「らい」表記の問題だけだろうか 鹿児島県下3町の保育所ハンセン病歴確認問題

4月27日、南日本新聞夕刊で第一報。知名町(徳之島)の保育所に入所申請時に提出する診断書の書式に「らい」の記載があることが町民の指摘でわかった。

これを受け、県と鹿児島市は県内の認可保育所計441か所の診断書について緊急調査を始めた。結果、知名、和泊、与論の3町、あわせて12の保育所で同様の書式を使っていたことが判明。

3町の町長は、“元患者”に直接謝罪するため、県健康増進課が同行し、8日に星塚敬愛園、9日に奄美和光園を訪問の予定。

知名町で一番古い町営保育所は1974年に開所、それ以来の書式だそうである。「てんかん」が伝染性疾患であるかのような記述といい、あまりのお粗末さにかえって全国的には問題にならなかったのかもしれない。

この問題の結論は出ている。
「児童福祉法では、保育所の診断書は学校保健法の「就学時健康診断票」に準じるよう定めている。国が示したひな型では、既往症や医師の所見を記す欄はあるが、感染症の項目はない。」(読売新聞)。感染症ではない「てんかん」を含めて、すべては入園後に保護者と保育者との間で必要あれば連絡を取り合えばよいことで、入所をめぐっての診断にあたって問う必要などない。

「らい」の語がどれだけハンセン病罹患者を苦しめてきたかは、容易には語り尽くせないだろう。言うならば、すべての人々がその苦しみを辿って心の奥深くまで叩き込んでおくことがひとつの啓発でもあり、それができていれば、この語が容易に口をついて出ることも記載された文書を見過ごすこともなかっただろう。そういう意味では謝罪はあってしかるべきだろう。

しかし、これが仮に「ハンセン病」と記載されていたらどうなのだろうか。名称はどうであれ、問題は、保育所の入所時の診断でハンセン病か否かを問われる項目があることで、それを見る保護者たちの意識にすり込まれてきた印象―集団生活に何か支障がある、例えば他の園児にうつる病気だろうという誤ったイメージであり、それが保育所にわが子を入所させようとする町民たちにもたらしてきたハンセン病への偏見・差別という被害=実害ではないのだろうか。

奄美和光園を退所したKazutaka Moriyama さんのブログによれば、行政が主催した和光園内のイベントに3人の子と参加した40代の女性の「ハンセン病は恐い病気という偏見があり、過去二年間は参加に踏み切れなかった。」というコメントを地元紙が載せている。あるいは、熊本県の黒川温泉で起きた宿泊拒否事件はまだ記憶に生々しい。どこの自治体でも啓発=偏見差別を取り除くことの重要性を唱えながら、その一方で、「らい予防法」の廃止を受けても、熊本地裁判決を経てもなお不作為に配布され続けてきたこの文書の罪の重さを、行政はどれだけ認識しているだろうか。

「ハンセン病問題に関する検証会議」の最終報告書では、ハンセン病に対する偏見・差別が作出・助長されてきた実態の解明として、戦前・戦後の無らい県運動を挙げているが、行政の責任としてはそれだけだろうか。黒川温泉での宿泊拒否事件のさなか、ハンセン病回復者でシンガー・ソングライターの宮里新一氏が、様々な事業所に残っている古い就業規則や、衛生マニュアル等を見てごらん、という指摘をしていた。無らい県運動を直接には知らない世代に、ハンセン病への誤った認識はどのように作出・助長されてきたのか。つまり、私たちは、誰にどのように「騙されて」きたのか。研究者が宝探しのように探す先ではなく、このように生活に密着した行政の末端や民間事業所に残されてる「偏見・差別の種」については、これまで詳しい検証が加えられることはなかった。県は、「全市町村に対し、住民に提出を求める文書や広報紙やホームページに、不適切な表現がないか見直しを求める通知を送付した。」そうだが、問題を「不適切な表現」ということだけに矮小化しないでほしい。否、問題の本質はわかっていながら、負うべき責任を、「差別的表現でもある“らい”の文言を、らい予防法廃止以後も継続して使用してきたことに対し、元患者へ直接謝罪」することと引き換えにしているような気がしてならないのだが・・・。(vino)

○どんなものだったか:保育所の入所を決める際、保護者側に提出を求める診断書

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現在、結核・トラホーム・性病・らい・てんかん・その他

  伝染性疾患を             (認めない)

                        (認める)

         上記のとおり診断する。

          平成 年 月 日

   住所・所在地

      病院・診療所

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○町側の弁:

・「長年使われてきた書式。これまで職員は誰も気づかなかった。町側の全面的なミス」(町保健福祉課) (27日、南日本新聞)

・「認識不足で見落としていた。おわびのしようもない」(保健福祉課) (27日、共同通信)

・「申し開きできない」(平安正盛町長) (28日、西日本新聞)

○県は:

「らい予防法廃止以来、市町村職員にも研修を重ねてきた。こんな差別表現を見逃していたとは残念」(県健康増進課) (28、日読売新聞)

○一応、国の機関・・・:
「そのような書類を使っていたことに驚いている。今後、同様のことが起こらないよう、各市町村や住民に対し、地道な啓発活動を行っていきたい」(鹿児島地方法務局奄美支局) (29日、大島新聞)

○三町長


「(表記問題は)あってはならないこと、私どもの不手際で申し訳ない。差別問題については職員として緊張感を持って対応するよう改めて指導した。責任者である私が直接おわびするのが最善の方策」(伊地知実利和泊町長)

「今回の件は行政を預かる私どものまったくの失態、不行き届きで、なんとおわびを申し上げていいか分からない。今後、関係も含めて職員をきちんと指導していきたい」(南政吾与論町長)

「今回の」経緯については私どもの明らかなミスで、直接訪問しておわびしたい。職員の研修はもちろん、地域住民への啓発もあわせて取り組む」(平安正盛知名町長)
(各町長のコメントは5月3日、大島新聞。Kazutaka Moriyamaさんの掲示板から転載させていただいた)

 

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