切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『夕凪の街 桜の国』 こうの史代 著

2005-06-17 00:13:22 | 超読書日記
これは良い!手塚治虫文化賞新生賞を受賞したこのマンガ。広島の原爆を扱った作品なのだけど、大げさなセンチメンタリズムとは無縁の、さりげなく切ない、そして胸を衝く傑作です。

小説にせよマンガにせよ、「原爆」を扱った作品というのは、何か過剰に象徴的な意味を原爆や核に持たせるきらいがあってどうも苦手だったのだけど、この作品は日常や家族の中にさりげなく「原爆」の問題をすべり込ませていて無理がない。わたし自身、広島は行ったことがないのだけど、8月9日に長崎に行ったことがあって、具体的な原爆の爪跡を見て周るにつれ、考え方が変わった口。実際に見たり聞いたりすると随分印象が変わるものなんですよね。

このマンガのよさは、広島という地域性をディテールにうまく生かしていることや身内の死という誰しも身近な問題の中に原爆の悲惨さをうまく滑り込ませていること。女性版「三丁目の夕日」という感じの細い描線ととぼけた味が効いていて、ともすれば陥りがちなズブズブのセンチメンタリズムからうまいこと作品を救っている。

トータルで100ページ足らずの作品なのだけど、巧みな構成力で隙がなく、長い余韻が残って本当に読んでよかった!本の帯に付いている、みなもと太郎氏の推薦文「マンガ界この十年の最大の収穫」という表現も伊達ではありません。お奨めですよ!!

夕凪の街桜の国

双葉社

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第9回 手塚治虫文化賞
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2 コメント

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お富さん 今晩は (不老愚 助光)
2005-06-17 18:54:14
原爆の事は若い頃広島に行って現地で直に見て物凄い衝撃を覚えました。今も目に焼きついています。

ところで去年アメリカのスミソニアン博物館の野外展示場に「エノラ・ゲイ」=日本に原爆投下をしたB-29爆撃機が展示されまして、その記念碑に「原爆を日本に投下した事で、世界は危機から救われた」と書かれているそうです。

一瞬にして二十万余の罪の無い非戦闘員の命を奪って何が「世界は救われた」ですか? アメリカ人の殆どがそう思っているのです。

これに対して小泉さんも日本のマスコミもひとことの抗議もしないのは何たる不甲斐無さと言いたいのです。これだから何時まで経ってもアメリカは日本を隷属国としているのです。情けないですね。
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コメントありがとうございます。  (切られお富 )
2005-06-19 15:04:11
このマンガは昭和30年代を舞台にしていて、原爆のいわば「深い爪跡」をテーマにしているのですが、長い後遺症を多くの人たちにもたらしたからこそ、政府はアメリカに物申すべきだったと思いますね。「靖国」のことで意地を張るぐらいなら。
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