武蔵野を歩く

元社会人兼ロースクール生の日記

「除くクレーム」 平成18年(行ケ)

2008年06月16日 | 知財
第10563号
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 このような特許法の趣旨を踏まえると,平成6年改正前の特許法17条2項にいう「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」との文言については,次のように解するべきである。
 すなわち「明細書又は図面に記載した事項」とは,技術的思想の高度の創作である発明について,特許権による独占を得る前提として,第三者に対して開示されるものであるから,ここでいう「事項」とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となるところ「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
 そして,同法134条2項ただし書における同様の文言についても,同様に解するべきであり,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。
 もっとも明細書又は図面に記載された事項は通常当該明細書又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ「明細書又は図面に記載された範囲内において」するものであるということができるのであり,実務上このような判断手法が妥当する事例が多いものと考えられる。
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 審査基準の上記記載は「除くクレーム」とする補正について「例外的に」明細書等に記載した事項の範囲内においてする補正と取り扱うことができる場合について説明されたものであるが「例外的」とする趣旨は,上記「基本的な考え方」に示された考え方との関係において「例外的」なものと位置付けられるというものであると認められる。
 しかしながら,上記アにおいて説示したところに照らすと「除くクレーム」と,する補正が本来認められないものであることを前提とするこのような考え方は適切ではない。すなわち「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではない。
 したがって除くクレームとする補正についても当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,最終的に,上記アにおいて説示したところに照らし,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり「例外的」な取扱いを想定する余地はないから,審査基準における「除くクレーム』とする補正」に関する記載は, 『上記の限度において特許法の解釈に適合しないものであり,これと同趣旨を述べる原告の主張は相当である。
 もっとも,審査基準は,特許出願が特許法の規定する特許要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保するのに資する目的で作成された判断基準であり,審査基準において特許法自体の例外を定める趣旨でないことは明らかであるから,原告の主張のうち,審査基準の上記記載が特許法の例外を明示的に定める趣旨であるとの理解を前提とする部分は,そもそも相当ではない。また,上記「(説明)」の「(注1)」において「先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合」とされているのは「除くクレーム」とすることにより「特許を受けることができる場合」であり「除くクレーム」とする補正が認められるための要件について記載されたものではないから,原告の主張のうち,審査基準の上記記載が「除くクレーム」とする補正が例外として認められるための要件であるとの理解を前提とする部分もまた相当ではない。
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