上決定していたということは到底できない。

 したがって、YとXとの間に黙示の労働契約が締結されたものと認めることはできない。

4 よって、XのY社に対する労働契約存在確認の訴えは認められない。


 


【答案】百選1事件 横浜南労基所長(旭紙業)事件 最判平成8年11月28日

2012年04月14日 | 労働百選答案

1 Xは、自身が労災保険法の適用を受ける「労働者」に該当するにもかかわらず、これと異なる判断に基づきなされた本件不支給処分は違法であることを主張して、本件不支給処分の取消しを求めている。この処分取消が認められるか否かはXが労災保険法上の「労働者」に該当するか否かにかかっている。そして、労災保険法が労基法第8章に定める使用者の労働者に対する災害補償責任の責任保険に関する法律として制定された経緯から、労災保険法の適用範囲は労基法と一致するものと解されるため、Xが労基法9条所定の「労働者」に該当するかにつき検討する。
2 労基法9条は、同法が適用される「労働者」を、「職業の種類を問わず、事業又は事業所……に使用される者で、賃金を支払われる者」と規定する。これに当たるか否かは、()指揮監督関係の存在、()報酬の労務対償性、()労働者性の判断を補強する要素、を総合考慮して判断されるべきである。そして、()については①具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、②業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、③時間的及び場所的拘束性の有無・程度、④労務提供の代替性の有無等、()については⑤報酬の性格・額等、()については⑥業務用器材等機械・器具の負担関係、⑦専属性の程度、⑧服務規律の適用の有無、⑨公租公課の負担関係等が判断要素となる。
3 これを本件について検討する。
 まず、()指揮監督関係の存在につき、確かに①Xの運送業務はすべてA社の運送計画に組み込まれ、同社の運送係からの指示を受けており、事実上この指示を拒否する自由はなかった。また、④運送業務を他人に代替させることは、明文では禁止されていなかったものの、現実には行われていなかった。しかしながら、②A社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、Xの業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえない。また、③時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであった。以上のことからすると、XがA社の指揮監督の下で労務を提供していたとまでは断言することはできない。
 次に、()報酬の労務対償性につき、⑤一般の従業員と異なり、報酬はトラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表によって出来高が支払われていたというのであり、これはXがA社から独立して事業を行っていたことを推認させる事情となる。上記運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも1割5分低い額とされていたものの、これはA社がXにとって大口の取引先であって安定した取引を継続するための一方策であったとみることも可能で、必ずしもXの労働者性を増強させる事情とはいえない。
 これに加え、()補強要素について、⑦Xは専属的にA社の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったものの、これはXがこのような業務形態が自己の運送事業の安定にとって有利と判断し自由意思に基づいて決定したものといえなくないこと、⑥トラックの購入代金、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等はすべてXが負担していたこと、⑧一般の従業員と比較してA社の服務規律はXに対し厳格に適用されていなかったこと、⑨Xへの報酬の支払にあたっては所得税の源泉徴収及び社会保険・雇用保険の保険料控除は行われておらず、Xは報酬を事業所得として確定申告をしていたこと、等の事情をも考え併せると、Xは労働基準法上の労働者には該当しないものというべきである。
4 よって、Yの不支給決定処分は適法であり、Xの処分取消の訴えは認められない。