玉川上水の木漏れ日

 ワヤン・トゥンジュク梅田一座のブログ

■掃除人からの置き手紙

2014年11月12日 | 日常のお話


いま住んでいるマンションの持ち主が変わった。そのせいで、維持管理の会社も変更になったらしい。
いままでは大家さんが隣に住んでいて、なにかと融通がきいた。夜中に帰ってきて、鍵がないことに気づき、大家さんに開けてもらったこともある。今度は、顔も見えないどこかの会社の所有になった。鍵をどこかに忘れた場合、どうしたらいいんだろう・・・?

僕は家にいるときはほとんどたばこは吸わないが、吸うときは玄関前の外廊下で吸う。灰皿は蓋付きの金属製のもので、メーターボックスの下に置いてある。一見虐げられているようにおもうかもしれないが、オープンエア、外でたばこを吸うというのも悪くないものである。ときどきガラムを吸ったりすると、ふっとバリの情景が想い出されたりして、案外気に入っている。
10年くらい前だろうか、そういう調子で街路の風景を見ながらたばこをふかしていると、僕より少し年配だろうか、共用部清掃の男の人がやってきて、灰皿を指差して、「ふん、ふん」と何かを促している。どうやら灰皿の吸い殻を捨ててあげるからこのちり箱に入れろ、と言っているらしい。「え、いいんですか?・・・じゃ、すみません、ありがとうございます」というと、ちょっとニコっとして、ただうんうんと頷いて吸い殻を回収してくれた。えらく無口な人である。
それ以来いままで、気がつくと、灰皿はいつもきれいになっていた。けっして一杯になることはなかった。一度もである。この人、いつも丁寧に隅々まで掃除をしてくれる人だった。ときどきしか見かけないが、「いつもご苦労さまです」と声をかけると、相変わらずちょっとニコっとして、ただうんうんと頷いているだけである。
それが先日、灰皿の中にこの置き手紙があった。初めて伊東さんという名前だということもわかった。わざわざ書き置きなんてしなくてもいいのに・・・お世話になったのはこちらです。カレンダーを破いて裏に書いたたどたどしい文字、しかも結構汚れている・・・そういえば、この10年間にもいろんなことがあったなあ。なんだか少し胸が熱くなった。
いまは、吸い殻はいつも溢れそう。

この人がどういう経緯でこの仕事に就いたのかはわからない。やっぱ、たとえあまり会話はなくても、顔の見える付き合いの方がいいですね。その後お元気だろうか・・・。
ふと、木枯し紋次郎のエンディング、芥川隆行の名ナレーションが蘇ってきた。いまだに覚えているからしょうがない。
「木枯し紋次郎。上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれたという。十歳の時に国を捨て、その後一家は離散したと伝えられる。天涯孤独な紋次郎、なぜ無宿渡世の世界に入ったかは定かでない。」(は)

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