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天井から降る不思議な音

数日前のこと、夜9時ごろ、2人でマンション2階の居間で寛いでいると、どこか上のほうから、リリリ、リリリと音がし始めた。それは断続的に続き、一向に止もうとしない。

耕治人の小説「天井から降る哀しい音」は、認知症の奥さんがナベを空焚きする度に、火災報知機が鳴る話である。が天井の警報器の灯は緑のまま。時限爆弾でも仕掛けてはないかと、戸棚や抽斗をすっかり開けてみたが、何も見つからない。大阪にいた頃、隣で毎朝4時から20分くらい、目覚時計が鳴り続けたことがある。その時は玄関にメモを入れたら止んだ。もしかして上の階から聞こえて来るのだろうか?

夫は初めからその気がないので、ここは私の出番だと、越して3年、行ったことのない階上を訪ねた。学齢前後のパジャマを着た女の子が2人、お母さんと出てきた。家の中は明るく静かで不審な音はしていない。お母さんが「思い当たることはありませんが、何か分ったらお知らせします」と言い、お互いの電話番号を交換して来た。

家に帰って来たら、音は不規則になっており、機械の音ではないようだ。ふと「炉辺のコオロギ」と言う文句が頭に浮び、「コオロギ」をネットで検索してみた。飼っていたのが逃げ出して、よその家の天井裏に潜み、目覚まし時計のように鳴き出すことがあるという。ははぁ、これだな、きっとあの、流しの棚の、扉と天板の隙間にいるのだろう、と見当がついたら、安心して、そのまま眠ってしまった。

翌朝、掃除機をかけようと、流しの横のゴミ箱を動かしたら、何かがさっと逃げ出した。ゴキブリか、それにしては小さくて後足が長い。何だかコオロギのようだ。これがゆうべのリリリの音源に違いない。夫はキュウリをちぎって傍に置いたが、そっぽを向いている。その内キュウリの陰で眠ってしまった。同夜11時に、あの音が始まった。今度は下のほうから聞こえる。それからは、朝になると食べるかどうかは分らないがキュウリを与え、夜更けから次の早朝まで断続的に鳴く、その繰り返しである。

後日、3階の住人に電話で知らせた。「もうコオロギが出る季節でしょうか。オスですか。」と驚きの声を上げていた。「主人と、ご迷惑をおかけしては、と心配していました」と、ほっとした様子。出雲人ではなく転勤族らしい話し振りだ。この音に集中するようになってから、日頃のストレス源である隣の騒音も気にならなくなった。

彼はー彼と言っても好いだろう、オスだからー芸術家らしく、なかなか気難しい。ドアの開閉、洗い物の音、足音、少しでも大きい音を立てると、鳴くのをやめてしまう。私と夫は、この小さな生物にいつの間にか情が移り、吟遊詩人とかマエストロにたとえつつ、いつまで当館に滞在してもらえるだろうか、いずれは草地に放さねばならないかも、と語り合ったりしている。

→「雌雄を決す」2010-9-12
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (稲みのる)
2010-08-29 11:03:13
とんだコオロギ騒動でしたね。
我が家ではこの季節になると、所構わず居を構え、賑やかな音を立てております。風情とは無縁。養う気持ちにもならず、毎年、何匹かはみのる君の一撃で生涯を終えておりますが、多勢に無勢、イタチゴッコで手に負えません。
夜は虫たちの大合唱に囲まれて寝ております。
 
 
 
稲みのるさま (Bianca)
2010-09-05 01:11:48
コメント有難うございます。コメント承認制にしたものの、なれないので、お返事が遅くなってすみません。相変わらず侵入者に対して勇猛な応対ぶりですね。一軒家では上田秋成の小説なみに賑やか・・・?うちのこおろぎは、1週間したらどこかに消えましたが、昨夜、又ちょろっと顔を出し、放蕩息子の帰還のよう、フーテンの寅みたいなどと言っています。軟弱外交なので、又キュウリとか、水とか、置いてます。
 
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