雑談の達人

初対面の人と下らないことで適当に話を合わせるという軽薄な技術―これがコミュニケーション能力とよばれるものらしい―を求めて

レストランでメニューに載っているものを黙って食べようとしない外人に、日本的サービスの限界を見た

2012年01月04日 | ビジネスの雑談

日本を訪れた外国人ビジネスマンたちに同行し、ご関心のある訪問先に同行して、紹介やら場合によっては通訳までする仕事を仰せつかった時のことである。

彼ら3人は中東の某国出身だが、ヨーロッパやアメリカにも頻繁に出かけ、グローバルなビジネスを展開しているバリバリのやり手たちで、最近は東アジアにも手を広げようとしている。で、筆者が仕事上の付き合いで手助けしてやったというわけだが、まるでガイドか部下のようにコキ使われて多少辟易した…

ある日、道中ランチをとることにした。既にあちこちでもてなしを受けて、もう日本食にも飽きたということなので、イタリアンに連れて行った。内二人は世俗的だったが、割と真面目なイスラム教徒が一人いたので、食事に制限が多かった。そこで、シーフードの多いイタリアンなら無難だろうと思ったわけである。高級店ではないが、某百貨店のテナントに入っているような、そこそこの店である。

筆者は典型的な日本のサラリーマンの如く、おあつらえ向きの「ナントカランチセット」というありきたりなものをそそくさと頼んだ。メニューには、一応申し訳程度に英語の表記が添えてあった。そして問題が起こった。外人どもは、注文を取りに来た店員に延々とメニューの内容に関する質問をぶつけだしたのである。

「~には、どんな具材が入っているのか」
「具体的には、どんな味なのか」
「どうやって調理するのか」
「写真のこの赤いかけらは何なのか?」
「ボリュームはどの程度なのか」
「このソースは、何をベースにしているのか」

……などなど。宗教的に禁じられているものは入ってないようだから安心していいぞと教えてやっても、それが質問の理由ではないようである。単に納得してウマイものを食いたいだけらしい。

当然、店員は英語など出来ない。しかたなく、全部通訳する。が、ゆとり世代のバイトと思しき店員殿は、マニュアルにない対応など不可能で、答えはあまり要領を得ない。「ちょっと聞いてきます」などといって、なかなか戻ってこない。やっと別の店員が来ても、状況は変わらない。

そしてしまいには、外人どもは次々と無理難題なリクエストを繰り出した。

「この野菜は苦手なので、のぞいてくれないか」
「その代わりにブロッコリーを入れてほしい」
「グリルした肉の上にクリームソースをかけてもらえないか」

などなど、言いたい放題である。当然ながら、店側の回答はほぼすべてNOであった。メニューにのっている品のレシピを勝手に変えたりすることは許されないのである。まぁ、当たり前といえば当たり前である。

不満顔を炸裂させ、全く納得できそうにない外人たちは、どうにか決めた注文の品がやってくると、今度は次々と調味料を持ってこいと要求しだした。

「オリーブオイルが足りない」
「すでに挽いてある胡椒じゃなくて、ミルに入っているのをもってきてくれ」
「無塩バターはないのか」

もう勘弁してくれ、と言いたいのは店員だけでなく、通訳をさせられた筆者も同じであった。まぁ、機嫌を損ねてはまずい方々なので、精一杯誠意を見せるしかなかった。

すこし嫌味っぽく、いつもこんなことをしているのかとワガママトリオに聞いてやったところ、悪びれる様子もなく「そうだ」という。アメリカでも、ヨーロッパでも、メニューの具材や調理法を聞いて、自分たちの好みに合いそうなアレンジを加えてもらうという。大体どこの国のレストランでも気軽に応じてくれるらしい。

そりゃ、欧米や中東だけだろう。と言ってやったら、外人たち曰く、上海や香港、シンガポールでも問題なかったという。ところが日本のレストランはどこも、ほとんど全く客のリクエストに応じようとしない。そもそも、日本人の客がそろいもそろって、店が出したものを文句ひとつ言わず黙って食べているのはおかしい。出来あいのレシピに100%満足できるわけがないだろう。日本の食文化やサービスはすごいと聞かされてきたが、いったい何がすごいと言うのか…

結局、このある意味失礼な外人ゲストたちに対して、筆者は的確に反論できなかった(筆者の英語力の問題もあるかとは思うがw)。確かに、「日本の飯はウマイ! サービスは極上! 世界一だ!」と誇らしげに言う日本人は多い。だが実のところ、客の側が自分の細かな希望を相手に伝えるコミュニケーション能力を欠いているのと、店の側も柔軟に応じることの責任と面倒くささを回避して、求められてもいない過剰サービスに走っているだけではないか、という気がしてきたのである。つまり、海外で食う飯が日本の飯よりマズイのではなくて、海外でウマイ飯を食う技術が日本人にはないだけなのだ。

製造業が新興国の前に完敗した日本が、だから今度はサービス立国だというのも、お気楽な幻想にすぎないのかもしれない。このようなブログを書き、新年早々に日本の将来に改めて幻滅し、暗澹たる気分になった。今年もよろしくお願いします。

最新の画像もっと見る