「兵士は車いすの娘に犬をけしかけて笑った」 過去20年で最大規模のイスラエル軍事作戦、民間人も犠牲…パレスチナ人に広がる憎悪
(47リポーターズ)
イスラエル軍は7月上旬、占領地のヨルダン川西岸で、パレスチナ武装勢力に対する2日間の軍事作戦を展開した。ここ20年間で最大規模の作戦で、千人以上の地上部隊を投入、無人機(ドローン)による空爆も実施した。双方の対立が激化し、パレスチナ人によるイスラエル人への襲撃事件が相次ぐ中、圧倒的軍事力で武装勢力の一掃を図った形だ。軍は多数の武器を押収し、戦果を強調したが、民間人の犠牲や民間施設の被害も相次ぎ、パレスチナ人からは怨嗟の声が上がる。憎しみが憎しみを生み、暴力が繰り返される背景がここにある。(共同通信エルサレム支局 平野雄吾)
▽民家押し入り狙撃拠点に
軍事作戦の主な舞台となったヨルダン川西岸北部のジェニン難民キャンプ。約40万平方メートルの敷地に約1万4千人が暮らす人口密集地域だ。武装勢力が拠点を置き、イスラエル軍と市街戦を繰り広げたため、民間人もなすすべもなく戦闘に巻き込まれた。
イスラエル軍は7月3日未明、ジェニンに入った。キャンプの高台の家に住むヌールディン・マンスールさん(63)は「真夜中に自宅の壁が突然爆破され、30人ほどの兵士が豚のように大きな犬を連れて突然なだれ込んできた」と振り返る。
武装勢力との銃撃戦が始まっていた。窓ガラスを割り、銃口を外に向ける兵士ら。壁をハンマーで壊し、狙撃用の穴をつくった。「見晴らしがよい位置に家があったからだろう、兵士はこの家を拠点に10時間ぐらい居座り、銃を撃ちまくっていた」。家具が破壊され、無数の薬きょうが散らばる部屋で説明した。
ヌールディンさんの上階に住むアスマさん(48)の家にも兵士が侵入した。そこで、アスマさんは屈辱的な体験をした。
「兵士が12歳の娘に犬をけしかけたんです。娘は車いすで自由に動けません。恐怖のあまり泣き叫び、私も何度もやめるように頼みましたが、兵士はただ大声で笑っていました」
娘にけがはなかったが、トラウマとなり言葉をうまく発せられなくなったという。アスマさんはせめてもの抵抗でこのときの様子を録音した。音声には泣き叫ぶ少女の悲鳴が残っている。
軍は共同通信の取材に対し、軍事作戦とは無関係とみられる少女への振る舞いを巡り「事実関係を確認できない」と回答した。
アスマさんの長男、アハマドさん(15)は物理的な暴力にさらされた。1人別室に連れて行かれた後、後ろ手に手錠をかけられ、頭に布をかぶせられたという。「銃床で頭を2回殴られ、地面に倒れ込むと、おなかや脚を蹴られ続けました」
▽将来見えず武装勢力入りする若者たち
ジェニン難民キャンプは1953年に設立された。多くが1948年のイスラエル建国に伴い故郷を追われた難民やその子孫だ。失業率は高く、国連の支援に頼る難民が多い。希望の描けない未来はイスラエルへの憎しみへと容易に転化され、貧しさは武装勢力の勧誘をたやすくする。
キャンプで活動する過激派「イスラム聖戦」の元メンバーは取材に「積極的に活動すれば月2千シェケル(約7万8千円)の報酬がある。イスラエルと戦え、家族も養える」と、武装勢力に加わる若者たちの動機を説明した。
今回の軍事作戦で、戦闘員の兄をイスラエル軍に殺害されたマハムードさん(18)は「キャンプでの生活に将来が見えず、イスラエルの占領を終わらせるには武装闘争しかないと考え、兄は武器を取った」と語る。「一緒に食事をし服も共有していた兄がいなくなり、言葉も出ない」と涙を浮かべた。武装勢力メンバーとはいえ、普段は民間人としてキャンプで日常生活を送る。武器を取るか否かは紙一重の差でもある。
イスラエルは1967年の第3次中東戦争でヨルダン川西岸を占領した。以後、撤退するよう求める国連安全保障理事会の決議を無視し、国際法違反のユダヤ人入植地の建設を推進する。住宅地や農地を奪われるパレスチナ人は当然反発し、摩擦が生じる。
イスラエルはパレスチナ武装勢力を「テロリスト」と見なして殺害を正当化するが、パレスチナにとっては占領に対する抵抗運動の担い手だ。国連総会は1982年、植民地支配下の人々が武力闘争を含め、あらゆる手段で植民地や外国の支配からの解放を求め闘争する正当性を認める決議を採択している。
イスラエルでは昨年末、対パレスチナ強硬派の極右政党が参加するネタニヤフ政権が発足、ヨルダン川西岸での入植地拡大をさらに進めるほか、パレスチナ武装勢力への急襲作戦を強化した。
イスラエルメディアによると、今回の戦闘で死亡した12人を含め、西岸でのパレスチナ側の死者は今年に入りこれまでに約150人に上る。パレスチナ人によるイスラエル人襲撃も相次ぎ、イスラエル側で二十数人が死亡した。
▽「何千人でも殺せ」息巻く極右閣僚
西岸には今や約40万人の入植者が暮らすが、相次ぐ襲撃事件を受け、入植者らが政府や軍にパレスチナ武装勢力の一掃を強く求め、2000年代の第2次インティファーダ(反イスラエル闘争)以来の規模となる今回の軍事作戦に至ったとみられている。入植者に支持される極右政党党首、イタマル・ベングビール国家治安相は大規模作戦を強く提言、「何千人でもテロリストを殺せ」と息巻いた。
また、軍を含めイスラエル治安当局にはもう一つ別の思惑があったとも指摘される。武装勢力の軍事力拡大を防ぐ狙いだ。軍は6月中旬にもジェニン難民キャンプを急襲し、6人を殺害した。その際、軍用車両が武装勢力の地雷で走行不能になり、兵士救出のために約20年ぶりに戦闘ヘリコプターを投入する事態となった。
6月下旬には、ジェニンから手製のロケット弾が発射された。試作段階とみられるが、ヨルダン川西岸で本格的にロケット弾が発射されれば、イスラエルは北部レバノン、南部ガザ、東部西岸という3方面からのロケット弾攻撃にさらされる可能性が出てくる。「あらゆる手段で脅威を取り除け」と主張したガンツ前国防相をはじめ、危機感は強い。
難民キャンプを拠点に拡大するパレスチナ武装勢力に資金や武器を援助するのが、イスラエルと対立するイランだ。イスラエル軍の元幹部は「イランは西岸での足掛かりを得ようと、ジェニンなどの武装勢力に資金や武器を援助している。武器はシリアやヨルダンからいくらでも密輸できる」と指摘する。「イスラエルとパレスチナの対立が激しくなれば、関係を深めるイスラエルとアラブ諸国との間に亀裂を入れることができるとの思惑もあるのだろう」
▽国連総長も「過剰な実力行使」非難
イスラエル軍は軍事作戦でキャンプ内の舗装道路を徹底的に破壊し、民間インフラに被害が相次いだ。キャンプを運営する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が被害状況を調査中だが、建物被害は数百棟に上ると指摘される。
7月8日に難民キャンプを視察した欧州連合(EU)のフォンブルクスドルフ駐パレスチナ代表は「犯罪者(武装勢力)を拘束するのが目的ならば、ほかの方法もあったはずだ。なぜ空爆や大規模な地上部隊の展開が必要だったのか。イスラエルは国際法を順守しなければならない」と語気を強めた。
国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程など国際法は、軍事的利益と比較して、周囲の民間被害が過度になり得ることを認識しながら攻撃することを禁止している。国連のグテレス事務総長もこうした国際法を念頭に「過剰な実力行使だ」とイスラエルを非難した。
フォンブルクスドルフ氏ら外交官の視察を主催したUNRWAのレニ・ステンセス副事務局長は「キャンプでは物理的被害のほかに、戦闘に巻き込まれてトラウマを負った子どもが多く、心のケアが緊急に必要だ」と国際社会に支援を求める。
崩壊した道路を歩き、爆発で黒焦げになった住宅を見ながら、フォンブルクスドルフ氏はこう付け加えた。「ユダヤ人入植地の拡大をやめ、入植者の暴力を止めなければ、パレスチナ人の中から新たなテロリストが生まれるだけで、暴力の連鎖は止められない」
イスラエル軍がジェニンから撤収した翌日、ヨルダン川西岸の入植地付近でパレスチナ人がイスラエル兵を射殺した。犯人は治安当局が把握する武装勢力のメンバーではなかったという。
今血の濃いイスラエル人の大半はコロナ毒チンであの世に逝っている👈怨念か仏罰のようなもんだろうか?🐵