差別とハンセン病 「柊の垣根」は今も /平凡社新書

信濃毎日記者の連載ルポ。平凡社新書。買いやすい値段。

2006.03.12 山形新聞の書評

『差別とハンセン病「柊(ひいらぎ)の垣根」は今も』 畑谷史代〔著〕
 
 元患者側が勝ち、国が負けたハンセン病国家賠償請求訴訟判決から4年余。人々は区切りがついたかのように、痛みもなく彼らを忘れ去ろうとしている。国の政策で強制収容され、柊(ひいらぎ)の垣根に囲まれた国立療養所多磨全生園(東京)に暮らす男性の物語は、ハンセン病にとどまらない社会と個人の根深い問題を静かに告発している。

 信濃毎日新聞に55回にわたって掲載された同紙記者のルポルタージュ。第10回新聞労連ジャーナリスト大賞特別賞受賞。国の検証会議の最終報告書の内容もまとめ、問題を構造的に理解できる。

(平凡社新書・798円)

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《目次》 ▲


序章
 国を訴えた元患者たち/ハンセン病とは何か/意外な答え/サマリヤ人はだれか
与えられた机/訪ね歩いて

・ 柊の垣根
第一章 秘密
「おじちゃん」を見つけた/拒んでいた対面/始まりは差出人住所のない小包
出会いは「神の導き」/「行っていい?」「来なくていい/「死んだおふくろ」を思う
もうひとつの出会い/問題の「重さ」胸に/「子どもたちを信じてみよう」
初めて対面した叔父と夫/「おじちゃんは悪くないのに」/過去の苦しみ

第二章 「生きる」 戦前編
「ひょっとしたらおれも」/病名の告知/激痛と屈辱/病人宿/空々しさと痛みに耐えかね
隔離運動/病院への列車/「収容」/あすはわが身/つかの間の楽しみ
心構えは「皇軍兵士」/玉音放送に「助かった」

第三章 「生きる」 戦後編
新憲法で実感/結婚を決意/「選択肢なかった」/患者の子ども、誰が育てたか
「おっかあをもらい、救われた」/新薬に長蛇の列/妻の死/孤独に襲われ泥酔
幻想か救いか/「ごみのように」隔離/予防法改正に敗北/「ローマの決議、県民に伝えて」
本当の安らぎ遠く/繰り返し思い浮かべる「影」

第四章 願い
「私たちはここにいるのに」/勝訴に心晴れて/なお歩む「うそだらけの人生」
周りの視線におびえて/取り戻せぬ兄弟の時間/“優しいおじさん”のままで
社会復帰を願って/行き場のない補償金/寄り添い続ける「隣人」を探して

第五章 隣人として
自問は続く/尻込みから始まった交流会/宿泊拒否に抗議/ネット掲示板で触れた「闇」
「そっとして」の真意くんで/忘れられぬ授業/いつかきっと「本当の友だち」
「おれでよかったら、会うよ」

第六章 内田博文さんインタビュー
放置しておけない世界/時間が「人質」/検証は被害者の立場で/人は過ちを犯す
責任の軽重/マスメディアの構造的な問題/「善意」が支える人権侵害/残されている課題
差別に「第三者」などあり得ない/キーワードは「人間の尊厳」

・ 資料編 ハンセン病問題――検証会議報告書はどう答えたか
熊本地裁判決の到達点と限界
1 強制隔離政策の変遷と差別意識の形成
近世、近代のハンセン病観/「内地雑居」がきっかけ/隔離政策の開始
「絶対隔離」への移行/戦後に完成した全患者収容/政策の担い手は変化
機を逸した政策転換/らい予防法の「目的」/押さえ込まれた患者運動
らい予防法の廃止は、なぜ遅れたのか

2 無らい県運動
戦前の無らい県運動/「皇恩」と「民族浄化」/皇室の役割/戦後の無らい県運動
無らい県運動が生み出した差別の特性
3 被害の実態
断種と堕胎/ハンセン病患者の断種合法化は戦後/二十九体は出生後に死亡
触れたのは深淵の一部/入所者の八割超が「自殺を見聞き」

4 各界の責任
医学・医療界――国策を無批判に支持/法曹界――「見ざる、聞かざる、言わざる」の姿勢
福祉界――隔離政策に「依存」/教育界――隔離政策と表裏一体
宗教界――人権侵害に覆い/マスメディア――人権侵害救済に無力

ハンセン病問題関連年表
あとがき

【internet source】
平凡社ホームページ
http://www.heibonsha.co.jp/

平凡社
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