在イタリア、ソムリエワインノートとイタリア映画評論、他つれづれ appunti di degustazione

ソムリエ 20年、イタリアワインのテイスティングノートと、なぜか突然のイタリア映画評論、日本酒、日本茶、突然アートも

Pecore in erba di Alberto Caviglia イタリア映画 駆け出しの羊たち

2015-12-19 11:12:46 | 何故か突然イタリア映画
Pecore in erba 駆け出しの羊たち
監督 アルベルト・カヴィリア



2度びっくりした映画。いや、3度かもしれない。
まず、あらすじは読んでいたものの、かなり大雑把で、これは出たとこ勝負という感じだった。しかし、それと不釣り合いなのがキャスト。
監督は初めての長編。無名な上にびっくりするくらい若い(31歳)。
しかし、ウソか本当か、すごい人物が、これでもかというくらい出ているのである。
それも、女優俳優というのではなく、テレビのアナウンサー、ジャーナリストで超有名なメンターナや、政治家でもあり美術評論家で、これまた知らない人はいないヴィットリオ・ズガルビ、やはりテレビをつけるとしょっちゅう出ている司会のマーラ・ヴェニエル、ややポルノ風の作品で超有名な映画監督ティント・ブラスなどなど、はたまた、私の好きな女優のマルゲリータ・ブイも出ていた。
その数も多いのだが、どうしてこれだけの人物が???いったいどうやって???どんな風に???どんなところに???
と、???ばかり。

さて、始まると、レオナルド・ズリアー二が突然行方不明になりました、というSKY24NEWSの 一大ニュース。スタジオから、そして、多くの民衆が集まっているローマのポポロ広場からの中継が映し出される。すぐにズリアー二の少年時代を語る姉が登場、長々とインタヴュー。小学校の先生も出てくる。こんな少年でした、と少年時代の様子を語る。母親も出てくる。1歳の時にお父さんが家を出て行ってしまったのです、と。幼い時からの親友も語る、語る。まあ出てくるわ出てくるわ、いろいろな人物が。ズリアーニの生涯を語る一大ドキュメンタリーになっている。
語る人物がパッパッと素早く切り替わり、間にズリアーニの写真が多数、新聞の切り抜き(本物そっくり!)、などなど。
ええ、これって、本当にいる人物??いや、作り物の話のはずだけど。。。。
しかし、どうしても本物の長編ドキュメンタリー番組にしか思えない。

さて、行方不明になってしまった、まだ若きレオナルド・ズリアーニとは誰か?
ローマのトラステヴェレ生まれ、幼い時から反ユダヤ主義。超右翼。絵の才能があり、超有名漫画家にもなる。漫画は大ヒット。何か閃いたものを商品にして売ればこれまた大ヒット。まだ若いのに、彼の生涯を描いた映画まで製作されて大ヒット。超カリスマ人物である。でも気取らない。あまりに過激なユダヤ排斥主義を唱えるので、命まで狙われている。

随所で登場するのがくだんの有名人物。本当の名前で、ちゃんと肩書きも入っている。スタジオも本物そのもの。(のちのインタヴューでの話によると、本当のスタジオなどを使用)女優でも俳優でもない有名人が、ズリアーニについて熱く語る。どう見てもウソを語っているようには見えない。(結構演技うまいじゃん!)
途中でイスラムのチンピラっぽい感じの二人が出てくる頃には、やっぱり架空の人物だったのね、となったが、本当にびっくりするほど、まるで本物のようにドキュメンタリー番組が作られている。
お見事。とにかくお見事。
台本は300以上のシーンからなったというが、どんどん切り替わり、間に本物そっくりの新聞の切り抜き、何百枚ものズリアーニの写真が織り込まれている。
ここまで本物そっくりに作ったニセのドキュメンタリー番組は見たことがない。

もう一つのびっくりは、監督の登場。
1984年、トラステヴェレ生まれ、ローマ大学では哲学を専攻。その後、ニューヨークなどで映画を学び、監督のアシスタントを多数務め、初の自作。
どんな人物かと思ったら、ひょろっと痩せた、穏やかそうなとても感じの良い青年。とても頭が良さそうには見えるが、驕るようなところも、気取るようなところも全くない、ごく普通の若者である。え~彼がこれを作ったの???(頭の中が見たい)

反ユダヤ主義をテーマに、というのは偶然のひらめきだそうだが、台本を自分で書き、どうしてこれだけの有名人物が参加できたのか?という質問には、わからないけど、結構面白がって参加してくれた、と。スタジオなども本物を使わせてくれた、と言うし、無名の監督の卵の作品なのに、すごい。

ただ、劇場公開ではあまり受けなかったという。
最初19館、次の週3館、そして1館へ。全く宣伝していなかったので無理もないのだが、打ち切り。監督がめげていなかったのが救い。
見た人は大抵、すごく面白かったと言ってくれているのだけど。。。と。

こういう映画に日が当たらないのが本当に寂しいが、個人的には久々に素晴らしく良かった。

ところで、しばらく続けたこの突然のイタリア映画評論はこれで終わりになるかも。
残念ながら、イタリア女の嫉妬ほど怖いものはない。


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