こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『祖父・小金井良精の記』(星新一)

2014-06-26 | 現代小説
祖父から老醜という印象を受けたことがない。年齢に不相応な欲望がどこかに残っていると、
それが老醜となる。祖父にはそれがなかった。


 私が星新一の読書記録をあーだこーだ書いているのを読んだ友人から、すすめられた本。さすがに絶版
で、昭和49年の初版本を入手。意図不明の傍線がひいてあるのに閉口しつつも、しみじみと読んだ。
 ご本人の日記をベースに星氏の解説、周囲の人の手記と追悼(時には幼少の星氏自身の日記も)を挿入
して、幕末から明治、大正、昭和を生き抜いた解剖学者、小金井良精の生涯を丁寧にたどったもの。さま
ざまなエピソードで章立てされているために、年代が前後して混乱することもあったが、それも故人の人
となりを印象強く伝えるに最適の構成法だったかもしれない。余分な装飾のない文章で淡々と事実を追い、
それゆえに深い余韻を残す展開は、さすが星新一。そうして浮き彫りにされた小金井良精という人は、ひ
とことで言うなら古き良き日本人の品格を備えた人。勤勉にして謙虚、慈愛に満ちるが情には流されない。
誰もが尊敬できる、学究の人だったのだろう。それでいて、可愛いところも多々あって。
 感情移入を誘うような表現はほとんどないにもかかわらず、この人の存在そのものが愛おしくて、長い
生涯を追っていくうちに、まるで身内のような感覚になってしまった。それゆえに最後に近づくのが悲し
く、読み進むのが辛かった。しかも去り際までこの人らしく、見事なのである。まさにあっぱれな生涯。
いい本を読ませてもらったなあ、という清々しい感動。
 でもって、星新一の父親にも興味がわいた。それを書いたものもあるようだし…やっぱり今年のテーマ
は星新一なのか!?


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