Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

ホワイトカラーの生産性が低い理由

2009-06-30 12:40:01 | 経済一般
以前、残業が増えるメカニズムと、
(国民全体で頑張っているというよりは単に仕事が偏っているだけなので)経済全体も
ぱっとしないという話を述べた。

では、ホワイトカラーの生産性まで低いのはなぜだろうか?
家庭が崩壊しようが、会社の隣で失業者が倒れていようが、正社員はいっぱい働いて
いるわけだから、労働生産性自体は上がっていてもよさそうな物だが、実際には
むしろ逆である。要は無駄が多すぎるのだ。

これについては諸説あって、たとえばヨーロッパやアメリカには就労者にカウント
されない不法移民がいて、生産性がかさ上げされているとか、日本にはいわゆる
ノンワーキングリッチがいるからといった議論がある(両方、真実だろう)。

ただ、個人的には本質的問題はもっと深いところにあると考えている。
それは、現場レベルでの思考停止だ。
なにをしようが、処遇が大きくは変わらない状況で、人はどうなるだろうか。
何もしない、考えないというのが一番合理的であり、長くいれば大半の人間は
そうなるはずだ。
たとえば僕の知り合いの35歳の官僚は、自分が事務次官や局長にはなれそうに
ないことを直感的に理解しているが、かといって転職などは考えていない。
やれやれ、しょうがないなと自らに言い聞かせつつ、消化試合を淡々とこなす日々だ。
(まだ35歳なのに!)
別に「お国のために死ぬ気で働け」と言っているわけではない。
ここで重要なのは、彼のモチベーションだ。
果たして今の彼が、何か新しい価値を生み出そうと考えるだろうか?
ついでに言えば、彼は22歳の頃は、わき目もふらずに忠実に“言われたことだけ”を
こなす良い若手だった。自分がそこそこの仕事を任されるには、あと10年程度の
下積みが必要であり、それ以外のことは今は求められていないと知っていたから。
ひらたく言えば(そこそこいいエンジン積んでいるだろうに)ギア3速に入れっぱなし
のまま、最後までチンタラ走ってしまいそうなわけだ。
(しかも、あと10年ちょっとで天下りとして放出される)
これはとても虚しいことだ。人生にとっても社会にとっても。

年功序列型のシステムには、個人の創造力や爆発力といったものを眠らせてしまう
側面が、多かれ少なかれ必ず見られる。前例踏襲主義、お役所仕事、大企業病…
いろいろ呼ばれるが、中身は同じものだろう。

とはいえ、個人が好き勝手に振る舞うよりも、組織として統制が取れていたほうが合理的
であることも事実だ。実際、そういった組織力は、長く日本企業の強みとされてきた。
この場合、組織自体の方向性を考え適時修正するのは、経営陣を頂点とした管理部門
である。

ただ、彼らも万能ではないし、そもそも現場までは見えないから、必ず現実と業務
の間にズレが生じる。そもそも、管理部門というのは現場以上に前例主義に毒されて
いる傾向があるし、サラリーマン経営者の中には、自身が既に思考停止状態の人も
少なくない。
こういった、組織に蔓延する思考停止状態から生じるズレこそ
無駄の正体なのだろう。


人事部門で言うと、技術職として偏差値の高い大学の理系修士を採用し、配属先も
割り振るが、技術内容なんて人事にはチンプンカンプンなので、必ず現場からクレーム
がくる。
「おまえら、全然わかってないだろ」
「これじゃいかん」と技術部門の役員を入れて面接したら、もっとクレームが増えたり。
要するに、中央に近い人間が統制するのは、ある程度の規模以上の企業では無理なのだ。
ということは、意思決定機関が現場に近いほど個別対応力がありフットワークに
優れているわけだから、突き詰めれば各自が一定の裁量と責任を負い、柔軟に処遇
される組織が適応力が高いということになる。
少なくともマーケットインを意識している業種であれば、進むべき道は明らかだ。

僕がこの構造に気づいたきっかけは、佐藤優の「自壊する帝国」を読んだ時だった。
ソ連末期、既に社会経済・政治と言ったシステムが形骸化する中、ただ人々だけが
ソ連人として、上辺だけの国家を黙々と演じ続けている様子が描かれる。
建前と本音の交差するソ連ごっこの中、状況の変化に対処できぬまま崩壊していく
巨大な帝国。
そこに、なんとなく日本企業と同じ空気を感じてしまった。

考えてみれば、旧共産圏の計画経済と大企業の終身雇用というのは、似た点が多い。
大学卒業後、配属先や異動先を中央が決めるシステムは、既に中国ですら消滅したが、
日本企業内ではいまだに健在だ。終身雇用を前提とした閉鎖的なシステムも、同じ
といえば同じである。

ところで、霞ヶ関の若手官僚にも、佐藤優の一連のソ連本を読んで
「うちの職場みたいだ」
と言ってる人は多い。
官僚機構なんてどこもそうなのか。
それとも、日本も緩やかに崩壊しつつあるのだろうか。



自壊する帝国 (新潮文庫)
佐藤 優
新潮社

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21 コメント

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Unknown (野田一丁目。)
2009-06-30 14:46:39
>(まだ35歳なのに!)

問題はラインから外れても正社員様なら人並み以上の給与が貰えることですかね?(笑)出世コースから外れた→非正規雇用!とする法律を作ってしまえば、みんな必死になって働くか転職活動するかのどちらかになるでしょう。
返信する
合成の誤謬 (ぽょぽょ)
2009-06-30 16:04:27
それぞれの個々人は、社会の全体性など考えず、個々が与えられた環境の中で合理的な行動選択をしているので、「思考停止」といえば「思考停止」ですが、当の本人からしてみれば、「よく考えて」行動選択をしているわけです。
現状の均衡点が変わらなければ、合理的な判断による行動選択は変化しないのですが、1人で「全体性のなかでの望ましい選択」をすると、普通、不利益変更になってしまう。
城さんのようなお仕事をするにも会社員なんかとは比べものにならない位のスキルや営業力が必要になるのに、賃金は低下する可能性が低いですから、そちらを選択するほうがどうかしてる……と大部分のサラリーマン連中は思うわけです。
そうこうするうちに、全体としては沈没しそうですが、サラリーマンのかなり多くの人が解雇されるような状況にでもならなければ、どうにもならないんじゃないでしょうか?
もしどこかの政党が雇用流動化政策をかかげたとしても、不人気になるので、無理だろうしね。

しかし、流動化によってクビを切りたい低生産性人員の整理解雇が行えるようになると、不況時の失業率は今回程度ではすまないような気もします。
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Unknown (MICHI)
2009-06-30 21:29:00
私が以前働いていたアメリカでの話ですが、
当然通年採用ですし、日本のような人事部ではなく、各部署の上司になる人物が直接採用するので、
個人の専攻や能力と、職務内容がミスマッチを起こすことなどありえないのですよね。
そう考えると、日本企業は多くの人材を無駄にしてしまっているのではないかと感じます。
日本では「やりたくない仕事でも我慢してやる」ことが美徳みたいになってますけど、
能力があるのであれば、当然それを活かせる職場、部門に行くべきです。
これも雇用が流動化していないために起こるですよね。
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完全失業党 (patrasche)
2009-06-30 22:45:44
>サラリーマンのかなり多くの人が解雇されるような状況にでもならなければ

東ティモールは一時期、失業率97%でしたが、自殺大国だという話を聞きません。自殺と国民性の関連はもっと論じられてもいいし、「人生は働くことがすべてである」という日本独自の陰湿な精神主義を打破したほうがいいのではないかと思う。

流動化すれば「忙しい人」と「ひまな人」の二極化は拡大するように思う。価値観は多様にしておかないと、今の価値観では持ちこたえられないだろう。
返信する
無駄こそ収益です。 (KKMM)
2009-06-30 23:23:25
ソフトウェア関連の中小企業で働いています。
ご多分にもれず、他の会社に出向しています。
お客から払われるお金は、勤務時間で計算されます。
仕事の成果ではありません。

最近、収益が悪化しています。
収益を上げるために、社長は言いました。
「客先で残業しろ」

これが、多くの会社の現実だと思います。
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少子化も・・・ (りゅう)
2009-07-01 00:11:58
生産性の問題が大きいでしょうね。
本来あるべき生産性の問題がないがしろにされ、古き全体主義体質が蔓延しているから、一向に生活の豊かさが感じられない。
東京都内の通勤ラッシュは殺人的な状況で、これが40年続くと考えると、多くの人間はやはり正気ではいられないでしょう。
ふっと飛び込みたくなる気持ちも分からないではありません。

大手都銀に勤める友人は海外との遣り取りが主ですが、やはり勤務時間は他の人間と変わらない。一日の大半は無駄に会社にいなければならないことを嘆いています。
そうまでして守らなければならない和とは一体なんなのでしょう。
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間違えてる・・・ (ぽよぽよ)
2009-07-01 00:49:13
賃金は低下する可能性が低い
  ↓
賃金は低下する可能性が高い

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patrascheさん (ぽょぽょ)
2009-07-01 00:53:32
裏山でパイナップルやマンゴー、バナナがなってて、海いきゃいくらでもサンゴ礁のお魚がいる国とは比べもんにならんでしょ。
「仕事がなくても、まあ、食っていけるしね」という状態にしてあげれば日本人もそうなるとは思いますけど、裏山にはバナナがないので社会保障費でってことになると、それはそれは大変なことになりまする。
いまどきだれも「働くことがすべてだ」なんて思ってませんよ。
ただ滑り落ちるのが怖いから、いいなりになっているだけなのであって。
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年功序列 (おさる)
2009-07-01 10:01:55
城さんの言うような年功序列企業ですが、税金使ってるところ以外であるのかと不思議に思っていました。

金額交渉がないとか、目標未達でも給与据え置きで下がることがない、役職に基準年齢がある、業績が悪くても解雇されない、結局個人の評価よりも部署や会社の業績で賞与が決まる、などの人事制度をもっている企業は、広義の年功序列企業ということですね。
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Unknown (マツケン)
2009-07-01 10:22:02
少ないお金でも大きな満足感。大いに結構です。
個人的には大賛成です。

ただ大切なのは価値観を変えることであって、そこに時間がかかると思います。
結局女は金のある方ばかり向いて、価値観がどうとか言う人はしばらく結婚に不自由しそうな予感がします。
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