
2009年最後の観劇でした、早速感想。
①引窓
年末にふさわしい、落ち着いた、いい舞台でした。
心ならずも人を殺した相撲取り濡髪。その生き別れた母親で、ある家に後妻にはいった女・お幸。そして、濡髪の父親違いの弟・南与兵衛。この三人の味わう悲劇と情…。
といったストーリーですよね、ざっくりいうと。
さて、まずよいのが濡髪の橋之助。門口の横顔がまさに歌舞伎らしい大きな目鼻。髷も似合うし、むしろ、こういう古風な面差しの相撲取りって、現実にいなくなっちゃいましたよね。(いたら、人気がでるんだろうけど~。もちろん、モンゴルとかハワイ出身じゃなくてね!)
次に、お幸の右之助がしっとりとして、品のよいおばあさん。もっと、義太夫っぽくて、関西の庶民的なおばあさんとして演じる人もいるけど、今回の右之助は前半の抑制が後半の感情の爆発を引き立てるよい舞台でした。
そして、今回一番の収穫はなんといっても、三津五郎の南与兵衛!!
芝居の冒頭、出世した南与兵衛が帰ってくる場面、門口の三津五郎。こんなに表情豊かに出世の喜びを見せる南与兵衛は初めて見ました。そして、手水鉢の水から濡髪の姿を見るくだりから、外に出るふりをしながら、裏手に隠れる流れのさりげなさ…。
決まり、決まりのカッコよさもあったけど、地味で落ち着いた、ハートウォーミングな雰囲気の南与兵衛でしたね~。
南与兵衛の妻・お早の扇雀は少し騒がしい感じだったけど、色町出身の上方の女房だと考えれば、本来はこうなのかもしれませんね。ちょっと、そのヒラヒラ感は父親の藤十郎の雰囲気がありました(少なくと、今回は)。
というわけで、今月で一番いい舞台だったんじゃないのかな?
②雪傾城
中村芝翫が孫たちと踊る一幕。
しかし、この家は子宝に恵まれてるなあ~と今更ながらに思います。
今回は、橋之助の息子三兄弟の成長ぶりが立派でした。しかし、三人とも役者になるんですかね~。名前があんまりないんでしょ、成駒屋って。
それと、やっぱり、雪傾城役で出てきた芝翫の立ち姿がなんといっても立派。雀右衛門が舞台に遠ざかっているなか、今年も元気な姿を見たい人ですね~。
③野田版鼠小僧
初演を激しく非難したことがあるんですが、今回ちょっと見直しましたね。
というのも、以前はディテールの猥雑さばかりが気になったこの芝居が、純粋に脚本として考えると、言語批判、権力批判、大衆批判という視座で捉えられると思えたからなんですよ。
特にこの芝居の芯になる役は、三津五郎の大岡忠相。
権力の都合で犯罪者=鼠小僧をいかようにも利用する。そして、何に利用するかというと、大衆操作の道具として利用する、というあたりがなかなか浅くない脚本だと思うんですね。
で、「野田版研辰の討たれ」以降続いた新作歌舞伎の中でも、少なくとも理念的には一番問題作といえる中身を持っているんじゃないかって、再評価する気になったというわけです。
だって、これまでの勘三郎の新作歌舞伎って、理念的なものを欠いたショーみたいな要素が強かったでしょ?
そういう意味では、骨格においては古典になる要素はあるんじゃないのかな?ただし、歌舞伎でなければいけない古典ではないとは思いますけどね。
で、芝居のほう。
今回が前回よりすっきり見えたのは、舞台転換も含めてかなりスムーズな構成になっていたからなのでは?
それに、前回感じた「子供を使ったセンチメンタリズム」みたいなイメージはかなり薄められたような気がします。
役者でいうと、勘三郎はさすがに熱演してました。ただ、野田秀樹の芝居って、主人公の過剰な饒舌に頼りすぎる面があって、わたしは多少食傷気味な気分に陥ったということは告白しておかなければなりません。
そして、今回はさん太役で橋之助の三男宜生くんが、かなりの好演。台詞がすっきりしていて、今後活躍を期待したい子役ですね。
また、前述のように、三津五郎の大岡がこの芝居の核ですね。この人の芝居がしっかりしてるから見られるんですよね。特に、お白州の台詞運びがこの芝居の持つ批評性を担保しているんじゃないですか!
というわけで、ディテールの品のなさは依然として好みじゃないけれど、ちゃんと考えさせる芝居として成立していました。
これくらい「考えさせる」脚本が、歌舞伎に限らず今の演劇には必要なんじゃないですか?おちゃらけだけだったら、テレビで十分なんだから。
・『野田版鼠小僧』について(以前書いた激辛劇評)
★ ★ ★
歌舞伎座さよなら公演
十二月大歌舞伎
平成21年12月2日(水)~26日(土)
夜の部
一、双蝶々曲輪日記
引窓(ひきまど)
南与兵衛後に南方十次兵衛 三津五郎
濡髪長五郎 橋之助
お早 扇 雀
二、雪傾城(ゆきけいせい)
傾城 芝 翫
勘太郎
七之助
児太郎
国 生
宗 生
宜 生
三、野田版 鼠小僧(のだばんねずみこぞう)
棺桶屋三太 勘三郎
お高 福 助
與吉 橋之助
大岡妻りよ 孝太郎
稲葉幸蔵 染五郎
目明しの清吉 勘太郎
おしな 七之助
番頭藤太郎 彌十郎
おらん 扇 雀
大岡忠相 三津五郎
①引窓
年末にふさわしい、落ち着いた、いい舞台でした。
心ならずも人を殺した相撲取り濡髪。その生き別れた母親で、ある家に後妻にはいった女・お幸。そして、濡髪の父親違いの弟・南与兵衛。この三人の味わう悲劇と情…。
といったストーリーですよね、ざっくりいうと。
さて、まずよいのが濡髪の橋之助。門口の横顔がまさに歌舞伎らしい大きな目鼻。髷も似合うし、むしろ、こういう古風な面差しの相撲取りって、現実にいなくなっちゃいましたよね。(いたら、人気がでるんだろうけど~。もちろん、モンゴルとかハワイ出身じゃなくてね!)
次に、お幸の右之助がしっとりとして、品のよいおばあさん。もっと、義太夫っぽくて、関西の庶民的なおばあさんとして演じる人もいるけど、今回の右之助は前半の抑制が後半の感情の爆発を引き立てるよい舞台でした。
そして、今回一番の収穫はなんといっても、三津五郎の南与兵衛!!
芝居の冒頭、出世した南与兵衛が帰ってくる場面、門口の三津五郎。こんなに表情豊かに出世の喜びを見せる南与兵衛は初めて見ました。そして、手水鉢の水から濡髪の姿を見るくだりから、外に出るふりをしながら、裏手に隠れる流れのさりげなさ…。
決まり、決まりのカッコよさもあったけど、地味で落ち着いた、ハートウォーミングな雰囲気の南与兵衛でしたね~。
南与兵衛の妻・お早の扇雀は少し騒がしい感じだったけど、色町出身の上方の女房だと考えれば、本来はこうなのかもしれませんね。ちょっと、そのヒラヒラ感は父親の藤十郎の雰囲気がありました(少なくと、今回は)。
というわけで、今月で一番いい舞台だったんじゃないのかな?
②雪傾城
中村芝翫が孫たちと踊る一幕。
しかし、この家は子宝に恵まれてるなあ~と今更ながらに思います。
今回は、橋之助の息子三兄弟の成長ぶりが立派でした。しかし、三人とも役者になるんですかね~。名前があんまりないんでしょ、成駒屋って。
それと、やっぱり、雪傾城役で出てきた芝翫の立ち姿がなんといっても立派。雀右衛門が舞台に遠ざかっているなか、今年も元気な姿を見たい人ですね~。
③野田版鼠小僧
初演を激しく非難したことがあるんですが、今回ちょっと見直しましたね。
というのも、以前はディテールの猥雑さばかりが気になったこの芝居が、純粋に脚本として考えると、言語批判、権力批判、大衆批判という視座で捉えられると思えたからなんですよ。
特にこの芝居の芯になる役は、三津五郎の大岡忠相。
権力の都合で犯罪者=鼠小僧をいかようにも利用する。そして、何に利用するかというと、大衆操作の道具として利用する、というあたりがなかなか浅くない脚本だと思うんですね。
で、「野田版研辰の討たれ」以降続いた新作歌舞伎の中でも、少なくとも理念的には一番問題作といえる中身を持っているんじゃないかって、再評価する気になったというわけです。
だって、これまでの勘三郎の新作歌舞伎って、理念的なものを欠いたショーみたいな要素が強かったでしょ?
そういう意味では、骨格においては古典になる要素はあるんじゃないのかな?ただし、歌舞伎でなければいけない古典ではないとは思いますけどね。
で、芝居のほう。
今回が前回よりすっきり見えたのは、舞台転換も含めてかなりスムーズな構成になっていたからなのでは?
それに、前回感じた「子供を使ったセンチメンタリズム」みたいなイメージはかなり薄められたような気がします。
役者でいうと、勘三郎はさすがに熱演してました。ただ、野田秀樹の芝居って、主人公の過剰な饒舌に頼りすぎる面があって、わたしは多少食傷気味な気分に陥ったということは告白しておかなければなりません。
そして、今回はさん太役で橋之助の三男宜生くんが、かなりの好演。台詞がすっきりしていて、今後活躍を期待したい子役ですね。
また、前述のように、三津五郎の大岡がこの芝居の核ですね。この人の芝居がしっかりしてるから見られるんですよね。特に、お白州の台詞運びがこの芝居の持つ批評性を担保しているんじゃないですか!
というわけで、ディテールの品のなさは依然として好みじゃないけれど、ちゃんと考えさせる芝居として成立していました。
これくらい「考えさせる」脚本が、歌舞伎に限らず今の演劇には必要なんじゃないですか?おちゃらけだけだったら、テレビで十分なんだから。
・『野田版鼠小僧』について(以前書いた激辛劇評)
★ ★ ★
歌舞伎座さよなら公演
十二月大歌舞伎
平成21年12月2日(水)~26日(土)
夜の部
一、双蝶々曲輪日記
引窓(ひきまど)
南与兵衛後に南方十次兵衛 三津五郎
濡髪長五郎 橋之助
お早 扇 雀
二、雪傾城(ゆきけいせい)
傾城 芝 翫
勘太郎
七之助
児太郎
国 生
宗 生
宜 生
三、野田版 鼠小僧(のだばんねずみこぞう)
棺桶屋三太 勘三郎
お高 福 助
與吉 橋之助
大岡妻りよ 孝太郎
稲葉幸蔵 染五郎
目明しの清吉 勘太郎
おしな 七之助
番頭藤太郎 彌十郎
おらん 扇 雀
大岡忠相 三津五郎
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