
いつものように、本屋さんをブラブラしているときに買った一冊。この本は文庫版のマンガなんだけど、マンガの文庫コーナーって侮れませんよね。その日は二冊買ったんだけど、一冊はこの本で、もう一冊は諸星大二郎の短編集っていうわたしはなんだか分裂気味か…。そんなことより、よしながふみのこの作品は、熟成されたワインのような洒落た大傑作!よしながふみって同時代を生きる数少ない天才かもしれないな!
話は、執事と若い主人のボーイズラブ物なんだけど、二人の話に入る前のクロニクル調の展開がスマートでかっこいい。
このひとって、ひとことで言えば「省略の作家」で、話の切り方、画面構成など、非常にシンプルな構成要素で心理を語っていく、職人的な手腕の冴える描き手だ。
たとえば、最近のマンガにしては、彼女の作品は、一コマ一コマの背景の書き込みが異様に少ない。
これは、映画でいうなら、ミディアム・ショット中心であまり引いた画を使わなかった増村保造や川島雄三の、あくまで人物中心の演出に近い。(といっても、影響を受けてるとかって意味ではなくて、類縁性を感じるってこと。)ただし、増村とは人間観が180度違うはずなので、あえていうなら、川島雄三の方が近いかな。(作品でいうと、『女は二度生まれる』あたりか?)要するに、川島雄三と近いというのは、センチメンタルになりすぎないところで、切っちゃうセンスってことなんだけど…。
ところで、冒頭に「熟成されたワイン」という言い方をしたんだけど、これは先日放送の「THE・少女マンガ」の『風と木の詩』の回を観たから思ったこと。
24年組の作品の少年愛は、どこかハッカくさい、19世紀的なロマン主義を湛えたものだったし、その舞台装置としてのヨーロッパ(たとえば、ドイツのギムナジウム!)というのも作品の幻想性を語る重要な一部だったけど、あれから時を隔てて登場した作品『執事の分際』では、その舞台・革命前後のフランスは、書割の背景のように作者自身の手の内にあり、わたしたちの身につまされるような心理の実験の<試験管>の役割を果たしているに過ぎない。
つまり、簡単に言ってしまえば、気負いなく時代設定や同姓同士の愛が描かれていて、センセーショナリズムや幻想味から遠い、身近でこなれた心理劇になっているということ。このあたりがわたしの言う”熟成された”って意味なんだけど、まあ、ちょっと、まわりくどいか…。
ところで、よしながふみといえば、本人(だと読者が思わされている漫画家Yなが)が登場するグルメ・マンガ『愛がなくても喰ってゆけます』というのがあるんだけど、実際のところ、どんなひとなのか俄然興味が湧いてくる。どっかの雑誌でインタビューやってくれないかな~。
さて、性欲にしろ食欲にしろ、”渇望”している瞬間を巧妙に描く、よしながふみ。偏見なく表現に接することのできる人なら、絶対読んでください。読めば、よしなが作品を渇望しないではいられなくなりますよ。オススメ!
<以前書いたよしなが作品の感想>
『愛すべき娘たち』 よしながふみ 著
<参考>川島雄三の映画
話は、執事と若い主人のボーイズラブ物なんだけど、二人の話に入る前のクロニクル調の展開がスマートでかっこいい。
このひとって、ひとことで言えば「省略の作家」で、話の切り方、画面構成など、非常にシンプルな構成要素で心理を語っていく、職人的な手腕の冴える描き手だ。
たとえば、最近のマンガにしては、彼女の作品は、一コマ一コマの背景の書き込みが異様に少ない。
これは、映画でいうなら、ミディアム・ショット中心であまり引いた画を使わなかった増村保造や川島雄三の、あくまで人物中心の演出に近い。(といっても、影響を受けてるとかって意味ではなくて、類縁性を感じるってこと。)ただし、増村とは人間観が180度違うはずなので、あえていうなら、川島雄三の方が近いかな。(作品でいうと、『女は二度生まれる』あたりか?)要するに、川島雄三と近いというのは、センチメンタルになりすぎないところで、切っちゃうセンスってことなんだけど…。
ところで、冒頭に「熟成されたワイン」という言い方をしたんだけど、これは先日放送の「THE・少女マンガ」の『風と木の詩』の回を観たから思ったこと。
24年組の作品の少年愛は、どこかハッカくさい、19世紀的なロマン主義を湛えたものだったし、その舞台装置としてのヨーロッパ(たとえば、ドイツのギムナジウム!)というのも作品の幻想性を語る重要な一部だったけど、あれから時を隔てて登場した作品『執事の分際』では、その舞台・革命前後のフランスは、書割の背景のように作者自身の手の内にあり、わたしたちの身につまされるような心理の実験の<試験管>の役割を果たしているに過ぎない。
つまり、簡単に言ってしまえば、気負いなく時代設定や同姓同士の愛が描かれていて、センセーショナリズムや幻想味から遠い、身近でこなれた心理劇になっているということ。このあたりがわたしの言う”熟成された”って意味なんだけど、まあ、ちょっと、まわりくどいか…。
ところで、よしながふみといえば、本人(だと読者が思わされている漫画家Yなが)が登場するグルメ・マンガ『愛がなくても喰ってゆけます』というのがあるんだけど、実際のところ、どんなひとなのか俄然興味が湧いてくる。どっかの雑誌でインタビューやってくれないかな~。
さて、性欲にしろ食欲にしろ、”渇望”している瞬間を巧妙に描く、よしながふみ。偏見なく表現に接することのできる人なら、絶対読んでください。読めば、よしなが作品を渇望しないではいられなくなりますよ。オススメ!
<以前書いたよしなが作品の感想>
『愛すべき娘たち』 よしながふみ 著
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<参考>川島雄三の映画
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