雑談の達人

初対面の人と下らないことで適当に話を合わせるという軽薄な技術―これがコミュニケーション能力とよばれるものらしい―を求めて

つらい仕事か、むなしい仕事か

2009年07月04日 | ビジネスの雑談
城繁幸氏のブログ記事「ホワイトカラーの生産性が低い理由」を読んで、自身の経験とも照らし合わせてふと考えた。世の中には、「つらい仕事」と、「むなしい仕事」の二種類の仕事しかないのではないかと。

(本ブログ「雑談の達人」の)筆者は転職を経験している。以前の勤め先でも、関係する相手先を訪ね、非常に多くの仕事の現場を見てきたが、全く違う業界に転職した後でも同様である。今の勤務先で営業マンになり、大企業から中小企業、家族経営の工場まで数多くの仕事の現場をまわり、いろいろな仕事を見てきた。そうした経験の上で、自分自身に語りかけてくる直観が、先ほど述べた悲しい現実なのである。

確かに、多少の語弊はありそうだ。こんな反論が聞こえてきそうだ。

…確かにつらい仕事やむなしい仕事はあるかもしれないが、そんな仕事ばかりではないはずだ。実際、私の仕事は基本的には楽だ。面白いこともある。決してつらいばかりでもないし、むなしくなどはない…

もちろん、筆者も仕事には楽な種類のものもあることや、一定の面白さがあることを否定しない。ただ、程度の差こそあれ、仕事に伴うつらさや、むなしさは必ず存在する。ただ、無我夢中なので「つらさ」を忘れているだけか、思考停止故に「むなしさ」に鈍感になっているか、そのどちらかに過ぎないのだ。

「つらさ」とは、仕事をめぐる精神的、肉体的な労苦を意味する。徹夜の残業を強いられる膨大な事務作業や、激しい肉体労働、上司や客先からの罵倒、遠隔地への出張、転勤…これらすべては、「つらさ」のカテゴリーに定義される。対義語は、「楽(らく)」ということになろうか。

これに対し、「むなしさ」とは、仕事の意義や充実感の欠如に関するものである。誰でも出来る単純極まりない作業の繰り返し、不本意な専門外の仕事の強制、上司や客先の面子のためだけの儀礼的な仕事、別の方法があるのに、わざわざ非効率な方法で行うことを余儀なくされる作業、かつての意義が薄れ、最早無駄なのは明白だが、どういう訳か継続される仕事…この類の仕事が、「むなしさ」のカテゴリーに入る。対義語は、「面白さ」ということになるだろう。

どんな仕事も、「つらい」か、「むなしい」でしかありえない。ただ、「つらさ」を「面白さ」で忘れるか、「むなしさ」を「楽」でやり過ごすかのどちらかである。例えば、プロのスポーツ選手などは、きっと面白く、むなしさとは無縁の職業のように思える。だが、その精神的、肉体的な労苦は計り知れない「つらい」ものであろう。ベンチャー企業の社長業なども、そうかもしれない。彼らは、「つらさ」を物ともしないタフさがあるからこそ、ああいった職業が務まるのだ。

一方で、現場の一線から退いた大企業の管理職、公務員全般、かつての栄光の看板だけでそれなりにやって行ける会社の社員、競争原理がなく、旧態依然の年功序列で人事が回されていく組織など…これらの仕事には、必ず「むなしさ」が伴う。そのむなしさを、収入の多さ、身分の安定さ、世間体のよさ、すなわち「楽」であるが故に、思考停止して毎日をやり過ごしているに過ぎないのだ。

仕事とは一過性のものでなく、一般には長く続ける性質のものである。そのため、仕事を選ぶ時は、「楽さ」「面白さ」を判断基準にしてはいけない。世の中には、「楽」且つ「面白い」仕事などない。だとすれば、逆に自分自身が、どこまで「つらさ」または「むなしさ」に耐えうるかを基準にして、判断すべきである。「つらさ」に耐えられそうになければ、「面白そうな」仕事を選んではいけない。逆に、「むなしさ」に耐えられそうになければ、「楽そうな」仕事を選んではいけない。

筆者自身の場合で言うと、筆者は「つらさ」にはそこそこ耐えうるが、「むなしさ」に対しては、ほとんど耐えられないようだ。以前の勤め先は、それなりに名の知れたところで、世間体は良く、福利厚生もしっかりしていて、仕事も全体として見れば「楽」な方であっただろう。だが、仕事の内容が余りにむなしすぎた。徹底した年功序列型組織で、仕事のための仕事、結果よりも努力、とにかく一生懸命であることが素晴らしいという、組織の文化自体に馴染めなかった。今の仕事は、なかなかつらいところも多いが、それなりに続いている。前の仕事のような「むなしさ」が少ないためであろう。

しかし、最近の日本では、老いも若きも「むなしさ」よりも「つらさ」を避ける傾向が強いような気がする。仕事が「楽」であるのならば、そこに意義などなくてもかまわない、といった具合だ。「鈍感力」などという言葉が一時流行ったが、思考停止で「むなしさ」をやり過ごしてばかりいるような国には、あまり明るい未来は待っていなさそうな気がするのだが…


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