未来を信じ、未来に生きる。

今に流されず、正論を認識し、社会貢献していく人生を切り拓くブログ道。

「NHKが番組改変」 200万円賠償命じる 

2007-01-31 02:56:41 | 労働裁判
旧日本軍による性暴力をめぐるNHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKなどに総額4000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。南敏文裁判長は「制作に携わる者の方針を離れて、国会議員などの発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度(そんたく)し、当たり障りのないよう番組を改変した」と指摘。「憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱した」と述べ、NHKに200万円の支払いを命じた。NHK側は同日、上告した。

 判決は、そのうち100万円について下請け制作の「NHKエンタープライズ21」(当時)と孫請けで取材にあたった「ドキュメンタリージャパン」(DJ)にも賠償責任があるとした。NHKに編集の自由を認め、DJのみに100万円の賠償支払いを命じた一審・東京地裁判決を変更。NHKにも改変行為と、その内容を説明する義務を怠ったことに不法行為責任があると認めた。

 訴えていたのは「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」(バウネットジャパン)。旧日本軍の性暴力を民間人が裁く「女性国際戦犯法廷」を00年12月に共催した。NHK教育テレビで01年1月30日に放送された「ETV2001 問われる戦時性暴力」が「法廷」を取り上げた。

 訴訟では、取材を受ける側に番組内容に対する「期待権」が認められるかどうかが大きな争点だった。南裁判長はまず、「取材者の言動などにより期待を抱くやむを得ない特段の事情がある場合、編集の自由は一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼は法的保護に値する」と、一審判決と同様の一般判断を示した。

 その上で、DJが本来は取材対象者には示さない「番組提案票」を示した点などを重視。提案票には「女性国際戦犯法廷の過程をつぶさに追い、戦時性暴力が世界の専門家によってどのように裁かれるのかを見届ける」などと記載されていたことから、バウネット側が、「法廷」をつぶさに追うドキュメンタリー番組になると期待してもやむを得ない特段の事情があったと認めた。

 さらに、判決は、01年1月26日に松尾武・放送総局長(当時)と野島直樹・総合企画室担当局長(同)が立ち会った試写後の内容変更について、「当初の趣旨とそぐわない意図からなされた編集行為で、原告の期待と信頼を侵害した」と違法性を認めた。

 また、放送直前の同月29日に松尾氏らと面会した安倍晋三官房副長官(当時)が「公正・中立の立場で報道すべきではないか」と発言したことなどを受け、「その意図を忖度して指示、修正が繰り返された」とした。

 ただ、政治家が直接に指示や介入したとの原告側の主張については、「政治家が一般論として述べた以上に本件番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは、認めるに足りる証拠はない」とした。

 NHK広報局の話 判決は不当であり、極めて遺憾だ。番組趣旨の説明やその後の取材活動を通じて、相手側に番組内容に対する期待権が生じるとしたが、番組編集の自由を極度に制約するもので、到底受け入れられない。また、判決は、政治的圧力は認められなかったとしているが、NHKが編集の権限を乱用・逸脱した、国会議員等の意図を忖度して編集したと一方的に断じている。NHKは放送の直前まで、放送法の趣旨にのっとり、政治的に公平であることや、意見が対立している問題についてできるだけ多くの論点を明らかにするために、公正な立場で編集を行ったもので、裁判所の判断は不当であり、到底承服することはできない。

 〈キーワード:期待権〉将来、一定の法律上の利益を受けられることを希望したり期待したりできる権利。侵害すれば不法行為となるが、どの程度法的保護の対象になるかは、期待権の内容や事案による。医療過誤訴訟では、患者が期待した適切な治療を怠った場合に「救命期待権」の侵害が認められ得る。再雇用の期待を抱かせる説明をした雇用主が契約更新をしなかった際、「更新期待権」を侵害したとして賠償を命じられた例もある。

(出所:朝日新聞HP 2007年01月29日20時42分)

 東京高裁が「NHK番組改変訴訟」控訴審で29日、言い渡した判決理由の要旨は次の通り。

 【国会議員等との接触等】

 01年1月25~26日ころ、担当者らは自民党の複数の国会議員を訪れた際、女性法廷を特集した番組を作るという話を聞いたがどうなっているのかという質問を受け、その説明をするようにとの示唆を与えられた。

 26日ごろ、NHKの担当部長が安倍官房副長官(当時)と面談の約束を取り付け、29日、松尾武放送総局長らが面会。安倍氏は、いわゆる従軍慰安婦問題について持論を展開した後、NHKが求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。

 【バウネットなどの本件番組についての期待と信頼】

 一般に、放送事業者が番組を制作して放送する場合、取材で得られた素材を編集して番組を制作する編集の自由は取材の自由、報道の自由の帰結としても憲法上も保障されなければならない。これが放送法3条の趣旨にも沿うところで、取材過程を通じて取材対象者が何らかの期待を抱いても、それによって番組の編集、制作が不当に制限されてはならない。

 他方、取材対象者が取材に応ずるか否かは自由な意思に委ねられ、取材結果がどのように編集・使用されるかは、取材に応ずるか否かの決定の要因となり得る。特にニュース番組とは異なり、本件のようなドキュメンタリー番組または教養番組では、取材対象となった事実がどの範囲でどのように取り上げられるか、取材対象者の意見や活動がどのように反映されるかは取材される者の重大関心事だ。番組制作者の編集の自由と、取材対象者の自己決定権の関係は、取材者と取材対象者の関係を全体的に考慮して、取材者の言動などにより取材対象者が期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、編集の自由も一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼が法的に保護されるべきだ。

 ドキュメンタリージャパン(DJ)の担当者の提案票の写しを交付して説明した行為、バウネットの協力などにかんがみれば、バウネット側が、番組は女性法廷を中心的に紹介し、法廷の冒頭から判決までを概観できるドキュメンタリー番組かそれに準ずるような内容となるとの期待と信頼を抱いたと認められる。

 【バウネット側の期待と信頼に対する侵害行為】

 放送された番組は加害兵士の証言、判決の説明などが削除されたため、女性法廷の主催者、趣旨などを認識できず、素材として扱われているにすぎないと認められ、ドキュメンタリー番組などとは相当乖離(かいり)している。バウネット側の期待と信頼に反するものだった。

 01年1月24日の段階の番組内容は、バウネット側の期待と信頼を維持するものとなっていた。

 しかし、同月26日に普段番組制作に立ち会うことが予想されていない松尾総局長、野島直樹国会担当局長が立ち会って試写が行われ、その意見が反映された形で1回目の修正がされたこと、番組放送当日になって松尾総局長から3分に相当する部分の削除が指示され40分版の番組を完成されたことなどを考慮すると、同月26日以降、番組は制作に携わる者の制作方針を離れた形で編集されていったと認められる。

 そのような経緯をたどった理由を検討する。本件番組に対して、番組放送前にもかかわらず、右翼団体などからの抗議など多方面からの関心が寄せられてNHKとしては敏感になっていた。折しもNHKの予算につき国会での承認を得るために各方面への説明を必要とする時期と重なり、NHKの予算担当者や幹部は神経をとがらせていたところ、番組が予算編成などに影響を与えることがないようにしたいとの思惑から、説明のために松尾総局長や野島局長が国会議員などとの接触を図った。その際、相手方から番組作りは公正・中立であるようにとの発言がなされたというもので、時期や発言内容に照らすと松尾総局長らが相手方の発言を必要以上に重く受けとめ、その意図を忖度(そんたく)してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、直接指示、修正を繰り返して改編が行われたものと認められる。

 なお、原告らは政治家などが番組に対して指示をし介入したと主張するが、面談の際、政治家が一般論として述べた以上に番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは、証人らの証言によっても認めるに足りない。

 バウネット側は、中川昭一議員が事前にNHKに対し放送中止を求めたと主張し、同議員はフジテレビ番組でアナウンサーの質問に対し、放送法に基づき公正に行うべきことをNHKに申し入れたと発言するなど、事前のNHK担当者との接触をうかがわせる発言をしている。しかし、同議員はこのインタビューでは01年2月2日に会ったことを明言しており、同議員が番組放送前にNHK担当者に番組について意見を述べたことを認めることは困難だ。

 【説明義務違反】

 放送番組の制作者や取材者は、番組内容や変更などについて説明する旨の約束があるなど特段の事情があるときに限り、説明する法的な義務を負う。本件では、NHKは憲法で保障された編集の権限を乱用または逸脱して変更を行ったもので、自主性、独立性を内容とする編集権を自ら放棄したものに等しく、原告らに対する説明義務を認めてもNHKの報道の自由を侵害したことにはならない。

 バウネットには番組の内容について期待と信頼が生じた。被告らはそのことを認識していたのだから、特段の事情がある。

 番組改編の結果、当初の説明とは相当かけ離れた内容となった。バウネットはこの点の説明を受けていれば、被告らに対し番組から離脱することや善処を申し入れたり、ほかの報道機関などに実情を説明して対抗的な報道を求めたりすることができた。

注:朝日新聞はNHK番組改変問題の報道で「改変」と表記していますが、判決理由要旨では判決文の表記に従って「改編」を使用しました。

(出所:朝日新聞HP 2007年01月29日20時47分)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【衆院本会議】「生活維新」... | トップ | 東ティモール派遣:文民警察... »

コメントを投稿

労働裁判」カテゴリの最新記事