切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

映画と小説、『砂の器』

2007-12-27 01:12:31 | アメリカの夜(映画日記)
ドラマ『点と線』の余波で、なんとなく観る気になった映画『砂の器』。じつは、ちゃんと観たことがなかったんですよね、恥ずかしながら。 で、一応、感想です。

松竹が誇る代表的な名作映画『砂の器』。でも、ウェットな話が苦手な上に、松本清張より横溝正史派だったわたしの食指は長らく動かなかったわけですよ。

で、話のタネに観てみたのですが、それなりに面白かった。

正直いって、あんまり好みではないんですが、映像美がなかなか素晴らしい。というより、画で映画が救われている感じではあります。

というのも、後半のハンセン病の父親と幼い息子のお遍路の映像が、泣かせようとし過ぎなんですよね。

そのあたりが、ちょっとわたしは引いてしまったわけだけど、カメラの川又昂の映像美で、なんとか最後まで見れたって感じ。

で、原作はこんなにセンチメンタルじゃないんじゃないかって思って読んでみたら、全然映画のほうがよかった!

原作は割合チープだし、トリックも巷間いわれる「リアリズム」からは遠く離れた陳腐さで、映画を観て原作を読んだ人は驚くんじゃないですかね?

映画と原作を比べることで、映画脚本家・橋本忍の偉大さがよくわかりましたよ。

映画でもテレビでも、最近の脚本は<原作に忠実>以上の脚色を放棄しているか、半端に現代風にするかで、映像作品の設計図としては不十分に感じることが多いのですけど、橋本忍の大胆な省略は、ある意味原作に勝ってましたね。

誰か橋本忍研究みたいな本を出して欲しいと思いましたよ、真剣に。

というわけで、映画自体というより、「映像化」ということについて考えさせてもらった作品でした。

PS:わたしが、それまで今一歩苦手だった松本清張物を楽しめるようになったのは、『三丁目の夕日』的に昭和三十年代の描写を楽しめることに気づいたから。それと、旅行小説という側面もありますね。<青春18切符>的な旅だけど。

あと、全然関係ないけど、加藤剛のサングラスが初期の一条ゆかりのマンガに出てきそうな感じだって思ったのは、わたしだけでしょうか!?

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2 コメント

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Unknown (しんいちろう)
2007-12-29 08:18:05
この映画、私は原作は読んでいないのですが、仰る通り、橋本忍のがっちりと構築されたシナリオによって、長尺ながらダレたところがなくてよくできた映画になってましたよね。川又昴のカメラも素晴らしかった。
加藤剛演じる作曲家が演奏する「ピアノと管弦楽のための宿命」には参りましたね。いくらなんでもこの曲で現代音楽界の寵児になるのは難しいだろうと思いました。w
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コメントありがとうございます。 (切られお富)
2007-12-31 02:23:51
原作では、作曲家がやっているのは電子音楽ということになっています。しかも、その装置がトリックに関係あったりもするんですよね。

ただ、原作どおりだったら、映画としては・・・だったんじゃないかな?

橋本忍の改変は、松竹のメロドラマ的演出としては、おおいに意義があったという気がします。

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